2019/11/26 のログ
ゼロ > 挑発とは、駆け引きなのである。
 少年は挑発したことにより、彼が逃げるという事が出来なくなった。
 彼は剣闘士で興行しなければならないのだ、そういう意味では、今の大興奮を前に逃げる事が出来なくので、彼の気配が変わるのだ。
 彼が、覚悟を決めたともいえるのだ。

「―――。」

 少年は、静かに彼が剣を拾うのを見る、そして不思議な動きに首を傾ぐのだ。
 何故か、剣の刃の方を持つのだ、そして、自分に柄を向ける。
 剣を以て、切りつけるための武器を以て、叩き潰す選択をするのだ。

 接近してくる、その速度は迅い。
 最初とは逆に、此方に向けての加速をする、彼の速度が上がり、迫ってくるのが見える。
 観察する。少年は動かず、彼の行動を見守る様に。
 監視する。彼の動きがどのようになるのかを見定めるように。
 警戒する。彼の攻撃を、迎撃若しくは対応するために。

「―――!!」

 息をのんだ、走り込んでくる動き振りかぶりからの攻撃に、剣が宙を舞い。
 そして、柄の方が、上からの回転ではなくて、下からの回転へと方向を変えながら自分の顎を叩きあげるように持ち上がってきたからである。

  ―――がきぃぃぃぃんと、硬質な音が響く。

 少年は、その打撃をそのまま受けてのけ反って行く。
 彼に完全に喉を見せつける形を見せる。
 ダメージは酷く、頭を持ち上げられ、浮かんだり、倒れこんだりしないのは少年の大韓がしっかりしているからである。
 そして、踏みとどまる。

 其れには一つ仕掛けがあり、それを知っていれば卑怯と罵られるだろう。

 ―――故に少年は、一度、攻撃の手を止めて。
 ゆるり体制を整えてから構えを取る。

 拳闘術とは言わない、ただ、殴るけるの暴力の為の、構え。

クレス・ローベルク > 「あ――ぐっ!」

刃先が、男の足の甲を食いつぶす。
貫通まではしなかったが、それでも相当抉られてしまった。
だが、これで良かった。例え右足が使えなくなっても、相手が致命の隙を晒すなら、同じことだ。
そう、同じことだったのだ、本来ならば。
人体を突いたとは思えぬほどの、硬質な音。それは、

「……防御、魔術っ……!」

或いは、アーティファクトか。
何にせよ、これは男のミスであった。
ダメージが無い訳ではない様だが、しかし、同じことと言うならば、それこそ同じこと。
相手が攻撃可能であるならば、利き足を負傷した状態で逃げる事など出来ないのだから。

「でも、ま、此処まで来て、逃げる訳にも行かねえよ、なっ……!」

相手が待っている間に、突き刺さった剣を引き抜き、構える。
右足が洒落にならない程痛い――踏ん張りが効くかも怪しい。
それでも、まだ観客達はこちらを見限ってはいない。
しんと静まり返ってはいるが、それはこの最後の攻防を、余さず見る為の静寂だ。

「なら、やり切るしかねえよな……!」

だが、既に足を使った距離の駆け引きは出来ない。
ゼロの攻撃を迎撃するという手段しか、男が取れる選択肢は残されていないのだ――

ゼロ > 少年のダメージは大したものではなく。
 そして、少年のダメージは、既に癒えている、鎧が、仮面が、癒すのだ。
 本来の使用用途のための、過剰な迄の治療能力が有るのである。
 向き直り、そして、構えを取るのだ。


「クレス、貴方は強い、称賛するよ。」

 珍しく、少年は戦いの途中に彼に、言葉を放つのだ。
 そして、走り始める。

 その日、大きな歓声が沸き立って、闘技場が揺れたという。
 その結果に関して、色々な人の感想が有るだろうが、それを口にすることは無いだろう。
 何故ならば、其れは、口にして、表現できるものでは無いのだろう。
 興奮によって、聞いても良く判らないという人もいた。

 そんなカードだった模様、興行主はホクホクで。

 少年を仕合場に選手として登録した人は。
 後で少年に締められた模様、でも、興行主からは誉められた模様―――

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場 興行試合」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場 興行試合」からゼロさんが去りました。