2019/11/12 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
■クレス・ローベルク > 昼の試合は、夜に比べると人入りがまばらである。
メイン層である肉体労働者が仕事中だからだ。
それでもこの時間帯に興行試合が行われるのは、様々な事情があるが、一番は『人入りがまばらだからこそ来る客』の為だ。
「(今日は結構埋まっているな)」
男は、貴賓席を解らないように盗み見る。
そこには、煌びやかな装いをした、貴族や豪商が座っている。
勿論、観客席とは違い、クッションの効いた、豪華な椅子だ――席と席の間も離され、ストレスのない様に取り計られている。
「(上の人たちに見られるのはチャンスでもあるけど、やっぱプレッシャーだよなあ)」
勿論、こういう所に来る貴族たちだ。そのほとんどはこの場所がどういう場所なのか、きちんと理解の上で来ている。
しかし、それ故に、無様な試合は許されない。
下手をすれば、今後の剣闘士人生に関わる。
「(できれば、丁度いい実力を持つ人が対戦相手であれば良いけど)」
そう思った所で、アナウンスが鳴り響く。
『さあ、それではアケローン闘技場興行試合。
選手、入場です――!』
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にアンジェリカ・アーベルハイドさんが現れました。
■アンジェリカ・アーベルハイド > 反対側を不満げに上がってきたのは真っ白な姫騎士の少女。アンジェリカである。
貴賓席が埋まる特別な試合であり、彼女がそこに参加しなければならない理由はいくつかある。
いちばんは彼女の母親がもつ爵位の特殊性のためなのだが……まあ今回は説明をはぶこう。
なんにしろ彼女の痴態を見るために来ているものが多く、彼女は断れない、という事だ。
しかも相手はあのクレスである。普通の相手ならば簡単にあしらえるが、剣闘士として一流、いや、超一流の実力を持つ彼に、勝てる自信はあまりなかった。
「さっさと始めましょう」
そういいながら剣を構える
■クレス・ローベルク > 「――ん?あ、今回の相手アンジェリカなんだ?」
彼女と戦うのは、これで二度目だ。
再戦というのは、男としては別に珍しい事ではないが。
しかし、この短期間では、策も鍛錬も出来たものではないだろう。
寧ろ、こちらがあちらの戦い方を覚えている分、彼女の方が不利なぐらいである。
「(政治的な理由、かな)」
実際、彼女の眼には、勝つ気が無いとまでは言わないが、"勝てる気"がない。
初戦で突っかかってきた、あのテンションのアンジェリカなら勝てるかどうかは半々といった所だが――
「良いよ。まあ、覚えてるだろうが、何時もと同じだ。
最初の一撃は、君から打ち込んできてくれ。
それを以て、試合開始の合図としよう」
今回は、最初から右手に剣を提げ、左手に注入器を持っている。
『最初から試合を決めに行く』というスタイルだろう。
■アンジェリカ・アーベルハイド > 「じゃあ遠慮なく」
ノーモーションからの突きを放つ。
速度の乗った素早い突きは、そのまま左手の注射器に突き刺さる。
注射器が跳ね飛ばされるだろう。
体を狙ったらさすがに防がれていただろう。しかし、殺気どころか気配の乗らない突きだったため、察するのは難しかっただろう。
「媚薬なんて使わずに本気で来てください。勝てばどうせ、好き放題なんですから」
別に媚薬を使うのを悪いとは言わないが、こういった客たちは、色事と戦いとを分けたほうが受けは良い。
比較的保守的で頭が固い、戦いを見に来ている人間が多いのだ。
そのうえで女が負けて無様に犯される、というのを見に来ているのはわかっている。
もっとも、負けるつもりはないのだが……
■クレス・ローベルク > 「うぉっと!」
危うく左手ごと貫かれる所だったが、ギリギリのところで注入器での受けが間に合った。
一応、試合用の武器でもある注入器は、それなりの強度を持つ様に加工してある。
だが、流石の膂力といった所だろう。右手の握りを抜けて、注入器は飛んで行ってしまった。
追撃をけん制する為、剣を突き出しつつ後ろにステップで後ろに下がる。
「別に、媚薬を使っているからって本気でない訳ではないんだけどね……」
寧ろ、本気だからこそ、実力差を埋めるために媚薬を運用する場面もあるのだが。
だが、実力勝負がお望みなら、それはそれで相手をする用意はある。
剣を両手に持ち替え、中段に構える。
「それじゃ、今度はこちらから行こうか、なっ!」
素早くジグザグに走り、翻弄しながら駆ける。
狙いは腹めがけての刺突。
魔剣の力で貫かれはしないが、鉄の棒で突かれる程度の威力はある。
■アンジェリカ・アーベルハイド > 「さすがローベルク流ですねっ!!」
負けた相手のことを調べなかったわけではない。
堂々とローベルクを名乗っている以上調べるのはそう難しくなかった。
しかしローベルク流はアクロバットな動きを主体とした、神出鬼没、天衣無縫な剣術である。
知っていたとしても対応が難しかった。
どれがフェイントでどれが本気か、見極めながら対応しなければならない。
ジグザグに右に左にと動きながら、目線をそこら中に走らせるその動きは、狙いを容易に定めさせない、見事なものだった。
それでも腹への刺突をギリギリ読み切り、剣を払う。腹の部分の鎧が切られ、へそのあたりが丸出しになるが、それだけでありダメージはなかった。
そのままつばぜり合いに持ち込み、押してゆくだろう。
アーベルハイドの剣は実直な剛剣。こういった押し合いが得意分野なのだ。
■クレス・ローベルク > 「流石はクレス・ローベルクだと言ってくれねえかな、そこは……!」
鍔迫り合いを受けながら、男は考える。
相手は、"単純に強い"敵だ。
ある種の魔族の様な、"強さゆえの弱点"を持たない。
ならば、相手の対応できる範疇を超える動きをするしかないのだ。
膂力で押し込まれ、身体が後ろに下がっていく。
全身で剣を押す為に膝を曲げているせいか、身体は低姿勢に――
「っ、そこっ!」
なった瞬間、男は屈むと同時、腰を回して左足で足払いをかける。
鍔迫り合いでお互い前に体重をかけている状態で、軸足を払えば、大きな隙になるはず。
勿論、諸刃の剣、上手く躱されれば、今度は男の方が大きな隙を晒す事になるが――
■アンジェリカ・アーベルハイド > 「よっと!!!」
足払いは読んでいた。
読んでいたから飛んで躱すことは難しくなかった。
しかし、足が浮いてしまえば、特に軸足が浮いてしまえば、踏ん張りが効かない。
これが重量級の男性ならばそのまま重さで押し切れるが、アンジェは力は強くても体格は細身だ。その体勢から簡単に押されてしまい、体が宙を浮く。
そのまま後ろに飛ばされて、華麗に着地はするが間合いを離される。
「そうですね、さすがはクレス・ローベルクでした。訂正します」
奇剣の一種であるローベルク流とはそう相性が悪いわけではないが、それでもこの男に勝つのは難しそうなのは、この男が単純に強いから、だろう。
長引けば、負けると考えた彼女は剣を上段に構える。
一の太刀。前回は破られたが今回はどうか。
一つの体、一つの位、一つの太刀。その究極にはたどり着けていないとしても、彼女なりの最高の斬撃を放つ。