2019/11/01 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 『アケローン闘技場興行試合、参加者募集中!』

ダイラスのあちらこちらには、いつもそんなチラシが張られている。
何と言っても、闘技場はダイラスの一大娯楽施設である――試合をやればやるだけ儲かるのだから、闘技場側も必死で人を掻き集める。
そんな訳で、今日も今日とて、闘技場は大盛況であった。

「さあて、今日はどんなのが対戦相手かな――」

軽く剣を振ったりストレッチしたりしつつ、試合場の中央で準備運動する男。
毎度のことながら、男には誰が来るのか知らされていない――所謂、"公平性を保つため"である。

『――試合の準備が整いました!それでは、今日の選手に、入場して頂きます、今日の対戦相手は――』

「(おっと、始まるか)」

試合が、始まる。

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にシュライアさんが現れました。
シュライア > 『今回、我が闘技場が誇る剣闘士の相手は!白仮面を被った謎の女!
飛び込みとはいえ、実技は全く問題なし!さぁ、今日も盛り上がるぞ―――!!』

いつもの通り、相手が決まれば。司会が闘技場を盛り上げる。
男の対面から現れたのは、軽鎧を着て、腰に剣を佩いた女。
細身ではあるが、その身に纏う雰囲気は傭兵にも劣らぬもの。
ただ、剣は佩いているものの、手に持っているのは木刀だ。

「――――――――…」

『本人の希望で何と挑戦者の武器は木刀!腰の剣を使わずとも勝てるという自信の表れかー!?
闘技場の剣闘士も舐められているのかもしれない!さぁ、剣闘士よ!誇りを取り戻せ!』

無言のまま男に向き合う女。
木刀をだらりと下げつつ、司会の煽りが終わった後、ようやく口を開く。

「失望しました。クレス・ローベルク。噂を聞いた時は、まさかと思いましたが…本当に、こんな場所で…人を辱める行いをしているとは
…今日は何度か叩いて、貴方を引きずって王都に連れ帰りに来ました。」

それは、男が何度か聞いたことがあるはずの声。
凛としているものの、その声には険が籠り。怒りに満ちている。
試合開始までのわずかな間…目の前の相手を、ローベルク家に連れ戻す、と…そう告げる。

クレス・ローベルク > 何年ぶりだろうか。
身体と、呼吸が入れ違ったのは。
動くことを拒絶するように固くなる身体。
一刻も早く此処から逃げろと、空気を取り込む呼吸。
――魔族を相手にした時ですら感じなかった恐怖を、男はただの人間の小娘から感じ取った。

「か、勘弁してくれよ。今更英雄とかやりたくないんだって、ホント。
というか、君に"何度か叩かれた"ら、俺命が危ないと思うんだけどね……?」

荒れる呼吸を必死に整えつつ、男は笑みを作り――中段に剣を構える。
震える足も、意思の力で捻じ伏せる。
そして、引き攣った笑みを、元の――シュライアには一度として見せたことのない、軽薄な、剣闘士用の物に捻じ曲げて。

「――でも、試合は試合だ。此処まで来て、逃げはしないさ。
そして、何時もの"ルール"も変えるつもりはない。
一発、こっちに打ち込んで来なさい。それを以て、試合開始の合図としよう」

かのシュライア相手に、先手を譲るという、愚行にも等しい宣言。
だが、それは言外の挑発でもあり、矜持でもある。
つまり、『たとえ正義の騎士相手であろうが、こちらからしてみれば、ただの試合相手に過ぎない』と。

シュライア > 司会も空気を読んでか、二人の会話は特に広めない。
この闘技場が望んでいるのは…今は、互いの事情などではなく。
凌辱劇か、あるいは白熱した勝負か。
そのどちらかなのだから。

「死を体験した方が、心も入れ替わるのでは?大丈夫です。
荒くれを気絶させるだけに留めるのは、得意ですから。それに私は別に英雄ではありません。
英雄と呼ばれたのは、私の先祖ですから」

受け答えはするも、その声は冷たく。
腰の宝剣を抜かず、木刀で戦う理由は…真剣ではどうしても、手加減が効きにくいからだ。
剣術を収めている相手なら、猶更。

彼女が信じるのは、自分が正しいと思ったこと。
そこに世間一般論や、ごまかしは通らない。
そういった意味では…言い訳をせず、試合をしようとする男に対しては、やはり憎み切れない部分もある。

「―――私には、試合の良し悪しなど関係はありません。一撃で昏倒したとしても責任は取りませんよ」

相手の言葉に、顔の前面を全て覆う仮面のまま、息を吐く。
自分の目的は勝って賞金などを得ることではなく。
この男を更生させることだ。
ならば、まず狙うは一撃必倒。長引かせる理由はない。
相手の挑発を受け、ぐ、と後ろに剣を引く。
明らかに横薙ぎを狙った、剣士同士にしてみれば、わかりやすすぎる構え。
けれど、その予測を、単純な力だけで凌駕するのが、彼女が彼女たる所以。

「―――――――――…!」

闘技場の地面が、踏み込みによって抉れる。
それで得た速度で男に肉薄し。
人外の領域に片足を突っ込んでいる膂力を持って、構え通り、横薙ぎに木刀を振るう。
相手の反応速度など考えない、ただ自身の技量を込めて振るう一撃を、開始の合図として。

クレス・ローベルク > 「ぐっ……!」

彼女が繰り出すのは、何の工夫もない、直線的な踏み込み。
だが、単純であるという事は、余計なものがないという事。
走って、殴りつける。その単純な動きに、しかし、男は回避を選択できなかった。
人間の身でありながら、人外の速度――その認知的不協和が、一瞬男の身体を硬直させたのだった。

「や、っば……!」

故に、男は彼女の剣を真正面から受け止める。
否、正確には、威力を殺すため一瞬後ろに跳んでいるのだが。
だが、それでも尚、その剣は止まらず、

「ッ!」

男は、後方に吹き飛ばされた。
試合位置から、一気に試合場の壁際まで、まるで後ろに引きずられる様な形で。
それで姿勢を崩さず、立ったままであったのは男の技量と言えるが――しかし。

『おーっと!シュライア選手、たった一撃で、相当な力の差を見せつけた!これはクレス選手に勝ち目はないか――!?』

そういう事だ。
これほどに実力差が開いているなら、勝ち目も試合展開も合ったものではない。
勿論、そんな事は、嘗て二人で手合わせした、あのパーティの夜から重々承知で――だから、男がこれを使わなかったのは、単なる、感傷からだった。

「本当は、君相手にこれを使いたくはなかったんだけどね……。
でも、家に連れ戻すとまで言われれば、仕方ない」

両手持ちの剣を右手に持ち替え、腰のホルスターから左手で筒状の器具を引き抜く。
"それ"――"試練の媚薬"と呼ばれるものが何なのか、観客たちは知っているが、さて彼女は知っているだろうか。

「それじゃ、行くよ!"英雄の末裔"じゃない、剣闘士としてのクレス・ローベルクの恐ろしさ――味わうがいい!」

今度は逆に、こちらからシュライアに対して駆ける。
お互いの距離は5歩ほど。
シュライアからすれば、距離を取るも受けるも可能と言う所だが、さて。

シュライア > 彼女自身、英雄ではないといったが。
彼女の血には、確実に英雄の力が宿っている。
未だ不完全、かつ実践経験が少ないとはいえ…災害とも言える力を、十全に振るう。

それでも、男が一撃で倒れなかったのは。
手加減していたとはいえ、男の耐える技量の部分が多分に大きい。

「―――耐えましたか。やはり、何としても連れ戻さなければならないですね」

その体裁き、衝撃を殺す技量。
それらは、正しく使われるべき力だ。
貴族は貴族らしく…大多数が腐っていようとも、民の為にその力を振るわなければならない。
決して、誰かを辱めたり、金のために使っていいものではない。
そんな…男からしてみれば、勝手な思いで、しかしそれを正義と彼女は信じて、木刀をまただらりと下げる。

「今のでダメなら、更に力を込めるまで」

相手が反応し、耐えるというのなら。
それを上回る力で防御を突破し、気絶させればいい。
そう考えながら…下げたままの木刀を強く握り込み。

「――?、毒物ですか。良心は少し残っているようですが、下衆に染まりかけていますね」

筒状の器具、その中身については知る由もないが。
この場面で出してきて、更に使いたくない、とまで言うということは。
何かしら、こちらに対して不利益なものであることは間違いない。薬の内容はわからずとも、それくらいはわかる。

「隠して撃ち込めばいいものを。わざわざ見せるとは。―――それも、闘技場の流儀ですか!クレス・ローベルク!」

男がそれをあえて見せなければ、自分がそれの存在を感知することはなかった。
隠し玉を見せられたなら、それに警戒すればいい。観客を盛り上げるためかはわからないが、自分には関係がない。

男が突進してくるなら…注射器を持った男の左手を避けるように。
男から見て右側に、くるりと身を回し、踏み込みながら、回り込もうと。
そのまま、回転の勢いを使い、男の横腹を狙った打ち込み。
男が剣を持っている側であるため、防がれる可能性は高いが。
先ほども、受けたとはいえ吹き飛ばされた攻撃だ。男の体力は削げるだろうという狙い。

クレス・ローベルク > おいおい、まさかまだ力が込められるのかよという気持ちで、苦笑いが浮かび上がるが。
しかし、それはそれは考えないことにして――とにかく、攻防である。

こちらの右手に回り込む動き。
それは、経験済みの動きだ。
故に、対処は簡単。
彼女の剣に対して、こちらも剣を噛ませつつ、しかしその剣に身を寄せる。
すると、先程は吹っ飛ばせた筈の身体は、その剣筋に巻き込まれ、彼女の正面まで引きずりこまれはするものの……吹き飛ばされる事は無かった。
理由は単純。彼女にとって、尤も打撃の威力が高まる座標から、敢えて近づいたからである。

「それじゃ、悪いが見世物って奴を体験してもらおっかな!」

左手の魔導機を、彼女の喉元に短刀の様に突きつけんとする。
普通なら、此処で『一発目』となるところだが。
シュライア=フォン=ラクスフェルは、この程度ではないと、男は知っている。

「――と思わせてかーらーのー!」

上半身に意識を向けさせてからの、足払い。
魔導機を打ち込む為に、踏み込んだ右足で、彼女の左足を救い上げる。
尤も、此処までして、全て読まれている可能性があるのが、彼女の怖い所だが。

シュライア > 彼女の剣は、技量よりも力で押すタイプの剣だ。
当たれば必ず体力を削る痛撃となる剛の剣。

けれど、男のように技量を重きに置いた剣であれば。
ぎりぎりでいなし続ける覚悟さえあるなら、威力を殺すことは十分可能だ。

「―――っ」

敢えて自分に飛び込んでくる男の体。
自分の力は流され、吹き飛ばすまでの力にはなり得ない。
毒物…と彼女が判断している魔動機の先端が自分に迫ってくる。
どんなものかわからない以上、食らうわけにはいかない。
天性の反射で首を振り、その魔導機の先端を躱す。
ぴ、と先端が髪を掠めるが、その肌には突き立たない。

「っ、ぁ…、―――舐めるな!!」

ただ、男の狙い自体は成功した。
彼女の意識は…警戒していたからこそ、魔動機に向けられ。
ほんの一瞬、男の体への警戒が外れる。
その一瞬に、男の足払いが滑り込み…右手に木刀を握ったまま、身体が浮き、地面に倒れる。
けれどこの闘技場は、倒れたからと言って終わらない。
一拍置いて、左手のみの力で、身体を跳ねさせる。
身体自体は倒れたままだが、至近距離であるが故届く、木刀のリーチを最大限生かした突きを、男の喉元に、お返しの様に放って。

クレス・ローベルク > 倒れた彼女に対し、今度こそ男は魔動機を突き込もうとする。
判断は即座で、それ故にそこに具体的な警戒はなかった。
現に、反射的にしゃがんだ男が出した悲鳴はといえば、

「ひっ!」

という格好良さのない、女々しいものだったのだから。
男が、その突きを避ける事が出来たのは、不名誉ながら、彼の臆病さに起因するものだった。
"彼女が、まさかこんな所で隙を晒すはずがない"
"絶対に反撃してくる。してこない筈がない"――である。

「び、びびったっ!だが、その隙が命取りっ!」

彼女が立ち上がる前に、突き出された腕に今度こそ、試練の媚薬を打ち込もうとする。
剣を捨てた右手で彼女の腕を固定し、左手で薬を打つ。
一発目は、まだ感覚や代謝が上がるだけで、発情などはしない。
だが、とにかく一撃を入れなくては、勝敗も、ショーも、話にならないのであった。

シュライア > またひらりと、先天的なものか、ここで培ったものか…
自分の突きは空を切る。

(――――っ!、下に…!)

今、偶然とはいえしゃがまれたことは相当に面倒だった。
彼女自身が現在仰向けに寝ころびかけているような体勢である以上、同位置への攻撃はどうしても遅れる。
蹴りを繰り出すにも近すぎ、木刀を振るえば自分に当たる可能性も高い。
だからこそ、また一瞬、隙ができる。
腕を掴まれた瞬間、振り払おうとしたものの。それよりも早く、魔動機の先端が彼女の肌に食い込む。
薬は間違いなく彼女の体に浸透し。
1度目の薬効を発揮する。
その薬の内容を知っている観衆は、期待に歓喜するだろう。

「っ、この!」

今度こそ、先に彼女の腕に力が入る。
例えるなら、トロールに振り回されるような感覚だろうか。
慌てて振り払おうとしたからこそ加減が利かず。
右手を掴まれているため、勢いをつけて左へ振り、男を地面に叩きつけようと。
その反動を利用して彼女も立ち上がり、一度…どんな薬を打たれたのか判断するために後ろへ下がろうとする。

「―――――――――?」

けれど、感じるのは、わずかに汗を多くかいていること。あとは…やけに風の音や、観衆の声が聞こえやすいことなどか。
視線は男から外さないが…もっと即効性の…例えば麻痺毒などだと思っていた彼女としては拍子抜けであり。
様子を見るように、そのまま相手を見る。

クレス・ローベルク > 「うげえ!」

地面に咄嗟に剣を掴んだのは、今年のベストアクションと言って良いだろう。
もっと言えば、一瞬で全身を脱力し、衝撃を殺したのは人生のベストアクションだったかもしれない。
ほんの一瞬でも男に力が入っていたら、その場所がへし折れていただろうから。

ともあれ、彼女が後ろに下がれば、男も後ろに下がる。
こちらは、どちらかというと、『この子と延々近距離戦とか、精神的にキッツい』というヘタレた理由だったが。
とにかく、彼女が不思議そうにこちらを見るならば、

「……俺が今打ったのは、【試練の媚薬】。
ローベルク家が訓練用に使う薬を、ちょいと改造したものさ」

と説明する。
敢えて、ローベルク家の名を出すのは、少しでも精神的な揺さぶりを誘う為だ。
大して効果を期待している訳でもないが、効果が見込めるなら何でもやるべきだ――という泥臭い理由で。

「ほら、どんな強い戦士でも、一発目は弱い奴に不覚で一撃貰う事もあるだろ?
俺はこう見えて、強い奴にはそれなりに敬意を払ってるからね。
そんな事で、凌辱されるのは、忍びない」

でも、と男は区切る。
そして、邪悪な笑みを浮かべる――男の、本性としての、正しさや強さを、嘲笑う笑みだ。

「二回も不覚を取る様な戦士には、そんな弱い戦士には、敬意なんて払う必要はない。
つまり、二度目で効果は表れる――発情、っていうね」

と、そこでにこり、と営業モードの笑顔に戻り、

「ま、そういう効果のアイテムだ。解ったかな?」

とおちょくるように確認を取る。
勿論、油断はしない――攻撃の意図はないと剣を持つ腕は下げてはいるが、足は何時でも動かせるように、踵を上げている。

シュライア > 一旦距離は離れたものの、至近距離でのせめぎ合いを見た後ならば。
それを無駄な間だと思う観客はいないだろう。
歓声を上げている観衆も多く、剣闘士の腕を称える声も広がっていく。
そんな中

「――――……」

何かを諦めたように、は、と息を吐く女。
同時、木刀に…度重なる力に耐えかねたのかヒビが入り。
それを地面に放ってから、白仮面が男に向き直る。

「それが、貴方の本性なのですね。その笑み、こそが」

ローベルク家の名が出たこと。
薬の説明…その途中、男が出した表情。
結局自分がしようとしたことは無意味だったのだ。
ローベルク家がその薬に本当に関係があるのかはわからない。
ただ…この男は…仕方なく、や何か確固たる理由があって、ここで人を…女を辱める仕事をしているのではない。
強いものを誑かし、嬲る。そのために戦っているのだと、彼女は解釈する。

男が、その本性を隠して話すのなら…実直な彼女はまだ男のことを信じていただろうが、もう遅い。

もう木刀は要らない
腰の直剣を抜き放ち。男を白仮面の内から睨む。

「ええ、わざわざ説明をありがとうございます。完全に理解しました。
では―――、弱い戦士などではないことを証明するため、全力で。
最早貴方を連れ帰るなどという甘いことは言わない。ただの悪と見て、私の剣を振るう」

下衆が、と吐き捨て。
自分の力で振るっても壊れることのない宝剣を構える。
これは魔術に対しての耐性はあるものの、薬に対しては特に効果がない。
だから、男としては…勝利条件は変わらないだろう。
その難易度が、跳ねただけで。

「―――――――――――!!!」

今度は正眼に構えてからの、踏み込み。
一撃目に見せた速度の比ではなく。瞬きの内に距離を詰め、男に近づく。
命を大事にする性分ならば。彼女の剣が振り上げられた瞬間、一撃目と同じように受けてはいけないと悪寒が走るか。
それに従うかは、男次第だが。

クレス・ローベルク > 「……まあ、そうなるよね」

結局のところ、男は彼女とは相容れない。
そんな事は解りきっていた。
全ては、彼女の勘違いだ。
だが、勘違いを続けたかったのは――

「――全く。難しいよな、人生ってヤツは」

誰にも聞こえぬよう、口の中だけでそう吐いて。
剣を構える。
一応、この剣は、"生体を傷つけない"剣ではあるが、彼女の持つ物は違うだろう。
悪を断つ剣として、男を両断出来る力を持っている。
寧ろ、剣ごとこちらを両断するのではないだろうか。

「正しい怒りを以て剣を振るう女騎士。
対するは、乙女の純情を踏み躙り、言葉巧みに誑かした堕ちた貴族」

剣を捨て、右手を無手に。
そして、正面には不敵な笑みを浮かべ、

「良いクライマックスだ。
英雄譚としても、闘技場試合としても、ね!」

男もまた、彼女に向って駆けだす。
だが、無手の男では、彼女の剣の射程を潜り抜ける事はできない。
彼女の剣に自ら飛び込み、そのまま一刀両断。
――される前に、

「勝負っ!」

男が使う魔導機は、薬剤を高圧で噴射し、皮膚に極小の穴を開けて薬液を注入するものだ。
それを、顔に――目に向けて噴射すればどうなるか。
勿論、皮膚からかなり離れた上での噴射。威力こそは無いが、

「目潰し……!」

寧ろ、この高速領域だからこそ、致命的になる攻撃。
当然、右手でホルスターを抜いて、そのまま彼女の皮膚に押し当てようとするのも忘れない。

シュライア > 無手になったことも、関係がない。
ただ、切るのみ。
男の身のこなしなら、喰らっても命を落とす可能性は低い
けれどしばらくは…闘技場で戦えるほどには回復しないだろう剣。

彼女は、直情家だ。
冷静でなければフェイントなども使わないし、挑発にもすぐに乗る。
大抵は彼女の力量を見誤り、ペースを乱したとしてもそのまま叩きのめされるだろう。

「―――戯言を…!」

駆けだしてきた相手に…自分の思い込みだが、裏切られた悲しみと怒りを理不尽に言葉に代えて吐き出す。
そのまま、剣を振り下ろそうとした瞬間――

「っ…!」

狙い違わず、彼女の目に着弾する薬液。
体内に少量は入るだろう薬液が、本来の効能となるかはその薬の性能次第だが。
少し、身体が疼くような感覚を彼女に与える。
けれど…振り下ろしているからこそ、一瞬では体の方が快楽という感覚に追い付かない。
怒りによって躊躇いが無くなった彼女には、戸惑うという選択肢も既に無く。

故に、剣はそのまま振り下ろされるだろう。

「――――――――――!!」

空を切ったのであれば、目が使い物にならない以上…比較的安全に完全な2発目、あるいは、薬液の効きによっては、不完全な3発目の薬液を打ち込める。
逆に、目潰しを過信しすぎれば。肩の骨程度は、砕けるだろう。

クレス・ローベルク > 油断はなかった。
振り下ろされた剣を、男はすんでの所で回避することができた。

「っ!」

本当に、『すんで』であった。
もし油断していたら、それこそ自分の身体がどうなっていたかなんて、解らないほどに。
もしかしたら目を通って、薬効が多少現れたかもしれないが――もともと、血管注射によって効果が発揮される薬だ。
余程身体が薬に弱いのでもない限り、ノーカウントだろう。

「だから、予定通り行かせて貰うよ」

男は、敢えて剣の内側、彼女と肩と肩が触れ合う様な超至近距離まで入り込む。
そこは、剣を振るう事そのものが難しい場所。
剣という武器の――死角。

「(普通に組技とかされたらやべえけど、そこはもう頑張る……!)」

流石に素手で人間を解体出来るレベルの腕力じゃないよね?と心の底から不安に思いつつ。
とにかく、二発目を、彼女の腕に注入しようとする。

シュライア > 視覚が潰れている。
鋭敏になった感覚で、逆に男がどう動いたのかは、聴覚によってある程度わかるが。
剣を振り下ろし、当たったかどうか。見えないからこそ、少し触覚で確認してしまう。

「――――――っ」

その隙に、至近距離から聞こえる、男の声。
いやに良く聞こえてしまうが、それによって位置をしっかりと理解し。
二発目は既に避けられないだろう。
目を潰されたという感覚も増強されているため、中々身体が目を開けようとしてくれない。
ならば、と…いっそ開き直り。距離が近いほど有効である、膝蹴りを振るう。

見えていない故に音に頼った一撃だが。
2度も大小合わせて闘技場の地面を抉った脚力は、凶器と相違ない。

「――――ぁ、…っ、こ、の…っ!」

途中、腕に魔動機が突き刺さり、直後に身体を焼く性感と性欲。
だがまだ、耐えられる。
あまり開発されていない自分だからこそ、性欲が増しても、一撃程度は身体が動く。
皮膚が粟立つような感覚をしっかりと感じつつ。耳に頼りながら、未だ反撃を繰り出す。

クレス・ローベルク > 男は、勝利を予感した。
二発目を打った。どうやら、予想外に目潰しが功を奏したらしい。
後は、どうやって三発目を打つかだが、発情した身体なら、隙の突きようは幾らでも。
だから、これで、やっと、終わりが。

――骨が、折れる音がした。
身体が、中に浮く。まるで、蹴り上げられたボールのように。
地面を抉る程の力だ。現象としては、馬車に轢かれたのと同じぐらいには匹敵するだろう。
べしゃり、と倒れる。

「っ、は、は、は」

呼吸が、しにくい。否、呼吸のたびに、胸が痛む。
折れたのは肋骨が何箇所か。
衝撃で延髄まで折れてないのは奇跡だろう。

「っ、油断した、訳じゃあないんだが」

勝てる、と、そう思ってしまったのが不味かったのだろう。
彼女に勝てるという、喜び。それが、一瞬だけ、男の思考にノイズを走らせた。
結果がこの様、中途半端な所での、致命の一撃だ。
もう殆ど身体は動かない――それほどのダメージを、負ってしまった。

「だが、まだ、手はある」

一つだけ。
男は、ホルスターの中に入った薬液を、自分の身体に注入した。
感覚を鋭敏にする、その薬は男に容赦ない激痛を与えはするが、

「……ッ!」

同時に、身体の内的感覚を鋭敏にし、身体と心の結びつきを強める。
男は、ふらり、と立ち上がる。杖がないので、その足元はおぼつかないが。
とにかく、彼はまだ、敗北はしていない――勝利できるかは、怪しい所だが。

シュライア > 感覚が鋭敏になっているのは、彼女も同じ。
目に染みた薬液の感覚も、薬液本来の効果はほぼ無かったものの。
液体が入ったという痛みや、まだ染みていくような感覚なども増幅される。
触覚で、膝が男に当たったことはわかったが。
目が見えないのが第一の理由で、追撃はできない。
第二の理由は

「ふ、…ぅ……、は、……は…っ♡、クレス・ローベルク…」

少し後ずさった、彼女の息が荒くなる。
この程度で彼女が疲れるはずはない。
身体が発情し…まだ3発目ほどではないにしても、動きが、思考が鈍ってしまう。
けれどまだ、言葉を発せるだけの余裕は、少しくらいはある。

「当たった、時…音が、しました。…身体の中心…どこかの骨が、折れているでしょう…、っ、…ふ、…♡」

そのまま、提案です、と…当てずっぽうに少し近づきながら言葉を続け。
普段なら触覚で経験から少し不確かな判断をするだろうが、感覚が鋭くなった今なら、確実に折れていると判断できる。
当たったのは、腕よりも太い、複数の骨がある部位。胴に当たった可能性が高いこともわかって。

「その傷、では…、どう、せ…、しばらく、試合には出れない、でしょう…っ、ふ…ぅ…♡
―――家に、連れ戻すとは、言いません。が…しばらく、休んで…今の仕事について、考えるなら…、以前に剣を…交えてくれた…礼に…
ここは…私の、負けで構いません。…辱めない、ということが…条件、ですが。この条件でも、呑まないのなら…」

最大限譲歩し。考え直さなくても、今一度、考えるだけはしろと、条件を出して。
それでも、命を捨ててまで向かってくるなら…と…目を開ける。
まだ、視界はぼやけているが、閉じているよりはましだ。

「このまま、半ば、あてずっぽうに剣を振るい続け、ます…。事故で当たっても…それは、私の思惑通り、です、から…!」

ぼやけた視界のまま、剛剣をひたすらに、でたらめに振るい続けると。
無鉄砲であるが故に予想がつきづらく、一撃が当たれば、男がどうなるかは想像に難くない。
興行としても面白くないことになる可能性もあるが。
それを掻い潜れる自信があるなら拒否してもいいだろう。

クレス・ローベルク > 立ち上がったとしても、激痛は続く。
幸いなのは、肋骨以外の骨は折れていない事だ。
動くこと、"だけ"は出来る。動き続ける事が出来るかは解らないが。
もしも、折れた骨が心臓に刺されば、本当に動かなくなることだって。

「ああ……それは良い譲歩だ。
君は此処で犯されず帰れるし、俺はこのクソ痛い身体を引きずって戦わずに済む。
考え直すっつったって、考え直した後に、"やっぱ辞められない"って言えばいいんだもんな……」

拳を構え、左手で新たに注入器を構える。
呼吸を整える。吸うよりも、吐く方に意識を集中する、鎮静の呼吸。
楽にはならないが、意識が痛みから、少し離れる。

「でも、無理だな。一つには、君をここまで発情させて、何もせずに帰るのは、観客に対して不誠実に当たるって事――」

そして、

「――考えるまでもなく。俺はこの仕事を辞められない。
君を誑かすのは、仕事の時だけで十分だ」

大分、痛みに慣れてきた。
後の試合中は、どちらにせよこれ以上痛みが激しくなることは無い。
あるとしたら、肋骨が内蔵に刺さった時ぐらいだが――その時はもう、試合中止になるレベルのダメージだ。
幸い、此処の医療班は優秀だ。即死さえしてなければ何とかしてくれるだろう。

「さあ、最後の勝負だ」

最後に一息深く息を吸って――止める。
呼吸という、エネルギーを要する営みが止まったことで、意識は逆に、クリア。
打ち込んだクスリの影響で、感覚は鋭敏だ。
だから、彼女の動きがはっきりと見える――

「(ローベルク家の奥義、足す事の、剣闘士としての経験)」

男は、走る。
触れれば即死すらありうる、鉄風の中へと、

「("正義の騎士"に、何処まで通じるかな――!)」

シュライア > 「その体では…、は、…♡、3回目、を…撃ち込んでも…辱めも、存分には、できないでしょう、に…」

痛みを誤魔化す術も、彼は知っているのだろう。
聞こえる呼吸が、段々と少しではあるが落ち着いているのがわかる。
けれど、耳に痛いほど飛び込んでくるのは、無理をして整えているのであろう呼吸音。
そんな状態では、3回目を撃ち込めたとしても…どうしてもその怪我が邪魔をするのは間違いない。

それでもこちらの提案を断ってくる相手に、再び、諦めの吐息。
彼女も、感覚が鋭敏になっている上、発情している状態。
空気も肌を擽り、立っているだけで悶えそうなほどだ。

けれど、自分も負けるわけにはいかない。
ここで負ければ、自分が辱められることはもちろんだが。
男にも、正道を歩んでほしいというのは、本当の願いだったから。
だからこそ…目を開いてもすぐには追撃せず、交渉を持ちかけた部分も、ある。

今となっては、関係のないことだが。
ぼんやりとだけれど、相手が向かってくるのがわかる。
こんな視界では、逆に目に頼りすぎる方が危険だと…大体の位置を把握するためだけに努める。
後ろに回り込まれた際などは、わかる程度にだけ。

そうして、宣言した以上、自分にできることは、型も何もなく、ただ暴風雨のように待ち構えることだけだ。

「――――――――――…!」

どうか、退いてくれと。
この中に突っ込めば、鉄塊が男を打ち据える可能性は高い。
動きは鈍っているものの、上に、下に、中段に。
斜めに、横に、縦に。
次にどこに来るかわからない、当たればただでは済まない、遠慮なく吹き荒れる鉄嵐。

上半身ではなく、下半身を狙うのもありだろう。
けれど、それも相応のリスクがある。
そこを狙おうとした瞬間、下段が振り下ろされれば勿論、鉄塊が当たるのは避けられないだろう。
それは上半身を狙った場合も、同様。
パターンも何もない暴虐の嵐の中を掻い潜れるか。
それだけが、この勝敗の行く末。

クレス・ローベルク > 「――見える」

鋭敏化された知覚と、クリアになった意識が。
"鉄の風"を、彼女の、一つ一つの動作へと、分解する。
勿論、それは見えるだけで、それに動作が追い付いたりはしないのだけど。

「(すごい、な)」

途切れる事がない、暴風。
それを現実にするのは、とても難しい。
例えば、ただの棒だって、延々振り回す事は、只人にはできない。
腕が疲れ、体力が尽きる。
或いは流れとして無理が生じる。
それを、発情した身体でやっているというのだから。

「(でも、)」

だからこそ。剣筋が乱れていないからこそ。
暴風の様な威力にこそ、突き込む隙がある。

「――っ!」

男が飛び込んだのは、丁度彼女が剣を地面に振り下ろす瞬間だった。
正に、振り下ろされる最中の剣を、全体重をかけて踏みつけたのだ。
彼女の膂力に、更に男の体重をかけられた剣。
その剣が切り裂くのは、男ではなく――地面だ。
剣の先端が、踏み固められた地面を、切り裂いて、埋まる。

「っ、は!」

突くならば、この隙しかない。
一度埋もれた剣は、そう簡単に抜くことは出来ない――杭と同じだ。
一度埋まれば、周囲の土が邪魔をして、地面に剣が固定される。

「(尤も、彼女の膂力じゃ数秒で抜けちまうだろうが)」

その数秒があればいい。
男は、今度こそと、右腕に注入器を押し当てようとする。

シュライア > 力の限り、疼く身体で剣を振るい続ける。
近づくな、と。
近づけば死ぬぞ。あるいは……もう近づかないでくれと。
想いを込めて剣を振り…膂力の限りであれば、観客が退屈し始める程度までは振れる体力はまだある。

「―――――――――――――…!!」

裂帛の気合で剣を振り続けるが。
唐突に、ずしりと剣が重くなる。
ぼやけた目で確認すれば、それは…剣の上に、男が足を乗せていたから。
地面を耕すように深く切っ先がめり込み。
男の体重を受けても軋みもしない剣の頑丈さが、仇となった。

すぐに引き上げ、男を振り払おうとするも…一瞬、そのために意識が割かれる。
やはり、その隙に入り込んでくるのは、男の技術によるもの。

「っ、ぁぁ…っ…♡、く……ぅぅ…♡」

右腕に押し当てられる、魔動機。
当てられた、と意識した瞬間には、既にそれはその役目を果たしているだろう。
今まで燻っていた火に、大量の油を注がれたかのような、快感。
たまらず力が抜け、剣を取り落とし。
男の戦い方を知っている観衆からは、喝采が上がる。

『決まったあああああああああああああ、試練の媚薬、全て達成しました。
ご覧ください!あの凄まじい剣技を持った女が、成す術もなく崩れ落ちています!』

司会がここぞとばかりに煽り立てる。
実際、既に剣は持てず…それどころか、纏っている軽鎧が邪魔で仕方がないほど、疼いてしまって。

「ぁ、ひ…ぅ…っ♡、あ、ぁ…っ♡、ん、…っ♡」

地面に崩れ落ちながら、悩ましい声を上げ、身を捩じらせる白仮面。
最早、抵抗など彼女にはできるはずもなく。
待っているのは、ただ辱められる時間のみ。

―――後に、仮面をしていてもわかる、凛とした雰囲気の騎士が辱められる映像が、広められることとなる

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からシュライアさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 『さあ、今日も始まりました!アケローン闘技場、興行試合!今日の剣闘士は――』

今日もまた、戦いが始まる。
青い闘牛士服の剣闘士は、ファンサービスとして簡単な演武を行いつつ、今日の対戦相手に思いを馳せる。
今日の試合は、興行試合。一戦で賞金が手に入るので、冒険者や腕に覚えのある傭兵などが、手頃な小金稼ぎとして参加してくる事が多い。
勿論、偶には犯されたりするのを前提として、奴隷などがやってくる事もあるわけだが……

「(ま、そんな期待はしない方が良いね。大体裏切られる)」

『さあ、それでは始めましょう!今日の試合は――こちら!』

そして、今日の選手が入場する――!