2019/06/08 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場 興行試合」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 春と夏の境であるこの時期は、徐々に空気が湿気を含む時期だ。
観客達も粘つく様な空気に苛立っているが、男もそれは同じだ。
何せ、闘牛士服は生地が厚い上に上着まで着ているのだから。

「(あー、ベタベタするぅ……)」

仕事着とはいえ、この時期は出来れば脱いで戦ってしまいたくなる。
動きやすいしそれなりに頑丈なので、利益不利益で考えると脱ぐ選択肢はないが。

『さあ!対戦相手の準備が整いました!
それでは、今日の選手をご紹介しましょう!』

アナウンスが入ると、男はそちらに注意を向ける。
試合が、始まる。

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場 興行試合」にモルファナさんが現れました。
モルファナ > 『クレス選手とは二度目の対戦となります……
挑戦者、「娼館・雌獣の巣」所属……モルファナ選手!』


「やー。久しブリ、クレス兄ィさン。元気してタ?」

片手持ちのクォータースタッフを肩で支え、白い毛並みの犬娘は悠然とゲートを潜り、歩む。
細まった黒目が、待ち受けるマタドール姿の戦士を見据え、にぃ、と笑った。

前回の登場は演出としては観客にインパクトを与えたが、闘技場のウグイス嬢を少々焦らせたゆえに、
『アナウンスの最中に飛び出すな』とは口酸っぱく言い含められていた模様。

剣闘士の『正装』に合わせて、犬娘も色付帯の道着姿。
素人(シロオビ)ではなく、さりとて達人(クロオビ)でもなく。
防御力と敏捷性はそのままに、それらしい格好をさせようという闘技場側の意向であった。

クレス・ローベルク > 告げられたアナウンスに、おや、と男は思う。
先日に戦った、獣人モルファナ。
再戦マッチは珍しいことではないが、しかし此処まで早いのは珍しい。

「まあ、そこそこだね。そっちは……言うまでもないか」

幾ら悪辣悪徳蔓延る闘技場でも、体調が悪い選手を試合場に放り込む様なマネはしない。
それに、元よりモルファナは生命力に満ちた戦士だ。
怪我をする事はあっても、病気をすることは滅多にないだろうと思う。

「にしても、東国の武道着か。
どうやら、闘技場で用意された物っぽいけど……大丈夫かい?
前の衣装の方がポイントガードがある分、防御に有利そうだけど」

と、一応相手に確認をとっておく。
彼女はミレーではあるが、正式な選手として登録されている以上、ガチで戦う為の対戦相手だ。
負けるのは勿論駄目だが、かといって慣れない衣服で実力を出せずに負けられても、それはそれで困るのだ。

モルファナ > 「んふー、見てのトーリ♪
それニ、モルファナは頭あんま良くないケド、クレス兄ィさンはしっかり覚えてたヨ。
腕と子宮……両方でネ♪」

軽口にて答える。負けはしたが、とても楽しい試合だった。最中も、その後も。

肩にかけていた木製杖は、フォン、フォン、と音をさせて数度横回転……
流れるような動きで両手持ちにて半身に構える。

「……余裕ブッかましてるト、今度はモルファナの方が乗っかって『搾り取っちゃう』ヨ?」

心配の言葉を向けた彼を前に……纏う空気が変わった。
選手も観客もうんざりさせるほどの、初夏の蒸し暑いそれが、すぅ、と『静か』になる。
コォォゥ……犬娘の呼気が響いた。

衣は心を表す、とはよく言ったものだが、いざ着こんでみたこの道着は、『気』の集中を助けてくれた。

「おいデ?」

今回は、『一撃ハンデ』は不要だ、とばかりに。
闘技場闘士相手には、少々不敵が過ぎるかもしれぬ挑発。

クレス・ローベルク > 構える相手を見て、こちらも剣を構える。
こちらは、モルファナを正面に捉える両手持ちだ。
脚を肩幅に開いて、前後左右どちらにも対処できるように。

「別に、余裕があるわけじゃあないんだけどなあ……」

勝ち負けよりも価値のあるものがある――訳ではないが。
しかし、敗北よりも価値のない勝利というものが、剣闘士の試合には存在する。
それがモルファナに通じるとも思えないし、そもそも通じる必要がある物でもない。
故に、男は軽く肩を竦める。
あちらはかなりマジだが、それにこちらが"乗る"つもりはない。
自分のペースを崩さず、

「オッケー。それじゃあいっちょ――先制攻撃といきますかっ!」

走る。
相手との距離は、大股で三歩だ。
故に、男は二歩を助走として消費し、

「せやっ!」

三歩目を跳躍し、飛び前蹴りを入れる。

モルファナ > 「ケド、自信はあるデショ。動き見れば解るモン」

こちらの発した安い挑発に乗らず、あくまで己のペースを保ったのがその証拠だと、犬娘は感じた。

ヴォンッ、と風切り音をさせ、横に薙ぐ杖の一撃が、相手の飛び蹴りに躱される形となる。

身体を横回転させ、青年が放った飛び蹴りを回避。
二回転目で二撃目が相手の背ギリギリを掠めて空を切り……
三回転目で距離を取りながら体勢を低く。

カァァァッ……、と音を立てて杖先が地に半円を描いた。

犬娘は彼の生まれも境遇も知らず、まして剣闘士の矜持など解ってはいまい。
自分でも言っていた通り頭の出来は良くはなく、物事を理論立てて考えるには向いていない。

だが、そのぶん、直感で判断する。
ベッドの上でお客様を悦ばせるのと、闘技場で観客を喜ばせるのは良く似ている。
多少わざとらしくとも、鮮やかな剣劇の演武を『演出』するのだ。

クレス・ローベルク > ――上手いな!
と男はモルファナを称賛する。
これみよがしに剣を構えて見せてからの飛び蹴り。
横薙ぎの一撃を繰り出したという事は、相手はこちらを読んでいた訳ではないはずだ。
だが、そこから横薙ぎの動きを回転動作に繋げてこちらの攻撃を回避。
当たらなかったとはいえ、こちらに攻撃まで仕掛けてきた。

「っと」

右足を軸に回転し、モルファナの方に振り向く。
あちらは、身軽な動きを得手とする戦い方をする。
ならば、こちらは逆に、"重い"動きであちらを潰すべきだ。

「おおおおおおおおお!」

今度は、剣を中腰になり、剣を斜めに構え、モルファナに一気に詰め寄る。
斜めに構えることで、モルファナと上半身の間に剣を噛ませ、カウンターに対する盾とする。
そうした上で、あちらに詰め寄れば、相手は躱すか、受けるしか無い。
だが、躱した所でこちらは同じことを繰り返すだけだし、受ければ鍔迫り合い。脚を使っての回避はしにくくなる。

「さて、モルファナの好みはどっちかな、ってね」

モルファナ > 下段に構えた己に向き直った青年。
咆哮と共に突進する彼の勢いに、犬娘は黒眼を大きく見開いた。

「さァて、ねッ!?」

好みだ何だを考える余裕はない。
己もまた一歩踏み込み、クォータースタッフを振り上げた。

ぎぃん、という、打撃音。
木製杖に似合わぬ、金属同士が打ち合ったような音と共に、一合武器同士を合わせ。
鍔迫り合いになる前に、片足を引き、突きの体勢。

肉を切らせる訳にはいかない。骨を断てる力は己にはない。
ゆえに、剣の腹を滑らせる形で、木製の杖先にて顎……脳震盪でのKOを狙った。

『気』を馴染ませた杖は打ち合っても折れはしないとはいえ、質量そのものが増えるわけではない。
相手は中背細身とはいえ、両手持ちの金属武器を、軽量級の己が受け止めている状態。
失敗すれば押し切られて倒される……良くても弾き飛ばされるか。

クレス・ローベルク > 相手は"受け"を選択した。
それを確認した時、男は有利を確信した。
だが、こちらが鍔迫り合いに入る前に、あちらは受けた杖をそのまま突きあげてきた。

「おガッ!」

鍔迫り合いの為、力を上半身に入れていたのも災いした。
力が入った身体は、力は増す反面瞬間的な速度は失う。
反応こそできたものの、顔を逸らす事が出来ず、直撃する。
失神こそしないものの、男の身体が大きく後ろに流れる。

剣を握ってこそ居るものの、それは十分な隙だろう。

モルファナ > 手応えあり。
後ろに反れる相手の身体に追い打ちをかけるように、なけなしの体重をかけて体当たりをするような形。

相手の目にはまだ光がある以上、油断はできない。
未だ剣を握ったままの青年の手首に杖を押し当て、動きを制する形。
杖から離した左手を鳩尾に走らせ……

「寸勁ッ!!」

『気』を乗せた掌による、1インチパンチを叩きこまんと。

クレス・ローベルク > 静かに跳ね飛ばされた。
無防備な状態で吹っ飛ばされた彼の様子を描写するなら、そういう事になろう。
放物線を描いて吹っ飛んだ男は、地面を二度バウンドして倒れ込む。
それと同時、アナウンスがカウントを開始する。10まで数えれば、モルファナの勝ちが確定する。

「ぉ……」

3まで数えた所で、男は起き上がった。
だが、上半身だけだ。
脚を伸ばして座っているような体制だが、まだ起き上がってはいないので、カウントは続行。
4,5で剣を握る。

「さて、それじゃ」

6,7,8
男は、剣を杖に立ち上がり、剣を天に掲げる。
立ち上がったので、カウントはなくなったが、

「反撃開始……!」

10を以て、モルファナに剣を投擲する。
剣は切れない魔法がかかっているが、鉄の棒相当の硬度はある。
頭に直撃すれば、それこそ脳震盪では済まないだろう。

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場 興行試合」からクレス・ローベルクさんが去りました。
モルファナ > (ロール継続)
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場 興行試合」からモルファナさんが去りました。