2019/04/21 のログ
クレス・ローベルク > 「(おっと)」

まさか、向こうから魔術武装を解除してくるとは思わなかった。
気付かれた節はないが……しかし、当てが外れたのは確かだ。
お互いの動きが、噛み合っている様で、噛み合っていない。
こういう試合は、大抵の場合、彼我が持っている手札の枚数勝負になるが……

「(まあ、あっちの方が多いよな。魔術使えるっぽいし)」

やりづらいな、と思いつつ、ルーシェが近づいてくるのを待つ。
カウンターを待つのは男のスタイルだが、今回はそれに増して受け身である。
怯懦故ではないと思いたいが、しかしあちらは膂力も魔力も段違いだ。

「止められるかこんちくしょう!」

破城槌の様な蹴りを、ステップで右に跳ぶ事で避ける。
回避は成功したが、その跳んだ向きに舌打ちする。
本来なら右斜め前に跳び、カウンターを入れるべきところを、相手の蹴りに圧されて真横に跳んでしまった。
だが、後悔は直ぐに捨て、男は彼女が足を引き戻すに合わせて、ルーシェに向かって飛び込むように踏み込む。

「っ!」

剣を振り下ろす暇はない。かといって、真っ直ぐ突きを放つのはあからさま過ぎる。
故に、男が選択したのは、肘打ちだった。
剣を振り上げて斬撃に入ると見せかけて、振り下ろす動きから肘打ちにスイッチ。
横っ面をひっぱたく様に、肘打ちを浴びせる。

ルーシェ=イストレリア > ゴッ!と鈍い音がした。
動作後の硬直であったことを差し引いても避けられないことは無かっただろう。
しかし彼女は受けを選んだ。
頬を強かに打ち付けられ口内を切ったのか鉄錆びの味がする。

「悪くない。だが有効打にはなり得ないな。殺す気で来ないと後悔するかも知れんぞ?」

ペッと血混じりの唾を吐き捨てわざとらしく口角を上げて笑ってみせる。口の端から覗く牙の様に尖った犬歯を見れば彼女の正体を察せられるだろうか?

「手は封じられている。今はまだ脚しか使わんと公言もした。警戒しすぎてぬるい攻めばかりだと機を逃すぞ。」

蹴りを放った脚は下ろさない。もう片方の脚を軸に身体を捻り上段から振り下ろす様な回し蹴りへと繋ぐ。迫り来る刃は明確にクレスの首元へ狙いが付けられていてそれは正に死神の鎌のように見えるだろう。

「避けねば…。死ぬぞ?」

当たらなければ大きな隙になるが当たれば致命の一撃。
野次を飛ばす観客すらその緊張感に息を飲み静かに顛末を見守っていた。

クレス・ローベルク > 「(これも、駄目か)」

脳震盪ぐらいは起こしてくれないかと期待したが。
どうにも、相手は頑丈過ぎる。
というか、さっき牙っぽい犬歯が見えたが、まさかあれは魔族の中でも最強の一角であるところの、吸血鬼じゃなかろうな。

「(……吸血鬼なんだろうなあ)」

心の中で諦めの吐息。
と、そこに首を断つ刃が飛んでくる。
狙いは正確。成程、これは確かに喰らえば死ぬだろう。
だが、回避しろと言われた攻撃を、

「避けてやる様な甘い教育は受けてねえんだよなあ!」

正直、相手が吸血鬼で良かった、とも思う。
相手が吸血鬼[フジミ]でなかったら、こんな事は絶対にしないからだ。
先程の攻撃で下げた剣を、跳ね上げて切り上げる。
その刃は、振り下ろされる刃をくぐり抜け、落ちてくる少女の膝を、すくい上げる様に切り捨てる――

「殺しの技は、使いたくなかったんだが、ねっ!」

ルーシェ=イストレリア > 鮮血が吹き上がる、決して浅くない傷が刻まれ斬られた右足から幾ばくか力が抜ける。
幾ら吸血鬼と言っても純血でない自分がこれを放置しすぎれば命を落とすことも全く無いとは言いきれない。

「ククク、面白くなってきたではないか?」

斬りつけられた衝撃を利用し逆回しに身体を捻り2、3歩分距離を取る。
勿論公言した以上治癒の魔術は使わない。
あくまであれは相対する相手を好敵手だと認めたときだけだ。
まだ少し、そこへ到達するには遠い。

「何度も大振りでは流石に飽きるか?それは成る程手痛いしっぺ返しも食らうと言うものだ…。であれば。」

彼女の内の侮りが消えギアが一段階上がる。
開いた距離を瞬時に詰め双脚での目まぐるしい乱打、削るように消耗させる蹴りに時折混ざる抉るような蹴りを織り込んだ無数の蹴撃の暴風雨が放たれる。

「切り裂かれたとてこの脚は未だ健在、甘い攻撃には期待せぬことだ!」

クレス・ローベルク > 正直、剣での攻撃はやるのも結構辛い。
人外とはいえ、ヒトガタの形を変える程の攻撃は、泥のような嫌悪感を齎す。
無論、だからといって、剣が鈍る様な甘いことはないが……

「全く。最近の魔族は、もう少し闘技場のルールに配慮してくれてもいいと思うんだが」

あちらが距離を取ったので、こちらは心を休める為、少し愚痴を吐き出す。
ルールブックには、これはショーであり、殺してはいけないと書いてある。
だが、殺す気の攻撃かどうかは外からでは解らないので、実質『死んだら反則』という事後ルールに成り果てている。
そして、ルールの不備の割りを食うのは何時だって、自分みたいな真面目な労働者なのだ。

「愚痴終わり!そしてようこそ現実ゥ!」

現実に戻れば、待っていたのは目まぐるしい蹴りの乱打。
幾つかは掠っても問題のない、軽い蹴りだが、そこに突然重い蹴りが混ざってくる。
勿論、その蹴りはタメが必要であるため、回避は容易だが、当たらずとも精神を削ってくる。
だが、男はなるべく焦らない。呼吸を深くし、冷静に相手を見る。

「(未だ、あっちはこっちを"足で十分"だと思っている。
まあ、流石に脚を斬られた分警戒するだろうが、)」

その思考の刹那、左肩に一撃、蹴りが入る。
まともな直撃は、男の身体全体を吹っ飛ばし、重い音を立てて二度バウンドさせる。
苦痛ではなく、あり得ざる衝撃への驚愕で、男の思考が真っ白に――スイッチ。直ぐにアジャストしてもとに戻す。
左肩が脱臼なり粉砕なりしていない事に感謝しつつ、男は立ち上がり、彼女の追撃に備えて剣を構える。

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からクレス・ローベルクさんが去りました。