2019/04/04 のログ
クレス・ローベルク > 「い”っ!?」

足の裏が、剣を受け止めた。
余りに非常識な防御法に、遂に苦笑いが歯を食い縛った何かになる。
靴に鉄板を仕込んでいると思いたいが、手応えが違う。
明らかに、魔力障壁の様な、力場による防御だ。
わざわざ足で受けた所を見ると、何かしらの制限はあるのだろうが――

「それを考えさせてもくれない、か!」

次に放たれるは、炎の矢。
何で四本番えて全部自分のとこに飛んでくるんだ、そもそも明らかに狙い付けてないだろその速射、と抗議したいが、意味はない。
そして、防御と言う意味を自ら紡がなければ、下手すれば死ぬ。

「なっめんな!」

もう一本の剣を引き抜き、刃を胸の前でクロスする。
そして、火の矢の軌道を見極める。
一つは胸、一つは頭、もう二本は脚狙いか。
ならばと男は、右の剣で頭狙いと胸狙いの矢を切り払う。
そして、脚狙いの矢は、

「いっっっ!」

敢えて、ギリギリで脚に掠らせる。
火が脚を焼くが、この場合それでいい。
本来、血が流れる筈の傷が、炎で焼かれる事で止まり、

「おおおおおおお!」

そのまま、オウカに向かって走り出す。
焼かれた脚の痛みはない。眼の前の少女と言う名の生命の危機が、それを麻痺させている。
未だ、こちらの間合いではない。しかし、まずは近づかなければ話にならない。
もう一度ぐらいの攻撃なら避けてやると心に決め、男は突貫した。

オウカ > 「――――」

度胸もよし、と口の中で呟けば。
大弓を上に高く放り投げ。
即座に抜き放つは十文字千鳥槍。
振るえば乱舞する千の鳥、乱れ雨を断つと言う名槍。
その剣を見やれば、踏み込み。

「――――せい、せいせいせいせいせいッ!!」

突き出す速度、引く速度。
そのどれもが一流、恐るべき刺突の連打で距離を詰めさせない。
剣の間合い? 槍の方が長いに決まっている。
とことん、"剣の間"を殺さんと突いては払い、薙いでは突いて。

「そう簡単に剣は合わせませぬ、よ!!」

槍を以て制さん、と放つ刺突は驟雨の如く。
剣を弾き飛ばさんと竜鬼の膂力を以てして放つ。

クレス・ローベルク > 「くそっ!」

槍を抜き放った瞬間、慌てて足でブレーキを掛ける。
間合い?そんなものは犬に食わせろ。
槍に向かって突貫すれば、自ら貫かれる愚か者の完成だ。

「く、お、おっとぉ!」

こちらを拒むような槍の連打に、こちらは両手の剣で弾き、躱し、受け止める。
押されっぱなしのこちらに対し、観客からは"いつものはどうしたぁっ!相手は女だろうが!"と野次が飛ぶが

「(勘弁してほしいよ、ホントに……!)」

セクハラ攻撃をするためには、前提として素手の間合いに行かねばならにし、媚薬注入器は、そもそもあの魔力と気の障壁で弾かれる可能性が高い。
強敵相手のブレイクスルーの一つである、"性的に戦う"が完全に封殺されている。

「くぁっ!?」

そして、今、槍の勢いに負け、右の剣が一つ弾き飛ばされた。
幸い、まだ一本は残っているが、明らかなジリ貧であった。

オウカ > 「――――フッ!!」

そして、虚空に打ち上げた弓が落ちてくるのを手に取ると同時。
番えたのは――――槍。

「天心不然十二門戦場合戦術剛弓術、烈破ッ!!」

放たれたのは先程まで使われていた剛槍。
それが剛力を必須とする強弓から放たれた。
最早むちゃくちゃである。当たればどうなるか? 言うまでもない。
さしもの無茶に弓の弦も弾けて切れた。
使えなくなった弓を後ろに放ると同時、抜き放つのは身の丈もある大太刀。
ゆらり、と身が揺らぐと同時。
再び足に気と魔力が収束し、炸裂。
また間合いを殺せば大上段に振りかざした大太刀を打ち下ろす。

クレス・ローベルク > 槍を弓で番える。
もう、それは神業というより暴挙であり、怪力と言うより暴力である。
だが、それ故に、一瞬であるが、時間があった。
それは、単に敵の攻撃の軌道上から、自分の身体を逃がすだけの時間であるが、

「十分……!」

自分の身体を脱力させ、後ろ向きに倒れ込む。
倒れ込んだ男の間近を、槍がすっ飛んでいく。
当たれば死ぬ所ではあったが、しかしどっこい死ななかった。
そして、男はその間に、計算を始め、終わらせる。
何せ、計算の内容は、簡単な引き算だ。

「(オウカちゃんは、両打刀、両大太刀、弓と槍を持っています。
今、槍は吹っ飛び、弓は番えるために時間がかかります。
オウカちゃんが俺に止めを刺すのに、一番適当な武器は何でしょう?)」

答えは、

「近接戦、だよなあ!」

幸いにして、男の足は彼女の手より長い。
大太刀のリーチを考慮しても――彼女の握る右腕と左腕の間に、脚を一本通すことぐらいは出来る。
そして、それができれば後は簡単。
勢いのある彼女の勢いに載せて、全身のバネを使って後転すれば――

「ローベルク流殺法術――もどき、『婦人投げ』ってね」

握られた柄を離さない限り、彼女の身体が、投げられる様に吹っ飛ぶ――!

オウカ > 「――――ッ!!」

投げられ、その身が虚空に飛ぶ。
手にした大太刀は離さなかった。
吹き飛びながら――――男は違和感を覚えるだろう。
"かかり"が浅かった、と。
投げられると気づき、彼女もそれに応じるように"跳んだ"のだと。
実際投げ飛ばされたその身は虚空に舞いながらもその身を整え。

「――――天心不然十二門戦場合戦術」

身体をひねり、全身のバネを使い、指先で螺旋を描くように。

「投法、飛燕――――ッ!!」

大太刀が、まるで弾丸の如く勢いで射出されていた。
その勢いで地に足をつくと同時、気と魔力を収束。
轟音をあげ、リングが踏み砕かれ無数の破片が舞い上がる。

「天心不然十二門戦場合戦術投法、時雨打ちッ!!」

舞い上がった無数の破片、その一つ一つを、指弾の要領で弾き、撃つ――――!!

クレス・ローベルク > 『婦人投げ』には明確に弱点がある――それは、後転である以上、技の終わりは後ろ向きと言う事だ。
故に、手応えのなさに不審を感じ、後ろを振り返った時、最初に見えたのは、矢もかくやと言うべき飛んできた大太刀であった。

「うわああああああああ!?」

反射的に、それはもう反射的に。
よりにもよって顔面コースにぶっ飛んできた大太刀を、全力で剣で弾き落とした。
おかしい。此処は殺傷禁止の闘技場で、自分も『死ぬこと無いなら此処で働くかあ』と思ってこの職に就いたはずなのに、既に三回程死んでいておかしくない経験をしている気がする。

「まあ、何時もの事だけどね!」

先程弾き飛ばされた剣の代わりに大太刀をひっつかみ、慌てて駆け出す。
先程居た場所を、連射式の魔導銃もかくやと言った勢いで、破片がすっ飛んでいく。

「(奥の手は、ある。あの"強さ"には、介入できる隙は、ある。だが、一度切りだ。
まず、相手を本気にしないといけない。その為には……)」

オウカを中心に円を描くように駆ける男。
少しずつ、少しずつ、その円を小さくしていく。
そして、

「っっっせえええええええいっ!」

雷声一発。乾坤一擲。
先程奪った大太刀で、オウカの身体を薙ぎ払う。

オウカ > 「――――」

斬、と言う音が響く。
大太刀がその胴にめりこみ、そして――切り払われる。
上半身と下半身が分かたれる。
ぐらり、とその身が傾ぎ……。
ボッ、と言う音と共に塵に還り、残ったのは呪符一枚。

「巫術、影法師でする」

声は背後から響いた。
その背に放たれたのは触れるような掌底。
避けねば、トンと軽い音と共に触れるだけのようなソレ。
されど、歴戦の男ならば分かるだろう。
"ヤバい"、"これは絶対にヤバい"と。

「某、素手が一番強いのでするよ」

クレス・ローベルク > 「……oh」

予想は、しているべきであった。
彼女の力は気だけでなく、魔力によるものなのだから、当然魔法の類は使える筈だ、と。
とはいえ、それでも尚、笑みは崩さない。
引きつっても、食い縛っても、内心の動揺は、表さない。
一呼吸置いて、男は言う。

「……良いぜ、オウカちゃん。撃ってみろよ」

首だけ振り向いて、男は言う。
まだだ、まだ、此処で使ってはならない。
ギリギリ、この聡く強い少女が、自分の勝算に気付いても、引き返せないレベルの――魔力と気を練る、その瞬間を捉えねば、意味はない。

「撃ってみろよ、オウカちゃん」

挑発じみた――或いは牽制じみた物言い。
男してはどっちでもいい。此処で、オウカが警戒して普通の技を使うなら、それで相手を縛れる。逆に、此処であの、魔力と気を練る技を使うなら――それが勝負の時。
全ての選択権を、彼女に委ねた。

オウカ > 「――――はい、では撃たせて頂きまする」

にっこり、と笑うと同時。
押し当てていた手とは別の手でなんらかの符をぺたり。
そして、とん、と離れれば。

「封印縛符」

影から無数の漆黒の鎖が伸びて男の身体を封じんと放たれる。
まさかのここでの巫術攻め。
物理? ハハハ、なんか気配が怪しかったので使いませぬよ。
そんな言いたげな気配を漂わせながら。
次々と符を取り出せば、それが虚空を舞い。

クレス・ローベルク > 「……あー、うん」

伸びた鎖に素直に縛られながら、男は拍子抜けした表情をする。
今までの緊張感など微塵もない、ある意味此処に来て初めての、余裕の表情――というか、味のある表情を。

「……撃てば?」

何か、雑。
先程の「撃てよ」とは違う、何というか、非常に雑な口調で、男はオウカに促した。

オウカ > 「…………」

雑になったのに、疑問げに首を傾げ。
さて、はて、何か策があるのか、むしろちょっと怖くなった様子。

「降参はいたしませぬか?」

一応問いかけてみた。
ふよふよ、と巫術を漂わせたまま。
困惑気味に一言問うてみた。

クレス・ローベルク > 降参は致しませぬか、と言われた時、男は首を傾げた。
はて、今は降参すべき状況だろうか、と。
頭の中で数秒考え、今のところ特に理由はなかったので。

「何で?」

問い返してみた。
それは非常に純粋な眼。
まるで、「どうして1+1は2なの?」とでも言うような眼で、少女を見ている。

オウカ > 「…………」

あ、これ何か策がある奴だ、と思った。
思ったので放ったまま場に残った槍を携えて。
くるり、と構え。

「せいッ!!!」

突いた。

クレス・ローベルク > 「……あ、はい」

彼女が槍を構えてこちらに向かってきたので。
男は、絡まってる鎖を破砕した。
男が唯一使える魔術――正確には、魔術らしきもの――邪魔眼。
その強弱に関係なく、寧ろ強ければ強いほどに簡単に魔術を破壊する、クレス・ローベルクの魔術対策である。
そして、五体が自由になってしまえば、見え見えの槍の軌道など簡単に捉えられる。

「よっと」

突いてきた所を腕でいなし、引くに合わせてこちらが懐に飛び込む。
今まで、男が攻めあぐねていたのは、彼女が突きだけでなく、薙ぎも使って来たからだ。
故に、拘束されている人間に対して、ただ真っ直ぐ突いてくるだけの槍は――読みやすい。
そして、相手の体格は小さいが故に、

「おおおおおらっ!」

顔面を掴んで、全体重を掛けて力任せに後頭部を地面に叩きつける。
魔力障壁で防がれるだろうが、衝撃が伝われば、それで脳震盪を引き起こす技だ。

オウカ > 「あ、やっぱり対策あったのでするぅぅぅうっ!?」

後頭部から落とされれば。
メゴシャア、と鈍い音が響き渡る。
リングに大きくヒビが奔り、そこが砕け散る。
トン、と言う音が響き、叩きつけたその瞬間に。
押し当てられた拳、それから気と魔力の複合技。
浸透打撃がカウンター気味に男の身体に打ち込まれた。
是、寸勁也や。

「あいたたたたた……ッ」

――――おかしい。
普通なら昏倒、あるいは脳震盪。
あいたた、で済むようなソレではない。
人外と化した少女は、魔力障壁と気による防御、そして人外の体躯によってふざけた防御力を有しているからではある。
ある……が。
流石に痛かったのか、カウンター気味に打ち込んだ拳も地に落ちた。

クレス・ローベルク > 「やっ……ぐふううううううっ!?」

――それ、そんな雑に使える技なのん……?
と言う思いと共に、吹っ飛ぶ男。
放射線状に吹っ飛び、何度かバウンドして、突っ伏す。
何とか立ち上がろうとするが、指は地面を引っかくばかり。

「(あ、これ、駄目な奴では……)」

多分これ、身体の内部に何かされてる。身体動かすとかえってダメなやつ。
それでも、あちらが意識がある以上、立ち上がる努力はせねばならない、のだが。
そこに、オウカの呑気な声が聞こえてきた。

「(あいたたたた……って、おお、もう……)」

頭部に衝撃を受けてそれは駄目だろーと言う思いとともに、男は気絶……

「してたまるかあああああっっ!!!!!!!」

しなかった。悲鳴の様な叫びと共に起き上がった。
巫山戯るな、こんな巫山戯た試合運び納得できるか。
負けるのは良いが、それは相手が追い詰められてからだ。
あの邪智暴虐の少女が、せめて何か最終奥義とか、その辺を使ってからだ。
おお、そうだ。俺には意地がある。闘技場であらゆる女を虐め、奴隷を踏み躙る、ヒールファイターとしての意地だ。

「それが果たされるまで、断じて、断じて倒れぬ……!」

ある意味史上最大級に我儘な意地と共に、男は立ち上がった。

オウカ > 「……ええ……?」

ちょっと良い感じに入ったと思ったのですけど。
そう思いながらくわんくわん、と揺れる頭を振って起き上がり。
意地だけで起き上がったのには感服したけれど。
うぅん、と首を傾げてから。

「しょうがないでするね……」

とん、と起き上がると同時、そっと刀に手を添えて。
――――入らさせて頂きまする。
そう、呟くような言葉、けれど、よく、それは響いた。
空気が重々しくなり、纏う気配も重く、冷たく、鋭く。
柄に手をかけただけのその姿勢。
東方の剣士は、その抜き打ちですら絶技に昇華すると言う。
抜き身の刃のような気配、濃厚な死の気配を纏ったまま。
じり、と足を一歩進める。

クレス・ローベルク > 「ふぅ……ふぅ……」

起き上がったとはいえ、男は息絶え絶えだ。
頭の天辺から爪先までが、悲鳴をあげている。
正直、次の瞬間には気絶してもおかしくない。
しかし、

「……だからこそ、今、だ」

男は、此処で初めて、腰のホルスターから、媚薬注入器を取り出す。
そして、それを、自分に突き刺した。
試練の媚薬、第一段階。代謝と身体感覚の拡張。
そして、その上での、

「過集中……!」

男の視界の中、刹那が十秒に引き伸ばされる。
音が消えて、服の布地や、風が流れる感覚が溶け落ちる。
嘗て、実家で訓練した技だ。

「(もっと、もっとだ……!)」

眼が、紅くなる。
脳に流入した血液が、逆流して脳に直結している眼に流れ込んでいるのだ。
視界は紅くなるが、それさえもどうでもいい。
刹那は、十秒から二十秒に。
一瞬を、捉え、

「切る……!」

オウカの大太刀を捨て、ただのパスタードソードを構える。
使い慣れぬ業物より、使い慣れた武器を使うという、それだけの判断で。

オウカ > 「――――」

一歩、気と魔力が足元に収束し、炸裂する。
加速した世界の中ではそれすらも緩やかに見えるか。
一気に詰めた間合い、爆発的な加速。
観客には消失と出現に見えるソレ。
それすらもきっと目に捉えられるだろう。

「我が基礎の技を以て尽くしましょうぞ――――!!」

基礎の技。
奥義でもなんでもない。
けれど、彼女が最も信頼し、そして、最も磨いた技。
それは是他ならない。そう、彼女の"双つに一つと無し"、"無双"と呼ぶソレ。
"一番最初"に会得し、ずっと鍛錬し、実戦でも磨き上げてきた。
竜の首を刎ねたのも、鬼を斬り倒したのも。
仇を切り捨てた技も、偏にこれであった事、それこそが彼女自身の"絶技"。

「一つ太刀――――"いかずち"」

抜く手すら見せぬ高速抜刀。
高速化した視界ですら捉える事が困難な正に神速雷霆が如く。
払われた白刃、加速世界でなければ見切る事すら叶わなかったであろうそれ。
鞘走り、抜き放たれ、放たれた。

クレス・ローベルク > 加速の世界。
それは、化物の世界だ。
ローベルク家の技は、或いは業は、その化物の世界に、どれだけ自分をあらしめるかに、心血を注いでいた。

「……」

ああ、【これ】が【そう】かと、男は初めて、それを理解した。
此処までせねば、見えぬ世界。
本来であれば、中間がなく、始まりと終わりだけが残る世界。
戦いの動きだけが、存在を許される世界。
そして、この加速世界において尚、中間が消えかけた太刀がある。
――綺麗だ、と男は想い、

「これが、」

一歩、踏み込む。そして、その刹那に重心を移動させ、身体を引く。
基礎的なフェイント。ほんの一歩を、誤解させるだけの。
しかし、その代償は大きい。すらり、と滑り込むように右腕の肉が斬られ、骨も絶たれた。――視界の中、静かに腕が落ちる。
くん、と右足を跳ね上げる。
そして、今度は――魔術防御はできない。

「邪魔眼」

魔術障壁はかき乱され、粉砕される。
"気"で防御されればそれまで。しかし、それでいい。
どちらにせよ、やるべき事は、やったのだ。

「これが、終わりだ」

右腕を犠牲にして、最後に打ち込んだのはただの飛び足刀。
男は気など使えないから、ただ踏み込み、腰を回し、彼女の腹部に食い込ませるだけの。
最後の攻防は、それだけで、終わった。

オウカ > 「――――」

その蹴りは無造作に腹部にめりこみ。
けほ、と一度むせれば。

「御美事」

くすり、と笑ってから。
どさり、とそのまま崩れ落ちた。
勝敗は――――明白。
肉を切らせ、骨をも断たせた男に軍配はあがった。

クレス・ローベルク > 少女が、笑った様な気がした。
したというのは、それを明確には知覚できなかったから。
右腕から、どくどくと、血が流れる。
流れて、流れて――
べしゃりと、倒れた。

「……」

決着は、どうなるのだろう。
先に倒れたのはあちらだが、こちらの方がダメージ量は大きい。
殺し合いなら、負けたのはこちらだ。
だが、どちらにした所で、

「ちょっと、眠い……」

黒衣の治療班が急いで駆けてくる足音を聞きながら、男は意識を失った。
その口端には、営業用ではない笑みが、浮かんでいた。

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からオウカさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からクレス・ローベルクさんが去りました。