2019/03/30 のログ
■クレス・ローベルク > 『さあ、今日も始まりました!アケローン闘技場、興行試合!今日の剣闘士は――』
今日もまた、戦いが始まる。
青い闘牛士服の剣闘士は、ファンサービスとして簡単な演武を行いつつ、今日の対戦相手に思いを馳せる。
今日の試合は、興行試合。一戦で賞金が手に入るので、冒険者や腕に覚えのある傭兵などが、手頃な小金稼ぎとして参加してくる事が多い。
勿論、偶には犯されたりするのを前提として、奴隷などがやってくる事もあるわけだが……
「(ま、そんな期待はしない方が良いね。大体裏切られる)」
『さあ、それでは始めましょう!今日の試合は――こちら!』
そして、今日の選手が入場する――!
■クレス・ローベルク > 「(今日は割と調子いいんだよなあ)」
最近、激しい特訓をした成果だろうか。
今日の試合は、それを確かめるには丁度いい。
勿論、場合によっては特訓がどうとか、そういうのすら無視する程の強者が現れることもあるが。
「(さて、今日は誰が来るのか)」
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にシュンさんが現れました。
■シュン > 『―――対するは若き冒険者、その実力は未知数!シュン!!』
会場の実況の声と同時に、控えから表へとしっかりとした足取りで歩く。
対面に立つ相手の姿を見て、歓声に紛れるように、観客には聞こえないが相手には届くくらいの声量で口を開く。
「……どこまでやれるか分からないけど、よろしく」
自分よりも大きな相手に対して、腰の短剣を一本抜いて油断なく構える。
■クレス・ローベルク > 入場してきたのは、未だ年若い少年だった。
勿論、それで油断したりはしない。
寧ろ、見た目が幼いから"こそ"、警戒が必要なぐらいだ。
「うん、よろしく。
まあ、そこまで緊張しなくていいよ。俺なんてほら、魔法使えないしさ。
おかしな事なんて何も出来ないんだから」
そう言うと、こちらも腰の双剣を抜いて構える。
今の構えは、右の剣を脇に置いて、左の剣を上半身を守るように、斜めに構える、攻防両方を叶える構えだ。
「良し。それじゃあ、実況!ゴングお願い!」
『はい!それでは――試合開始ィ!』
銅鑼の様な、強く長く響く音が闘技場を満たす。
そして、その音が鳴り響くと同時、男がシュンに向けて踏み込んだ。
敢えて、胴体ではなく、少年がダガーを構えている腕を狙い、右手の剣で突きを繰り出す。
先ずは小手調べ。
開始と同時に放たれる突きに、対応できるか――?
■シュン > 開始のゴングと同時に、相手の動きを見る前にバックステップで距離を取る。
同時に左手を短剣を逆手持ちしている右手にかざして、呪文を呟く。
「――限定解除《リミテッドリリース》 ファイアアロー」
途端、指輪が青く光りそれまでは封じていた魔力が溢れ出す。相手に気づかれないようにするための隠蔽アイテムだ。
続け様に呪文を唱えながら相手に左手をかざす。手のひらから三本の炎で出来た矢が真っ直ぐに飛んでいく。
誘導も何もしていない矢だが、果たして近接しか考えてなかったであろう相手の反応は間に合うだろうか……?
■クレス・ローベルク > 「うぉっと!」
いきなり飛び出してきた炎の矢。
速度が乗っている上に、炎の矢に対して、回避は間に合わぬと判断。
故に、男は炎の矢の回避を諦め、代わりに迎撃を選択した。
突き出した剣を、そのまま横に振るい炎の矢を切り払う。
「その年齡で魔法使えるのか!
異種族以外じゃ、中々居ない逸材だな……!」
言いながら、シュンが下がった距離の分を再び真っ直ぐ踏み込んで、もう一度突きを放つ。
ただし、今度は一度目とは違い、後ろに下がろうとすれば、それに合わせてこちらも跳んで、詠唱前に攻撃を潰す心積もりだ。
「(剣闘士に同じ技は二度通用しないってね!
まあ、どうせ別の動きをするんだろうけど……)」
それならそれで良い。
多彩な動きをしてくれた方が、試合も盛り上がるというものだ。
■シュン > 「(……目だけじゃなくて勘も良いみたいですね)」
……勿論、この一発で終わるとは全く思ってはいない。
相手が回避ではなく切り払いを選んだのを見て少し感心すると同時に、短剣を高めに構える。
そして、相手の突きが届くギリギリのところで最低限の動作だけで左に動き躱しに行く。そしてすれ違いざまに相手の右肩付近を切りつけて離脱しようと短剣を繰り出す。
■クレス・ローベルク > 「つっ……!」
少年が回避した瞬間に、こちらに攻撃を加えてくるのは読めていたが。
しかし、読めたからと言って、回避できるものではない。
特に、二度目の突きで、右足を踏み込みに使用してしまったのがまずかった。
大きく上体を捩る事で、何とか深く切り裂かれる事は避けたが、それでも浅く肩を切られた。
「させるか……っ!」
だが、それで怯む男ではない。
此処で離脱されれば、後に始まるは魔法による遠距離攻撃連打祭り。
リーチのない男は、一気に不利になる。
故に、男は捩った上体を引き戻す反動で、足を軸にして回転し、
「そこぉっ!」
離脱していくシュンに向けて、利用して剣を投擲した。
回転の勢いがついた剣は、凄まじい勢いで少年に迫る。
狙いは、回避しにくい足。
回転した剣が突き刺されば、相手の機動力は削がれることになるだろう。
■シュン > 切りつけるまでは上手くいった。しかしすれ違ったあと相手の方に向き直ろうと身体をひねった瞬間、相手が片方の剣を投げる体勢に入っているのが見えた。しかも狙いは軸足。
「……くっ」
ジャンプしようにも方向転換中故に体勢が崩れている。
咄嗟に身体全体を後ろに引くようにして倒しつつ、自分の足の少し前に短剣を持ったままの右手をかざす。
詠唱破棄魔法で無理やり発動させるのは爆発魔法。狙いが適当で緊急使用なため近距離にしか展開できず、攻撃には使えない。しかし防御にはなる。
爆発は相手の剣と、自分自身をも吹き飛ばして足に剣が刺さることだけは回避できる。
だか不安定な体勢でさらに予測の難しい衝撃で上手く着地なんぞ出来るわけがなく、右手の短剣は手から離れ、身体は地面に投げ出されるように落ち、数メートルほど地面を擦る。
「いっつ……」
痛む体にムチを打ちつつ、そのまま何とか立ち上がり相手の様子を伺う。爆発の中を強引に突破しない限り詰めることは出来ないはずと考えながら。
■クレス・ローベルク > 勿論、男とて剣を投げてそのままぼんやり当たるのを待つ様な真似はしない。
投げた後にまだ持っている左の剣を引っさげ、シュンに向かって駆け出そうと……
「うわあっ!?」
した所で、爆発。
男はこの闘技場で長く戦っていて、サシでの戦闘経験ならば少年はおろか同年代の騎士にだって負けていない自負はあるが、そうは言っても彼は人間で、魔法は使えない。
物理的に不可能な事は不可能である以上、彼にできることは突然シュンが行った魔法を、彼の魔力の高まりから察知し、後方に飛び退る事だけであった。
「クソ……!」
おまけに、試合場に巻き上げられた土埃に、視界を遮られた。
流石に、この状況で敵に突撃するのは無謀過ぎる。
剣を構えて、シュンの攻撃を警戒する。
■シュン > 地面が砂なのは幸いだった。こちらの姿が隠れ、相手も向かってくる様子はない。
落ち着いて左手を自分の胸に当てて、魔力を整える。
傷を治すような時間はないが、こうするだけで痛みや乱れた息ぐらいは幾らかマシになる。
……ひとつ深呼吸をすると、二本目の短剣を順手持ちに変えて、腕を伸ばしたまま下に構える。
そしてそのまま、相手の姿が見える頃に足を動かし……相手に向かってゆっくりと歩き出す。
■クレス・ローベルク > 攻撃が、来ない。
もし、彼が潤沢に魔法を撃てるのであれば、土埃の中を盲撃ちしても、損はない筈。
そこから導き出されるのは、
「(相手はそんなに大量に魔法を撃てない、或いは魔法を撃つには何らかのリスクが有る……か?)」
勿論、これはあくまでも推測だ。
魔法を極力使わない趣味であるとか、或いは魔法を大量に使えるのは隠し玉であるとか、そういう理由を敢えて外に置いた思考。
だが、もし当たりであれば、それは勝利の鍵になりうる。
「……と」
思考を纏めている内に、土煙が晴れてきた。
相手は構えを変えて、こちらにゆっくり歩いてくる。
明らかに怪しい動き。だが、男は居着かない。
少年に向けて一直線に駆け出し、そのまま顔面に向けて飛び足刀を繰り出すつもりだ。
■シュン > 「(……やっぱりダメか)」
怯む様子のない相手を見て、右手の短剣を回して順手から逆手に、さらに左手も三本目の最後の短剣を抜いて逆手持ちで構える。
止まって相手の得物をよく見て、確実に捌こうと武器を構えて……予想外の蹴りに一瞬反応が遅れる。
脊髄反射で後ろに跳んで、着地点を二本の刃で襲おうとする。狙いは剣を持っている方の肩と、その横腹。
■クレス・ローベルク > 皮肉なことに、男が少年の狙いを意図せずして打ち破ったのは、男が魔法を使えないからであった。
魔法を使えない以上、男にとって一番まずいのは、遠距離から魔法を撃ち続けられる事。
故に、多少怪しかろうが、相手がゆっくり動いてくれている以上、突撃以外の選択肢はなかったのだ。
「はっ!」
故に、男は少年がこちらに向かってきたとき、これをチャンスと考えた。
少年の剣は、果たして狙い通り、肩と脇腹、両方を抉った。
身が切り裂かれる、冷たさにも似た痛みで顔がゆがむ。
だが、
「つか、まえ、たっ!」
剣を持っていない右手で、少年の手首を掴む。
このまま少年が手を打たねば、男は少年を軽々と背負投げで投げ飛ばすだろうが……
■シュン > 未熟な少年は、攻撃が通った瞬間、油断した。
手を捕まれ、気づいた時には空がひっくり返っていた。
ああ、投げられたのだと理解した直後、背中が地面に落ちる。ギリギリ受け身は取れたが、そのせいで両手の武器は手から離れてしまった。
「かはっ……
……負けました」
ここから相手に逆襲するのは体勢的に不可能、そう判断した少年は負けを認めた。
■クレス・ローベルク > 自損覚悟でようやく得た、少年への反撃チャンス。
これで有効打を取れねば勝利はないと思ったがゆえに、痛みも何もかも無視して投げた。
そして、今、少年の降参宣言が、男の勝利を確定した。
「ふぅ、どうにか、勝っ……たたたたたっ!」
投げた手を離し、四つん這いになって脇腹を左手でかばうようにする男。
気が抜けたと事で、痛みと出血が急に来たのだ。
スタッフである黒衣を着た治療師が、慌てて駆け寄り治癒魔術を掛ける。
何とか傷がふさがった男は、立ち上がると、
「いやあ、いい勝負だった……もしも君がもう少し経験を積んでいたら、負けたのは俺だったかもしれない。
一応、受け身は取れた様だけど、身体は大丈夫かい?」
■シュン > 「平気……ちょっと時間かかるけど……」
起き上がって治癒魔法を試合の終わった相手にかけるべきだったのだが、投げは結構強烈だったらしく一分ほどそのまま地面に転がったままで居た。
それから息を整えようやく立ち上がると、相手の剣と自分の三本の短剣を拾いに行き、相手に剣を返す。その手に敵意は完全に消えていた。
「剣闘士のお兄さん、やっぱり強いね……斬られてそのまま投げるなんて……全然考えてなかったや」
■クレス・ローベルク > 「それは良かった。此処の治療師は優秀だけど、重傷となると時間もお金もかかるからね……」
勝敗が決まった事で、観客達は大騒ぎしているが。
今回は、相手が男性なので、お定まりの陵辱をする必要もない(しろと言われたりもするが、大抵の場合全力で断っている)
故に、こうして話をする時間が多少はあるのだ。
少年が差し出す剣を受け取ると、再び腰に取り付け、
「まあ、仕事柄、痛みには慣れてるからね……君も戦いに慣れれば、出来るようになるさ。
所で、あのゆっくり動く動作、あれは何だったんだい?何か作戦っぽかったけど……」
いくら男が経験豊富と言っても、魔法を織り交ぜた戦術は中々男では予想がつかない。
少し気になって、尋ねてみた。
■シュン > 「魔力さえあれば僕は自力で治癒できますからね……。傷や体力の治りより魔力の回復の方が早いですから」
短剣を三本、刃に着いた血を手持ちの布で拭き取ってから腰のホルダーにしまう。
そして、相手の質問に少し目を逸らしつつ答える。
「……魔法は関係ないです。あれは低く持った短剣に意識を集中させて、そのまま武器を置くように捨てて目の前で猫騙しして不意をついて、最後の武器で奇襲する……っていう、前に聞いたことがある暗殺のための技……です。
そもそもお兄さんみたいな強い人には通じない技でしたね。僕のことを恐れてくれないとできない技なので……」
■クレス・ローベルク > 「ふぅん……?まあ、ミレー族とかも自分で自分の傷治しちゃうの多いしね。
治癒魔法、やっぱ便利だよなあ」
指輪の魔力で隠蔽されているので、流石に少年が件のミレー族だとは思っていない様だ。
まあ、仮に彼がミレー族だと知った所で、命令されていない以上、特にバラしもせずに話を続けただろうが。
「ああ、意識誘導だったのか、あれ。
うーん、それは強い弱いって言うより、演出かな。
もう少し、色んな魔法を最初に見せたり、表情を不敵な感じにしたりして、"何するか解らない"感を演出すれば、頭のいい人なら嵌まるかも」
らしくなくアドバイスなどをしてしまうのは、おそらく彼が素直そうだからだろう。
この歳で自分を此処まで追い詰める才能もあるならば、どうしても気に入らずにはいられないというのもある。
「っと、流石にそろそろ試合場出ないと不味いな……
折角だし、食堂でご飯でもどう?安いのならおごるよ?」
■シュン > 「……確かに、心理戦なら有り得ましたね。まあこれは封印かな……」
空を見上げ、そこで輝く太陽の位置を見ながら少し考えるような間。それから口を開いて
「すみません、僕もこのあと用事あるので……。もしどこかで会ったら、その時はよろしくお願いします」
丁寧にぺこりとお辞儀をして、そのまま自分の控え室の方へと引っ込んでいく。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からシュンさんが去りました。
■クレス・ローベルク > 「ん、解った。それじゃあ、俺もそろそろ行くかな」
そう言うと、男は最後に客席に向き直り、
「それでは、これにてアケローン闘技場興行試合昼の部は終了でございます。この後、別選手による夜の部もありますので、どうかそちらも宜しくおねがいします!」
と言って、奥に引っ込んでいくのだった。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からクレス・ローベルクさんが去りました。