2018/09/24 のログ
■クレス・ローベルク > 「さてね、君に負けたら、本当の俺を教えてあげる、なんてね」
そう言いつつ、エルフリーデの肢体をじっくりと見る。
小さな身体だ。卒業生と言っていたが、全然そうは見えない。
彼女の発言からして戦闘経験はあるらしいが、しかしその少女らしい手足は、決して太くはない。手を取れば、折れてしまいそうだ、と感じるほどに。
「(鍛えてないわけじゃあないんだろうけど)」
しかし、可愛らしい。こちらを凛と見つめ返す瞳を受けても、どうしても微笑ましさが先に立つ。
とはいえ、いつまでも見ている訳にもいかない。
笑みを柔らかいそれに戻し、優しく言う。
「俺は一撃目は女性に譲ることにしてるんだ。その方が盛り上がるからね。さ、何処からでも、どうぞ。それを以て、試合開始だ」
■エルフリーデ > 彼の見立て通り、手足もそうだが身体も細く、戦うという印象を与える見た目をしていない。
最大の武器がそれではない事を暗に示すのに、気付くだろうか。
じっくりとこちらを確かめる視線に、少しだけ不機嫌そうに眉間にシワを寄せるが、咎める言葉をかけることはなかった。
「レディファースト…かしら。それなら、お言葉に甘えさせてもらいますの」
彼の考えは読めないが、先程のような優しい笑みに変わっても気を緩めることはない。
何かの罠かと思うも、それを先読みできる情報はない。
一瞬の合間に幾度も思考を巡らせるも、彼の言葉に乗っかることに決め、銃口に魔法陣を浮かび上がらせる。
真っ青な光が六芒星を包む円を描き、魔法の詠唱分が幾何学模様の様に陣に散りばめられていく。
二つの銃口に宿した魔法陣をそのままに、地面を蹴って前へと飛び出すと、同時にトリガーを引き絞る。
バンッとチャンバー内の増幅弾を炸裂させ、威力を増強した魔法が撃ち放たれると、彼に向けて無数の氷の礫が飛翔する。
氷の散弾が放たれ、瞬時に弾幕となって彼へ向かっていくも、一つは回避を誘うためのもの。
左手の銃から放たれたものは、扇状に広がりながら、彼に氷の散弾を浴びせる真っ直ぐな軌道を描く。
しかし、右手の銃から放たれたものは、一間置いてから、彼の方へ緩い追尾を帯びながら収束するように飛んでいくのだ。
単純に避けようとすれば、回避先に纏められた散弾を叩きつけられる事になるが、はたして。
■クレス・ローベルク > 笑みを切り替える。それ自体に大した意味はない。
というか、彼気まぐれな動作や言動の、大半に"意味"など付随しない。
強いて言うなら、その意味の無さこそが、有意味。
意味の無さは、他人から見れば意味不明であり、そして――
「真の恐怖とは、不明から始まる、ってね」
無数の氷の礫に対し、彼が取った行動は回避だった。
効果範囲から、素早く逃れるために、横に大げさなまでに高く身を飛ばす。。
相手から見れば、予測可能な範疇。
エルフリーデから見て左へのサイドステップの着地。そこに追尾のもう一群がやってくる。緩く追尾するその攻撃は、彼の上半身
辺りを今も的確に狙っている。これを回避する方法は、今一度の跳躍しか無い……
と、そう思わせることこそが罠。
「二段重ねに攻撃をしてくる事は読んでいた。銃は二本ある訳だし、何より、君は頭がいい。それはこんなに高度な魔法を苦もなく扱えることからも解る。そんあ君が単純な攻撃をしてくるとは思えない。その思考を前提に考えれば、罠があったって対処はできる」
そう、と彼は言う。
「君は賢い。でも、まだ、浅い。それじゃあ、僕には届かない」
襲いかかる魔法に対し、彼がとった回避は、右前方への、つまりエルフリーデへのスライディングだ。先程高く跳んだ彼を緩く追尾している氷は、彼に対し、やや高めに彼を狙うことになる。つまり、姿勢を低くした彼に、氷は
「……!」
ギリギリの所で、鼻先を幾つかかすめる。だが、それだけ。彼には届かない。そして
「お嬢さん、ちょっと失礼しますよ、と」
その勢いのまま、彼女の足を思いっきり蹴り飛ばし、バランスを崩させようとする。こちらに倒れ込むか、そうでなくとも、立ち上がる隙が出きれば上出来といったところか。
■エルフリーデ > 意味深な言葉と共に、大きく跳ね上がりながら左へとサイドステップを切っていく。
着地と同時に地面を滑る彼を見据えながら、追尾する弾丸とは別に彼を追いかけるように左へと走り出す。
大きめのステップで再度回避を狙えば避けれるなら、次は後ろか右か。
次の魔法の準備と銃口に青い陣を広げていく。
「……っ」
なにかしてくる、そう言わんばかりの前置きに一度ブレーキをかけると、銃口を斜め前方へと向けていき、扇状に構える。
回避を後ろへ誘うべく、その状態から連続してトリガーを引き絞りながら、青白い光弾の連射を開始。
左右の外側から中央へと薙ぐように連射していけば、左右から挟み込むように弾丸が襲いかかるが、身を低くされれば、その下を滑っていく事も容易い。
重ねての追い打ちを避けられると、そのまま迫る彼から距離を取ろうとしたところで、蹴り足に足払いが直撃していく。
「くっ……!」
そのまま後ろへと流れるように転がっていき、後転から銃ごと地面へ押し付けるようにし、腕の力で地面を跳ねる。
ぐんっと靭やかな身体がのけぞっていき、スカートが派手に暴れるのも気にする暇もない。
崩れながらのバク転の様にして体勢を整えていくと、無理矢理な制御となり、着地と同時に地面を滑る合間、衝撃を殺して次の動作へすぐに移れない。
■クレス・ローベルク > 「おっと、流石に倒れてはくれないか」
スライディングの体制から跳ね起き、相手の動きを見る。
そのまま、敢えて何もせず、制動して相手が立ち上がるのを待つ。
そして、相手が何もしてこないことを訝しむ一瞬の間を狙い、言う。
「お見事。いや、良い動き、そして良いものを見させてもらったよ。――まさか赤に黒のリボンとは。意外と大人だった」
一々反応を確認はしない。
だが、相手に意味が通じて動揺しただろう瞬間を狙う様に、注射器を持って相手に駆け出す。右手で上段からオーバーに首筋を狙う動作は囮。本命は、すくい上げるように彼女の足を狙う左の注射器だ。ヒットすれば薬液――つまり媚薬が体内に注入される。尤も、一発目はまだ、軽い感覚能力の上昇と、代謝の上昇による体温の上昇しか感じない物だが――
■エルフリーデ > (「のらりくらりとしてますけど、思っていたより厄介ですわね……」)
追尾という利点を逆手に取った回避と、そこから切り返すような反撃は今まで受けたことがない動き。
あまり魔法の出し惜しみをしている余裕はないかもしれないと、険しい表情で彼を見やりながら防御体勢を取ろうとするが……攻撃がない。
腕を交差したガードを少し下ろしながら、彼の方を確かめる表情は、想像したとおりに訝しむものだった。
「――っ!? 人前でいうことでは――っ!」
羞恥を煽る言葉に青色を目いっぱいに見開き、頬を真っ赤に染め上げながら唇が蠢く。
抗議の言葉を紡ぐ合間に距離を詰める彼の様子に、慌てて立ち上がると、バックステップを踏む余裕はない。
首筋狙いの追撃は、左手の拳銃に添えられた銃剣で切り払うようにして迎撃し、続けざまに反撃の右の膝蹴りを彼へ叩き込もうとするが。
「あぐっ!?」
更に襲いかかる注射器の攻撃を直撃してしまい、痛みに顔がひしゃげていく。
離れろと言わんばかりに、今度は右の銃剣で彼を貫くように拳を突き出し、そのまま魔法弾を数発放って激しい反撃を重ねようとする。
身体に巡る薬が肌を鋭敏にさせていき、体の熱が上がっていくのが分かると、苛立ちに眉間にシワを寄せていった。
(「遅効性……の毒かしら、何にしろ、あまり時間はかけられませんわ」)
治癒系の魔法弾はあまり得意ではないのもあり、状態異常はなかなかに痛手である。
■クレス・ローベルク > 「うぉっと!」
突き出された拳を身体を捩って躱すと、そのまま左の注射器を捨ててその手首を取る。そのまま手を挙げさせると、彼女の脇のくぼみに顔を突っ込み、服越しにべろりと舐める。服越しでも解る、酸っぱいような、でも何処か甘いような味と匂い。それを堪能した後、押し出すように彼女を蹴り飛ばすと、注射器を回収しつつ言う。
「ふう、テイスティ。さて、エルフリーデ。突然で何だけど……君は運がいい」
「今、君は一回負けた。これが注射器でなくて短剣だったら、それは深々と君の足に突き刺さっていた……。君の移動能力は無くなっただろうし、下手すれば失血死していたかもしれない」
拾い上げたその場所で、今度は十字架のように、手を広げて言う。
隙だらけに。何時でも撃ってこいとでも言うように。
しかし、その口上は止めない。
「君は運がいい。君に打ち込んだこの薬は、最初の一回に限り、戦闘に支障はない。寧ろ、代謝が良くなるから、一時的に身体能力は上がるぐらいだ。――これは敬意。強き挑戦者も、何らかの偶然で負ける事もあるだろうという、気遣いの敬意」
しかし、
「万が一、二回目も死ぬようであれば、最早君は強者でも挑戦者でもない。蹂躙されるべき弱者。打ち込んだ薬は媚薬に化け、君の戦闘を妨害する。そして、三回目の死は――もう言うまでもないよね?」
にたにたと笑い、続ける。
「さ、続けようじゃないか、挑戦者。中断したのはこちらの都合だ。もう一度、レディーファーストだ」
■エルフリーデ > 「ひぁ――うぐっ!?」
反撃を避けられ、挙げ句に脇を這いずる舌の感触にぞわぞわっとこそばゆさに近い快楽が首筋を駆け上る。
薄っすらと汗ばんだそこは、少女特有の香りが甘さを交えてこぼれ落ちていく。
ぎゅっと瞳を閉ざすほどの刺激にスキが生まれると、彼のケリを直撃し、たたらを踏みながら身体が後ろへと流れていった。
「……」
構え直したところで、大げさな仕草と共に宣う言葉はこちらへの手加減と言わんばかりな内容。
羞恥と共に湧き上がっていた熱や、うっすらとした甘い感触も、彼の挑発に一気に冷め落ちていく。
病み上がりではあるが、身体は本調子に近い。
それなのに戦いに来た理由はなにかを思い出せば、少しだけ口角は上がるも、その笑みは今まで放った氷のように冷たくなる。
(「私一人で何も出来ないなら、あの子が誇ってくれた私ではなくなりますわ。それに……」)
荒い息を吐く中、右手の銃をグリップではなくスライド部分を掴む。
「では、そのまま少しお待ち下さいな」
と、告げると、さも当たり前のようにバヨネットを自身の太腿へ振り下ろした。
さきほど彼に突き刺された部分へ切っ先を突き刺せば、肉の裂ける感触とともに焼けるような激痛が走る。
ぎりっと奥歯を噛み締めながら深々と突き刺したそれを引き抜くと、鮮血に濡れる刃が顕になっていく。
そのまま銃を手にすれば、今度は自らの足に魔法弾を撃ち込んでいき、水の弾が患部を凍結させ、出血と痛みを強引にねじ伏せていった。
「……そんな見下した、経緯も気遣いもいりませんわ。貴方こそ、私を見くびってなくて? 蹂躙と屈辱に甘んじられるほど、生にしがみつくつもりはありませんの」
そして、短い詠唱を重ねると、自身の胸元に銃ごと押し付けるようにして手の甲を重ねていく。
足元に広がる青い魔法陣は、自身の体に流れる時を止めていく停止の術。
苦痛を、熱も、息苦しさも全て感覚を止めるそれは、消えるわけではなく、感じなくなるリスクの高い術。
体中に青い光のラインが明減しながら宿ると、深く息を吐き出し……構えると共に、魔法弾を一発だけ放つ。
破壊力を限界まで絞ったそれは、あたっても軽くこづかれた程度の破壊力しか無い弾丸。
「……掛かってらっしゃい。最低でも身体の何処かが凍って、壊死する覚悟があるなら」
彼の差し出した先手を蹴りすて、挑発にしては物騒な言葉と彼を見据える。
■クレス・ローベルク > 「うっわ、マジかよ……」
こちらの狙いとしては、あくまでもこのまま、相手への挑発と性的な攻撃を続けて、真綿で首を締めてトドメという形を狙っていたのだが、まさか自傷という形でそれをリセットされるとは。
こうされると、非常に苦手な展開だ。恐らくあちらにはもう、その手の攻撃は効くまい。
「うん、見くびってた。認めるよ。君は強い。これは本気で言ってるんだぜ」
だから――と、男は注射器を両方共落とし、腰に差した二つの剣の内一つを落とし、もう一つを抜いた。それは、ただのバスタードソード。男性か、さもなくば強敵と認めた女性にしか使わないもの。
「だけど――それでも、君の負けだよ。エルフリーデ」
放たれた魔法弾に向かう様に、突貫する。
魔法弾に対して、彼は明確な防御を行う。左手の手のひらで受けるように、魔法弾の直撃を受けたのだ。歯を食いしばるその表情は必死で、苦痛を耐えようとするそれ。しかし、
「……!?」
生まれた結果に対し、寧ろ驚いたのはクレスの方だった。
彼としては、腕を一本、差し出すつもりだったのだ。
憐れみではない。手のひらで受けたのは、腕が壊死しても、着弾の衝撃が手のひらから腕を通って肩に真っ直ぐ抜けたなら、使えるかどうかはともかく、原型は残る。それならば、弾丸さえ摘出すれば神聖魔法で回復も容易い。だから、二発目を撃たせるぐらいならば、左腕を犠牲にしてでも決めると――だが。
驚きはほんの一瞬にも満たない。
バスタードソードが、彼女の首筋の直ぐ横を貫いた。
形としては勝者の形になる筈の彼だたが、その表情は何とも不安げで。
「……もう隠し玉は無いと、そう言ってくれると、俺は非常に助かるんだけど……どう?」
お願い、と小さく頼み込むように、そう言うのだった。
■エルフリーデ > 彼がそのまま羞恥を煽る言葉を重ねつつ、注射による媚薬攻めを続けていたなら、冷静さを失っていき、思惑に転んでいたかもしれない。
ただ、追い打ちに紡いだ言葉が心の傷を抉ったのは予想外の結果だったようだ。
「……」
嘘か真か、それを考えるのもやめる。
戦う瞬間に相手がなんなのか、どんな存在なのかを気にしていたら、それだけで僅かなスキになっていく。
だから、あの日も負けたのだと傷を振り返りながら、唇を閉ざしたまま剣を抜くのを見やる。
そして、先手を譲るハンデを投げ捨て、逆にこちらが先手を譲った状態へと変わっていく。
驚く顔も見えたかどうか、ただ次に何をするかだけに意識の全てを向けていく。
凛とした顔が凍てついていく中、片手に握っていた銃を手放すと剣と交差するように腕を彼へと伸ばす。
首筋に迫る刃にも表情は変わらないが、伸ばした手がそのまま彼の頭を掴もうとする。
届いたなら、お願いの言葉を耳にしながら力任せに地面へ叩きつけるように腕を振り抜くだけ。
痛みも、熱も、感覚も全て遮断しているが、それ以外にも遮断されているものがある。
自損を防ぐためのリミッターも遮断されてしまえば、細腕からは想像し得ない怪力を生み出し、頭を掴む握力ですら幹を握って刳りそうな破壊力を持つ。
振り抜いたなら、腕の骨が耐えきれずにへし折れ、指も一部の骨が折れ曲がる程の無遠慮な結果が残ることになるが、後は彼次第か。
■クレス・ローベルク > 「……あー」
駄目なようだった。出来れば此処で止まってくれれば良かったのだが。
顔面に、手が伸びる。
此処まで精神も凍った状態となれば、降参もしないし、下手すればさせてくれないだろう。試してみてもいいが、しかし。
「うーん、それは御免だなあ」
それを無視されて死んだら、あまりに情けない。
命乞いをして死ぬなど、剣闘士の恥だ。
じゃあ彼女を殺すのか。御免こうむる。観客含め誰も得しない。何より、ああいう意地の張り方が出来る娘は、結構好みのタイプなのだ。
「しょうがないか」
そう言うと、その腕に、敢えて掴まれた。
頭蓋骨が、軋む音。
「……良いよ。たしかに降参は相手側の自由だ。結果として俺が死ねば、それは君の勝利だ」
だから
「負ける前に君に一つ質問なんだが……君は本当に、こんな事をしたくて此処に来たのかい?エルフリーデ。だとしたら、どうにも、君のやってることはちぐはぐだと思うんだけどね」
■エルフリーデ > 彼のつぶやきが、何を示しているのか。
それを理解するよりも先に、その頭を捕まえていく。
ぎりぎりと指を食い込ませながらも、逆に指がその力に耐えられず自壊寸前へ追い込まれていく中、問いかける言葉だけははっきりと聞こえた。
その理由全てが脳裏をよぎっていくも、それに応えればまた繰り返しだと気づいている。
戦うなら倒さねばならない、それ以外は必ず何かを失う。
失われて、奪われかけた事が呼び起こされていくも、それに意識をやることこそ、躊躇いなのだと奥歯を噛みしめると顔が更に歪んでいった。
「貴方が、人の傷を抉った結末ですわ」
あの言葉がなければ、ここまで苦痛を甦らせることはなかったと一言吐き出すと、そのまま後ろへと突き飛ばすようにして離した。
既に片手は今のリミッター解除の反動でボロボロになっていき、表面上はあまり変わりがないが、筋繊維はずたずたに引きちぎれ、骨も軋んで上手く動かせない。
だらんと掴んでいた手が垂れ下がると、残った片方の銃もホルスターへと戻していった。
■クレス・ローベルク > 「そっか。じゃあ、仕方ないな」
突き飛ばされた彼は、着々と剣を鞘にしまい、注射器も拾い上げてホルスターにしまう。お前のせいだと言われても、そもそも最初から罪悪感などはない。トラウマを抉ったらしいというのは解るが、その心の傷そのものを彼は知らないのだ。
クレス・ローベルクは快楽主義者である。彼女と会話したのだって、あくまでも自分の為。言いたいことは言った。やりたい事はやった。
「あーあ。何だかどっちらけになっちゃったな」
エルフリーデの後ろを通り過ぎ、出口に出る。そうしようとした彼は――
――次の瞬間。一切の予兆無しで、クレスはエルフリーデの背後から、首を絞めにかかった。
■エルフリーデ > ならしかたないと呟きながら、突き放した彼は装備を収めていく。
傷の理由を紡がなかったのは、先程の言葉に過去を答えることが敗北の様な気がしたから。
もう一つは、彼という人間がこちらに自身を委ねた行動から感じた、人柄からだ。
後ろを通り過ぎて、出口へ向かおうとする彼に見向きもしなかったが、首を絞めようとした時には既にそこに居ない。
数歩ほど離れた距離で、彼の方へと振り返ったままその姿を捉えていた。
(「そういう人間だと思いましたわ」)
死を感じる一瞬に、相手に命を委ねたように感じる言葉だが、実際は罪悪感のなすりつけで、死なずとも大ダメージを与える行動を躊躇わせる様に感じていた。
そんな人間が、わざわざ無防備な背後を通り抜けようとするなら、敗者か弱者のふりをして仕掛けてくると思わざるを得ない。
その結果は、ステップを踏んで離れておいて正解だったというところか。
「なら、白けついでにここを血染めにしましょうか」
どちらの赤でそうなるかは分からないが、どちらかが倒れるまで終了の音は響かない。
決着を求めるだけの戦いが何時終わるかは、今は知る由もない。
■クレス・ローベルク > 「ちぇっ、何だ。バレてたんだ」
もし万が一、彼女に甘さが残っていたのなら、此処で首を絞めて思い知らせようと思っていたのだが。
どうやら、その心配もないらしい。
それはつまり、容赦は要らないという事。最初の目論見は外れたが、ある意味それで良かったのかもしれない。
結果として、彼女はこの舞台に相応しい、出演者になったのだから。
「言うじゃないか。言っとくけど、優しくしてあげるのは、此処までだぜ、エルフリーデ!」
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からエルフリーデさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からクレス・ローベルクさんが去りました。