2018/08/28 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > そんな訳で再びの闘技場である。
毎度の流れで大会に参加し、毎度の流れで挑戦者を待っている。
暫く暇な時間が続き、ふとクレスはマイクを手に取る。

「……今回は歌わないからね!?」

釈明するかの様にそう言うクレスに、観客達は呆れた視線を返した。
そもそも、前に歌ったのはクレスが勝手にやった事である。

クレス・ローベルク > クレスは正直焦っていた。
何がといえば、前回闘技場の観客相手に歌を歌ってそれなりに楽しんでもらえ、更に最近、歌を口遊むのが癖になってきている事である。

違うのだ。歌はあくまでもパフォーマンスであり、決して本業ではないのだ。
自分は屈強な戦士に挑む戦士であり、また未熟な女戦士や奴隷にとっては恐怖とそれなりの快楽への期待を持って語られるべき陵辱者なのだ。

故に、今回は誓った。絶対に歌ってやるものか、と。

「さあ、来たれ戦士よ!俺は誰のどんな挑戦でも受ける!」

クレス・ローベルク > ……三十分経過。
一向に挑戦者は現れない。

「……」

どうする?今からでも歌にシフトチェンジするか?いや、それをやったらいよいよ負けた気がする。何かに。何が負けるかと言えば自分のプライドが。

実は、目配せ一つで実況席の子がギターを投げてくれる手筈にはなっている。なっているが、それはあくまでも最終手段だ。それは今回の興行のために、恥も外聞もかなぐり捨てるという事なのだから。

「(いや、今じゃない。考えてみればこれぐらい待つことなんていつもの事じゃないか。観客だってそれぐらいは待ってくれる。だから――)」

だからじっと、我慢しよう。
そう考え、挑戦者を待つ。

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 空白の時間が一時間続いた。
それはつまり、限界を指していた。クレスの限界ではなく、観客の集中力、興味、それらの限界だ。

「(これ以上はただの自己満足、か)」

エンターテイナーと自己満足は、相反する。少なくとも、多くの場合では。
故に、クレスはこれ以上待つことをやめた。
実況席に視線を送ると、愛用のギターが飛んでくる。
それを無駄にぐるりと一回転して受け止め、クレスはギターを構えた。

「よし、――行くよ」

そして、ギターをかき鳴らす。
これが恒例になったら嫌だなあと思いつつ、しかしそうなっても後悔はすまいと心に誓い。
観客を、楽しませるために。

クレス・ローベルク > ちなみに、今回の楽器演奏中、クレスは一回も口を開かなかった。
クレスは確かに「今日は歌わないからね」という己の言葉を守ったのだ。

いや、どう考えても、ただの屁理屈なのだが、それぐらいの自己弁護をしないと、ちょっと色々とやりきれない、複雑な心境のクレスなのだった。

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からクレス・ローベルクさんが去りました。