2018/05/07 のログ
リーセロット > 気にしないでと言われ、少女の貌にようやく柔らかさが戻る。
それに相手の雰囲気もあの夜とは大きく違う。
あの時は、それこそ最初に乱暴に扱われたし視線も仕草も鋭かった。
きっと2度と会えない――お互いのために会わない方が良いのだろうとも
思っていただけに、よもや自己紹介を受けるなど想像もつかず。

「………」

そっと、少女も右手を差し出した。
彼の手に絡めるように触れて、軽く、本当に軽く握ってみる。
まだ距離の縮め方が分からないくらい戸惑っている心情を表すように。

「リーセロット…、ファン・ブロンクホルストです。
 あ…あの夜のことは…どうかご内密に。
 マントはいつか…きちんとお返しします。
 それに…私…ご恩も返さなくちゃいけませんから…何かご入用になりましたら…」

ブロンクホルスト家に、と言いかけて止めた。
自分の失敗を母に知らせるようなものだし、彼は彼であの夜は
してはいけないことをしてたのだから広める真似はしたくないだろう。
とすれば、家ではなく自身が出来ることでしかお礼は出来ない。

「私が…ご協力しますので…、といいましても正直…何も出来ませんけれど…」

そんな自覚はある。

ルシアン > 此方が差し出した手に、遠慮がちに触れてきた少女の手。
それだけでも十分に嬉しいのだけど、名前も教えてもらえれば少し驚いたような表情に。
ブロンクホルスト家…その名前くらいは聞いた事があった。

「リーセロットだね。ん…いい名前。
 大丈夫。僕の方も口外は絶対にしないから。
 それにマントも、そのうちで構わない…あんなぼろ布みたいなので申し訳ないけど、一応はまあ、前から使ってる奴だからさ」

そうっと少女の手を握り返してあげながら。
遠慮がちに言葉を紡ぐ少女の様子と、僅かばかりの貴族に対する知識。
――ブロンクホルスト家について、夫人の名前は時折聞く。だが娘が居る事は兎も角、他の話題は耳にしない。
随分と控えめな言葉からも、貴族に抱く印象…高慢で高飛車、というテンプレートとはかけ離れた子のようだと。

「ん…そう、だね。じゃあもしもそういう事があれば、頼らせてもらうよ。
 あんまり貴族みたいな人に友達は居ないから。僕の方も、仲良くしてくれると嬉しい」
 
 権力絡みの事では、あまり力も持たないのだろう。そんな事も察してしまう。
 けれどもそれは大きな事でも無くて…素直にこの少女とお近づきになれた事が嬉しくなる。
 さて、貴族のお嬢様にする礼儀は…考えた結果。
 軽く握った少女の手。身をかがめてその甲へ、軽く口付けを一つ。
 こんなので良かったんだっけ?とはなるのだけど…さて、どんな反応をされるやら。

リーセロット > 「必ずお返しします。あの時は…本当に助かりました」

愛着があるのだと知れば尚更早く返してあげたいものだ。
そんなものを返せるか分からない相手に貸してくれたのだから、どれだけありがたかったのかを
伝えようとして――あの日、何故借りる羽目になったのかを思い出し、少女は赤面した。
しかしここで赤くなっていては相手も不審がるだろうと、ごまかすようにかぶりを振り。

「お…お友達…?そんな風になって良いのでしょうか私たち…」

てっきり、あの夜の秘密を守るために繋がってはならない間柄なのかと。
そう思っていた少女はまだ残る頬の熱を一瞬忘れた。
それに、今まで友人と呼べる者は家同士の繋がりが前提として在ったもので、純粋な友人関係など初めてかもしれない。
高飛車でなくとも、やはり根付いている常識は貴族然としていた。
―――そんな少女に初めて出来た“友達”が、手の甲へと口付ける。

「………」

再び灯り始めた頬に、はにかむような微笑みを乗せて。
友達からの挨拶だと思うと、何故か少し照れてしまったから。
何か、言葉にしようと唇を開いた時。
扉の向こうから聞き慣れた声が聞こえた。自分を呼んでいる。
そういえば、馬車を用意させたまま姿をくらましてしまったのだった。

「あ…! ……ルシアンさん、マントお返し出来る日まで大切に保管しておきますから。
 持ち歩くわけにはいきませんから、いつになるか分かりませんけど…信じてください」

早口でそう言い、するりと相手の手から自身のそれをすり抜けさせると慌てて扉を開け、出ていく。
まだ彼の存在は隠しておかなければいけない気がして、見つからないようにと焦った結果だった。
言葉通り、彼からの預かり物は返せるまで少女の部屋で丁寧に折られたまま保管されることに―――。

ルシアン > あの時、などと言われてマントを貸した時の事を思い出せば。
少女の艶姿なんかまで脳裏に浮かび、慌ててぶんぶんと首を振って。
――少女も穂を染めたように見えるのは、もしかしたら同じような事も考えていたのだろうか?

「君が良ければ、そうしてくれると嬉しいな…って。…まあ、出会いはちょっと普通ではなかったけどね?
 だけど、こうしてまた会えたんだし。改めて…ね」

――柔らかな少女の手に口付けて。わずかに鼻をくすぐる甘い香り。
何だか、それだけでも酔ってしまいそうな感覚に落ちかける。
少しだけ照れたように目じりを下げつつ、顔を上げて少女を見れば…自分と同じような顔をしてる、少女の微笑み。
どきりとしながら、嬉しそうに笑顔を返した。

「お迎えが来たみたいだね。うん、分かった。
 それじゃあ…会えて嬉しかった。また会おうね、リーセロット?」

少女を呼ぶ声にそっと手を放してあげる。
最後にかけた言葉は少女へと届いたかどうか…。
だけど、きっと少女は約束を守ってくれるだろうと確信が持てて。

その背後を見送ってから、自身も又人ごみの中へと。
・・・また会える日が、そう遠くなければいいな。そんな事を願ったりもして…
その日の夜は、ゆっくりと更けていくことになるのだろう。

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からリーセロットさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からルシアンさんが去りました。