2018/05/06 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にリーセロットさんが現れました。
■リーセロット > 賑わう闘技場の観客席。
貴族向けにゆったりとしたスペースを設けられ、豪華な椅子が並べられた一角にて少女はいた。
先ほどまで隣の席に座っていた母は知人と会ったようで、そのまま2人、姿を消してしまった。
相手の男の様子から見て、かつて母の肉体に溺れた者らしかった。
劣情を隠さない視線に娘は良い気分ではなかったが、母は退屈していたのだろう。
言外の誘いを受け止めて――というわけだ。
既婚者だろうが夢魔に貞操がどうこうなどと無意味の極み。だとしても。
(お母さまが観たいと仰るからきたのに)
血生臭い決闘は少女の好みではない。
甲冑と剣がぶつかり合う音を聞きながら、少女はため息をついた。
これなら歌や踊りを観ていた方がずっと楽しい。
他に何か興味を持てるものはないかと周囲に視線を巡らせ始める。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にルシアンさんが現れました。
■ルシアン > あまりこういう場所は好きではないのだけれど、付き合いというものは誰にでもあるわけで。
賭け事や闘技が好きな仲間に連れられ、一般の観客席へと座ってみたはいいのだけれど。
仲間たちはやれ当たった勝っただの、いくらすっただの。更には遠慮も何もなく流される真っ赤な血。
分からなくは無いが、好みでもない催しを見ていれば自然と意識も薄れていって―――
「………だからって、置いてくことは無いと思うんだけどな…?」
居眠りした仲間など放っておこうという意見でも出たのか、気が付けば周りに見知った顔は無く。
『適当に帰ってこい。俺らは儲けで一杯やってから戻る』なんて置手紙があっただけまだ有情という事か。
…あの後賭けに勝ったりしたのかー、たかれば良かったかな。なんて軽く頭を抱えつつ。
さて、それではそろそろ戻るか。でもせっかくだし、余り来た事のない場所出し見て回るのも一興か。
そんな気持ちで、席を立って辺りをぐるりと見渡してみる。
―――貴族の観客席から、一般の席も良く見えるはず。
東方の雰囲気の黒髪は割と目立つかもしれない、が。
■リーセロット > どこを見ても誰を見ても同じだ。
彼らの視線は現在死闘を繰り広げている2人に向けられ、
乱暴な言葉を全員が一斉に叫ぶので全て重なってしまい、少女には何を言っているか分からない。
退屈だけならまだ我慢も出来ようが、見たくもないものを見るのは拷問である。
「………ふぅ」
その様子に気付いた従者の1人が傍に寄った時、少女の視線はちょうど黒髪の誰かにあった。
何か気になったというわけでもないのだけれど―――
そう、あの晩は男の名前はおろか、顔もまともに見ていないので記憶に残りようがなかった。
もともと少女は荒事には慣れておらず、ぼんやりとした性質なので尚更に。
(………シェンヤンの人もたまにお会いするし、近年は外国から渡る人が多いのね)
■ルシアン > 座って居眠りして硬くなっていた体をグッと伸ばしてみたりしつつ。
そんな仕草の中、ふっと目が貴族の席へと向く。あそこから見れば景色も良いだろうな、なんてことも。
―――その中の一人。黒いドレスの少女に目を止めた。
あれ?と何か引っかかって、そして。
「……あの子…?」
――あの晩の事。あの屋敷の中で接触した、一人の少女の事を思い出す。
あの子も確かあんな顔で、そして…どうしても印象に残ってしまっている肢体の豊かさ。
小さく息を飲み、改めて其方をもう一度じっと見つめる。恐らくその子なのだろうと確信をして。
暫しの逡巡の後、小さく何かの言葉を紡ぐ。近くであれば、聞きなれない異国の句であると分かるか。
『―――もし。これが聞こえるなら、客席の裏まで来てもらえないだろうか?この前の夜、あの館での事で話をしたい』
恐らく、此方の顔を覚えている事は無いだろう。隠していたのだから当然だ。
なので、そんな『声』を届ける術を少女へと投げる。
恐らく少女には、耳元で小さく青年の声が届くはず――
それに乗ってきてくれるかどうか。その場でじっと、不自然にならない程度に貴族の席を見上げながら。
■リーセロット > 『宿に戻られますか?馬車をご用意いたします』
従者が気を遣うように言う。
それに、「ええ…」とだけ返事をした時だった。
不意に聞こえるはずのない声が耳元に届く。
「――――え?」
思わず傍に仕える従者が言ったのかと勘違いした少女は聞き返したが、彼はすでに馬車を用意しに出口へと向かっていた。
途端に混乱した少女が周囲を見回すうち、一般客席の男と視線が合う。
「………」
誤解でなければ突如届いた言葉の、あの夜、あの館というのは―――。
鈍い少女でもそこまで思いつけば、席を立ち上がり階段を下りていく。
闘技場の喧騒と怒号が重い扉で隔たれ、少し落ち着く空間となったけれど、
普段公の場を1人で移動することがない貴族の娘はそこで立ち止まった。
一般客席からきたのだろう男数人が通り過ぎていく。
平民からしてみればごく普通である彼らですら、少女にとってはガラが悪く見えてしまう。
一瞬沸き起こった行動力が一気に萎み、立ち竦み、俯いた。
■ルシアン > 少女が身を翻して通路へと消えていくのが見えた。
ちゃんと『声』は届いたらしい、と察したら自身も其方へと向かう。
用が終わって出ていく数人を追い抜き、新しい見物人だろう数人とすれ違い。
まばらな人影の中を足早に、辺りを伺いつつ進んでいく。
その中に居る一つの人影。こんな場には似付かわしくないドレスを着た姿。
一つ、深呼吸をして。その少女の前へと、ゆっくりと近づき。
「お久しぶりです、お嬢様。この前の夜の、あの館以来ですね…?」
先ほど投げた言葉と同じもの。それを口にしつつ、出来る限りの丁寧なお辞儀を一つ。
自身の身なりは清潔ではあるが上等とも言い難い。それなりの立場の相手なら、公の場では礼をわきまえる位はできる。
顔を上げると、分かるかな?というように微笑んでみて。
「…こっちへ。その…変な事をしたりはしない、から」
少し砕けた調子になりつつ、大きな通路から一本入った細い脇道。
適当な空き部屋を見つければ、少女が付いてくるならその中へと。
ここなら、ゆっくり話せるだろうか。
「びっくりした……まさか貴族のお嬢様だったなんてね」
そんな事も、呟いてみて。
■リーセロット > やがて近付く声の主。
顔を上げた少女は無自覚に彼の顔をまじまじと眺めてしまった。
近くで見てみればあの瞳だったかもしれないが、確信には至らない。
ただ声だけは布でこもっていたとはいえ、こんな声音だった気がする。
「は…はい…」
急なことでも恭しく振る舞える相手とは違い、少女はそう返事するだけで精一杯。
大人しく彼の後ろを歩いていく。
闘技場には幾度か足を運んでいるものの、入り口から客席へと案内され、
見たくもないショーを見ては再び出口へ案内されるだけで、こんな場所があったことすら知らない。
向こうの声や音がさらに遠くなり、人の目を気にする必要もなくなったところで少女は息を吐いた。
自分が思うより緊張し、張り詰めていたようだ。
「え…?あ…そうですね…娼婦という可能性もありますものね…」
ぽや、とした表情を彼に向ける。
あの晩の宴は同じような身分の出席者しかいなかったが、
事情を知らない者から見れば娼婦を集めての乱痴気騒ぎだとも思えるだろう。
改めて自分の立場を思い返すと、名乗って良いものなのか迷われた。
それ故、名乗ることよりも先にこれだけは言っておこうと。
「あの夜は…ありがとうございました。
それで…その…、生憎今日はお借りしたマントを持ってきていなくて…返せません」
申し訳なさに消え入りそうな声で。
■ルシアン > 部屋の中で改めて少女の顔を見つめれば、此方はしっかりと確信が持てて。
とは言え、相手からすれば自分は得体のしれない存在だろう。
まだ緊張の残るような少女に、どうしたものかと首をひねるのだけど。
「え…あははっ。そりゃそうだよね。まさかこんな処でまた会えるなんて、僕も思っていなかったし」
マントを持っていない、などと言われれば思わず笑いが零れてしまって。
何ともズレているような、良く言えば育ちの良さの分かる言葉。
日の光の下で見る美貌や肉感的な身体のラインなども娼婦のような品の無さとは異なるものに見える。
「気にしないで。あの夜は僕も用事があっただけだから。
ええと…自己紹介が遅れたね。僕はルシアン…ルシアン・エヴァリーフ。
ここらからすれば余所者だけど、今はこの近くで世話になってる者だよ」
あの日、出来なかった自己紹介。相手を信用する証として伝わるだろうか。
もし良ければ、とそっと右の手を差し出してみる。握手…と言うより、この子の手に触れてみたい、なんて気持ちも、少しだけ。
「君の名前も聞かせてもらっても、いいかな。お嬢様?」