2017/03/02 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にエリミアさんが現れました。
エリミア > 「どっせーい!」

大きな娘の掛け声とともに繰り出された拳が繰り出される。
そして、鈍い音と共に巨大な肉塊のような魔物の巨体が宙を浮き、一泊置いてから地面に叩きつけられた。
以前手ひどく犯されたこともすっかり忘れた娘は、今日もまた闘技場に飛び入り参加をしていたのだった。
すでに戦いはそこそこ長く続いていて、娘は今はセスタスをつけただけの無手で、触手を持つ魔物と相対している。
遺跡から持ち出してきた質の悪い巨斧は、無残にも柄が折れて闘技場の端に転がっていた。
目の前の魔物の攻撃を受けたことであっさりと折れてしまって、娘が適当に外に放り投げたのだ。

「むー…しぶとい」

すでに何度目かになるかわからない娘の拳で吹っ飛ばされた魔物は、むくりと起き上がりながらどこにあるのかわからない口で咆哮する。
そのビリビリとした圧に髪の毛を乱されて不快そうにした娘は、そのタフさに少しだけ辟易して汗をぬぐう。
以前やり過ぎた末に飛び入り闘士に負けた娘の対策に、闘技場は全身がぶよぶよとした肉体に覆われて衝撃に強い魔物を用意していて。
結果、思惑通りその魔物は娘の攻撃に幾度となく耐えていたのだ。
娘の拳は単に鉄板で覆っただけのもので、スパイクや刃の一つもついていないため、単純に衝撃に強い相手には斧なしでは分が悪かった。
魔物の力には打開できる手段はいくつもあるものの、そもそもエルフとして出場している場で、魔物の本性を見せるわけにもいかず、尻込みしていて。

エリミア > 「どうしよっかな~…あれ千切っても生えてくるし…」

魔物がぬらぬらと粘液で光る触手を鞭のようにしならせて振り下ろしてくると、娘は身を躱しながら唸った。
当然、この触手は何度も千切ったが、千切った部位はすぐに腐り落ち、その頃には新しい触手が生えていて。
結局、リスクを背負って千切るだけの意義を見出せずに、間合いを詰めてくるたびそれを吹っ飛ばして…ということを繰り返していた。
悪戯に戦うばかりでは、体力の消耗を意味していて、だんだんと劣勢になるのは娘にも理解できて。

「うーん、えーっと……!そうだ!ええと、天に召します…いや、地か、地に召します炎の精霊さん…以下略!私に力をお貸しくださーい!」

そんな時、ふと思いついたように娘は、わざとらしい声で詠唱じみた言葉を論い始める。
それと同時に意識を集中させ、握りこんだ掌のみを戦闘形態に変異させていく。
次第に掌がぱっくりと竜の顎のように開き、そこから炎が噴き出てくると、傍目には握りこんだ拳から炎が出ているように見えて。
その炎に反応したように、魔物が触手を振り下ろすのをためらうような動きを見せると、娘はそれを見逃さず。

「ふーん、火が苦手なんだ?それじゃあ、今度こそ、どっせーい!」

明らかに火を恐れている魔物の様子ににんまりと笑みを浮かべた娘は、駆け出しながら一気に間合いを詰めていく。
そして、思い切り地面に足を踏み込みながら、掌底をぶつけるように魔物の肉体へと掴みかかった。
直後、押し付けられた掌から火炎が息吹のように噴き出てきて、魔物の体表の粘液ごと炎が全体を包み込んでいく。

「逃がさなーい……ふふっ、勝ったぁ!」

じたばたと暴れて逃れようとする魔物の肉体に、娘は鋭く鏃のように変異させた爪を食い込ませて、そのまま魔物が動かなくなるまで火炎で焼き続ける。
やがて魔物が動かなくなれば、片腕の変異を解いて、高く掌を突き上げて勝利宣言をした。
その直後、急激に魔力を消費したことでよろめいたため、あまり恰好はつかなかったが。

エリミア > 「うぅ…お腹減った…」

勝利のポーズを取っていた娘は、腹部を抑えながらまたゆらりとその場でたたら踏む。
魔物一匹を焼くための魔力自体は、そこまで多いものではない。
が、慢性的な魔力不足でさらに魔力が減ると気が遠くなるような心地になるのだった。
目の前でぶすぶすと燻りながら、嫌な臭いを立てる魔物の丸焼きを、娘は腹いせに蹴り飛ばして、回収に来た係員の目の前に落とした。
係員が腰を抜かす様子に少しだけ溜飲を下げつつ、娘は折れた斧を拾いに歩き始めていく。

「もー、次はご飯になる人間がいいなぁ…魔力多いともっといいけど」

魔物を回収している様子を尻目に、娘は刃だけは残った斧を適当に転がしておきながら、両手を頭の上に組んで伸びをしながら退屈そうにした。
台車に担ぎ上げられ、数人がかりで運んでいる様子に、娘はあれはそれほど重かったのかと考えたが、今更怪力を取り繕う必要も感じられず欠伸を漏らす。
しばらくして、回収が終わった後も、しばらくの間娘だけが闘技場に取り残される時間となり、どうやら次の出番に難航しているようだった。
娘としても、また魔力の足しにならない魔物が来ようものなら、さっさと取りやめようかと考え始めていて。
とはいえ、連戦の契約で入った以上は、それを守らないと後が怖かった。

エリミア > 「……え、これで終わりなの?」

飛び入りで入ったせいか、以前ノックアウトしたのと同じ魔物しか用意できなかったらしく、連戦であったが損失を考えた運営が試合を取りやめた。
それを伝えられた娘は、きょとんとした表情で斧の残骸を拾い集めていく。
それから、観客席に手を振りながら退場していって。

「まぁ、一試合しかしてないわけだし、別にわたしはいいけど……。
はぁ、どこかに魔法使いとか落ちてないかなぁ…」

受付まで戻ってきた娘は、係員から連戦はなかったことにし、一試合分の報償のみ払うと説明されて、曖昧に頷いていた。
目的である魔力を得ることに関しては、むしろマイナスになった娘としても、魔物とまたやり合うのは避けたかった。
そして、渡される報酬を受け取った娘は、少しふらつきながら闘技場を後にしていく。

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からエリミアさんが去りました。