2021/09/19 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にダリルさんが現れました。
■ダリル > 日が暮れ落ちて、はや数刻。
しんと静まり返っていた倉庫街のそこここで、怒声と乱れた靴音が響く。
まっとうな港湾労働者の類ではない、いささか以上に、関わり合わない方が良さそうな種類の男たちが、
倉庫の建ち並ぶくらい通りを、あちらへ、こちらへ、
――――――そして、もうひとつ。
「ちっ、くしょ………しつこい、とっとと、諦めろ、って……!」
掠れ声で毒づきながら、通りをジグザグと疾駆する少年が一人。
つまりこれは、少年一人、対、男たち数人の鬼ごっこなのだった。
彼らの方にも当然、事情はある。
異国へ売り飛ばそうとしていた積み荷に逃げられれば、きっと上司から大目玉だ。
しかし少年の側からすれば、歩いて帰れない異国になど、売り飛ばされてはたまらない。
船に乗せられる寸前に気づいて、見張り役の隙をつけて、大ラッキーだった。
あとはもう、闇に乗じて逃げるだけ。
だけ、なのだが―――――果たして、そううまくいくだろうか。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にジーゴさんが現れました。
■ジーゴ > 冒険者ギルドで斡旋してもらった仕事は珍しくダイラスでの仕事だった。
そうキツい仕事でもなかったし、ほどほどに稼げて懐は潤ったけれど、
一番の問題は、仕事が終わった時間が既に王都への乗合馬車は最終が出てしまった時間だったということだ。
「宿とるにしても、あんまりお金ないしな…」
安い宿を見つけないと、今日の稼ぎがなかったことになってしまうくらいの金銭状況だ。
その辺の道端で寝てもいいけれど、治安が良い場所じゃないとひどい目に遭うだろう。
どうしたものか、と路地を歩いている少年。
まだ、走っている少年とそれを追いかけている男たちの存在には気がついていないけれど
次の角に差し掛かったときにちょうど、出会い頭に少年と衝突するかもしれない。
■ダリル > 追われる側の意識というのは、とかく、背後に集中しがちだ。
そもそも土地勘のない場所であれば、なおのこと、
追われているのだから、追っ手というものは後ろから来るものだという――――、
つまり、そんな思い込みが災いして。
完全なる前方不注意、少年としては出せる限りのトップスピードで、
運命の曲がり角へ飛び込み――――――あ、の形に口を開け、大きく目を見開いて、
けれども身体の勢いは止められず、見事に正面衝突事故を引き起こす。
体格的にはほとんど差の無い相手であれば、勢いの差があった分だけ、
相手に素早く避けられでもしない限り、もろともに地面とコンニチハ、
ということになるだろう。
しかもその場合、飛びついたこちらの身体で、相手が押し倒される、という、
相手にとって相当に痛い、初対面になってしまうはず。
■ジーゴ > 人気のない路地にガッツン、という鈍い音が響く。
出会い頭の正面衝突の結果、歩いていたミレーの方がそのまま後ろに弾き飛ばされて
「いったぁ……」
背中からお尻までを強かに地面にぶつけて呻く。
後頭部をぶつけなかったことだけが不幸中の幸いだろう。
突然の痛みと、何より知らない人の顔がほぼゼロ距離にあるから、
驚いてそのままその場で相手に押し倒される格好で固まったまま。
「おまえ、追われてる?ね、どいて?」
それでも、路地の向こうの方から大きな足音がいくつも走ってくることに気がついて、我に返った獣の耳がピクりと動く。
追われているなら逃げないと、と逃げ場所を探して、獣の瞳孔を持った目がきょろりと周囲をうかがう。
■ダリル > 「いっ、……てぇ、ぇ………」
ぶつかったほうも、無傷、とはいかなかった。
鈍い音の出どころは、多分、おでことか顎とか、その辺だと思う。
幸いにして、相手を下敷きにしたため、こちらのダメージはその程度。
いてて、と顔を顰め、おでこの辺りを片手で押さえながら、呻くような声を洩らし。
―――――彼よりも少し遅れて、先刻よりも少し近づいているらしき足音に気づいた。
「つ、あー……え、あ、なに……?
いや、おま――――――――」
退け、と言われるのは道理だが、オレが追われてるとしてもオマエには、
関係ないだろ、と言いかけた口を、ふっと噤む。
彼の出自を如実に示す、イヌ科の獣を思わせる耳。
人間のそれとは違う瞳の動きに、反射的に考えたのは、
コイツも、連中に見つかったらイイ獲物なのでは、ということだ。
そも、ダメージの少なかった身体は、我に返れば素早く立ち上がる。
見事に尻餅をつかせてしまった相手に、一応右手を差し出して、
「悪ィ、……オレ、ここがどこだか分かんねぇんだ。
おまえ、どっか、知ってる?」
逃げ場所、あるいは、隠れ場所。
そんなものを、相手なら知っているのでは、という、咄嗟の計算も働いた。
■ジーゴ > 「あ…だいじょうぶ」
派手にごっつんした額に恐る恐る手をやって、痛む部分を触ってから
その手を見てみたけれど血はついていないし、きっと大丈夫。
相手が退いてくれると、相手の手は借りずに立ち上がった。
立ち上がると頭が少しふらついていて、完全に大丈夫とは言い難かったけれど。
何者かが追いかけてくるこの状況の方が明らかに大丈夫じゃない。
何かに巻き込まれるとだいたい酷い目に遭うのは種族がら明らか。
強打した尻も背中も大丈夫ではないかもしれないけれど、とりあえず逃げるしかない。
「え…」
自分だって、ここがどこかはあまりわからない。
宿を探して歩き回っているだけだ。
大通りに出る方法さえわからないのでは、逃げるには随分と分が悪い。
それでも判断が一瞬なのは、ある意味追いかけられた経験が多い証拠。
「にげるなら、上でしょ」
その言葉とともに、周囲の一番近い倉庫の屋根に飛び乗ろうとして。
倉庫とはいえ、平家の簡素なもの。
高さにして2mと少し。
しなやかに助走をつけて、ジャンプすると軽やかに屋根の上に着地。
身体能力の高いミレー族の動きだ。
「あ…のぼれる?」
屋根の上から手を差し出したのは、ミレー以外の人型の中にはそんなに身体能力が高くない者もいるのを知っているから。
その間にも複数の荒っぽい足音はこちらに近づいてきていて
きっともうすぐ、追いつかれてしまうだろうか。
■ダリル > 相手の姿形から、もしかして年下、の可能性も考えた。
しかしよくよく考えれば、男相手に手を貸す必要までは、なかったかも知れない。
大丈夫、と答えた相手のおでこが赤く見えたけれども、たぶんこっちも同様だろう。
だからそれは良い、それは良し、としても。
「いや、……え、って、え、って、だっておまえ、
―――――――― は?」
もしかして、二人そろって土地勘無いのだろうか。
背後から足音は迫っているし、捕まえたらああしてやるとか、こうしてやるとか、
恐ろしい声が聞こえてくるし、―――――目の前の彼はあっさり向かうべき方向を決めて、
お誘い合わせも何も無く、ひょい、と飛び移ってしまうし。
うわあ、ミレーってすごいなあ、などと手を叩く暇は、もちろん、無い。
「て、め、…――――――くしょ、イケるっ、つの……!」
差し出された手が親切だとしても、なんだかムカつく。
こうなったら意地でも自力で上がってやる、と屋根の上の彼を睨み、
道幅いっぱい、助走をつけて踏み切った。
右足で踏み切り、左足で薄汚れた壁を思い切り蹴って、
上体を、腕を、ぐっと伸ばして屋根に飛びつこうと―――――して、左手が盛大に空を切る。
右手は辛うじて屋根の縁を掴んだが、ぐらりとバランスが崩れ、
――――――――ぱし、と苦し紛れに、差し出された手を掴む。
自分でも頑張って這い上がるつもりではあるけれども、
無事成功するか、ずるりと滑り落ちるかは、なかば、彼の膂力に委ねられる。
このままでは、落ちる場合は当然、彼ももろともに、となるわけだが。
■ジーゴ > 「あぶな!おちるって!」
確かに手を差し出したのは、自分だったけれど
正直なところ相手がここまで飛べないとは思っていなかった。
もちろん、相手の少年の身体能力は申し分なかったはずなので、
足りなかったのは、獣の少年の想像力とそれ以外では筋力と体重。
伸ばされた手はしっかりと握ったはずだったのに、ミレーの少年の力では支えきれなくて。
「あ!」
耐えられなくなった体が手を握った少年と一緒にそのまま地面の方に傾く。
あとは、重力に従って、最初に額をぶつけた時よりも鈍くて嫌な音が路地に響く。
2メートル程度の落下だから、大きな怪我には繋がらないだろうけれど。
追われているこの状況では、致命傷ともいえる。
少年たち2人が地面で伸びている間に大きな複数の足音は完全に追いついて。
あっという間に形勢逆転。
路地裏、倉庫の壁に追い詰められた獲物が複数の男たちに囲まれている状態になってしまう。
ダイラスの人気のない路地に上がるのは悲鳴か、はたまた嬌声か。
■ダリル > 「あ、―――――― 」
――――――――ぐら、り。
傾いで、一瞬の浮遊感に包まれて――――――――
あっさりと、二人の少年は奈落行きの運命をたどった。
実際に落ちた先は、所詮、2メートルほど下の地面である。
しかし、二人が地面で転がっているうちに、追っ手が二人を見つけてしまった。
取り囲まれて、追い駆けっこをした時間の分だけ、いきり立った男たちが輪を狭める。
幸運に見放された二人の運命は、――――――――ただ、闇の中。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からダリルさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からジーゴさんが去りました。