2020/04/21 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にマデリンさんが現れました。
マデリン > 夕暮れ時、湾内に停泊した一隻の商船は、見るからに怪しげな空気を纏っていた。
桟橋に降ろされた積み荷の幾つかからは、か細い啜り泣きや甲高い罵声が聞こえていたし、
それらを荷下ろしして夜の街に繰り出す船員たちも、明らかに堅気とは思えない形をしていた。

しかし、ともあれ、今は夜。
桟橋には木箱がひとつ、ふたつ、引き取り手を待っているのみである。

そして――――ドガン、ドゴ、先刻からけたたましい音を響かせて揺れていた木箱が、
遂に、バキッ、と内側から蹴り破られた。
にょきりと突き出されたのは、木靴を履いた細い足。
その足は直ぐに引っ込んで、次には大きく空いた亀裂から、白い何かが這い出して来る。

「ったく、……ひとを何だと思ってんだよ、アイツらぁ。
 まぁ、ホントはヒトじゃないけどさぁ……」

ブツブツとぼやきながら這い出して、桟橋の袂方面、船員たちが去っていった方を睨みつける。
押し込められていた木箱を背に立ち上がり、埃に塗れた膝や掌をパンパン払いつつ、
コキ、コキ、左右に首を捻って。

「さぁ、て。ココ、どこだって言ってたっけ……
 さっき、聞いたような気もするけど」

王都、ではなさそうだが、果たして。
一応、立場としてはたった今、脱走の第一歩を踏み出した奴隷なのだが、
何とも暢気な物言いではある。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にアシュトンさんが現れました。
アシュトン > 「ダイラス……辺りを見回せば分かるように、港町って奴だな。
ここから色々な商品があっちへ行ったりこっちへいったり……マトモなモノだったり、マトモなモノじゃなかったりするんだけどさ」

(何処からともなくと聞こえてくる声。出所は、案外と近いらしい。
か細い鳴き声を漏らす木箱、その一つに腰を下ろしたまま。一般人なら余り近寄りたくないこの状況に、別にどうとも思っていないように。
ただ聞こえてきた声に返事をした人物は、明らかに船乗りたちとは違った装いだった)

「さて、その大事な積荷が一つ、自主的に逃げ出そうとしている訳だけど。どうしたモノかな。
生憎と商品管理は俺の依頼内容には含まれていなくてね。船員たちに伝えるなり、俺が捕まえるなりすれば、何ぞボーナスも出るかも、しれないけどさ」

(男は、少女?らしき存在へとゆっくりと向き直れば、その姿を眺め見て。
どうしようかな、とばかりに首を傾げた)

マデリン > 双眸を細め、倉庫街の黒々とした影の向こうに街の灯りを望む。
同時に耳を澄ませて、周囲の気配も窺いはするが。
しかして頭上方面へは、それまで、すっかりノーマークだった。

「だいらす、……へぇ、そうなんだ、成る程ね、」

港町、貿易都市、規模によって呼称は異なるだろう。
けれどもつまり、モノ、や、モノ扱いされるべきヒト、が、
運び込まれ、また、何処かへ運ばれていく場所ということか。
ふむふむ、なんて暢気に頷いてから、すう、と背筋が冷える心地。
弾かれたように頭上を振り仰ぎ、声のした方へ顔を向けた。

「な、――――……んだよ、ビックリさせんなよ、このヤロウ」

怯えているのではなく、驚かされたことに対して怒っている、という風情。
少女人形のような見た目に反して、たいそうガラが悪かった。

「犬猫じゃあるまいし、いきなり首根っこ捕まえて箱にぶち込むとか、
 人権無視も甚だしいだろ。
 こんなん、逃げんなっつう方が難しいっての」

何処からどう聞いても、奴隷に相応しい物言いではない。
紅い瞳が剣呑に煌めきながら、木箱の上に座った男を見据えていた。

「雇い主にコビ売りたい、ってなら、好きにしな。
 あいにく、こっちは一文無しだ、……買収しようにもコマが無いんでね」

交渉する余地があったとしても、代わりに差し出せるものが無い。
自身の身柄がかかっているにしては、聊か淡々過ぎる台詞だったかも知れないが。

アシュトン > 「ちなみにここから王都に行こうって思ったら、船が最短。
陸路は大回りになるから、馬車か何かを使わないと厳しいだろうね。慣れない身で徒歩は、お勧めしないな」

(まぁ、木箱からヒョッコリ現れた人物が、そんな用意が出来るかどうかも怪しいのだけれども。
相変わらず鳴き声漏らす木箱に腰かけたままの姿勢で脚を組み始めると、片手を懐へと突っ込んで。
紙巻一本と取り出せば、口に咥える。どうやら、今すぐに飛びかかろう、という雰囲気でも無さそうだが)

「そいつは失礼。流石内側から蹴破るだけはある、随分と威勢がいいんだな。
人権を無視して成り立つ商売だからな。奴らにとっては、それこそ野良の犬猫を捕まえてぶち込むとのそう変わらないのさ」

(片目を閉じれば、何処か冗談じみたような声音で喉を鳴らす。
むしろ犬猫よりいい値段で売れるのだ、奴隷市場都市なんてのがあるのも、さもありなんだ。
袖口から手に握るのは、黒塗りの、金属質の立方体。其れをカチカチと弄れば、火が灯り。紙巻の先端を炙ってゆく)

「ただどうも、今回の雇い主は金払いが悪くてね。あんまり期待できないと来たもんだ。
なんだい?無一文ならそれこそ身体で払う、なんて方法もあるがね。まぁいいさ。
あとは、そうだな。
脱走したって事にして、俺が貰っちまうってのもアリだな」

(大きく息を吸い込めば、肺を煙に満たし。
弧をえがいた唇のままに、紫煙を相手へ吹きかけるように吐き出す。
漂うのは煙草の臭い――だが、それだけではないらしい。
吸い込んだモノの自由を幾分と奪う、神経毒。それほど強力なモノでもないが。まともに吸ってしまえば、すぐさまに逃げ出す、というのは難しくなるかもしれない)

マデリン > 「――――船」

そう告げられて、視線はちらりと桟橋の突端、停泊中の商船へ向かう。
ほんの一瞥、武器も膂力も操船技術も無い身では、手出し出来ない獲物であるから、
ちょっと見てみただけです、といったところ。

現行犯の逃亡奴隷の癖に、己も大概暢気だが、男の方も大概だろう。
暢気に紙巻煙草なぞ取り出して火を点ける、一連の動作を眺めるまま、

「犬でも猫でもないけど、野良には違いないからね。
 けど、この箱、見た目ほど頑丈な作りじゃなかったよ?」

小柄な己なら思い切り足を振り切れる大きさがあった上、意外と薄っぺらい木で出来ていた。
でなければ、流石に蹴破るのは無理だったろう、と、唇を軽く尖らせる。
――――性別の概念は希薄だが、何となく、凶暴な獣扱いされている気がしたので。

「は、……なんだい、随分ケチな仕事、引き受けたもんだねえ。
 こんな貧相な身体で取引成立するほど、払いが悪いのかい?
 ――――って、いやいや。
 だから、犬猫扱いすんなって、……ぶ、けほ、っ、」

両腕を軽く広げて、魅惑的な曲線美とは無縁の身体を見せつけるよう。
未だ、男の言葉を笑い飛ばす余裕もあったが、その余裕が仇になったか。
吹きかけられた紫煙を、思い切り吸い込んで咳き込む羽目に。
涙目になって上体を屈ませ、一頻り咳を繰り返してから、

「てめ、……ひとの顔に向けて煙吐くとか、無作法にもほどが、――――……」

ふ、ら。

足許が、不意に大きく揺らいだような心地。
振り仰いだ視界が淡く霞んだような、――――眩暈にも似た感覚に襲われる。
見た目よりも頑丈ではあるけれど、人間の用いる薬には、驚くほどに脆い器だった。

アシュトン > 「密航するのが一番手っ取り早いだろうな、身丈が小さければ隠れるのも容易い。あとはどれだけ大人しく出来るかの勝負さ。
或いは誰かに乗せて貰う――……何ぞ交渉するなり、飼い主になって貰うとかな」

(首の辺り、輪が嵌っている辺りをチラチラと指さす。
誰かの持ち物になってしまえば、例え元が逃亡奴隷であっても早々簡単に手出しは出来ない。
一人で潜り込むよりか、此方の方がよほど確実で安全ともいえる)

「金払いがケチなら、檻の方もケチってか。
まぁ、コレぐらいの大きさの箱に入る体躯を想定してのモンだ。まさか暴れて逃げ出す奴がいるなんて、考えてなかったんだろうな。
いやいや、口ぶりは兎も角、見目は上等だ。奴隷として取引すれば、今回の稼ぎなんかよりよっぽどいい金になる。
もっとも、売り飛ばす心算はないんだけどねぇ。良かったな、次の目的地は王都だ」

(こんな仕事ちゃっちゃと終わらせて帰るに限る、と決心もついたらしい。海賊崩れから受けた仕事なんて、今後の稼ぎもたかが知れているのだ。
たっぷりふかして吐き出した煙は、大気に留まり。少女の身体を覆う程で。
それもやがて風に乗って消えてしまうのだが。無警戒に吸い込んでしまえば、それでもう十分だろう。
咳き込む様子を眺めながら、木箱からゆっくりと立ち上がり。そして歩み寄ってゆく)

「ご主人様、の臭いを纏えて光栄に思って貰わないとな。
ま、今からたっぷりと躾けてやるさ」

(無造作に伸ばした右手。
そのまま、それこそ犬か猫のように首根っこを掴めば、薄暗い路地の方へと引き摺り込んでいってしまおうとする)

マデリン > 細い首をこれ見よがしに彩る紅い革だが、それは元からこの首にあったもの。
己の意思で外せるものではなく、そもそも留め金の類も無く、
ついでに言えば、刃物などで切り裂けるものでもなかった。
――――ただ、それがこの国に於いて、好き勝手にして良い存在の証明であることは、
まあ、理解しているつもりではある。

しかし、己は誰が相手でも、己を安売りする気は無かった。
誰かの意向に、大人しく従うのもご免である。
咳き込んでさえいなければ、そう言い返してやっただろうが。

「けほ、……な、に、言ってん、だ、てめ――――――ん、ぐ、
 こ、ら、何す……ん、離せ、バ、カヤロ……ッ、こら、離せよ……!」

首輪、というのは、こういう時、捕獲側には大層便利な代物だ。
ぐっと掴んで引き上げれば、小柄な獲物一人程度、容易く捕えてしまえる。
勿論、大人しく連れ去られるつもりなど無い獲物の方は大騒ぎするけれど、
じたばたと暴れる手足だって、完全な空回りに終わる。
引き摺って行くも、ひょいと持ち上げて小脇に担ぐも、成人男性なら自由自在であろう。
もぬけの殻になった木箱と紫煙の香りを残し、捕獲者と獲物の一対は、桟橋から消え失せた――――。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からアシュトンさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からマデリンさんが去りました。