2018/08/30 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 夜の船着き場には、人が全くと言って良い程居ない。
労働者は既に全員帰っているし、わざわざ店もない様な場所に、この時間来るような者は居ないからだ。

しかし、今日に限って一人だけ、この時間に船着き場に足を踏み入れた者が居た。青い闘牛士服の男だ。

「……」

男は疲れていた。いや、疲れていたと言うよりは、何となくアンニュイな気分であった。
最近は修行で働き詰めだったり、かと思えば闘技場でのパフォーマンスの為に歌を練習したりして忙しかったため、少し精神の均衡が怪しくなっていたのかもしれない。

「偶にはこういう時間もいいよね……っと」

波打ち際にぼんやりと座り、静かに波打つ水面を眺める。
何時も騒がしい場所で動く彼にとっては珍しい、孤独と静寂を存分に楽しんでいる。

クレス・ローベルク > 「――しかしまあ、物騒になっちゃったよなあ。この街も」

と、そんな愚痴のような物がふと溢れた。
本来、男はあまり愚痴を多く言う人間ではない。
楽しいことやエロい事があればそれで良いという性格である。
自分が戦いの業をそれなりの習熟度で修めており、いざとなったら逃げるぐらいは出来るという自負も、彼のその傾向を強めていた。

しかし、そうは言っても、全く不安や不満が無いわけではない。
特に、自分が住まう街の事と、つい最近まで修行の地として使っていた国の事となれば。

「戦力が戦場に集中されている分、冒険者の雇用が増えてるって話だけど……短期的にはともかく、長期的には良い話ではないよねえ」

戦争が激化すれば、当然国はより多くの戦力を求めるようになる。
今は未だ国軍だけで済んでいるが、いざとなれば冒険者も、そして――

「僕だって、他人事ではない……んだろうなあ。一応ローベルク家の人間だし」

正式に絶縁の宣言をされた訳ではない以上、一応クレスも元家の人間だ。武闘派としての側面が強いローベルク家は、当然――寧ろ率先して戦場に出るはずだ。そうなれば、ローベルク流を修める自分も、強制的に戦場に出場となる可能性は高い。

「ああ、やだやだ。折角気分転換に来たのに、何だか暗い考えばっかり浮かぶや」

クレス・ローベルク > こうして見ると実感させられる。自分は自由に振る舞っている様に見えて、ただ縛られている鎖が他より長いだけの、奴隷なのだと。
家を飛び出しても、こうして王都から離れても、主が鎖を引けば、首輪に引きずられ、自由はなくなる。

「別に戦うのが嫌だって事じゃあ無いんだけどさあ」

せめて、戦う理由が欲しい、と思う。
それさえあれば、こんな胸糞悪い気持ちにはならないだろうに、と。
だが、それは難しいだろう。神を信じるには悪を積み重ねすぎたし、大義を掲げるには不義を働きすぎた。

「いっそ、恋でもしてみるかなあ……」

と半分冗談のつぶやきが、口から漏れた。

クレス・ローベルク >  「ま、そうそう恋人なんか見つからないよね」

犯したりする相手はともかく、相互の感情が絡むとなるとなかなか難しいし、そんな見つかるかどうかの相手より、素直に戦場に駆り出された後に金を毟った方が早い。結局はそう結論した。

「あー、何か一周回ってスッキリした。そろそろ帰るかあ」

出た結論はともかく、結果として海の静けさはクレスの精神にそれなりに平衡をもたらした様だ。立ち上がってうーんと伸びをして、そのままクレスは船着き場を後にした

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からクレス・ローベルクさんが去りました。