2017/04/04 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にマティアスさんが現れました。
マティアス > ――ようは、一言で言えばお使いのお守である。

幾つかの商人が隊伍を組んで、途中幾つかのポイントを経由して王都から離れたこの港町を訪れる。
片道だけの契約だが、その護衛の一人として久方ぶりにこの街を訪れる。
普段は王都を拠点として動いていれば、わざわざ離れたこの場所に足を向ける機会はあまりない。
せいぜいが歓楽街のカジノ等で身を崩す等の悲喜交々を、酒でも片手に眺めやる程度だ。

「……やぁ、中々面白いものを取り揃えているようだね。拝見してもよろしいかな?」

そんな己がこうして、この街に足を向けるかと言えば、この街だからこそあるものに用がある。
海の向こうから手に入るもの、王都の雑貨屋では手間賃等でどうしても高くつくもの等、だ。
魔術師とはどうしても物入りになる。
海獣から採取される香料や角等、その手の品はいっそ売りに出るのよりも、見に行く方が早い。

船着き場に隣接する街の一角、雑貨や武器、果ては奴隷まで、色々と扱っている風情の店舗を冷やかしに行く。
前開けにした黒茶色のローブを肩に羽織る己を曖昧な笑みで応対する、禿げた中年男の姿を横目に店内に入ろう。
棚に並んだ硝子瓶や、無造作に陳列された乾物等々、見るべきものは多い。

マティアス > 「――ああ、うん。これは……」

とりあえず、確保しておきたいのは香料の一種。此れは大型の海獣を解体するときに稀に発見されるという。
だが、その海獣を捕獲するために費やされる手間暇は、それこそ一個の冒険者への依頼としても成り立つだろう。
店内の陳列棚の一角に探しものらしいものが入った小瓶を見つけ、手を伸ばす。
硝子瓶の中身は、マーブル模様が入った石ともつかない薄汚れた塊。
丁寧な手つきで蓋を開け、鼻に近づけてその匂いを嗅ぐ。――成る程。探し物には相違ない。だが、今一つ質が良くない。

「すまない、この手の品でもう一つ質の良いものはないかな? ……いや、余計な買い物はする気はないから」

硝子瓶を棚に戻し、遠くから眺める男に問いの声を投げ遣れば手もみして近寄る姿が返す言葉に呆れを浮かべる。
お客さんお目が高いこれはお試し品でしてお探しの品はこちらにああついでにこちらの奴隷もついでにおまけしますよ、夜のお供にどうでしょうか等々。
大半は片耳から反対の耳より通り抜けさせるに限る。奴隷とはきっと軒先にあった織の中の薄汚れた子供か何か、だろうか。
知ったことでもなければ、興味もない。ただ、あるとすれば悪徳な売り手を如何にして、弄りまわして悦と利を得るか、だが。

マティアス > 人の命は、つくづく差がつくものである。
渋る店の男の様相に内心で小さく嘆息しつつ、その姿が一旦奥に引っ込む姿を見遣る。

尊き命があれば、まるで芥のように使い潰される命がある。
高貴な魂があれば、救いようもない魂がある。

さて、自分は何処に位置するのだろう? ――考察なぞバカバカしい。明確なのは我もまた、度し難きものである。

「奴隷の気持ちは、奴隷になってみないと分からないものとは言うけど、好き好んでなってみたいもの……でもないね」

他者の気持ちなぞ、聞いても分かるまい。言葉を交わすだけでは知った気になるだけだ。
腰に帯びた剣を揺らしつつ、鼻先にずり落ちた眼鏡を押し上げる。
ぼんやりと店の外に目を遣れば、其処に人の流れがある。
己と同様の冒険者と思しい姿や、久々の上陸に快哉を上げる船員、鞭打たれる荷役の奴隷、等々。
船着き場らしい点はあるが、存外王都と大差はないかもしれない。

マティアス > 暫し待てば、息急いて店員の中年男が戻ってくる。
大事に抱えてくるのは上等な仕上げがされた小さな木箱。それを店内に設えれたカウンターに置き、蓋を開ける。
中身は先ほど触れた硝子瓶と変わりはない。だが、クッションの内張がされた箱が中身の重要性を主張する。
湿気させてはいけない、少しでも劣化を防ぐために適切に保存されるべきものである、ということを。

と、言っても――中身の風情はこれもまた大差はない。薄汚れた大理石の欠片とも見まごう塊。

「では、改めさせてもらうよ」

そう言って、瓶を取り上げて蓋をずらす。
そうすれば微かに漏れ出る芳香を確かめて、目を細めれば小さく頷く。成る程、こちらが本命だ。
品の状態は問題ない。自分が求めるレベルに足るものだ。
無論、値段は相応に張る。提示された金額を容易く払いうるが――。

「……ついでだ、合わせてこちらの品もいただけるかな? その上でほんのちょっとまけてくれると有難いんだがね」

折角だからと、雑貨の幾つかを摘まんでおこう。帰り道に食する保存食等は何処かで仕入れる必要はある。
それらを勘案して、端数程度の金額を値引いてもらう。
貴重な素材を最初から値切れるとは考えていない。
店員の見た目こそ問題だが、示された価格は知り得る大よその原価通りだ。

マティアス > 「有難う。助かるよ」

持参してきた布袋をローブのポケットから取り出し、詰めてもらう。
数日分の保存食や新調した火打石、その他細々とした消耗品等。
無論、買ったものは改めて箱に入れてもらったうえで、最後に詰めてもらおう。
代価の支払いを終えたうえで、袋を受け取れば肩に担ぐ。

またのご来店を、という言葉には曖昧な笑みと会釈で応えつつ、店の外を目指そう。

「――……」

その足でふと、横目に見えるのは件の奴隷たちが入れられた檻。
用途を考えて、とことん劣悪な環境ではないのだろう。
汚れはあっても、けして痩せこけている等の病的な様相は見えない。
ヒトの生命は限りなく値引きができるとしても、誰が好んで役に立たないものに投資をしようというのか。
死ねば、動かぬ肉となる。放置していれば腐る。であるならば、少しでも良い状態に保つのが売り手の勤めか。

口元に滲むのは複雑な笑み。一先ずは今宵の宿を探そう。そう考えながら、街の風景に紛れて――。

ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からマティアスさんが去りました。