2023/05/24 のログ
■ヴァン > 「俺は訓練側だよ。ランクが一定以下で実績をあげてない連中は、こういった講習に出ないと冒険者資格が剥奪されるんだ。
ランクが高ければ降格で済むんだけどな」
教えるつもり、という言葉には説明をしてみせる。少女のような新進気鋭の冒険者には、およそ縁のない話だ。
やる気だったのか、という言葉にはにっと笑ってみせる。頬を染めた姿は先程とは別人のようだと感じた。
「ま、ただとは言わん。魔物には使えないが対人戦の捕縛術を教えよう。さっき俺がやったようなことだ。
砂浜での訓練は正直な話、君にはあまり役立たないだろう。それよりはいい筈だ」
逃げることを選択肢に入れたことを知ってか知らずか、男はそう口にした。
少女にとって悪い提案ではないだろう。ベッドに腰を下ろしたまま、少女の反応を見た。
何か考えているようだ。男は顎に手をあてて、悪いことを思いついたのか立ち上がり、少ししゃがんで少女と顔を同じ高さにする。
紅い猫のような瞳を、しっかりと深い青の目で見つめる。
「確か訓練生は複数人の部屋だったな。さっきの姿を同室になる連中が見てなければいいが。
君が望むなら、ここに一緒に泊まっていいぞ」
訓練生の雑魚寝部屋は男女別が基本ではあるが、一部は男女が一緒になる所もある。
仲の良い冒険者たちの部屋ができることもあれば、誰もいない部屋もでき――ヤり部屋になることもある。
少女が他の訓練生と一緒の部屋で眠り、どういうことになるか。男にはわからないが、少女は想像できるだろう。
■ティカ > 「んんん~~~~……。確かにあんたはランクひっくい割には腕がいいし、色々学べるとこがありそうっつーのはあんだけど……」
正直、捕縛術には興味が無い。
ティカが冒険者をしているのは、かつて自分を凌辱した山賊共への復讐を果たし、似たような状況をひっくり返せるだけの力を求めての事だからだ。
無傷で相手を捕縛するなどというヌルい手は、そうした目的から大きく外れる物であり、それよりは先程ティカがやっていたような容赦なく急所を狙う凶悪なバトルスタイルの方が理に適う。
「―――――まあ、そいつぁ悪くねぇ提案だな。あの雑魚寝部屋じゃあ間違いなく襲われんだろぉし……」
小躯と目線をあわせる様な優しい所作に、反骨心溢れるチビはただただイラッとするばかりであったが、続く提案には利があった。
小賢しい少女戦士の天秤が脱走の一択から僅かばかりこの場に留まるという選択肢に傾いた。
―――しかし、近頃は異性への対応も多少は柔らかくなったティカなれど、元の少女は男というものを蛇蝎のごとく嫌って目の敵にしているようなところがあった。
それ故に、普通の男が普通の娘を口説くような正攻法は悪手も良い所。逃げてもいいぞと言わんばかりの彼の対応は、ティカという小娘を相手取るに相応しい物では無かった。
「――――悪ぃな、おっさん。やっぱ止めとくわ」
結果、小躯はくるりと背を向けた。
先の立ち会いの中、寝技のどさくさですっかりその気にさせられていたのならば話は違っていただろう。腕関節の乳揉みで生じた身体の昂りを、移動と雑談で冷ましてしまったのもよろしくなかった。
そして極めつけが、あくまでもティカの意志に任せた所。
彼に対して好意を抱いているならともかくとして、男嫌いのティカが、出会ったばかりの男に対し、自ら身体を重ねるという事にそもそもの無理があったのだ。
――――その日の夜、やはりと言おうか当然と言おうか、同室の新入り冒険者達によってたかって襲われたティカは、翌日の訓練に青タンを拵えた仏頂面とザーメン臭い身体で現れる事となるのだが、それもまあ少女自身が選んだ未来である。
■ヴァン > 断りの言葉に軽く頷くと、引き留める言葉は出さずに少女の背を見送る。
一人残った部屋で、ベッドにごろりと横になると天井を見上げた。
「ちょっとやり方がまずかったかな……
酸っぱい葡萄?いや、あれは甘い筈」
そう呟くと、口許に笑みが浮かんだ。
――翌日の訓練で少し離れた所から少女を見た男は、苦笑いしながらもどこか温かい視線を向けていた。
ご案内:「セレネルの海 白浜のビーチ」からティカさんが去りました。
ご案内:「セレネルの海 白浜のビーチ」からヴァンさんが去りました。