2021/10/31 のログ
■グレイス > 「…よし、折角だし支給されたアレも使ってみようじゃないの」
グレイスが笑いかければ、信頼する砲術長もにやりと笑い、砲列甲板に走っていく。
アレはいささか射程が短いが、王国のフリゲート二隻はもはや十分に近づいていた。
「撃てっ!!」
号令と共に、砲口が再度一斉に火を吹く。そこから放たれたのは大きな砲丸ではなく、小さな砲弾が複数。
所謂ぶどう弾。近接時に敵船の船員や索具類を破壊される為に放たれる散弾。
しかも…ただの弾ではない。その弾は大きさに見合わぬ破壊を幽霊船にもたらし、
敵アンデッドに当たればその身を弾けさせるとともに灰にしていくのである。
「ノーシス主教の聖別済銀弾…まぁ~よく効くわね」
望遠鏡で戦果を確認すれば、グレイスはにんまりと笑みを浮かべる。
幽霊船退治ということで、聖別済みの銀の弾丸を親のコネで大量に用意しておいたのだ。
勿論、水兵達のマスケットにもそれは装填されており、
甲板上から近くの敵幽霊船に向けて一斉射撃する毎に、
敵船から灰が飛び散る。
そんなほぼ一方的な攻撃がしばらく続き、さらに数隻の幽霊船を沈めた時、敵の反撃は始まった。
『敵旗艦、動きます!』
「!!」
グレイスが望遠鏡を向ければ、幽霊船団の中心、
明らかに旗艦であろう一際巨大なガレオン船から、
こちらに向けて砲撃が放たれるところであった。
いや、それは砲撃ではなかった。
「……敵!来るわ!白兵戦用意!!」
いかにしてか、アンデッドと化した水夫や水の魔物達を人間砲弾とし、
こちらに向けて大量に飛来させて来たのだ。
<デファイアント>艦上は慌ただしく迎撃準備を始める。
船内白兵戦に優れた海兵隊員が甲板に上がり、水兵達もカトラスを取る。
その時、グレイスはそのアンデッド砲弾が飛んでいるのがこちらに向けてだけではない事に気付く。
望遠鏡を向ければ、アンデッドの砲弾が、メイラの乗る大型船にも放たれているのが見えた。
■メイラ・ダンタリオ > 血が滾る
焼けていく船
バキバキと聞こえてくる、焼け焦げたことで折れ沈んでいく船の渦
竜骨が折れる音が、あんなにも甘美だとはメイラも思わなかった
まるで生き物の背骨が折れる音が聞こえるかのよう
「……。」
海の戦術 それはメイラの専門ではない
メイラはどこまで行っても戦狂い 戦場を荒らしまわり突破口を開く斬りこみの華
この大型船の上、遠目の筒で眺める海戦の様子を備に眺める
「……? 灰になりましたわ。」
ボンッと粉と煙が混じるそれは、砂や灰で見られる散塵のようなもの
隣で見つめる者らも、確かにと同意する
スケルトンやグール フジツボやヒトデ ムール貝アートだらけの海の死体
それらは物理が通用する ゴーストや吸血鬼という 特定条件以外に該当する者らは
洞窟や墓場など 焼くも良し 砕くも良し 物理的怪異に恐れなどはなくとも
その葡萄弾による広範囲射撃はマスケットでも見られる“砂利撃ち”と同じ発想だ
灰になった理由を、ひょっとして銀を塗してあるか、退魔系の御札でも張ってるかもしれない
そう答えたのは、心臓打ちされた吸血鬼みたいな倒され方だからだ
形が残ることを嫌うということは、蘇りを嫌ったのだろうと周囲も、状況を見る中で帆の回転などを手伝い
船から船員に切り替えた
そう判断できる状況の中、船の縁が一部抉られる弾が飛び込んできた
それでもなお、航海は続く
数名が弾き飛ばされながら、救護に回る同輩達
『射程に惑わされるなっ! 船底のダメージがないか確かめろっ!』
例え胴体でなくとも、曲線を描く砲弾が海の中でどうぶつかるかも船長は判断する
数人が船底状況を確認しに行く中で、メイラは海の戦の“法”を赤い瞳で眺め続けている
場違いという言葉にメイラは匹敵するだろう 遠くから弓矢の雨を 一撃の槍投げを噛ますことに
何の不満があるというのだろうか 血の滾りは収まり、ただただ戦の法をメイラは吸収していく
大型海賊船級と戦艦級の差も含め、遠目の筒から外すと、戦艦のほうがあわただしくなっていく
「……ん?」
もう一度眺めると、スケルトンや海鮮アートなグールら一同
まるでおとぎ話のほら吹き老師のように、すっ飛んでいく所業
大気の抵抗や、衝撃などがまるでないのか、姿勢も完ぺきな状態
骨だけなら身軽だ 砲の衝撃さえクリアできていれば、そこらのロープや甲板含め
着地も引っ掛かりもできるだろう そして海の成れの果て共も同じこと
「……なんて理不尽な。」
その先に見えるのは 他の船団とは違うサイズ まごうこと無き、あれが恐らく提督の船と呼べるだろう
「大獲物ですわね……砲も特別?」
軍艦と大差なさそうに思える中で声がする
『敵 さっきの大型船がこっちにも砲列を合わせましたっ! ―――来ますっ!!』
『面舵一杯! 斜線から退避ィッ!!』
群れの中に隠れていたにしては、目立っていなかったそれ
それが、こちらにも人間砲弾染みた攻撃をかましてくると、着地してきたのはまさに、砲列の数だけ
「抜剣っ!」
メイラの声に、同輩らが条件反射で剣を抜く 切り落とすカトラスや手斧など
貫く攻撃のサーベルは殺傷が高いとはいえ、魔物らへのダメージは切断こそが有利とした選択
「叩き落としなさいっ! 甲板よりも中に入られたら恥ですわよっ!!」
トラバサミのような口元をぐわっと開け、対人戦が幕を開ける
恐れ知らずの斬りこみ狂いの猛者らが、バランスを取りつつも陸と理屈は同じ
骨は砕き、海鮮アート者は切り落とす
魚人系がいたらまた勝手は違っていただろう中で、メイラは最後に飛び込んできた者に対し
「 フ ン ッ !!」
手短な砲撃の残骸を拾上げ、第一球っ! カコーンッ!と当たったそれで勢いを失った姿勢崩しは
ボチャンッと海の中へと落ちていく
■グレイス > 軍艦艦上では慌ただしい白兵戦が展開される。
ぶくぶくと醜く膨れ、腐り果てた青白い動く水死体達。
あるいは肉すらなくなりカタカタと音を立てながら錆びた刀剣を振り回す骸骨達。
悍ましいアンデッド達は甲板上に転がり込み、
あるいは近くの海面に落ちても船体をよじ登り、
次々と近くにいる生きた者に襲い掛かる。
「銀弾をぶち込むか頭を狙いなさい!」
グレイスの号令のもと、全身を鎧に包んだ屈強な海兵隊員達が戦槌を振り回し、アンデッドどもを叩きつぶしていく。
グレイス他士官達もサーベルを振り回して水兵を鼓舞しながら、
その首を斬り落としたり魔法で吹き飛ばしたりしていた。
『艦長!<トライアンフ>が!』
「…っ!」
アンデッドが飛来した量は、グレイスの指揮する<デファイアント>より後続の<トライアンフ>の方が多かった。
望遠鏡を向ければ、甲板がこちら以上の乱戦になっているのが見える。
水兵が必死にこちらに手旗信号を送ってくる。
「我、一時戦列を離脱する…」
負けることは無いだろうが、あの状態では砲撃戦力には数えられない。
ゆっくりと、フリゲートの一隻は幽霊船団から離れていく。
グレイスは考える。
またこのアンデッド砲弾を食らえば、こちらも砲撃どころでは無くなるだろう。
しかしこれまでの砲撃戦で、あの幽霊船団も大分数を減らし、
残るはあの旗艦と僅かな護衛のみ。
魔力の流れを見る限り、このアンデッドどもはあの船に巣食う何かに復活させられ、使役させられている。
それを直接叩けば…。
「…取舵!あのデカブツに突っ込むわよ!」
甲板上をあらかた掃討し尽くした後で、グレイスは号令をかける。
「接舷斬り込み用意!」
船が軋みながら進路を変え、船首を幽霊船の親玉に向ける。
同時にグレイスは風魔法を唱える。すると、追い風がフリゲートを押していく。
猛烈な速度で、王国の軍艦はガレオン船に突っ込んでいく。
■メイラ・ダンタリオ > 骨や海鮮死体共の獲物は海賊や海の戦士と変わりない
他のカトラス持ちらと共に、近接になるとメイラや斬りこみの同輩が躍り出る
切り落とす耐久性と殺傷能力 カトラスで鍔競り合う隙間から、顎を勝ち上げるガゼルや胴体蹴り
メイラも同じく、抜いた西洋剣鉈で攻撃を受け止めつつ、ガントレットに包まれた拳一つで殴打という攻撃
ベアナックルや時折爪を立てるようにした薙ぎが、骨を砕き海鮮人間たちを千切る
耐久性は人間か、人間以下 それでも膨れ上がったそれの膿や海水が詰まったそれが
まるで陰茎擬き貝のようにびゅうびゅうと吹き出している 気持ち悪さは海の中より陸の上が際立つのは海鮮の常
しかし第一射の分があっという間に終えてしまうのは、獣染みたメイラや同輩らを含む海の戦士らの強み
鎧を身に付けず軽快な動きの者ら 海に沈んだ時を恐れてもあるものの、躯を海へと捨てさせながら
状況は一変する
『船長っ! 風の流れが!』
雲の動きでもわかりやすい、風の動きの変化
軍艦側の一隻離脱が離れ切ったところから始まったそれに従い
両側で挟み込むようにしているはずのこちらにまで風の影響が出ている
無論それは提督船と思える大型船も同じながら、予想にしない勢いの付き方
それに船長は決断を下すしかなかった
『ディファイアント号に続くしかない!
砲撃戦だけで済むはずだった状況が一変しているんだ!』
船長は、ディファイアント号の乗り込もうとしているかのような動き
砲撃だけでも対抗できるはずのそれは、人間砲弾擬きらによって
恐らくはディファイアント号艦長に決断を下させたと読み取った
天候すら変える持主が、敢えて突撃するなど、あの船を沈める以外に勝機は無いと踏んでいる。
「チッ」
メイラ達の、狂気を呑み続けるような物理的特攻戦法 狂奔に直走る構え
友人魔術師のような知り合いでもいたら、何か悪い知恵でも授けただろう中
乗り込むしかないと言えば付き合うまででしかない
「お前達、船内から火薬を集めなさいっ!」
その時点で、同輩らは お嬢があそこでやらかそうとしている と読めるものの
最早全員殺すか、船を殺すしか道は無いのだろう
■グレイス > 両舷の砲を乱射し、幽霊ガレオン船を取り囲む船に片っ端からぶち当てながら、フリゲート艦は疾駆する。
そしてその姿がはっきり見える位置まで近づけば、望遠鏡で覗いていた副長イングリットがグレイスに告げる。
『船名確認。<マリア・セレスタ>号…艦長、前から噂になってたアレですね』
「ふふ、とんだ大物じゃないの!」
<マリア・セレスタ>。セレネルの海で特に恐れられる幽霊船の一隻。
その起源は二百年前、ナルラート王の時代に遡る。かつてのそれは悪名高い奴隷船であった。
王国各地のミレー族が狩りたてられた、凄惨な奴隷狩りの時代。
強欲で冷酷な船長のもと、そのようなミレー奴隷を王国各地に運んでいたのがこの船であった。
しかしある航海中、水の補給に立ち寄った無人島で、古代文明の財宝を見つけてしまったことから彼らの運命は変わる。
財宝の分配に不満を持った<マリア・セレスタ>の副船長が、船員達を集めてクーデターを実行したのだ。
さらに悪いことに、奴隷ミレー達も騒ぎに乗じて拘束を外し、反乱を開始。
狭い船上での、凄惨な殺し合い。さらに悪いことに、船は嵐にまで巻き込まれる。
三つ巴の狂気の戦いの中、追い詰められた船長は全てを呪い、船を海の邪神に捧げた…。
以上が、小舟を奪い<マリア・セレスタ>から唯一逃げ出せた船長の息子が語った、この幽霊船の由来であった。
以後幽霊船と化した<マリア・セレスタ>は二百年に渡って海を荒らしまわり、これまで三度沈められ三度復活したのだ。
「…つまり、ただ沈めるだけじゃ駄目ってことよね」
グレイスは呟く。砲撃で沈めた船はあっても、アレに乗り込んだ船はなかったはずだ。
そうと決まれば、乗り込むのみだ。
フリゲートは風に乗り、接舷も間近。
幽霊船はこちらに砲を向けるが、もはや間に合わない。
腐り果てた巨体が迫る。甲板上には、悍ましいアンデッドがひしめいている。
「取り舵一杯!ぶつかるわよ!総員斬り込み用意!」
船首の向きを変えながら、フリゲートは軋みながら右舷を幽霊船に激突させる。
衝撃に耐えた水兵達は、すぐさま敵船目掛けてフック付きのロープ、網、梯子を投げ込んだ。
■メイラ・ダンタリオ > (後日継続予定です)
ご案内:「セレネルの海 海上~幽霊船」からメイラ・ダンタリオさんが去りました。
ご案内:「セレネルの海 海上~幽霊船」からグレイスさんが去りました。