2020/09/23 のログ
影時 > 顔を見ていれば、何となくわかる。
人間と話し合う選択を出来るような風情の顔には見えない。そも、喋れないから除外しているのか。
戦うのは好きだが、かといって殺すのが好きなわけでもない。
受けた任の達成に関し、好悪は別に考えるがよくよく吟味して対処を考えなければならない。

一言で殺す、二言で片付けるというのは簡単ではあるが、時間をかけてはいられない。
限られた時間の中でよくよく考え、行動に移す必要がある。
この点で、困る事項は明白だ。対話が出来ない以上、魔物を捕縛、尋問して情報を吐かせることが出来ない。

「……――久々に、あれを使うか」

何にしても情報が足りない。そう決めれば、取り合えず歩哨の排除と始末が必要だろう。
己の方に向かってくるものをやり過ごし、束の間に排除ついでに一手を講じる。
そうと決めれば、弟子には「音を消せ」とハンドサインを向けやった後に氣を練る。

――瞼を閉じる。
意識を身体の内に落とし、さらに踏みしめる地を伝って大地の氣の脈動を悟り、一つの縁を手繰る。
瞬間に幾つかの印を切って結べば、魔物の足元から煙が沸き立つ。
その沸き立つ煙の流れに乗って、数条のきちきちと牙を鳴らすもの――蜈蚣の群れが生じる。

己が氣を割き、かつて討伐した縁を手繰って呼び寄せる下僕、使い魔のようなものだ。
魔性を帯びた大蜈蚣の眷属である。
それらが、人のような魚の鱗を駆け上がり、鰓に殺到して牙を突き立て、毒を送り込むのだ。
声を上げる寸前となれば、後ろから羽交い絞めにするように寄り、取り出す苦無を銜えさせて口を塞ぎ、息の根を止める。

まずは、ひとつ。始末をつければ、適度な岩陰に転がしておく。

ラファル > ―――音を消す。

 瞬間的に、周囲が不気味に静まり返る、音がしなくなる。先ほどまで聞こえていた、潮騒の音も、ひた、ひた、と言う足音も。
 幼女の周囲からある一定区間、そしてその中に魔物は『未だ』入っていない。
 音を消す方法にはいくつかあるが、少女は周囲の音と、ちょうど反対の波をぶつけることで、音を消す。この方法は、少女的に一番柔軟に広さを指定できるからだ。
 空気の振動を無理やり止めて消す方法もあるが、それだと、区域がしっかりと出てしまうので、調整が難しい。
 音の無い結界を作り上げてから、師に頷いて見せる。
 ハンドサインを送り、何処まで広げるかの確認、魔物を巻き込んでいくか、それとも、この二人の周囲を消し続けるだけにするか。

 このままでいるなら隠れることが容易になる、広げていくなら、排除が楽になる。
 それを問いかけながら、岩陰に転がされる魚人。
 少女はそれを見て、岩陰を掘る、掘っても、音を消しているので響くことも無く。
 大きな穴が作り上げられていく。
 それを見て、少女はその中にぽい、と魚人だったものを放り込む。
 カサカサに乾燥をして、小さくミイラになった魚人。

 種を明かすならば、風の力を使い、風化させただけだ。
 そうしてしまえば体積も小さくなるし、岩の穴に放り込んでもかさばらなくなるし、目立たないから。

影時 > ――音が消える。

つくづく有用にして、仮に敵に回られると非常に厄介な力の使い方である。
このように身を隠すことや、気づかれずに事を為したい場合、ある程度選択のうえで消音できることはどれだけ有用であるか。
己には成し得ないチカラは、よくよく心得て使うことで真価を発揮できる。
可能、不可能の境となる限界はまだ試すことはしていないが、それは今の機会ではなくともいい。

今は排除だ。そのための周囲の消音のみで事足りる。
そうハンドサインと目配せの上で喚びよせた蜈蚣を使い、魚人を討って転がす。
それを流れ作業の如く、穴を掘って遺骸の始末をつけてゆく。
その始末も、木乃伊の如く乾かしたうえで、だ。

便利なものだ。そう思うものの、羨望はしない。
己にないものがある。それだけのこと。弁えた上で、次の手を打つ。

「慣れねェ場所だが、先の情報収集を頼んだぞ」

本体そのものを喚ぶとなれば大物になるが、眷属レベルであればその小ささを活かしてできることがある。
狭い場所に難なく潜入できるが故の情報収集だ。この蜈蚣は喋れないが、意思疎通を図ることが出来る。
魚人にたかっていたものが散り、岩肌の割れ目などを伝って、奥に往く。
己の襟元に掴まり、キィと鳴くものが、小器用に弟子に足の一本を振り上げて挨拶をする。

その様を気配で感じつつ、岩肌に沿って先に進めば幾つかの分かれ道に出る。
濡れそぼった足跡の有無と行き交いの様子を測れば、主道と思しい経路に進んでゆく。
踏み鳴らされている個所はあるが、身を隠すに足る石柱や窪みが散見するのは、都合がいい。

ラファル > 音を消すと言うのは、副次的な力でしかない、少女の本質は、『風竜』風を使役する竜である。
 その力の範囲は、其れこそそよ風から竜巻迄、風にかかわる物であればなんでもと言える。少女の竜種は―――テュポーン。
 台風の語源となる竜なのである。それ故に、風に、空気にかかわる全てにおいて、かなりの力の行使ができる上に、精霊を呼ぶなら、更にいろいろとできるものだ。
 師匠にはなく、自分にある能力、それにどう向き合うべきかをよくよく考え弁えろと言うのは師匠の教え。
 幼女的には、ちゃんと守っている積り、である。


 血しぶき、血の匂い。 敏感な物であれば、血が流れればすぐに気が付く。
 幼女は人よりも発達した五感を持つゆえに、先に気が付くことができた、だから、音を消した状態で伝えることができないので、風化させたのだ。
 血の匂いも、死臭も、風化させてしまえばそれは無くなってしまうから。
 少女が選択した始末の理由のうち一端は、ここに有った。

 ―――師匠の肩に上る、蜈蚣。
 啓礼じみた動きに、幼女もびしぃっと、敬礼を返して見せる。
 羨ましいなーと言う視線。最近甘えてないので、羨ましいなー良いなーと、じーっと蜈蚣を見る。
 でも、今はお仕事中だ。気持ちを切り替える。

 あとで。いっぱい、甘える。

 なんか変な決意を胸に抱く。

 師匠の後ろバックアップの為に歩きゆく。竜の住処であれば隠し通路と云う物はないはずだが、後天的に作られている可能性を忘れてはならないから。
 気にしすぎと云う物はないはずだ。
 幼女は、師匠の後ろをとことこついて行きながら、分かれ道を見る。
 右を、左を。
 そして、肩を軽くたたく。

 ―――空気の流れは、右に。左は溜まってるから、部屋になってる。
 場所的に考えて、多分食事保管する場所か、寝室―――

 海の中から人が来るという事は竜は基本想定しないから、逆にこちらが最深部と考える。
 なので、大事なものを貯めて置き、自分が寝る場所か、若しくは、海の方からとって来た食料を置いておく場所なはずだ。母の性格であれば。
 師匠にそれを手話で伝える。

影時 > 風、大気を御せるからこそ、出来ることは多岐に渡る。精霊を従えるすら出来る。
事柄のみを見れば、見た目の歳に似合わないほどの異能の持ち主が此処にいる。
一つの側面のみを見れば、並大抵のものを退けうる域だ。
故にこそ、戒めが必要だ。忍びの目線で考えるならば、その悉くは手段という手札と言い換えられる。

今使って見せた悉くは、濫用ではない。
よくよく考えて使った結果だ。匂いというのは、水中であれば広がり方も変わる。
それも始末を付けられるのであれば、己としては言うことは無い。

茶目っ気を心得た個体か。
挨拶した蜈蚣に敬礼を返して見せる弟子の視線を察し、近くに寄ればぽんと頭を撫でておこう。
帰ったら好きなだけ甘えていいぞ、とばかりに意思を載せて、帰路にて行き先を吟味する。

「……――ふむ」

肩を叩く弟子の示す手話の内容に加え、かさかさという音すら立てずに疾く岩肌の隙間から現る者を見る。
情報収集、先行偵察に出した蜈蚣たちだ。
微かな鳴き声を聞き取りながら、彼らが放つ思推を吟味する。
云うところによると、弟子の言う食糧保管場所か寝室の奥に、更に広大な広間があるという。
それも、水竜が海水に浸かりながら身を休めるのに程良い、海水に浸かった空間だ。
其処に大きい魔物が居る。しろい、おおきな、蠢くもの、というものということを聞けば、それを弟子に伝えよう。

「――――」

そうとなれば、進路はとりあえず決まる。最深部と想定される方角を目指し、進む。
すれ違う魔物がいれば、それもまた消音のもとに屠り、陰に転がしておく。
遺骸の後始末までは、今回は要らない。先を進む急ぐ前提で前進する。
万一の際、自分達の後を追いすがるものの頭数を減らしておくのだ。

ラファル > 異能が強いと言うのは、人ではなく竜だからこそ、なのだろう。種族的な強度、其れこそ、幻獣の王と呼ばれ様々な動物の頂点に立つ種族、ドラゴン故に。
 本来はその力に、強大さに奢り、己を磨くことはほとんどしない種族、人に交わり人に学ぶことを覚える、そうなると、こうなるという例のうち一つだ。
 人の強さと言うのは、成長する事、学び解析し、それを後世に残すこと。
 人の強さを竜が学ぶのだから、之ほど脅威は儘無いと思える、軍が、幼女を含めた一族に警戒を覚えるほどに。

 茶目っ気を、蜈蚣が覚える、それは、屹度人が持つ力なのだろう、先程も言った学び成長し、継承する事。蜈蚣でさえ、学ぶことができるという事を示す。
 下がって来た師匠、頭をなでられれば、幼女の眼が輝く。異能を持っていても、強くても、幼女は子供だ。
 未だ、その心を育成して居る時であり、甘えたい年頃なのである。
 それを許可されてしまえば、うきうきと、嬉しさを隠すことができないのは仕方ない事だった。

「んー。水の有るとなると、そっちがおかーさんの寝床、だね、元。
 今はなんかいるんだね。」

 白い何か、と言うのは、伝聞ではちょっと判りづらい。抽象的すぎるし、白い大きいうねうねと言うのは色々候補が上がる。
 とは言え、其処に魔物がいて、それが、魚人を支配してると言うのであれば。
 それを排除するのが今回の依頼の目的となるはずだ。
 とは言え、師の道行きは決まった、急ぎ始める動きに、幼女も足を速めてついて行く。
 音を消しながら、始末をし続け、それを放置するのは、先に急ぐことを優先している模様。
 ならば、幼女もまた、それに倣い進むことにする。
 足元の岩を拾い、それを音もなく投げつけて魚人の頭を砕き。

 ――疾く。疾く、洞窟を駆ける。

影時 > その人の強さのサンプル、一例がこの者だ。異邦より訪れた忍びの者である。
竜が奇しくも忍びの技、業のようなものを身に着けていた。
その一点の取っ掛かりから、忍びの家庭教師として教授させるに至っているが、何処まで伸びるのだろうか。
果てはまだ見えない。さらにまだ子供であるということも、拍車がかかっている。

知る者が知れば、気づけば脅威だろう。害意の有無を明確にしなければならないほどに――だ。

「こいつらの云うところにゃ、そうらしいな。
 おまけに元、とはいえ、お前さんらの御母堂の寝所だろう? ……そいつはデカそうだ」

ご苦労さん、と。術を解けばぽんと微かにはじけるような音ともに、蜈蚣たちは消えてゆく。
送還したのだ。顕現のための材料である氣を呼吸とと共に戻しつつ、取り合えず先に進むことを選ぶ。
先を急ぐとなれば、隠形を解くことも考えるがそうはしない。
忍んでいればその分だけ、先手を取ることが容易い。
狭い場では振り辛い太刀はまだ抜くことなく、振り易い苦無や、或いは文字通り「手」を使って魚人を屠る。

鰓やぎょろっとした目など、鱗で覆われていない箇所を狙い、穿つのだ。
着衣に彼らの匂いが今は染み付くが、それも先手を奪うための手立てとして、先を急ぐ。

魚介類や水膨れした死体の集積所か。悪臭漂う一角を抜け、問題の空間と思しい場所に出ると――。

「……そー、きたか。烏賊っぽい奴のなれの果て、かこれは? ン?」

成る程。白くて。大きくて。蠢いている。
ドーム状の広大な広い空間の半ばを、海水が締めている。其処で半身浴の如く、魚人のようなモノが居る。
魚のような面構えだが、まるで司祭帽の如く、外套膜が濡れ光って長く頭部が伸びている。
そして、手足。水かきの生えた手に加えて、水中に沈んでいるのは――烏賊のような触腕の群れか。

丘には上がれない、だが、強壮な年月を経たモノが、そこに居る。
魚人たちの崇拝と供儀でその身を太らせて、在る。甲高い声で鳴き、さらなる糧を求めている。

一端広間の入り口の陰に隠れ、腰の太刀に手を遣りながら様子を伺う。

ラファル > 幼女の方は、其れこそ才能―――、竜としての能力、子供としての興味が、たまたまかみ合い、彼に近しい技能を手に入れた。
 姉が、色々と危惧をし母親と相談した結果、異邦の人に師事することになったのである。
 取り返しのつかなくなる前に、専門家に見てもらって、まっすぐ育ててもらおう、人としての育児に関して経験のない竜の策だった。
 それが今、一番この幼女に関しては、最高の環境と言える。

 そして、それがなければ、幼女の子、子供の興味の儘に善悪を気にせずに災厄をばらまく存在になっていたかもしれない。
 今となればIFの話でしかないが。

「んー。取られる方が悪いし?大事なら、其処にいて守っているのが竜だもの。
 たしかに、おかーさんの所にいるなら、デカいね、屹度。」

 消えていく蜈蚣たち、さらば友よ!と茶目っ気たっぷりの個体に手を振って見せる。
 そのまま、師の後ろをついて、進む幼女、師が隠形を続けるなら、それに続く、どういったとき、どういう判断をするのか、それを見るのもまた修行。
 何故、そう考えての行動なのか、それを幼女なりに考え、師と話し合い、擦りあう。師の行動を見て経験を増すための学習だ。
 実践が必要な時などは、師が先に行くように促すし、幼女一人で、依頼を受けさせることもままある。
 だから、今は見て、学ぶ。
 師匠の気の効率的な循環のさせ方や、隠形の動き方も又、学ぶべきことだから。
 そんな風に一人と一匹が進んで。広く、大きな場所に出る。

「うわ……ぁ。
 美味しくなさそう……。」

 珍しい事もある。食欲優先のドラゴン幼女がそのうじゅるうじゅるに対する感想。
 先ずは、竜になり、がぶがぶもぐもぐする、とか聞くような幼女がこれを言うのは、歪な神性などもあるのだ。
 本能的に食べちゃダメだと思うのである。
 魔でもなく、神でもなく、ごちゃ混ぜな、歪の塊。
 
 どうした物だろうか。
 先手を取ってブレスで―――衝撃波の効果が薄そうな気もする。
 竜になり、爪と尻尾が良いだろうか。
 あの大きさからみれば、質量は必要だろうし、竜になっても十分暴れられる大きさだ、何と言っても、親の寝所なのだから、広い事この上ない。
 逆に言えば、今の儘なら、容易に近づけると言うのもあり、悩んでしまう所

影時 > 仮に出会わなくとも、行く先でそういうものが跳梁していると気づけば、おのずと出会っただろう。
であれば、今の如く目をかける――世話をするというのは、必然であったのだろう。

面白きものであるかどうか、ということに今の己はまず価値を見いだす。
竜という覇者の如き生き物、他に憚ることなく在りうるものが、忍ぶ技を使う。
ともすれば、諧謔めいた在りようを見せるものが、善悪定まらぬうちに失せるのが惜しい、と。

「確かに。取られて困るなら番人でも置いておかなきゃァ、な。
 でかいのもそうだが、ここを拠点に蔓延られたら厄介だ。

 何を言っているか分かんねェ上に、卵を産んだ分だけ増えに増えて長じられると面倒な奴だぞ。多分」

消える蜈蚣も、きっと手を振って束の間の邂逅を愉しんだだろう。
初見ながら微笑ましい様子に一瞬目を細めたのも、束の間。
急所を見出した魚人たちの始末に、何ら躊躇うことなく、その場の最適手段を択んで手を下す。
洞窟の壁に残る水の跡を見る限り、満潮時は結構なところまで浸水する可能性がある。

その意味で急がなければならないということと、狭い場所で挟み撃ちされる可能性を一時的でも減らしたい。
故に一体一体を確実に屠らねばならない。
隠形の上で一撃で殺せるならば、あとは作業のように殺せる。心理の機微を排した行動も忍び故だ。問題は……。

「……お前さンがそう云うってなら、よっぽどよな。
 水の氣が強すぎて陸に上がれんみてぇだが、その分だけ火術の類は凌がれそうだ」

この問題の巨体だ。水の魔性?否、神性? よく分からない力の混沌に覆面の下の顔を顰める。
水気をよく含んだ軟体も下手な打撃を緩衝し、凌ぐ。

「先に仕掛けンぞ。水気を絞って、まずは乾かしやすくするか!」

では、と。外套の下から幾つかのものを取り出す。
陶器の器を張り合わせた丸いものと、シーフ御用達の油壷である。タイミングを計り、入り口から広間の方へと躍り出よう。
世話役のつもりか。幾体の魚人が屯しているあたりに目掛け、紐を括り付けて振り回した油壷を叩き込む。
景気よく割れ、砕ける。溢れ出す油に向かって、陶製の器で作った手製の炸裂弾に点火し、投じるのだ。
揮発した油分に火が移れば、静寂を乱すように大きい爆裂と炎が上がる。
奇怪な音声を鳴らす巨体が、水を招こうとする気配を察して――

「……させるとおもうかね。火より生じ、来たれィ土煙! 彼奴を干上がらせろ!!」

先手を打つ。火より生じる灰と、堆積した土砂を呼び水に、火に巻かれて土煙が舞い上がる。
それらが濛々と烏賊とも魚ともつかぬ異形にまつわりつき、その水氣の勢いを減じさせてゆく。
水が抜けて干からびれば、柔らかさと活性を失う。其処に付け入る「機」が生じよう。

ラファル > 「ん、確かに、取られたままと言うのは、竜の沽券にかかわるし、おかーさんのみょーだい……だっけ?として、トゥルネソルの竜として。
取り返さないとだめだよね、師匠。
てことで、卵も何もかも、殲滅しないと。」

 こう見えて、幼女は父親代わりに色々教えてくれる師匠に懐いている。教えてくれることは楽しいし、覚えることも、面白い。
 それに何より、ほめてくれるととても嬉しい。
 だから、スポンジのように知識や技術を吸収し、ほめてもらってうれしくて覚えていくのだ。
 彼が楽しんでくれているなら、其れもまた、幼女としては嬉しい。
 子犬のような夏器用ではあるが、本人は大まじめだ。

「―――にひ。」

 先に師が仕掛ける、師の忍術は、五行と言う思想が強い。まだ学んでいる最中で、理解しきれていないが。幼女は、風の竜。五行に当てはめれば、木竜となる。
 そのために、忍術で攻撃の手段は、限られてくる、師匠ほどに様々に使う事が出来ない。特化か平均かの違いではあるが手札は多い方がいい。
 師匠は五行相生を使い、炎から土を作り上げて、水の属性である神性の水を吸い取っていく。
 確かそういう流れのはずだ、ならば、その機をうまく使うのであれば。

「木は水を吸い生まれ、木は、土から養分を奪い取る……水生木、木克土……。」

 師匠の作り上げた情況から己の属性、木行を強く強く引き出し過剰ともいえる相乗状態へと持っていく。
 木は空気を生み、風を産む。故の風竜=木行竜。

「じゃあ、ね?おまけも、あげるから、たっぷり上手に、焼けてね。

 木行は―――火を生み出す。
 ファイア・マイクロ・バースト。」

 サムズダウンする幼女、師匠によって生み出された火災による熱、土煙、それらを巻き上げて、一気に上から落としていく。
 ブレスを吐き出すことも考えたが、其れよりもこちらの方が、強く範囲を焼ける。
 油瓶で巻かれた油の火が残っているから、その火を、風が呷り、強くさせて、燃え広がらせる。
 乾いた肉体に燃え移る炎、それを助ける嵐。
 局地的な台風といって良い其れは、洞窟の中を縦横無尽に吹きすさび、魚人を吹き飛ばし、『何か』を燃やし、切り刻み、衝撃で叩いていく。
 乾いてきた体にも火が燃え移り、生きたまま神性は燃え始める。
 この辺り、五行って、すごいのだな、と思うのだ、魔力を持たずとも、魔力のように、神性を燃やすのだから。

影時 > 「おうさ、その意味でもまさにそれが今回の任よ。
 必然として生かしては返せん。根絶やしにせにゃならン」

忍者の家庭教師として、かの家より生活の糧を得ている身である。
そして弟子であると同時に、家名を背負っている者からの意見を尊重しなければならない点もあれば、是非もない。
本来の任を達成する意味においても、この洞窟に巣食う悉くを滅しなければならない。
ここで気を付けなければならないのは、悠長に時間をかけていられない点だ。
よくよく生態、弱点を見定めて事を運ぶべきだが、退路と他に居るだろう魚人の眷属が集ると厄介だ。

――故に、今のこの時点において手段を択べない。

弟子の能力が竜の属性に強く影響を受けているのに対し、五行に基づいた森羅万象を駆する術に己は猛る。
地勢に左右される面はあるが、よく心得て使えば、効果は覿面だ。
始点として洞窟内に堆積した土を起こし、叩きつけるには水の氣が勢いが強すぎる。
故に別途火を起こし、火勢を高めてから改めて、土氣を励起させて上乗せする。

「欲を言やァ、土で埋め立てたい位だが、そうすると後で文句を言われかねんのが面倒だな。
 ラファル! 火に巻かれる奴が往々にしてどう足掻く、火を見るより明確だ。叩かれねえよう気を付けろ!」

だが、勿論これだけでは足りない。力を減じさせたなら、次は攻撃だ。
乾燥させたのであれば、良く燃えることだろう。
局地的に限定、集中した嵐の圧が火勢をさらに高め、一層に巨躯の何かや魚人たちを苛んでゆく。
しかし、焼かれる側が無抵抗に終わるわけではない。
焼かれながら、まだ水気を含む触手が水中より這いだし、高々と振り上げられては叩き付けられる。

それを紙一重で躱しつつ、太刀を抜く。触手の一本に飛び乗り、脇構えにした刃の先端を押し付けながら――。

「――――!!」

駆けあがるのだ。刃が抜けた後に、青い体液を飛沫いて獲物はわななく。
加熱した風と大気の中を黒い影が馳せる。触手のひとつを落とせば、飛び移って、もう一本。
水気を吸い上げる根でもあるものを失っていけば、おのずと弱る。そして、更に火が灯る。

ラファル > 「あいっ。全力で、ぶっ飛ばしちゃうぞぉ―!」

 ふんす。幼女は鼻息荒く、意気軒高。と言いながらも、師匠ほどには家名に意識は置いてない。その辺りは、人と竜の違いともいえるか。
 人の血が混じるから、曲がりなりにも家名にはある程度気にする、程度。その辺りは姉の方が気にしてるはずである。
 とは言え、殲滅依頼、楽しい楽しい、鏖のお時間だ、竜の殺戮衝動を子供の無邪気さを、残虐さを全て前面に押し出せるのは楽しい物だと。
 弱点が判らないなら、どうするべきか、圧倒的な火力で押し切るのが常套手段。それは実際にドラゴンの思考ともいえる。
 レベルを上げて物理で殴ればいいというやつなのだった。
 手段を選べないなら、今ある手段で一番手っ取り早い物が、良いのだ、と。

「土葬は確認が難しいからね!難癖付けやすいよ!
 触手うねうね来るよーっ!」

 燃える神性、足搔く彼らを幼女は眺める。師匠に向けられた触手は、見事な動きで切り飛ばされていて。
 幼女の方も、脇差を構えて、近づく前に真空波で切り飛ばすが。
 其れよりも。もっと火力が欲しい。

「――――!!!!」

 息を大きく吸い込む。本当は必要がない行動だが、それは合図でもある。
 ドラゴンであれば、殆どが持っている力、ブレス。竜の吐息である。
 幼女のブレスは衝撃波、音と衝撃の吐息であり、見えるものではない、炎や氷が出るようなものではない。
 回避が困難だからこそ、師匠と共にいる時は、技と息を大きく吸い込む。

 師匠であれば的確にブレスの効果を高めるように動いてくれる、よけてくれる、信頼あっての行動。

「     」   !

 音を超えた、衝撃がまず神性へと到達し、遅れて音が。
 副産物である音の刃が、ずだずだに切り裂いていく。
 当然、眷属や卵、神性の無い取り巻きは、そのブレスで、粉々になっていた。

影時 > 己もまた、基本的には拘泥するほどのことではない。
しかし、雇われている身である以上は尊重する、考慮すべき事項である。
不幸中の幸いとも云えるのは、この場に巣食う魔物達に云わば英雄クラスと言える強者の類がないことだ。
殺しても祟られるというのも至極厄介であるが、恙なく鏖殺ができるならばそれに越したことは無い。

放置していれば、明らかにろくなことにならない。
本尊の如く、此処に居を構えているモノを見ればそれは明白だ。
可能な限り速やかに、手段を問わずに掃討すべきは――今である。

「そうだな! が、抱えて持って帰るにゃどれもこれも嵩張ンのは面倒だぞ!!」

手頃な太さの足だけ、残しておくか。
殺到する触腕の一つの先端を切り捨て、残る太い束を太刀で切り裂いて下ろす。
烏賊を捌くような気分だが、こうも魔性に偏ったものは喰うつもりにはなれない。
討伐の証となるもの以外は何らかの形で処分し、滅却しなければなるまい。

そういう手立てであれば、丁度弟子が講じる気配が見える。
故に想定される攻撃範囲から、跳び上がって退き、着地したその場の地面に手を付ける。
土氣は先ほど高めた分が良く残る。十分だろうと判断すれば、印を結んで氣を走らせる。術を使うのだ。

「土より生じ、鍛えられる金の刃――疾く、速やかに事を為せィ!!」

音を置き去りにして、奔る竜の吐息。駆け抜けた後の虚ろに流れ込むが如く、巻き起こる風に術を載せる。
土中、並びに舞い上がった土煙の中の金属の粒を集め、いくつもの巨大な手裏剣を生み出し、駄目押しとばかりに打ち込むのだ。
幾つも刺さる刃で、剥き出しになった急所を見出せば、其処に駆け上がる忍びが太刀を突き立てて止めを刺せば、其れでこの場に新たなる静寂が訪れる。

竜の元住処に残るモノたちを片付ければ、不浄なものを焼却の上で帰途に就くことだろう。

その後、如何なる話や評等を得たかは――また、別の話にて。

ご案内:「セレネルの海・海蝕洞」からラファルさんが去りました。
ご案内:「セレネルの海・海蝕洞」から影時さんが去りました。
ご案内:「セレネルの海 岩場」にボブさんが現れました。
ボブ > (仕事でダイラスの方へとやって来た褐色肌の男はちょっとした余暇として岩場の方で釣り竿を振るっていて)

「今日はなかなか調子がいいな。 
この場所で釣りをしている人間が少ないのかな? 魚があんまりすれてなくって釣果がいい感じになってるわ」

(持ってきた容器に釣った魚を収めているが、容器の7割くらいはすでに釣果で埋まっていて
この調子だと容器のキャパシティオーバーでの釣り終了の目も見えてきたな…と男は心の中で思っていて)