2020/06/13 のログ
ご案内:「セレネルの海 浜辺」にナランさんが現れました。
■ナラン > 少し欠けた月が昇った夜。
王都から自然地帯へ向かって伸びる海岸にある砂浜を独り、辿る影がひとつ。
空には星々の煌めきを遮るものも無く、真っ黒な空と暗い海の合間には淡い光の水平線。
湿気を含んだ海風にターバンから零れた長い黒髪を嬲られながら其方を見て、ひとり歩く女は鳶色の瞳を細める。
王都で用事を済ませて、自然地帯にあるねぐらへの帰り道。
余り馴染みのなかったこの浜辺を、最近は通り道にしている。
昼間には陽光を照り返して眩しく飛沫を光らせていたであろう海も
夜空の下、見えるのは僅かな白波と穏やかな波音だけ。
「――――静か…」
さく、さく、と砂浜に足を沈めながら進む。
時折その足元を夜行性の小さな生き物が通って、その目をすこし、丸くしたりしながら
口元には穏やかに笑みを浮かべて、海の静寂を楽しんでいる。
ご案内:「セレネルの海 浜辺」にザイヴァーさんが現れました。
■ザイヴァー > 空には少し欠けた月、海の方角からはさざ波の音がする夜。王都の方角から、たったったと、砂浜を走る足音が、静かな浜辺に響くかもしれない。
『しっかし、こんな夜に走り込みなんてしなくてもいいんじゃねぇか?』
「黙れ愚剣。日々の鍛錬を欠かすなど、あってはならん」
走っているのは一人の男。だが、二つの声がする。片方は、剣の鞘から響く声。
この男、ザイヴァー・グランフォード・カイゼルは、最近の王城内のごたごたから解放され、久しぶりに体を鍛えるために、この走るには向かない砂浜を走っているのだ。
砂浜に、規則正しい足跡の跡がついていく。
すると、砂浜の奥に、一人の人影が。
「……ん?」
『へぇ、こんな夜中に出歩くなんて不用心な奴もいるもんだな』
そう剣が軽口をたたくのを、鞘をたたいて黙らせつつ、ザイヴァーはその人影に近づいていく。
「こんばんは、どうしたんだい?こんな夜更けに海辺なんて…」
そう、できるだけ優しい、低い声色を出し、強く警戒されないようにするのは、夜に男に声をかけられたと怖がらせないため。
夜中に王都の外を出歩くその人へ、声をかけて…
■ナラン > しばらく波音と自分の足音と、砂の感触をひとり楽しんでいると
後ろの方―――王都の方から、何やら話し合う声。
怒鳴り合いや不穏な雰囲気を孕んだものではない―――こんな時間に、とは思うけれども、すこし興味を惹かれて立ち止まる。
「―――…?」
振返って更に不思議に思う。
確かにふたりぶん、声を聞いた気がしたのに…
追いついてきたような形になった男に向き直って、走って来ていた筈だったのに息も切らせないその姿を、下から上まで見る。
携えている剣を見止めると、僅かに瞳を細めて。
「…こんばんは。
それは、あなたこそ…」
くすり、と女の口元に微かな笑みが浮かぶ。
「王都に買い物に行って、帰りなんです。
私、この先の王都の森で暮らしているので…」
そういって砂浜の先、黒い影となって聳える方を指す。
それから女は彼を振り返って、少し首を傾げる。
あなたは?と問い返す様に。
■ザイヴァー > あなたこそ、なんて言われれば、確かに。こんな夜中に走る男もそうはいないだろう。
「あはは。確かにな。俺は、王城で騎士をしているから、たまには走りにくい砂浜を走って悪路を走る特訓をね」
嘘は言っていない。将軍も騎士であるし、なぜ走っているかも言った通りだ。
「昼間は、ほかの騎士の訓練もあるから。こうして夜に基礎的な……」
『おいおい、そんな話を女の子にしたって退屈だろうが。それに、大の男が夜中に女に声をかければ、それだけで警戒されるっての』
すると、剣の鞘から再び声が。
『よう、嬢ちゃん。俺様はバスカードってんだ。よろしくな。で、こいつはザイヴァー』
「黙れ愚剣」
ガシンと軽く鞘を殴り黙らせるザイヴァー。
そして、相手の住まう場所のことを聞けば。
「ほう、この先の森で…?」
あまり深く突っ込むのは野暮だろう。だが、気になった。
「失礼だが、危なくはないか?君は、見たところ女性だろう…?」
純粋に、心配しての言葉を発して。
■ナラン > 「騎士さん、でしたか」
ぱちぱち、と鳶色の目が瞬く。
そうして腰の剣に納得したようにうなず…こうとした所。
「!?―――… あの
…はい、 よろしく お願いします…」
その剣から響いた軽妙な口調と所有者たる男とのやりとりにまたふたつ、瞬きを。
男と剣との間に視線を揺らして、眉がすこし困ったように顰められる。
それが解けるのは、男からの次の問いに気付いた時だったろう。
「…ああ。 そうですね、一応、女ではありますが…
慣れてますので。もう結構長い事、なんとかやっていけています」
口元に浮かぶのは苦笑めいたもの。
それは性別を確認されたことへか、それとも己のくらしと、目の前の騎士との暮らしを思いやってか。
「ザイヴァー さんには、森の暮らしは危険に思えるのでしょうけど
私にとっては、街のほうが 怖いんです」
■ザイヴァー > どうやら、相手のことを困らせてしまったようだ。ザイヴァーは申し訳なさそうに。
「いや、すまない。この剣は…喋るんだ、喋るだけならいいんだが、こう、口が軽くてな」
『おいおい、口が軽いったぁ失礼だな。まだ彼女を口説いてねぇだろ?』
「…こんな感じの奴だが、悪い剣じゃない。不快にさせたなら謝ろう」
そう軽く頭を下げる。そして、街のほうが怖い。との言葉には。
「……なるほど。まあ、これ以上は聞きません。すいません、会ったばかりなのに踏み込んでしまい」
そう言いつつ。森のほうを見やる。自分にとっては、夜の森は不気味で危険な場所だが、その不気味さと危なさが、逆に彼女を守ってるのだろうか…
「……どうでしょう、森の手前まで、護衛しましょうか?」
『お、何だザイヴァー、訓練中じゃねぇのかよ』
「休憩だ。途中途中に短い休憩をはさむのも訓練だからな」
騎士として、将軍として。この地に住む人の護衛は仕事のうち。ということで、森の手前まで護衛しようかと提案しようと。
■ナラン > 再びの男とその剣とのやり取りに瞬いてから、女は今度はくすり、と笑み零す。
「不快ではないです…ちょっと、不思議なだけで」
言葉通り、女の剣をみる視線は、いまや好奇心の光を宿して
それから男と目が合うのなら、子供っぽい仕草にすこし照れ臭そうに笑みを深めるのだろう。
謝罪の言葉を聞くとこちらの方が困ったように笑って、気にしないで欲しい、と手をひらひらと振る。
「いえ、特に深い理由じゃないんです。
昔は一族で草原を移動して暮らしていたので、ちょっと、慣れないだけで…」
森を見る彼の視線を追う様に、自分でもそちらを見て
―――それから申し出に、やり取りに、目を丸くして
最後には柔らかい笑みを、口元に。
「ありがとうございます…
でも、護衛は必要はありません。
……けど」
視線を一度足元に、それから少し上目に剣と、それからまた彼に視線を上げて
「…森の手前まで、お話をしてもらってもいいですか?
普段ひとりで、あまり街の事も知らないので…」
要するに、話し相手が少し、恋しいのだと。
小さく付け足してから最後は彼をまっすぐに見返して、また自分に困ったように笑う。
「…ご迷惑でなければ」
■ザイヴァー > 不快ではない。そう言ってくれればほっとして。
「あはは、初めてこいつのことを見た人は、みな不思議がります」
『失礼しちまうよな。ただ俺は話してるだけなのによ』
そして、草原を移動していたとの言葉には、なるほど、遊牧の民の血が流れてるのかと思い。
護衛が必要ではないとの言葉、それに続く、街の話をしてほしいとの言葉には。
「ああ、俺でよければ、話し相手になりますよ」
『良かったじゃねぇか、ザイヴァー。一人寂しく訓練しなくて済む……』
「黙れ愚剣」
そんなやり取りをしつつ、困ったように笑いつつも、まっすぐ見やる相手には、優しい笑顔を浮かべて。
隣に立ち、相手が歩くなら、ゆっくり歩調を合わせようと。
「では、何から話しましょうか…」
『あれなんていいんじゃねぇか?最近、屋敷のメイドがよく食べてるおすすめのパンとか』
「たまにはいいことを言うな、愚剣。俺の屋敷のメイドが、とても旨いパンを焼く工房を…」
なんて、ゆっくりと話していこうか…
■ナラン > 「ただ話すだけでも、私には不思議なんです」
ちょっとおっかなびっくり、剣へと話しかけてみる。
続く剣と男とのやりとりにはもう慣れた様で、微笑ましく見守ってくすり、と笑う。
腰元に彼がいるなら、悪いことはできませんね
なんて軽口を付け足したりして。
彼が傍らに並んでくれようとするなら、またさく、と砂を踏んでゆっくりと歩きだす。
「…お屋敷に住んでらっしゃるんですね?」
その点でもう女は目を丸くしてしまう。
果たして森の入り口まで辿り着くまでに
パンの話にもたどり着けるのだろうか…
ご案内:「セレネルの海 浜辺」からナランさんが去りました。
ご案内:「セレネルの海 浜辺」からザイヴァーさんが去りました。