2020/03/16 のログ
ジナイア > 半分に近く欠けた月が漆黒の夜空の中点に昇る頃。
空の色を映し返す海の水面も墨を流したように真っ黒で、波の揺らめきが弾く月明かりはその水面に光の路があるかのように錯覚させる。

王都からダイラスに向けて広がる海岸線の一角にある岩礁地帯に、ひとつ突き出た岸壁がある。
陸の森から丘となって伸びた先でもあるその場所に、今ぽつねんと人影がひとつ、まろび出てきた。
ざく、ざく、と伸びた雑草を踏み分け、覗き込めば岸壁へ砕ける白波が見えるほどの先端へと。
灯りも手にせず、海から吹く緩い風に黒髪を嬲らせるその女は、翠の瞳を細めて水平線を、それから足元のほうの水面へ、更に王都の方へと視線を巡らせていく。

「……思っていたよりも、進んでいないな…」

海岸沿いにちかちかと瞬くものを見止めると熟れた唇には苦い笑みのようなものが浮かんで、嬲られる黒髪を抑えながら今度は王都とは反対の方へと首巡らせる。
遮るものがあるのか、方向が違うのか。
一種目的地である筈のハイブラゼールと思しき灯りは見えない。

この海岸線上にあるという、洞窟の位置を特定してほしい――――
王城の知り合いからの、依頼と言うよりも気軽な『頼み事』。
気楽に頷いたものの、真面目に取り掛かると少し、厄介なことになるかもしれない

ジナイア > 「もし、解れば、程度だったからな……」

視線をまた、岸壁の下の白波へと戻しながらそう溜息混じりに呟いてみるものの
それはそれで『見つからなかった』と報告するのは少し癪な気もする。
――――と、言うより芸が無い、というのか。
せめて何ぞの手がかりかは持ち帰ってやりたい、と思うのは思いやりからか、単なる意地か―――――恐らくは両方。

くすり、また唇に笑みが浮かぶ。
今夜はここで休んで、明けたら崖下の調査をしてみてもいいだろう。
波音の合間に、海鳥の声がする。
暫くその声の主を月光が煌めく漆黒に探してから月を見上げて、目を慣らすように瞬きを。
やがて踵を返して、また森の方へと歩んでいく。

潮風を凌いで一晩を過ごして―――――果たして明日はどんな日になるのか。

(雨にでもならなければいいが)

人影が森の影に溶け込むと
そこには風に揺られる光景だけが残る……

ご案内:「セレネルの海 岸壁」からジナイアさんが去りました。
ご案内:「セレネルの海」に空木さんが現れました。
空木 >  セレネルの海、その入り江某所にて。

「笑止」

 突如として出現した巨大なタコに海に引きずりこまれそうになったが、ものの一言で斬り捨ててみせる程には女は不測の事態に慣れていた。
 巻きついてくる触手を千切っては投げ千切っては投げ。
 頭部に三度切りつけ、目をえぐり、脳みそを吹き散らす。
 どうと倒れこんだ巨大蛸を足蹴に、砂地へと戻る。
 久々に散策に出てみればこの始末。なんと運のないことか。腹いせに、この巨大蛸を食ってしまおうか。
 女の故郷では、蛸は食べるものだった。
 ということで濡れたい服を焚き火の傍に突き刺した棒に吊るして干しつつ、膝を抱えて焚き火を眺めていたのだった。

空木 > 「十人は食うに困らない量でございますね。
 労力には合いませぬが」

 蛸の足を棒に突き刺して焚き火で焼いている真っ最中。
 食べ応えがあるなどという段階を超えている。ぱっと身では、大きい肉を焼いているように見えるかもしれない。
 肝心の頭の部分は、処理がめんどくさくなったのでそのまま海に返してある。

「へっくち………っ」

 肌寒い。焚き火に薪を投じると、火掻き棒で突いて火の調子を整えてやる。
 目は閉じたまま。しかし、薪を手繰り、投じる動きには一片の迷いも無い。音があれば、見える。そういう人種であった。

空木 > 「どれ、一口……」

 熱々のタコ肉を一口頬張る。
 もさもさと無言でかみ締めること丸一分。

「雑な、味でございますね………」

 あまりおいしくなかったらしく、渋い顔をしたとか。

ご案内:「セレネルの海」から空木さんが去りました。