2019/10/09 のログ
ご案内:「セレネルの海」にダリアさんが現れました。
■ダリア > 神聖都市の外れ、月明かりに照らされた、静かな夜の浜辺。
穏やかに打ち寄せる波の音と、吹き抜ける風の音だけで満たされた場所に、
不意、さくりと砂を踏む足音が加わった。
浜辺に面して口をあける、人ひとりがやっと通れる程度の洞穴。
岩肌がさりげなく整えられて、明らかに人の手が入っていると思しきそこから、
白いローブを纏った女が一人、浜辺に出てくるところだった。
肩や腕が剥き出しになる簡素なローブの上から、長いストールを羽織ってはいる。
けれどその佇まいは何処かしどけなく、表情は熱に浮かされたようにぼんやりとして、
眼差しの焦点は曖昧に、夜の海を映していた。
一歩、二歩、――――足を進めるごとに、肌が青白く冷めていく。
やがて、瞬きをひとつ、ゆっくりと。
「―――――あ、ら……
ここは、……海………?」
ふ、と目を開けたとき、その瞳は常の光を取り戻していた。
きょろきょろと周囲を見渡して、不思議そうに小首を傾げる。
腕に絡みついていたストールを肩へ羽織り直し、胸元で掻き合わせながら、
抜け落ちた記憶を辿ろうとする間が、暫し。
■ダリア > 考え込む時間は、けれど然程長くない。
夜風に乱れた髪をそっと手櫛で整えつつ、恥ずかしげに目を細めて。
「……また、寝惚けてお散歩なんて、…嫌だわ、恥ずかしい」
ふふ、と溜め息交じりに笑いながら、そっと首を振る。
手首を彩る黄金色を、しゃらりと揺らして。
「こんな事じゃ、また、あの方を心配させてしまうわね。
それとも、笑って下さるかしら…」
『あの方』とは勿論、婚約者のことだ。
愛しい人である筈なのに、その顔すら思い描けない不自然にも気付かない。
時折訪れる記憶の欠落に、気付けないのと同じように。
しかし、この景色には見覚えがあった。
恐らく修道院から、そう遠く離れてはいない。
女の足でも、充分歩いて戻れる筈の距離だった。
■ダリア > 「きゃ………」
水面を渡り吹きつけてくる風が、俄かに冷たくなった気がした。
思わず小さく声を上げ、既に充分冷めていた身体を竦ませる。
「……そろそろ、戻りましょう。
風邪を引いてしまったら大変……それに、
きっと皆さんも心配しているわ」
独り言ちて、砂浜の上に歩を刻む。
さくり、さくり―――――緩やかな足取りで、街の方を目指して。
幽鬼のように白い女の姿は、程無くして闇夜に消えた。
ご案内:「セレネルの海」からダリアさんが去りました。