2019/09/23 のログ
ご案内:「セレネルの海/小さな入り江」に紅月さんが現れました。
紅月 > 食べ物には、その食べ頃である"旬"というものがある。
例えばトマトやキュウリは夏野菜であるし…さつまいもなんかは収穫時期である10月頃に食感を楽しめ、二ヶ月程貯蔵庫で寝かせた物は適度に水分が飛び身が締まってホックリ甘くなる。
何故唐突に、こんな話になるのかと言えば…

「……ぷはっ!
ふは~、捕れた捕れた…今夜はアサリ尽くしだ」

ザパァ、と、海から出ずる紅の糸束。
海面から持ち上げた手には網袋…中には二枚貝がギッシリと詰まっているようだ。

…二枚貝、つまりアサリである。

アサリの収穫時期は初夏に近い春頃のみと思われがちだが…実は秋にも産卵するため、クラゲに刺される覚悟と寒さへの耐性さえあれば中々によく捕れる。

「…お、何だ何だ、絡まるんじゃないよ。
ほれほれ、あっちへお行き?」

髪を掻き上げた手で、むんずと掴み…ぽーい。
半透明な笠の美しいクラゲが一匹…触腕をたなびかせながら、これまた美しい放物線を描いて空を舞った。

人間より頑丈な鬼族の表皮を持つ紅月にとっては多少の自然毒ぐらいミズクラゲと大差ないし、少々強めの毒でも焼いてしまえば無毒化できるものも多い。
それに加えて耐寒性にも其れなりに優れているとなれば、おのずと…やたら賑わう初夏以降より、秋の旬の方が心置き無く潮干狩りを楽しめるのだった。

ご案内:「セレネルの海/小さな入り江」にエルディアさんが現れました。
エルディア >   
海岸でクラゲを優雅な軌道で投げる人影の背後、少し離れた場所の海面が揺らいだ。
僅かに濃い色をした何かが水面下をゆらゆらと不規則に移動しながらも
まるで獲物を狙うサメのように音もなくその人物へと近づいていく。
その不穏な影はギリギリ目視出来そうな距離位まで近づくとざばぁ!と水面を割り……

「……ぃしょー」

……気の抜けそうな声と共に岩を持った海藻おばけが現れた。
正確には頭に巨大な海草郡を乗せ、岩を持った女児だが
海藻が余りに大きすぎて身長の高さを優に超えているため
ほぼ全身を海藻に覆われている。
傍から見ると海藻のお化けが海岸に向かってぞわぞわと蠢きながら
ゆっくりと向かっているという夜や夕方なら怪談待ったなしの状況。
もっとも本人は一切気にしておらず何か乗っかってるなー程度の無頓着具合。

「こーげつ、とれたー」

先に海岸に向かっている赤い人影を認めると硬質化した腕でつかんでいたものを海藻の隙間からぽーいする。
人の頭ほどの黒いとげだらけの球状生物が緩い放物線を描いて飛んで行った。

紅月 > 「ふおぉ…!
…ぇ、ほわあぁあああっ!?」

色気もへったくれもない叫びが、静かな入り江にこだました。
さもありなん。
急に近くで鳴った水音に驚き、けれど可愛い養い子の声に振り返ったら…海草オバケがトゲトゲした巨大な何かを此方に向かってペッと吐き出していたのだから。
害意も殺意もなく攻撃されると、どうにも反応が鈍くなりがちでいけない。
…相手が悪気なくやっているのだから害意なんぞある筈もないのだが、それはさておき。

「ぁいだーっ!?
……、…う、うに…?」

案の定、というべきか…いつぞやの温泉盥よろしくドゴォと命中したそれを、とりあえず拾って。
ポツポツと赤い判子の押されまくった二の腕辺りを摩りながらひっくり返してみれば…ほんのり紫がかったトゲがゆっくり蠢いているその合間、よく小型版(※通常サイズ)でカチ割る溝をみつけた。

…再び、海草オバケに視線を戻そうか。
小さな身長、愛らしい声、怪力と黒い腕…

「……エルちゃん。
大漁なのは凄いけど、おねーさんの心臓に悪いから海草は退けようか」

正体さえわかれば何でもない。
ザバザバと海草オバケ…もとい、幼い少女のもとへ巨大ウニを小脇に抱えながら歩み寄っていく。
彼女がボンヤリしているようなら恐ろしくワッサリ生えた海草を掻き分けてみよう。

エルディア >   
我ながら良い物を見つけたと思う。針艶も良かったし。
大変立派なとげを持ったつやつやとしたアーチンさんだった。

「んー?」

悪意の欠片もないがはっきり言って暴挙である。
人の頭サイズともなれば天然のモーニングスターのようなもの。
体を覆っていた細い海藻が若干絡みついているせいで夕暮れにでも投げれば
生首を投げつけたと一瞬思われてもしょうがない。絶句ものである。
心象的にも物理的にも普通に危ないので怒られ手も仕方がないが
そういう常識に相当するものは端からこの幼女には無かった。
因みに衝撃を与えると全身の棘を発射したり、銛のように棘で魚を仕留めるウニもいるらしい。怖。
……そういえば掴んだときなんか手に当たった気がするが刺さらなかったので気にもしていない。
そんな事よりも言わないといけない事がある。

「……」

ぽいっと岩を投げ捨て腕をあげようとして海藻ごと持ち上がる様に僅かに首を傾げる。
ウミボーズとかいう生物がいるらしいけれど今なら語り合える気がする。

「んーと」

並をかき分け、色々な意味で豊かな体を惜しげもなく晒しながら
ゆっくりと此方に近づく姿にちらりと目をやり
こちらもゆらゆらと左右に揺れながら近づくと
直前で立ち止まり、身長差に顔を見上げる。
ゆっくりと伸ばされてくる腕が顔にかかった海藻を分け、
半分以上隠れた視界が明るくなると

「がおー」

感情が微塵も現れていない表情で見つめ、紅と目が合うと
抑揚の欠片もない口調で小さく呟くとほんのわずか、ごくごくわずかにだけ口端が弧を描く。
珍しく自分の格好がふざけているという自覚はあるよう。

紅月 > 巨大ウニは海草に巻かれ、揺りかごの赤子よろしく大人しく…否、やはり時折元気に蠢いているが。
ここまで御立派だと飼うのも面白いかも…なんて脳裏をよぎったりして、いやいや冷静になれと思い直す。
…と言うか、アレだ。
生首かと思いきやモーニングスターだった、という方が被害的には恐ろしい事になりそうだ…下手したら刺さるんじゃなかろうか。
人間族なんぞ打たれ弱いから、絶句する前に昇天もありうる。

…おウチ帰ったらキチンと言い含めておこう、と、かたく誓う今日この頃。

閑話休題、兎にも角にもオバケを退治せねばと海草を払う。
と、珍しく…それはもう珍しくほんのり笑顔な御尊顔。

「…きゃー、出たぁ~!」

虚を突かれ一拍…後、口調とは裏腹のだらしない笑顔。
そして抱き付く、とりあえず抱きしめる。
「なにこのこ可愛い」
と、語彙力も低下気味である。

…ウニとアサリ?
ボチャンと音がしたから、たぶんその辺に沈んでいるんじゃなかろうか。
どのみち入り江の中だとわかっているのだから、再び捕まえるのは造作もない。

エルディア >   
なんだかんだ言って頑丈という確信もある。
これ位なら被害のうちに入らないだろうという判断はそれほど間違っていなかったようだ。
怪我自体大したことではないと思っている節はあるが
怪我をしない方が良い遊びがある事は心得ている。

「ぶぃ」

とりあえず本屋のおじちゃんが言ってた。
海に行ったらとげとげを探してこーげつに投げろと。
ついでに記録水晶にこーげつと自分を映してこないとだめだ絶対だめだと凄く念を押された。
何なら水中用の服を脱いだ状態で写真を撮らないと大変な事になると熱弁されたので
あとでそれは何とかしないといけない。とりあえず一つ目のミッションは終わらせた。
でもそれは後で良いと思う。
今大事なのはその途中で聞きだした、トゲトゲが食べられるらしいという事だ。

「ぅず……」

海岸には流木も沢山あるし、炎術魔法でも使えば火は起こせる。
丸焼きにすれば多分食べられるはず。大体の物はそれで食べられるし。
実は海で遊ぶのは初めてなので実はちょっと浮かれている。

「?……!?」

などと考えていたら何故か急にハグされた。
がおーしたあとの反応がちょっと思ってた反応と違う。
……けど。

「ふかふか」

ひんやりとした気温の中ぎゅっと抱きしめられ
海水でぴったりと体に張り付いたローブ越しに
体が当たっている所がじんわり暖かい。
暫くそのままで居た後少しだけぎゅっと抱きしめ返し
秒で放した後プルプルと頭を振り頭に乗っかった海藻を落とす。
一度だけ髪を払うと陽光の元伸びた髪が舞った。

「こーげつ、さがしもの、あった?」

海に入る前、何かを熱心に探すと息巻いていた。
今晩のご飯は期待しててと良い笑顔だったのでたぶんそれに類する物なのだと思うのだけどと
ゆるーく辺りを見渡す。
……海に牛とかはいるのかな?
基本陸の生き物なので海にいる生物には詳しくない為
波間を走る牛の姿を頭の中で描きつつ首を傾げて。

紅月 > 「……は、はぐ…ハグ返し、だと…!?」

あまりの衝撃に再び固まる。
無表情ガールのがおー、からのハグ返し。
愛らしさにノックアウトされてしまいそうである。
彼女の思考のなか…非常にけしからん男の野望が渦巻いていたとしても、巨大ウニが生命の危機に瀕していようとも、当然知る由もなく。
普通に遊びに来た紅月は、幼女が不思議そうにキョロキョロしながら問う声にハッと我に返ったようだ。

「…あ、あぁ、探し物ね!
あったよ~……っ、そうそう、これ。
アサリって名前の貝でね、煮たり焼いたりして食べるの」

その場にしゃがみ込んでパチャパチャと、浅瀬に少々零れていたらしいアサリを網袋へ戻すと幼女に見えやすいよう持ち上げて。
…ついでに、はしっと片手でウニを捕まえておく。

「エルは海、初めてだっけ?
此処なら魚とかカニも捕れるから、何か適当に捕れたモンでお夕飯にしよっかな~って!」

楽しげに説明しながら砂浜を振り返れば、海水の入った樽と手網が置かれている。
酒場で余った中くらいの古樽を譲ってもらい、生け簀かわりにしようと持ってきた物だ。

ご案内:「セレネルの海/小さな入り江」に紅月さんが現れました。
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エルディア >   
人の居ない環境で、周囲には精霊の気配もある。
お気に入りと遊んだ挙句、食べた事のないものを食べられる。
今まで大きな湖は何度か見た事もあるし、そこで魚を取ったこともあるが
向こう岸が見えない程大きいは初めてだしこんなとげとげもいなかった。
過ごしやすい環境で未知の体験に未知のご飯、これでテンションが上がらない訳が無い。
つまり珍しく滅茶苦茶ご機嫌だったりする。
なので本人が思う以上に無邪気な行動になっている。

「こーげつぅ?」

自分を抱きしめて固まる姿に僅かに首を傾げる。
固まった後何故かプルプル震えているけれど、寒いのだろうか。
けれどそれもはっと我に返るような仕草とともにおさまる。
うん、海って変な行動を誘発するらしい。

「じゅるり」

そういえば出会った時も何か食べてた気がする。
よくよく食に縁があるというか、食は全ての基礎というか。
掲げられた袋には沢山の二枚貝が入っている。
そういえばあとで使うからあれは倒しちゃダメと言っていたっけ。

「える、くまとおなじことできるよ?」

つまりはお魚を取ればご飯になる可能性がある?と考え
軽く腕を振る仕草をしながら紅色の瞳を覗き込む。
サモーンとか言われている赤い白身魚を水辺に打ち上げるとかあんな感じにとれるかもしれない。
やっちゃう?と目で問いかけつつ背中からいつも以上に大きさを増した巨碗が湧き出る。

「かに…はさみでぐぐってしてくるやつ。
 焼くと美味しい…?」

一人でご飯の時はほぼ丸焼きにしているため
大体食べ物=焼くと美味しいなのだが海のそれはちがうかもしれないと
両手を鋏のカタチにして首を傾げ。

紅月 > それはもう、妖精や精霊の類いは多かろう。
何なら呼べば近海の人魚や海竜も出てくる、穴場中の穴場…というかこの女が秘密基地にしている時点で御察し、である。

「くまさん…あぁ、鮭獲るヤツか!
普通は釣りか籠罠、せめて槍とか銛を使うんだけど…うん、エルちゃんの動体視力なら充分イケそうだもんねぇ。
川魚の塩焼きも美味しいけど、海の魚もまた刺身にすると脂が乗ってて美味しいのよ~…」

一瞬何を言い出したのかと思ったが、幼女のその動作に見覚えがありすぎた。
ポンと手を叩いた後に、狩る気満々のキラキラした瞳にGOサインを…なんだか豪勢な夕飯になりそうな予感に笑みを浮かべる。
ついつい溢す海鮮の感想…しみじみとした語り口に捌きたての刺身を食べたときの感動が洩れ出てしまっているが、紅月当人としては無意識だ。

「そうそう、カニさんもねー……茹でて身を食べるでも、煮込んで汁物にしても、網焼きでミソに米酒足しても…小さいヤツを丸ごとコンガリ姿揚げ~も、堪らなくってねぇ?」

人差し指と中指でチョキチョキと、カニの仕草を真似ながら思い浮かべるのは蟹料理の数々。
…この女、人喰いにもかかわらず食い道楽に片足突っ込むどころかドップリ嵌まっている。
うっかり涎でも垂らしそうな蕩けた表情は、完全に飯の顔である。

「…あ、でもクラゲは毒持ち多いし調理が大変だから、来年くらいにね?」

ハッと再び現実に帰ってきた女は、それでも結局食で頭がいっぱいであるらしい。
クラゲすら食べられるとか言い始めた。
こてん、と小首を傾げても、語る内容が内容なので可愛げ等々はお留守だ。

エルディア >   
基本精霊には好かれないどころか怖がられる事が多いが
海に住まう精霊は恐怖心に耐性があるのだろうか。
陸で会う精霊よりも距離感が近い。
それだけ自然な姿に近いと言えるのだろう。
そんな中で凄く美味しそうに語る姿に小さく唾をのむと同時に
頑張って大きなのを取ったら褒めてもらえるかな。と小さな欲が胸中に産まれる。
とってもいいって言ってたし……  

「ん」

これは何としても美味しいのを捕まえなくてはいけない。
そう決意すると即断即決。
小さく声を発すると腕の中からするりと抜け、
中空に足場をいくつか形成し、壁を蹴りあがる様に文字通り空へ駆けあがると空中に身を投げた。
舞うように体を捻り、一瞬だけ時間が止まったように空中に静止しながら眼下を睥睨する。
一瞬視線が水面を駆け巡る。ああ、幸運にも良さそうなのが居た。

「ふぁぃぁ」

小さな呟きと共に文字通り腕が火を噴き、魔力性の紅い残光を残しながら水面に飛び込んだ。
水の抵抗が少ないように飛び込んだにもかかわらず轟音と共に凄まじい水柱が立つ。
それによって打ち上げられた水が雨のように細かい水滴となって降り注ぎ、
その合間を吹き飛ばされた魚が弾丸のように海岸へと吹き飛んでいく。
完全に発破漁や石打漁に近い規模の熊さんパンチだった。
降り注ぐ光が少し落ち着いたころ少し離れた水面からばさりと髪を払うように銀色の頭が現れた。

「とれた」

相変わらずの無表情で捕まえた魚を背中の巨碗で鷲掴みにして見える様に宙にかざす。
明らかに自分の体躯より大きなそれは恐らく
何が起こったか理解する暇もなかったようで完全にマヒしていた。

紅月 > 決意で満たされた幼女の背に
「いってらっしゃ~い」
なんて弛い声援を送りつつ、自身は一旦海岸へ…何せウニと貝で完全に両手が塞がっている。
先程ポイされた海草もついでにサラダにしようと肩に担いで…2つ並んだ樽の片方に海草と貝、片方にウニをそっと入れてやる。
…どうしてもウニが狭そうに見えるが、干からびるよりはマシだろう。
なお、海草の樽の底には既にサザエや岩牡蠣、トコブシやバテイラなんかの貝類が種類別に袋に入れられている。
海女さんレベルの範疇で、常識の範囲内の平和的な漁だ。

「さてエルちゃんは~…」
と、ホクホクした笑顔で振り返った瞬間の『ふぁぃぁ』である。
この入り江は岩場に隠れるように在る為か、ある程度沖に行くだけで結構な深さがある。
だからこそだろうズドォォンと盛大に上がる水の柱はさながら噴水…キラキラと舞う銀色は、この場合幼女の髪ではなく憐れにも吹き飛ばされた魚たちで。

「……、…う~ん…?」

これは、良いのだろうか…と首を傾げる。
故郷では発破による漁は水棲の妖への近所迷惑の観点から、一応控える事を推奨していたが…この国はそもそも全方位にケンカ売ってるし。
何かが怒り狂って出てきても、あの弾丸娘と己なら戦力的に狩れそうだし…と。
…とりあえず。
ピチピチピチ…と岸で必死に跳び跳ねる魚の回収が先だろうと思考を切り上げ、さして広い訳でもない入り江を駆け回る。

「おぉ、お帰りエルちゃ……でっっか!」

漁師さんから貰った古い手網を担いでポンポンと回収し終えた頃、拾った小魚とは比べるべくもない王者の風格漂うお魚様を伴い帰還する…幼女。
テッテレー☆と謎のファンファーレが付随しそうな勇姿である。

「と、獲れちゃったねー……いやコレ凄すぎて樽じゃ無理だわ、タライ船どっかにあったかな~…」

とりあえず手網の中の魚は樽に入れておき、真水を喚んで手を清めれば
「ちょっとそのまま持ってて!」
と幼女を待たせて亜空間倉庫を漁る。
取り出したのは極東風の和紙の冊子で、それをパラパラと捲り…タライ船の挿し絵を見付ければ、それを喚び出して幼女専用の生け簀にするつもりだ。

エルディア >   
精霊に影響を与えるようなことでなければ法律も何も気にしない。
良くも悪くも判断基準が少ない事から周囲の被害には目もくれない。

「ぅーん」

とは言え次はもう少しうまくやろうと考えていた。
もう少し抵抗を少なめに切り込めばもう少し鋭く捕獲出来た気がする。
次回に向けて反省しながらもそんな歩く非常識はそれなりに釣果()に満足した様子で
水面に広がるローブを広げてみたりして遊んでいる。
身にまとっているローブが特別製で良かったかもしれない。
これが無ければ下は何も着ていないのだから。
……まぁ見られたところで気にするタイプでもないが。

「あっぷあっぷ」

そろそろ浜辺に向かおうとくるりと体をくねらせる。
此処は足が完全につかない深さなので
水面をバシバシ叩いて盛大に水しぶきを上げながら岸に向かう。
お世辞にもうまい泳ぎ手ではないので飛沫の割にはあまり進んではいない。

「……」

岸が、遠い。
普通に海面から飛び出して空中を駆ければすぐなのだが
何故か泳いで帰ろうと頑張っているようで
数分後にやっとこさ海岸につくと一息ついた。

「こーげつ?」

そしてつかみ取りしたびちびちと跳ねる魚を両手で抱えて
僅かに期待の色を宿した瞳でじっと見つめて。

紅月 > そりゃあ、巨大な腕を生やした状態で、しかも重量のある魚を持ったままの着衣水泳…普通ならほぼほぼ確実に溺れる案件だが、残念ながらこの場で普通な生き物は少数派である。
下手ながらも沈まない分、筋はかなり良いと言ってもいいんじゃなかろうか。

そんな彼女を視界の端に入れながら冊子よりズルリと巨大な木桶、つまり鬼族仕様のタライ船であるが…それを取り出して海岸に置き、更には水を操って海水で満たす。
全てを終えるのにそう時間はかからない故…後はタライに巨大ウニを移してやって、自身もタライの横で座って待機だ。
「頑張ってる、頑張ってる」
なんて完全に保護者目線で幼女を見守り、御迎えする気満々である。

「エルちゃんおかえり!
おっきいの捕れたね、凄いね~っ?
泳ぐ練習も頑張ったね、偉い偉いっ!」

にこにこ、と、それはもう上機嫌に幼子を褒め称える。
暴れる魚が邪魔で抱き締めるのが難しそうなので、とりあえず頭を撫でるに留める…が。
ポンポンとタライを軽く叩き、そちらへ魚を入れるよう無言の指示を出してやって…幼女がそれに気付き魚を離したなら、もれなくハグと高い高いが待っている。

「…今度、ル・リエーに一緒に行こっか。
水着に着替えたらもっと泳ぎやすくなるよ?」

耐水付与があるとは言え、ローブはローブ。
ぐっしょり濡れて重量の増した幼女に小さく苦笑して、そんな提案をしてみるが。
はたして、彼女はどんな反応をするだろう…?

エルディア >   
独りで居る時は泳ごうなんて考えなかったのになぁと不思議に思いながら
大きな盥にひしと抱きしめていた魚をぽぃする。
もう少しで絞め殺すところだった。危ない危ない。
一息ついているとふぃと持ち上げられ両手両足をぷらぷらさせる。

「……んふー」

頭上に掲げられ、その後目線の高さが同じになる瞬間に首元に手を絡める。
バカンスに来て気分がかなり浮ついているからか
随分感情的な自覚が自分にもある。
でも遠出なんてそういうものでしょう?とも思うので問題なし。
こうやってどこかに出かけるのは好きだ。
というより記憶の限りでは定住している事の方が珍しい。
だというのにいつの間にか定住を当たり前と思っている自分に少し驚く。

「んー……」

一つ所に留まっているよりもお出かけには心が揺らぐ。
ル・リエー……たしか王都の水浴び場だったか。

「……える、これがいーの
 こーげつのが、いいの」

ローブをぎゅっと抱きしめて。
身長も体格も全く別という事は判っているからただの我儘なのだけれど。

紅月 > 今、お魚さんから『助かった…』と聞こえた気がする。
チラリと視線を向けるが、どう見ても普通の魚なので幻聴だろう…水中言語はまだまだ勉強中なのだ。

「高いたか~…っと、おおぉ……どしたどした、甘えんぼさんかー?
…ふふっ、ぎゅ~してくれるの嬉しいなぁ~」

引っ付く幼女に、これまたビックリ。
けれども目を丸くしたのは一瞬で、そのすぐ後には花の咲くような笑顔で喜びを告げて。
抱っこしたまま髪を撫でてやり様子を伺うと…何やら、次の外出について悩んでいるらしい。
共に過ごし始めてから、無表情の中の変化に目敏くなった気がする…それとも彼女の表情が豊かになってきたのだろうか、どちらにせよ嬉しい限りだ。

「…うん、そっかぁ。
こーげつのがいいのか~。
……、…和服なら小さいのもあるんだけどなぁ、洋服はあったかなぁ…?」

和服の小さいの…つまり、変化用に取っておいた子供時代の袴や浴衣などだ。
さすがに褌を貸すのは気が引けるので出しやしないが…麻布の湯帷子は、あった、ような?
暫く子供姿に化けていないからか、最早うろ覚え…いっそ、最近使ってない洋服のお古を切って縫い直した方が早いかもしれない。
うんうん唸りつつ、幼女の背中をポンポンと撫でて。

「……紅の持ってるお洋服や飾り…エルの大きさに直したら、着る?」

可愛い我が儘を叶えてやりたい親心…ついつい甘やかす方向で考え、本人の意見を訊いてみて。

エルディア >   
結局の所美味しくいただく予定なので
ほんの少し長らえるだけなのだけれど
焼くにしても煮るにしても新鮮な方が良いと思うし、たぶん。
美味しくいただくために長生きしてね。

「ん」

ぎゅうっと抱きしめて首元に顔を埋める。
こうしていると年相応の子供に見えるかもしれない。
実際、目が覚めてからの記憶しかないせいで
見た目の年齢に相応しい程の記憶量もない。
其れでもあまり気にはしていない。
記憶が無くても記録さえあれば、やるべきことは判るのだから。
とは言えこうしてそれらを忘れてただ遊ぶことを考えるとなると
本人は無自覚ながら役割以外の部分ではいつも以上に幼さが前に出る。


「……ふく、ぎゅーっとしてうごきにくい
 すぐ破ける……嫌い……」

普通の布地ではあまりにも脆すぎるというのもある。
例えば先程の一手だけでも、もし普通の服なら破けてしまっているだろう。
何だかんだ言って衣服を渡されてはいるものの
殆ど一つを綺麗にして使っている気がする。
それに体を締め付けるものが元々苦手という事もあるけれど
ぶかぶかして大きなものはなんだかすごく、ほっとするのだ。

「みて、かんがえる」

着るか否かは別として、単純に綺麗なものは好き。
だから、もしかしたら新しい服を着るようになるかもしれない。

紅月 > その幼さが出た仕草の為、紅月としても子供扱いが止まらない。
鬼も妖精も基本的に子供が大好きなのだ、構いたくて仕方がない。
「ちびっ子は体温高いなぁ~」
なんて何気なく呟く声にも喜色が色濃く混じっている。
ポン、ポン…座ったまま優しく抱き締め、あやすように背を撫でて。
漣の音と互いの声と…緩やかな時間が流れていく。

「そっか~、ぎゅーっとしてなくて頑丈なのが好きなのねー?
…そりゃそうよな、ちょっと遊んだらすぐ破けるんじゃ選び甲斐がないもん」

自分自身、よく衣類をウッカリで燃やしてしまうので思わず抑えた笑いが洩れる。
クツクツと小さく身を震わせながら溢すそれは、実に愉快げだろう。
…内心ではついつい"まるでソックリ親子だ"なんて似通った点を見付け、嬉しくて嬉しくてはしゃいでしまっていて。
これでも、この子が困っているのだからと、一応我慢する気はあるのだが…いやはやどうにもなりそうにない。

「うんうん、考えてくれるか。
…それじゃあエルちゃんが好きそうな素材、色々探しに行ってみるわ。
アラクネの織物とか、スノーウルフの鞣し革とか、人魚の鱗…うちのクローロの龍鱗も使おっか、生え替わりのが溜まってきてるし」

波間に視線を遣りながら、のんびりした口調で思い付いた順に素材の例を挙げていく。
布が燃えても鎧が残るだろうその仕様は最早服ではなく冒険者の装備のようになってしまっているが、この幼女に合う規格で考えると自然とそうなるのだから仕方がない。
「一緒に行って素材狩りのやり方を覚えるのもいいかもなぁ」
なんて、やっぱり楽しげに呟くのだ。