2019/08/11 のログ
ご案内:「セレネルの海」にアニエスさんが現れました。
アニエス > 賑わう城下から程近い割りに、人目につかぬ場所であるから。
そう請け合った連絡員の男が言う通り、白い砂浜は閑散としていて、
水遊びや甲羅干しに興じる人の姿ひとつ見えない。
日差しも然程強くなく、頬を弄る潮風は快適とは言えないが、
耐えがたい、と言う程でも無く。

人っ子一人見当たらない浜辺で、腕組みをした体勢で連絡員の登場を待ちながら、
其れにしても、と僅か、眉宇に影を刻んで。

「確かに、人は居ない…けど、此処まで閑散としてるのは、どうなのかな。
 見通しは利く場所だし……却って、目立つんじゃ……」

例えば今、城での顔見知りにでも見咎められたら、言い訳に苦慮しそうだと思う。
水遊びをしに来た、という格好ではないし、そういうタイプの人間でもない。
海辺に佇んでいるのが、大層悪目立ちするちタイプである、という自覚は、
残念ながら、其れなりに、あった。
こうなったら一刻も早く、報告を済ませて城に戻りたい。
どうせ未だ、大した報告も無いことでもあるし―――。

ご案内:「セレネルの海」にヴィルアさんが現れました。
ヴィルア > 男装した女が、連絡員を待っている時…がらがらと音を立てて少し遠くの海岸沿いを、馬車が走っていく。
男の横顔に、花が咲いた蔦が描かれた紋が荷台部分に刻まれている。
だが唐突に、浜辺へ降りる場所で止まる。

中から出てきたのは、金髪蒼目…いかにもな貴族の格好の青年。

馬車から出た青年はそのまま、靴に砂がつくのも構わず浜辺へ降りて。

「こんにちは。…漁業関係者には見えないけれど…どうしました?」

相手の身分もわからないのに、しっかりと深い礼をしてから、話しかける。

「失礼。私はヴィルア・リルアール。この近辺に領地を持つ者でね。ここの付近は…昔からあまり人が来ないが、宣伝すればプライベートな海水浴にはうってつけだろう?、かの水遊場に匹敵する貴族たちの憩いの場所にできれば私の家の事業を広げられる。だから売ってくれないかと持ち主に交渉しているのだが、中々上手くいっていないんだ。…もしかして、君もここを狙って…?」

相手の出で立ちから、別の貴族の使いかと思い、微笑みながら声をかける。
ともすれば商売敵となりそうだが…それなら真っ向から勝負する、という気概もあり。
もしそうなら挑発と戦線布告を行っておこうというつもり。
遠くからこの海岸に人がいることに気づいたのは、彼が狙っていたかららしい。

アニエス > 何気なく海の方へ目をやった、ちょうど其の時。
背後にした海岸沿いの道を走る、馬車と思しき音が聞こえてくる。

まさか、己の待っている人物が、目立つ馬車などで来る筈は無い。
どうせ通り過ぎるものと予測しつつ眺めていれば、何故だか馬車は停まってしまった。
次いで現れたのは、遠目にも明らかに身形の良い、羽振りも良さそうな若い男。
僅かばかり、不審げに眉を寄せたものの―――誰彼構わず喧嘩を売る趣味も無い、ので。

「こんにちは、……嗚呼、貴方がリルアール卿の。
 お名前だけは、お聞きしたことがございますよ。貴方は、なかなかの有名人ですから」

立て板に水、とは正しくこのことか。
やや勢いに呑まれ気味ともなっていたが、注意深く、礼節を弁えた微笑みを浮かべてこうべを垂れる。
実際、彼についての噂は幾らか、既に己の耳にも入ってきていた。
噂の真偽の程は不明だが、一見したところ―――事業に熱心な、人当たりの良い青年貴族。
特段腹を探るべき相手とも見えず、警戒心のハードルはやや低めに。

「……私こそ、直ぐに名乗らず失礼致しました。
 帝都シェンヤンより、公主様の護衛官として参りました、
 …此方の皆様には、アニエス、と、お呼び頂いております」

意図して繕った声音は、男としては高く、女にしては低め。
高貴な身分の者ではない、飽くまでも臣下である、という、遜った態度を崩さず。

「確かに綺麗な場所ですし、城下からも随分近い。
 此処が観光地として整備されたら、是非私も、休日には羽根を伸ばしに来たいですね。
 ですが、どうかご安心を……私、そもそも、そのような大事業を手掛ける立場の人間ではございませんから」

そして、にっこり。
穏やかな、と見るか、胡散臭い、と見るかは、相手の受け取り方次第である。

ヴィルア > 交渉は一気呵成に行うべし。条件を提示すれば後はうなずかせる…。
そう教え込まれた彼は、自分の事情の説明を先にしてしまうことで気勢を握ろうという思惑もあり。
それを裏付けるのは、彼の財力と、自信だ。

「おや、既にご存知でしたか。それは嬉しい。今後とも、リルアールの物品をどうぞよろしく」

驚きの動作の後、再びの深い礼を。
どこかわざとらしいが嘘はなく、これが彼の素の態度なのだろう。
相手の素性を聞けば、体を起こし

「貴方様が来てくださるなら、誠心誠意努めましょう。
…ああ…例の。…これほどしっかりとした様相の護衛官なら、公主様も安心でしょう…。しかし、そういった事情となると、アニエス様も気苦労も絶えないはず。…ここは地元民もあまり知らない場所ですが、もしかすると、心を休めに?」

心配そうな表情を作り、微笑みに答える。
相手と、相手が敬っているであろう公主にまでその言葉を伸ばして。
身分が自分より下だとわかっても、態度は変わらない。
公主について何が行われるのか、知っていると暗に告げ、相手を見ながら、表情だけでなく声も相手を心配しているもので。

アニエス > ―――此れが、交渉術というものか。
事業どころか、小商いの経験すら無い己としては、ある意味、
完全に相手のペースに呑まれた格好にもなっている。
勿論、彼が有力貴族であるという事実は、警戒すべき要素ではあるけれど。

「お噂は伺っていましたが、本当に…お仕事に、熱心な方なのですね。
 貴方が城へいらっしゃると、ベテランの侍女たちまで色めき立つ、とか。
 今、実際にお会いして…男の私でも、納得致しましたよ」

生まれ持った見た目の秀麗さもあろうけれど、表情や言葉遣い、仕草、
どれを取っても、女性を虜にしそうだ、とは偽らざる私見として。
ふふ、と低く喉を鳴らしながら、綻んだ口許を緩く握った右手でさりげなく隠し。
彼の行おうとしている事業には、楽しみにしておきます、と軽く返したが。

「――――、……鋭い、と申し上げておきましょうか。
 仕方の無いことです、事情が事情ですし……公主様に比べれば、
 私など、気楽な身分でございますし。
 ですが時々は、やはり、のんびり外の空気を吸いたくなりますから」

待ち人が居るとも、其れが相手に知られては拙い人物だとも、
決して悟られてはならない。
故に、ほんの少し照れ臭そうに双眸を細め、個人的な息抜きの現場を見られた、
気恥ずかしさのようなものを演出することにした。
彼が己の主―――否、姉についても気遣いを向けてくれているのは確かであろうが、
告げられた言葉を、額面通りに受け取るのは危険だとも思えて。

「お城の方々が皆様、貴方のように考えて下さったら良いのですが、……難しいですね、やはり。
 ―――其れはそうと、……私のことはどうぞ、呼び捨てて下さって構いませんよ。
 公主様は貴方の、…あの、仄かに花の香りのするお茶を、好んで召し上がりますが。
 私はただ、お使いに出るだけで……客、という訳でもございませんから」

何よりも、落ち着かないのだ。
様、をつけて呼ばれると、もしかしてバレているのでは、などと、
勘繰りたくなってしまうので―――。

ヴィルア > 「誰彼構わず魅了するつもりはないのですが…。…男性に言われたとしても、我が身を褒められるのはとても嬉しいことです。交渉でも、脂ぎった男よりは清潔な者の方が好感を得やすいですから。…その点は、父と母に感謝しております。」

嫌味でもなんでもなく、褒め言葉を受け取り。
相手の性別については気づいているのか、いないのか。
困ったように浮かべた微笑みは彼の思惑を隠して。

「ああ、やはり。…王城の中に入った私の手の者が、よく報告をあげてきます。…既に、姿が見えなくなった公主様も居るとか。…心中は穏やかではないでしょう」

姿が見えなくなった、とは…さまざまな意味に捉えられる。また、彼の配下が王城内に居ることも伝えて。

「どうしても、この国は…今、乱れていますから…。」

仕方ない、というようにため息を吐いてから

「…あなたも、重要な任を背負っているのですから、敬意を評したいのですが。それなら、私のこともヴィルア、とお呼びください。」

にこり。少し相手に近づこうとしながら…邪気を感じない笑みを浮かべて。
可能ならば、親愛の意味で両手での握手を求めて。

「…ああ、それは嬉しい。…どうでしょう。そのお茶が最近また入りまして。よければ馬車に共に乗って…私の家が所有する倉庫までお越しいただければ、直接お渡しできますが…?」

握手ができればそのまま、できなければそれでも微笑みを浮かべたまま…相手にとっては承諾できないであろう提案を。

「…私が引き止めてしまったこともありますし、代金はいただきません。それに…そろそろ戻られた方がいいのでは。よければそのままお送りします。」

言葉遣いは変わらずに、続けて提案を。
もし護衛が…嫌な方向に想像を巡らせるなら。

王城に入り込んでいる彼の手の者。
そろそろ戻られた方が

これらがどう感じられるか。

アニエス > ―――持てる者の余裕、というものだろうか。
あっさりと、自らの外見が良いことを肯定する物言いに、今度こそ可笑しげに肩を揺らして笑い。

「無闇に謙遜したりしない、そういったところがまた、女性を虜にするのでしょうね。
 私も是非、あやかりたいところですが…、」

己程度の外見では無理であろう、と、冗談交じりに結ぼうとしたところ。
何気なく語られた言葉の端々に、微かな引っ掛かりを覚える。
ぴく、とほんの少し、眉尻が跳ね上がる―――此方を注視でもされていなければ、
気付かれない程度だとは思うが。

「ええ、……公主様は、私の主もそうですが、飽くまで、王族の方々と
 平和的に、縁を結ぶ為に来たのですから……邪推されるのは、悲しいことです。
 本当は私のような者の仕事など、暇である方が良いのですが……、」

護衛の必要など、無い方が良いに決まっているのだ。
けれど現実には到底、姉をあの城の中で、一人になどしておけない。
そして―――秘かに、目の前の男に対する警戒のレベルが一段上がった。

拉致される、蹂躙される公主が後を絶たない、そんな城内に。
配下の者を置いている、其れだけで疑念を向けることなど勿論出来ないが、
目の前の男の人当たりの良さを、あまり信じてはいけない、とも、思い始めていた。
差し出された手には、一拍遅れて己も、手を差し伸ばしはするけれども。
握手、と称して手を握られるなら、可能な限り速やかに、儀礼的に、終えてしまいたいところである。

「ヴィルア、様……私の方こそ、貴方を呼び捨てになど、主に知られたら叱られてしまいます、から。
 ――――其れに、ええ、とても有難いお話、ですが……」

彼の馬車に乗って、彼のテリトリーまで連れて行かれる。
流石に承服しかねる提案を、何とか穏便に固辞しようとしたのだが―――

握手の為に近づいた分だけ、至近で見交わす眼差し。
先刻までと、然して変わらぬ、ように見える表情。
けれど何故か、何処かしら不穏な―――思わず、ぞくりと背筋が慄いてしまう程。
握られた手が其の侭であれば、きっと、指先の小さな震えに気付かれてしまっている。
誤魔化す為に、出来るだけ穏やかに、手を解こう、として―――

「――――――、」

一拍、二拍、三拍―――――彼の顔を、目を、真っ直ぐに見つめること暫し。
硬く強張りかけていた口許を、精一杯自然を装って再び、柔らかく解けさせようとしつつ。
震えそうになる声を、必死に落ち着かせて。

「………そう、ですね、では、折角ですから」

乗せて行って下さいますか、と、辛うじて其処までは。
彼の投げかけた言葉は、彼の真意がどうあれ―――確かに、己の心に不安の種を芽吹かせていた。
こうしている間にも、ざわざわと葉を茂らせ、悍ましい花まで咲かせようかという、疑惑。
此れが払拭出来ない限り、彼の誘いを断ることも、彼と別れて一人立ち去ることも、
―――出来る、道理が無かった。

ヴィルア > 相手の褒め言葉に、照れたように笑いかえすも。
その目はじ、と…開かれている時には必ず、相手を見つめていて。
薄蒼の優しげな瞳は揺らぐこともなく。

「いいえ、敬称も必要ありませんよ。公主様には、秘密にしますから」

握手の手は、なかなか離れず。
にこやかに笑いながら、更に名前呼びを迫って。
緩やかな海風を受けながら、ゆったりと、しかし緊張した時間が流れ。

「ーーー」

断ろうとする言葉には、表情を変えずに見つめ続けて…答えがあれば、笑みを深める。
握手の手を、ようやく離してから

「…賢明な人です。…本当に休息なら申し訳ありません。…それに、私は、アニエスが仕える公主をどうにかしようとしているわけではありません。」

どうぞ、とエスコートのように再び手を差し出しつつ。言葉を紡ぐ

「報告があった、と言いましたね。…次に『消える』であろう公主の名簿。…その中に、あなたの公主の名前があったのです。だが今はまずい。私の仕事にとって、今のタイミングで、あまり多く人が消えると流石に面倒なのです。…だから、それとなく妨害させていましたが。それも、市場が落ち着けば…止めるつもりでした。ですが…」

ふふ、と相手に笑いかけ。

「…あなたに興味が湧きました。男性だと書類にはありましたが…、声を作っているような、音でしたし。所作がとても優美だ。間違っていたら、申し訳ないが。」

息継ぎの音の後…また、じ、と相手を見つめて。

「…護衛はもちろん、続けても構わない。けれど少し…私の要求を聞いてくれないだろうか。そうすれば、君の公主へ、手が伸びにくいよう…根回しはできる。」

優しげな言葉で飾っているがそれは脅迫。
彼の情報が真実かもわからないが…、要求を飲まなければ、後々、公主に危害が及ぶかもしれないと。
相変わらずの、爽やかな笑みで告げながら…相手の答えを待とう。

アニエス > そも、己には目の前の男を、親しく呼び捨てにする理由が無い。
だからこそ敬称で距離を保とうとしているのに、彼の方も一歩も引いてくれない。
内心の苛立ちを顔に出さぬよう、必死に呼吸を整えながら。

「……ヴィルア様、どうか。
 私を、困らせないで下さいませんか」

身分が違うのだから、己の対応が正しい筈なのだ。
なのに何故―――まさか、もしかして。
取り繕う笑顔にも、そろそろ綻びが見えようかという頃。
兎に角も、目の前の男から―――少なくとも己の方からは、目を逸らす訳にいかない。
緊張のあまり、吹き抜ける風が運ぶ潮の香りさえ、今は嗅ぎ取れなくなっていた。

漸く離された手と、姉は無事であるという言葉。
其の侭鵜呑みには出来ないけれど、次いで語られた『理由』は、
純粋な善意だと言われるより、ずっと信憑性が高く聞こえた。
再び差し出された手を取らず、自らの足で一歩、踏み出そうとして―――

「――――間違っていたら、今度こそ、醜聞になりますよ?
 リルアール家の次期ご当主様は、女性よりも男性に、特別な興味がお有りのようだ…とでも」

緩やかに、口角を持ち上げてみせるも、笑みの質は明らかに、先刻までとは違う。
隠し切れなくなった攻撃の意思を、俄かに鋭くなった眼差しと、薄笑みに籠めて。
彼の発言を、吟味し、計算をするまでも無く―――答えは、決まっていた。

「私の主に、髪の毛、ひと筋ほどの傷もつかぬよう…取り計らって、頂きますよ。
 でなければ、…この商談は、此処でご破算です。
 よろしいですね、………ヴィルア、貴方の名に懸けて?」

貴族である彼ならば、其の名には特別の意味があろう。
ならば誓え、と、決して約を違えるな、と。
そう迫れるような立場ではない、と、一笑に付される可能性もあるだろうが、
敢えて、ギリギリの矜持を示すことで、己の覚悟を正しく理解させようと。

そうして、彼が頷くのなら。
表面上は震えすら抑えきり、己の足で、堂々と、彼の馬車へ乗り込む筈。
傲然と前を向いた顔は、明らかに蒼褪めていたけれども――――。

ヴィルア > 固辞する相手にくすり、と笑い。
この後の展開がわかっているのか、余裕は崩れず。

「…目と耳には自信があるのですよ。息を飲む音、何かを隠す動作。そういったものを見分けられないと…騙されてしまいますから。アニエスが私のそれらを騙せる仮面を持っているなら、それは私の完敗です。」

あっさりとそういいつつ、歩みを進めて。
攻撃の意思を向けられようとも…それはできないだろう?と目線を向ける
ただ、次の言葉には目を丸くし。

「話しかけてよかった。アニエスは本当に頭が回る…。私に対して、商談、という言葉を使うとは。」

くく、と楽しげな笑い声。
相手が想像以上に気骨がありそうな相手だったのが嬉しいのだろう。

そうした後、相手の手に自分の額をつけ、膝が付けられない際の、誓いの所作を。

「リルアールの名において誓いましょう。貴方の公主には…貴方が私の要求を聞く限り、邪な手は届かせないと。…もし私の手の者に余るようなら、必ず、その者の手より先に匿いましょう。…契約成立、ですね。」

宣誓し、体を離す。
相手の覚悟に応え、自分の手に余る何かが襲っても、先に公主を守ると…自分の立場が危うくなるかもしれない誓いも行なって。
それは全て、相手が聡明であり、更に覚悟の輝きを強く見せたからだ。

「ご心配なく。…貴女が想像しているような酷いことはしませんよ。」

蒼ざめる相手にそう言いながら。これまでの男の態度から…それを真実と受け取るかどうかは、相手次第だが。
馬車へとエスコートし…背徳の街へと、向かっていった。

ご案内:「セレネルの海」からヴィルアさんが去りました。
ご案内:「セレネルの海」からアニエスさんが去りました。