2019/06/20 のログ
ご案内:「セレネルの海」にリリトさんが現れました。
リリト > 「うう~暑い……、ついでにお腹空いた……」

ざざーん、と波が寄せては返す砂浜に、見慣れぬ淫魔が一匹よたよたと飛んでくる。
白い月が登る頃、昼間の暑さとは打って変わって涼し気な波打ち際である。
とはいえ、いつも腹ペコな彼はこれ以上飛んでいくことも出来ず砂浜に体育座りでうずくまる。
淫魔なのだから誰か一人でもたぶらかして、精気でも吸えばいいのだが
どうにもそういった事が苦手な淫魔は人が多くいる所を避けてしまう。
このまま飢えてしまうのも仕方ないのかもしれないと、中途半端な自分を呪うのだった。

ご案内:「セレネルの海」にアルブムさんが現れました。
アルブム > 夜の浜辺を、小さな人影が歩いてくる。ブーツの跡を白砂に穿ちながら。
ポンチョ風のローブで上半身をつつみ、そのシルエットはまるでてるてる坊主のよう。
両手には彼の身の丈を超える長さの杖を握り、歩みを進めるたびに先端についた鈴がシャンシャンと鳴る。
背には大きなバックパック。野営装備がほとんどを占める旅装である。

「今日はどこで野営しましょうねぇ………」

誰に問いかけるともなく、ぽつりと言葉を漏らす。
夏直前の、ぎりぎり過ごしやすいと言える時候である。せっかくだから海の見える場所にキャンプを張りたい。
だが、下手な場所に居座ると急な潮の変動に晒される可能性もある。
自分の勘が2割、《かみさま》のアドバイスを8割頼りにしつつ、キャンプ地を求めてさまよっている。

……と。閑静な浜辺に、ひとつの人影を見つける。
アルブムは歩調を変えぬまま、先客であるリリトの方へと歩み寄ってくる。

「……こ、こんばんわ。こんなところで一人でなにをされてるんです?」

自分とそう変わらない背格好の人影。しかし荷物めいたものが見当たらず、旅の途中というわけではなさそう。
一人でこんな寂しいところにいるのは、何か訳ありなのか。
そう考えると放っておけなくなったようで、アルブムは意を決して声をかける。

リリト > 月明かりに照らされて、砂の上でもだもだとしているが、
余計な体力を使うばかりであんまりよくないと分かるとぐったりと突っ伏す。
と、耳に涼やかな鈴の音が遠くから届いてくる。
顔だけ上げてそちらを見るとてるてる坊主のようなシルエットの……子供?
男の子なのか女の子なのかは遠目では判別しづらい。

「ふえぇ……こんばんはぁ……。いえぇ、お構いなく……
 ちょっとお腹が空いちゃって……」

ふにゃりと覇気の無い笑みで旅人の子供に答えると、のたのたと上体を起こしてもう一度体育座り。
恥ずかしそうに後頭をかいて、

「ところで~、旅人さん?はどうしてこんなところに?」

アルブム > 浜辺に突っ伏してはいるが、死んでるわけではなさそう。こちらの問いかけには答えてくれる。
行き倒れではなさそうなので内心ほっとするが、彼の弱々しい反応を見ると、やっぱり心配になってしまう。

「お、お構いなくって。お腹が空いてるのは大変なことじゃないですかぁ。
 ぼく……あ、ぼくはアルブムって言います。《かみさま》に言われて旅をしてる途中なんです。
 《かみさま》に頼めば食べ物を作ることもできるんで、ちょっと待っててくだ…………ん??」

座り込むリリトの傍まで歩み寄り、立って見下ろしたまま彼の様子を伺うアルブム。
潮風に煽られ、丈の長いポンチョ風ローブの裾がはためく。たまに覗く太腿の付け根には、男の子の証を思わせる膨らみが。
自分の着衣の乱れも気にせず相手を気遣う様子のアルブムだが、杖の先のランタンで照らすうち、あることに気づく。

「…………角………しっぽ……?」

座り込む少年の頭には一対の巻き角が見える。背中には羽根や細いしっぽ状の部位も。
そういう装いだろうか? 否、わざわざそんなコスチュームを着てここに一人ぽつんといるのも不自然。
すると。

「……も、もしかしてあなた……魔族……さん?」

物語に聞き、そしてこれまでの人生で数えるほどだが実際に遭遇したこともある魔族。
その典型的な特徴によく似ている。アルブムはやや屈み込みながら、おそるおそる尋ねる。
……その様子には戸惑いや遠慮こそあれど、嫌悪の色は薄い。

リリト > 「いやぁ……僕はいつもお腹好いているから大したことないっていうか
 いつものことっていうか~……えへへ」

自分の情けない所を告白するのに少々ためらいと恥ずかしさがあったが
事実なので仕方ない。
アルブム、と名乗った男の子―――、どうやらお股を見るに自分と同じ男の子らしい―――
が、食べ物を用意してくれるようだがそこまで親切にしてもらう義理はないと慌てて両手を振って止めようとする。

「あ、アルブムくん!そこまでしてもらわなくてもっ!っていうか僕、普通の食べ物じゃあ……
 ん?角、しっぽ? ああ、えっとこれはぁ……」

よくよく見なくてもひと目を引くだろう特徴とコスチュームに相手は自分が魔族だと気づいたようだ。
人間の中には魔族や淫魔を恐れたり忌み嫌ったりする者もいるのは世間知らずの自分でも知っている。
アルブムがそうだったらどうしようと、ごまかす方法を考えていれば……
どうやら相手は嫌悪している感じではない。

「んんっとぉ、えっとぉ……はい、淫魔のリリトと申します……」

正直に告白して、相手の様子を伺う。

アルブム > 「淫魔の………リリト……さん……」

相手の名乗りを反芻するように自らも口にする。そしてしばし口をつぐむ。
ほんの少しだけ頬が赤く染まるのは、淫魔がどういう輩であるか一応の知識を持っているから。
しかしながら、それを聞いて警戒を強める様子もなく、未だ中腰でまじまじと相手を見下ろしている。
……やがて、ちょっぴり苦々しい笑みを作りつつも、ふたたび口を開く。

「……そ、そっかぁ! リリトさんは淫魔なんですね! ぼくの勘が当たりました!
 よ、よろしくです!」

かがめた腰をさらに深く折り、会釈するように軽く頭を垂れてご挨拶。
金色のポニーテールがふわりと振られ、2人の間に香水めいたサンダルウッドの香りを振りまく。
……目の前の少年は魔族であり淫魔。しかし、悪い人であるとも限らない。
(アルブムの言えたことではないが)見た目弱々しく、さらに今はお腹を空かせているという。とても邪険にはできない。
とはいえ魔族がこういう振る舞いで人間を油断させてくることも知っている。最小限の警戒を心に留めつつ。

「……えっと。淫魔さんが、お腹が空いてるってことは。
 その、アレですよね。『精気』……いのちのエネルギーを摂取できてないってことですよね。
 ……リリトさんは普段、どうやって『精気』を食べてるんですか?」

杖を握りしめながらアルブムはしゃがみ込み、リリトに視線の高さを近づけながら問いかける。
魔の者に詳しいわけでもないので、単純に疑問に思ったことを問いかける。
リリトが困ってる様子なのも確か。助けになるには、まずは相手の詳細な情報を知っておきたいものだ。

リリト > えへへへ……と、何故か照れるリリト。
ぎこちなく苦笑するアルブムに、嫌な顔もせず
(だって人間の中には魔族が苦手な人とかアレルギー持ちとかいるかもしれないし)
自分も頭を低くして挨拶を返す。
くんくん、と犬のように鼻を鳴らしてサンダルウッドの香りを嗅ぐ。
どうやらこの匂いは相手からしているらしい。潮の香りにも負けぬ芳しい香りにへにゃ、と頬が緩んでしまう。

「ふにゃあ、いい匂い……。んぁ?! ふ、普段ですか?
 ええっとぉ……花とかを見つけて……」

キョロキョロとあたりを見回して砂浜の上を滑るように飛ぶと、防風林の足元に咲いている海辺の花を摘み、
アルブムに見せると、ちゅ、と花びらにキスをしてみせる。
すぐに花は萎れてくしゃくしゃの枯れ葉になり、ほんの少しだけリリトの頬に生気が蘇る。

「こうして、お花とか、人の悪夢とかからちょっとだけ精気を分けてもらっています……」

でもこれってすごく効率が悪いんですよね……、なんて呟いて
何故かもじもじと俯いてしまう。
アルブムにどうやったら効率よく精気を吸収できるか伝えるのが恥ずかしいのでそれより先は答えたがらない。

アルブム > 淫魔。人の持つ欲望を誑かし、増長させ、その隙に付け込んで心身共々の籠絡を試みてくる存在。
聖職者のはしくれとしてそのような類の輩には、ただの魔族以上に警戒心を保つよう《かみさま》に教わってきた。
今もアルブムの脳内では《かみさま》が警鐘を鳴らしているが、他方で『困ってるようなら助けろ』とも言ってくる。
どうしよう? 何かしら相手を助けられる糸口が見つからないかと質問してみたわけだが。

「あっ、花が……」

リリトの細い手指によって、乾燥した砂地に健気に咲く花が手折られる。
椿の蜜を吸うような所作で少年の唇が花弁に埋もれると、みるみるうちに枯れ果てていくではないか。
その超自然的な枯死現象には一抹の怖れも湧き上がるが、それ以上に思うのは……。

「……へ、へぇー。リリトさんって、お花を食べるんですねっ! な、なんか可愛らしいですっ!」

苦笑いを浮かべ、照れくさそうに頭を掻きながら、感想を述べる。視線が外れ、再び直視することができない。
実際にアルブムが抱いた印象は、可愛いというよりも『美しい』。
花を吸い枯らす所作、視線を運ばざるを得なかった彼の口元、そこについ魅入ってしまったのだ。

「……でも、効率悪いんですね……うん。お花、そんなに命の力、強くないかもですし。
 人の悪夢……ってのも、悪夢を見てる人なんてそうそういないでしょうし。ぼくも夢見はいいほうなので……あはは」

枯れて色あせてしまった花弁を、空色のタイツに包まれた手でそっと拾い上げる。
もはや風化し土に帰るだけのそれを物憂げな視線で見つめ、指で弄びながら、リリトに目を向けないままに呟く。

「……お花、見つけて吸うのも大変ですよね。飛び方もヨロヨロでしたし。
 その……ぼくで助けになるようなこと、ありますか? もちろん、ぼくが死なない程度に、ですけど……」

やはり、弱々しい様子のリリトのことを放っておけない。
花を吸う以上の精気摂取手段がないか、それにアルブムが助けの手を差し伸べられないか、たどたどしく聞く。

リリト > 「か、可愛らしいかなぁ? でも、お花だって生きているのに、僕の勝手で精気を吸っちゃうのは
 なんだか申し訳ないような……」

微妙に眉を潜めて自分の手折ってしまった花に心の中で謝罪する。
花を吸いからしてしまったときから何故か目線を合わせないアルブムに首を傾げ
(やっぱり怖がらせちゃったかなぁ……)
なんて思いながら少し残念そうに表情を曇らせる。
こういう事をしているから友達なんて出来た試しがないし、せっかくの親切心を無駄にしてしまったかもしれない。

それでも何故か自分に食い下がってくるアルブムに、こちらも遠い海を眺めて
もじもじと恥ずかしそうに口を開く。

「そのぉ……ええっと……、じゃあ、アルブムくんの精気を少しだけくださいませんか?
 あの、唇と唇をくっつけて……あー!だめだめ!やっぱ今のナシ!
 そんな破廉恥なことできませーん!」

ぶんぶんとかぶりを振って、恥ずかしさにその場で頭をかきむしって叫ぶ。
アルブムは男の子だし、同性同士でそんな事したら気持ち悪いって思われるかもしれない。
そんな事になったら生き恥をさらしているようなものだ。
しかし、リリトの唇はリップグロスも塗っていないのに濡れてふっくらとしている。
桜色の唇からひもじそうなため息がこぼれ、品のないおなかの虫がぐうぐうと鳴いている。

アルブム > 「べ、別にっ。ぼく達だって普段野菜や果物を食べて生きてますから、花を食べるのは普通ですよ……きっと。
 食べるわけでもなく花壇を踏み荒らすようなヤツは許せませんけどっ!」

リリトの遠慮がちな物言いに、ちょっぴり語気を強めて自らの論を語って返す。
草花に獣や人並みの命が宿っているかはわからないが、結局誰しもが他の生命を『喰って』生きている。
その点では並の淫魔の所業だって、悉に否定しつくすことはアルブムにはできない。衰弱気味の淫魔ならなおさら。

「だから、その……そんなに寂しそうな顔をしないでください、リリトさん。
 申し訳ないからって、お腹が鳴るまで食を断つのこそおかしいと……ぼくは思います」

曇った表情を見せるリリトに、アルブムは再び向き直り、諭すようにゆっくり言葉を紡ぐ。
その間も、先程見入ってしまった彼の唇には自然と視線が向いてしまうけれど。でもそれも、悪い気分ではない。
……そして、リリトが『唇を重ねる』ことで精気を摂取することを示唆すると。

「………べ、別に。ナシじゃないと、お、おもいます。さっき花にしてたことを、人にするだけでしょう?
 破廉恥かどうかはわかりませんけど、ぼ、ぼくは、大丈夫です。気にしませんし、ぼくは花よりは強いです。
 だから、その……き、キス、しましょう。それでリリトさんが元気になるなら、うん……」

自らの言葉に悶絶するリリトの顔をアルブムはしっかりと見上げ、言葉を詰まらせつつも同意の意思を示す。
言葉がたどたどしいのは怖れからではない。自分の欲望を悟られたくないから。
正直なところ、アルブムは花を枯らせたリリトの『唇』に強く魅了されていたのだ。
キスという吸精方法に、内心胸を踊らせていた。そんな自分の心境のほうがよっぽど破廉恥で、相手に知られたくなかった。
…顔は真っ赤に染まりきり、心臓は早鐘を打っているけれど。

「だ、大丈夫です。誰も見てませんから、手早く……」

背丈の差ゆえ、自分から唇を重ねに行くこともできない。
相手をじっと見上げたまま、目も閉じず、相手が寄ってくるのを待つ。

リリト > 「……くふふ、アルブムくんは優しいんだね。
 そんな風に諭されるの初めてだから嬉しいなぁ……。
 そうだね、みんなちょっとずつ命を貰っているんだし仕方ないのかもしれない……」

人間も獣をとって食べるらしい。魔族も人間を食い物にする者もいる。
そこに大した違いは無いのかもしれない。
つい、と人差し指で無意識に自身の唇に触れる。その仕草は淫魔ならではの蠱惑的な仕草になってしまうだろうか。

「んん……でもぉ……」

お腹が空いているからもしかしたらアルブムを吸い尽くしてしまうかもしれない。
人の精気なんて久々だから、ごちそうを前に我慢出来ないかもしれない。
そう思うとちょっとやそっとで踏み切ることはできないが……
アルブムから香る強い白檀の香りにすでに空腹の淫魔は抗えずにいる。
唸るように悩んで困って、結局リリトは真っ赤な顔をしているアルブムに近づいた。

「じゃ、じゃあちょっとだけ、ちゅー、させてもらいますね?
 もしも苦しかったり、痛かったりしたら突き飛ばしてね?」

そういうとこちらも頬を朱に染めて、そっとアルブムの小さな唇に唇を重ねる。
少年同士の柔らかな唇同士が触れ合い、そこを楔にしてリリトはちゅ、と相手に吸い付いた。
アルブムの小さな体に巡る精気が唇を介して吸い取られていく。
ゆっくりと、確実に、力が抜けるような甘い快感が体に走るだろう。

「ん、ん……ちゅ、くむっ……っんふ、……っ」

こくこくと細い喉を鳴らしてアルブムの甘露のような精気を味わう。
もっと飲みたい、もっと欲しい。尻尾がくねり、甘い口づけに腰がぶるりと震えた。

アルブム > 「は、はい。ちゅー、です……」

接吻、口吸い、キス、あるいは『ちゅー』。普通であれば、好きあった同士が互いの好きの度合いを確かめるための行為。
数分前に会ったばかりの人と交わすコミュニケーションではなかろうけれど、相手が淫魔なら仕方のないことか。
……『ちゅー』という響き、自分が今しがた口にした『キス』という字面にもいちいち照れを覚えてしまうけれど。
だが、同性相手にそれを行うことの気後れはアルブムにはない。アルブムはそういう奴なのだ。

そして。夜の水平線を背景に、少年と少年の唇がそっと触れ合う。

「………んっ、ぅ………」

ぞくり、とアルブムの細い肩が震え、喉を震わせて嗚咽を漏らす。しかし突き飛ばしたり身を引いたりはしない。
キスの瞬間まで見開いたままだった空色の瞳が、眠たげにうっとりと伏せられる。
口を介して精気が吸われていく。貪るような相手の唇の動きにたどたどしく合わせるように、アルブムも唇を舌を蠢かせる。

その感覚を例えるなら、1日歩き通した後に宿のふかふかのベッドに身を投げ、落ちるように微睡んでいく時のような。
恍惚と共に深く沈んでいく感覚が、こうして潮風の中に立ちながら、意識は明瞭なまま、ずっと続くような。
もちろん全身にはかなりの疲労感が湧き始めているが、とても自分から止めることなどできなかった。

「……ん、ふっ……ふうっ………ん、ちゅっ、ちゅ、ちゅるっ……ん、リリト、さぁん……」

ガランッ。大きな金属音を立てて、鈴付きの杖が砂浜に倒れる。
目をさますような物音にすらアルブムはピクリとも反応せず、取り憑かれたようにリリトの唇を食み続ける。
かかとを浮かせ、自分からその細身を相手に押し付けるような姿勢になり。
潤んだ瞳で淫魔の少年の美顔を間近に見据えながら、一層情熱的に唇を押し付けてくる。
アルブムの肺の中から湧き上がってくる湿った吐息には、むせ返るような白檀の匂いが混じり、どんどん強くなっていく。

リリト > 「ん……っ、アルブム、くぅん……っちゅ、はむ、んふ」

アルブムの小さな体に瑞々しい肌をくっつけるような体勢に変わりながら
徐々にリリトはキスに夢中になっていく。
するすると無意識に尻尾を相手の体に巻き付け、抱きしめ、子供が甘いお菓子を強請るように吸い付いて。
閉じたまぶた同士もくっつくような至近距離の中、アルブムが取り落とした杖の音にも反応せず
そっと開いた唇の隙間から舌をちろりと伸ばしてみる。
アルブムの唾液は白檀の香りが一層濃く、ツバすら甘いいい匂いがする。
小さなアルブムの舌先に舌先をおっかなびっくり触れさせてちゅ、ちゅ、とふっくらした唇を角度を変えて貪った。

「は、あ、……っ、ある、ぶむ、くんっ……」

一旦呼吸のために口をわずかに離し、二人の唇に唾液の糸が引く。
それをぺろりと舐め取って、切なげに眉を弛めながら再びアルブムの唇を奪おうとして

「っ……だ、だめ、これいじょうは……!アルブムくんをたおれさせちゃうっ……」

恐れるように身を引き剥がそうとするが、久々の精気に空腹は満たされ、
次にまた精気を吸えるのはいつになるのかという恐れに中々アルブムから離れることが出来ない。

「あ、あるぶむくん……っ、もっとぉ、ほしいのぉ……」

はひはひと上気した息を吐きながら、潤んだ瞳で相手を見つめる。

アルブム > 「ん、ぁ…! あぅ………あむっ、ん、れるっ………んるるっ……」

腕が絡まり、尻尾が絡まり、唾液が絡み合う。まるで恋人同士のキスのように、舌さえももつれ合わさせて。
身体の芯からはまるで雑巾が絞られるように力が吸い上げられているのだが、それは苦痛ではなく、まさしく快感。
もともと奉仕精神の強いアルブムにとって、他者の糧となることを本能的に恍惚と感じてしまうのだ。
リリトの唇の柔らかさや舌の味を感じ取るたび、先程枯らされた花の姿を思い出してしまう。
しかし今や、花びらと同じように枯らされてしまっても構わない、という心情すら燻り始めていた。

「………っ、ぷはっっ!! あっ、う、あああ……リリトさんっ、リリトしゃんっ……うう……」

呼吸の為につかの間互いの顔が離れると、アルブムは名残を惜しむように相手の唇に追いすがろうとする。
疲労と体格差ゆえにそのアプローチは叶わないけど、アルブムは舌をだらしなく伸ばし、懸命に続きを懇願する。
産まれたての鹿のごとく震える脚に力を込め、口がダメなら顎や首筋に、と貪欲に食らいつこうとさえする……。
が。

「…………!!!」

突如、アルブムの全身がなにかに怯えたようにびくんと強く痙攣する。
そして、密着しきっていた互いの身体を剥がすように腕に力を込め、リリトを押しのける。
弱々しくも怯えきった腕の動きはリリトを押し倒してしまうだろうか、踏みとどまるだろうか。
どちらにせよ、アルブムはよろめきながら後退し、砂浜に尻もちをつく。
ローブがはだけられ、タイツに覆われた股間の膨らみからは小さな突起がピンと屹立していた。

「………あ、う…………《かみさま》………ご、ごめんなさい………ぼく………変なこと、してた……」

アルブムの脳内に《かみさま》の咎める声が響き、ようやく我に帰ったのだ。
ただリリトに精力を分け与えるだけのスキンシップのはずなのに、その域を超えて濃密に絡んでいたこと。
自分自身の数瞬前の痴態を思い出し、思わず謝罪の声が漏れてしまう。
消し飛んでいた羞恥心が引き戻す波のように湧き上がり、大仰な素振りでローブを掴んで股間を隠してしまう。

「ご、ごめんなさい、リリトさん、ぼく………ぼく…………うう、リリトさんに、変なこと……」

潤んだ瞳でリリトを見つめ、すぐに逸らし、また視線を戻し……戸惑いの色を拭えぬまま、たどたどしく言葉を紡ぐ。

「………えと、その。リリトさん……おなか、いっぱいになりましたか?」

リリト > まるで追いすがるようにアルブムが自分の唇を必死で貪ろうとするのが愛おしい。
その思いに応えてあげたい気持ちと、これ以上はアルブムを吸い尽くしてしまうかもしれない気持ちがせめぎ合う。
恐れと戸惑いに、瞳が揺れ動くと、先に行動に出たのはアルブムだった。
雷に打たれたように痙攣した小さな体がリリトを押しのけて砂浜に尻餅をつく。
リリトは尻尾を離し、腕をだらりと下げて、突然の拒絶に目を丸くした。
しかしこれでもうアルブムを脅かすことも無いと分かるとほっと安堵する自分も居た。
崩れた体勢をホバリングで浮かせて、見ればアルブムの股間には小さな雄の象徴が屹立していた。
はっとそこで我に変えれば、自分の股間も膨らみかけ、黒革の衣服を痛いほど押し上げていた。

「あ、アルブムくん……っ、ご、ごめんなさい……恥ずかしいよね……っ」

自分も慌てて両手で股を隠し、もじもじと内股を閉じてどうにか猛りを納めようとする。
ただ単純に精気だけを吸い取ればいいのだが、淫魔の接触は性的快楽をもたらす。
こんな幼い子供にまでその効果が及んでしまったことにリリトは情けなさと恥じらいでくしゃりと顔を歪めた。

「うん……お腹、久しぶりにいっぱいになったよ……ありがとう。
 でも、もうアルブムくんとキスしちゃ、だめな気がする……。
 ごめんね、恥ずかしい思いさせて、それなのに何もお礼出来なくて……。
 ぼ、僕もう行くよ、アルブムくん気をつけてね……それじゃあ」

じわっと涙がにじむ目尻を相手に悟らせまいと顔をそむけるとそっと手を振ってその場から飛び立つ。
精気を得たリリトの翼は力強く空を切り、夜闇にみるみるうちに溶けて消えていった。
せっかく友達になれそうだったのに、あんなことをしてしまってはきっと嫌われてしまったのではないだろうか。
もう二度と会わないかもしれなけれど、それだけが残念だった。

ご案内:「セレネルの海」からリリトさんが去りました。