2018/11/08 のログ
ご案内:「セレネルの海」にオフェリアさんが現れました。
■オフェリア > 潮騒が宵の浜辺に響く。静かに息を吸い込むと、強く海の香りがした。
空に棲む月明りは儚く弧を描き、地へと注ぐ明かりは頼りない。
代わって、濃紺に散る星々は息を呑む美しさだ。大小無数の瞬きが、果てなく伸びる海と空の境を教えてくれる。
穏やかな或る日の夜。浜辺に残る足跡は一つ。
海風に上着の裾と金糸を靡かせて、佇む女は何をするでもなく。只、赤い眸へと海原を映して居た。
■オフェリア > 右へ、左へ。視線を流してみても、変わらず暗い水平線が続く。
―――例えば彼方。若しくは彼方。其の向こう側でも良い。此の地に辿り着くより前に、身を寄せていた国は何方の方角であったか。
後方、背にした街は確か、北に位置している。ならば西か、東か。水平線の先の、遥か南方だったかも知れない。
気紛れに永い記憶を辿ってみたが、どれも一つとして判然としない。潮を含んだ風を孕ませ揺れる金糸を、持ち上げた片手に押さえて耳へと掛ける。
横髪を掬う所作に合わせて無機質な表情を俯かせ、そんな事を考えた。時間の感覚は、今も昔も曖昧な侭だ。
今夜も等しく、どれだけ此処で海を眺め過ごしていたのかも判らない。
深く、静かに息を吸い込むと、強い海の香りがした。吸い込み取り入れた躯の内から染み込む様に。他愛無く思考して、息を吐き微笑う。
星明りに隠れた月と良く似た形が、俯いた女の口許へと浮かぶ。
■オフェリア > 伏せた視界、浜へ差す白波がふと目に留まる。緩慢に足を前へと運び数歩先へ近付いて、靴先を波打ち際の傍まで迫らせた。
金糸へ絡めた指を解き、躯の横に腕を下げながら足下を覗き込む。打ち寄せる波が己の元まで届きそうになれば、濡れてしまわないようそっと足を後ろへ退いて。
例えば―――馬鹿げた空想に過ぎないが、例えば若し。此の海を、此処まで歩いて来たのと同じ様に渡る事が出来たなら。
水面を歩み、夜空に敷かれたあの水平線へ向かって歩む事が出来たなら。それが叶えば、眺める方向は今よりきっと確実だろう。
巡らせる空想の内、いつしか一人浮かべた笑みは薄らいだ。寄せては返し、また小さな波が押し寄せる。
今度は足を退こうとはしなかった。予想通り、白波は僅かに女の足下まで届いて飛沫を散らす。靴先が幾らか濡れて、その下で砂が少しずつ浚われてゆくのを感じた。
矢張り、浮かびはしない。声も無くもう一度笑みを口唇へ象ると、次の波が届く前に女は踵を返し、元居た付近へ下ろしていた提燈を手に取った。
硝子の中で淡い光の球が揺れている。持ち主の所作に呼応し照度を上げた提燈が、ほの暗かった其れ迄よりも明るく辺りを照らす。
浮かぶ陰と足跡が一人分。砂浜へ印した軌跡を辿り、やがて歩き始めた女の姿は夜の帳の中へ―――
ご案内:「セレネルの海」からオフェリアさんが去りました。