2018/08/14 のログ
ご案内:「セレネルの海 海辺の洞窟」にアビゲイルさんが現れました。
アビゲイル > 王都近郊、海に面した砂浜にひっそりと口を開けた洞窟の奥。
持ち込んだカンテラの明かりを傍らに、一人の女が平らな岩の上へ腰掛けていた。
捲れ上がったドレスの裾を直し、はだけた襟元を整えながら、
眉を僅かに寄せた気怠い表情で俯き、そっと嘆息を洩らす。

己が未だ嫁ぐ前、此処で幾度と無く、男と肌を重ねた。
相手は下男や従僕といった手近な男である事も多かったが、
時には街で知り合った、名も知らぬ行きずりの男とも。
―――――今夜は久し振りに、そんな男を誘い込んでみたのだが。

如何やら、男は夫の知り合いであったらしい。
知人の妻と懇ろになる勇気は無い、と言い放ち、男は洞窟を出て行った。
残された己は―――――もうひとつ、溜め息。

「王都には珍しい、倫理観の確りした殿方ですこと……、
 ああ、でも、やっぱり、気が弱いだけ、かしら?」

本当に倫理観の確りした人物であれば、そも、行きずりの貴婦人との逢瀬になど応じまい。
此度、街中で声を掛けてきたのは向こうであったのだし――――。

ご案内:「セレネルの海 海辺の洞窟」にコルガナさんが現れました。
コルガナ > 波の音だけが響く深夜の海、溶け込むように真っ黒な王族風のシンプルな衣服を着た
男が、静かに革靴を浜辺の砂に沈め歩いていた。雷雨があった昼間の雲は過ぎ去ると
空には月が見えていて、ずっと遠くを眺めるように海岸を歩いていた。
そんな途中に足早な足音が聞こえる、平民風の男だった。
ただし表情には焦りがあるようで、自らがうんざりするほど見た貴族の下心の失せる
表情だった。

「…………」

何事かと歩いて行った人物が消えて行くのを眺め続けた後、その進行方向とは別の
方向へと男は歩みを進めた。王都からはそこそこ離れている洞窟。
こんな所に何があるのか、誰かを手籠めにした割には過ぎ去る顔には満足感が無いようだった
男は洞窟の中を覗き込むと、其処には何やら見たような顔がある。

「ノースブルックの公爵家………」

アビゲイル > 逃げる様に立ち去った男の名前も身分も、もう己には如何でも良い事。
此の洞窟にも、今夜はもう用など無い、けれど、急いで帰る必要も無く。

茫洋たる眼差しをカンテラの明かりが照らす岩肌に向けていたところへ、
誰かの足音が聞こえてきた。
一瞬、先刻の男が思い直して戻ってきたのか、だとしたら少し面倒な――――と思ったが、
入口から此方を覗き込む人物の顔は、男ではあれど先刻の者では無かった。
瞬きを数度、記憶を手繰り寄せる間を挟み。
ああ、と眉宇の翳りを解いて。

「此れは、……コルガナ大公殿下ではございませんか。
 随分、可笑しな所でお目にかかりましたこと……、
 此の様な不気味な場所へ、一体、どんな御用でいらしたんですの?」

着衣の乱れは既に直しているが、纏め上げた髪型は僅かに解れている。
けれど、特段悪びれた風も見せず、しっとりと穏やかな微笑を向けてみせた。

コルガナ > 男は護衛も付けていない、単独でただ一人この場所に来た事はすぐに伺える
穏やかな微笑みを相手が見せると、ほんの少しだけ男の表情からは険しさが消える

「特段の用は無い……奇怪な場所で目にかかったのはお互い様という物です」

驚くほど物静かな声色で話す男は僅かに解れた髪がすぐに目に留まり
反射的に男はさっと手を伸ばし、最低限目立たないように軽く乱れを直す。

「仕事が終わり、僅かに時間が空いたので何となく立ち寄っただけですな」
男の衣服は深夜の仕事終わりにも関わらずきっちりと整えられ
足場の悪い地面に革靴でもつま先に砂も無く歩いている

「ご婦人は斯様な場所で、どのように驚かせて夜分遅くに人の子を慌てて走らせたのか
…わずかに気になる所です。先ほどこの方向に走る人がいたので」

アビゲイル > 夫からは『厳格な人物である』と聞いた事があるだけの相手だが、
もっと口さがない宮廷スズメたちの噂も、幾らかは耳に入ってきている。
然し、こうして相対した限りでは、其れ程恐ろしい人物とも思えず―――――。

「ふふ、そう言われてみればそうですわね。
 ―――――……あら、……有難うございます」

喉奥に忍ばせる様な笑みを絡めて、髪を整えてくれた事に対する礼を。
其れから、此の時間、こんな場所に在っても、一糸乱れぬ佇まいを見せる男に、
何気無く視線を添わせて。

「ひと―――――、で、ございますか?
 ああ、……そう、そう言えば先程……、丁度大公殿下と同じ様に、
 其処から此方を覗き込まれた方がいらしたようですわね」

内心の動揺を綺麗に押し隠してみせる事など、王侯貴族であれば容易いもの。
緩く首を傾がせ、一拍、心当たりを探る様な間を空けて、
さも、今思い出した、と言わんばかりに頷いて応じ。

「でも、何だかひどく驚いた顔をなさって、直ぐに逃げて行ってしまわれましたの。
 私、ぼんやりしていたものだから……きっと、幽霊にでも間違われたんですわね」

そんな空惚けた台詞を吐いて、笑う。
口許へ片手をそっと宛がった、飽くまでも品位を保つ態で。

コルガナ > 「まぁ斯様な場所では、ソレも致し方が無いという物です。」

男は僅かに口角を挙げて微笑んだ、しかし触れて斬れるような三白眼は
一切笑っていない。万が一察したとしてもココで言及する気は全く無い
呼吸よりも多くの隠匿を見てきた男は差して気にもしない。

「ましてや上質な衣服が潮風で少し乱れることがあれば
ココで死を遂げたようにも見えます」

どの程度の噂が広がっているかは知らないが、この前は大げさに宮廷内の使用人に
広がって下卑た貴族が残酷に死ぬ時は大抵この男が絡んでいるとか
彼のメイドに手を出した貴族が生きたまま生皮を剥がされて死んだとかが
広がっているが、大抵は潰し合いによる自滅である。

「……………お足元が良くありません、その先はお気を付けて」
小慣れた動きで気遣っている

アビゲイル > 目の前の男が、完全に誤魔化されてくれた、と思う程、己は愚かでは無い。
然し、此の場で追及する気が無いのなら、特に気にする事も無かろう、と、
微笑んで受け流す事に。

「私も少しは驚きましたけれど…、先程の方の、お顔ときたら。
 ああ、でも、そう……私、世を儚んで自死を遂げた女に見えた、のかも知れませんわね」

髪も乱れていた事ですし、と、未だ可笑しげに眦を弛めて。

メイドや従僕たちの噂話は、殊更過激になる傾向がある。
半分程は嘘と大袈裟で出来ている、と言っても過言では無く、
此の男に関する噂も、そうした類のものと考えてもいた。
だから、―――――ほんの少しの悪戯心と共に、座した姿勢からそっと、
片手を男の方へ差し伸べて。

「入り込んでみたは良いのですけれど、確かに、少し足許に不安がございますの。
 もし宜しかったら、お手をお貸し頂けません?……大公殿下」

相手の気遣いを此れ幸いとして、折角だから甘えてしまおうかと。
先刻の男との遣り取りの所為で身体は冷め始めており、
手を引いてくれる、以上の事を期待した訳では無かったが――――。

コルガナ > お互い国に関係する立場にある者同士、其処は流れるべき対応であった。
仕事ではないこの場所であくまで自分の前ではある程度の礼儀を考慮する相手を
無下にする事は有り得ない。

「ノースブルックの家がそれほど切り詰められる事が無いように祈るばかりですな」
片手を差し伸べられると何処か何かを見るように僅かに目線を動かすと
非常に慣れた手つきでスムーズにその手を取り自らの手を皿にふんわりと彼女の手を重ねる

「すぐそばに大きく張り出した石があるので右足の方お気を付けて」
仕事の疲れも見られずしっかりした足取りで彼女の行く道を先導する

アビゲイル > 嫁した家の名を出されれば、己はますます可笑しそうに肩を揺らし。

「まあ、さらりと恐ろしい事を仰いますのね。
 夫が失脚してしまったら、私の様に無力な女は、本当に死ぬしか無くなってしまいますわ」

勿論、此れも戯言ではある。
実際には、もしも夫が失脚したところで――――己は次の宿り木を探すであろう。
詰まりは、其の程度の関係なのだから。

ともあれ、男が己の手を取ってくれるなら、今宵は此処が引き際か。
逆の手でカンテラを持ち上げ、立ち上がって男の先導に従い歩き出す。
王都に戻るまでは恐らく、其の儘で―――――薄ら寒くなるほど儀礼的な会話も、
其処までは続いた事だろう、と―――――。

ご案内:「セレネルの海 海辺の洞窟」からアビゲイルさんが去りました。
ご案内:「セレネルの海 海辺の洞窟」からコルガナさんが去りました。