2018/04/12 のログ
ご案内:「セレネルの海」にオフェリアさんが現れました。
オフェリア >  漣が止め処なく奏でられる宵の白浜。
 波打ち際から程近く、一人分の足跡が、乾いた砂浜の境界を辿る様に続いている。
 裸足に砂を踏み潮風に長い金糸を靡かせて、脱いだ靴を片手に提げ、揺らして歩く。

 足取りは確かだが、進む速度は酷く緩やかだった。
 風に導かれ虚空に線を描く金糸を時折手で抑え、さくり、さくり――砂浜へ、足跡が続く。

オフェリア >  情感が欠落したかの如く無機質な貌。歩き始めた時から―其れが何時からかは忘れてしまったが―女の貌は足元に俯いて、時折月明かりに貝殻を見付けては、踏み付けてしまわぬように避けて進んでいた。

 他に見るべくは無い。潮の香りと、波の音。在るのは只、それだけだった。

ご案内:「セレネルの海」にジルヴァラさんが現れました。
ジルヴァラ > 漆黒の空から淡い月明かりだけが静かに降り注いでいる。
セレネルの海に浮かべた小舟の上で、男は寝転んだまま天空を見つめていた。

小舟はさながら波間に揺蕩うゆりかごだ。
心地良い揺れに目を閉じれば、舟を抱く優しい潮騒と己の鼓動とが混じり合い、
このまま海に溶け込んでしまえるような気さえする。
普段は海賊の頭領として3つの船をまとめてる身だが、時折こうして、自身だけの舟遊びが無性に恋しくなってしまうのは、
海以外に故郷と呼ぶべき場所を持たないからかもしれない。

気まぐれな波に運ばれ、舟底が砂浜に乗り上げる。
男は上体をゆるりと起こした。
近づく人影に気が付くものの、こんな時間に浜辺を一人で歩く者があるとは思わず、つい人か魔物かと目を凝らして。

オフェリア >  髪の狭間から覗く耳へ届く音。変わらぬ漣と風の鳴ならばそろそろ馴染んだ頃合だが、今し方聴こえて来た音色には其れ迄とは別の要素が孕んでいた。
 波が、何かに阻まれ跳ねる音。砂底に何かが擦れて、抉る音。

 ゆるゆると貌を上げた拍子、風に煽られた金糸が一筋、紅く形作られた口唇に乗る。
 指先でそっと其れを払いながら、閑散と続く浜辺に、そうであると思い込んで居た景色に、相異が在ると気が付いた。
 小舟の影、其処へ収まった人の輪郭。視線を前方へ向け其れを認識した時は既に、然程も距離の無い位置まで来ていた。
 月明かりが照らしてくれる。程無く、紅い眸が薄らと其の姿を捉え始めた。
 前へ前へと運んでいた歩みが、止まる。

ジルヴァラ > 身を起こすと、すぐそばで足を止める気配がした。
警戒心から無遠慮にそちらへと目をやり、気配の正体に気づくと男はわずかに息を呑む。

月光を浴びた長い金の髪は星々を散りばめたように煌めき、
時折風に掬い上げられ、彼女の透き通るような肌にそっと寄り添っては虚空へと散っていくのを繰り返していた。
印象的な深紅の瞳はこちらを見ているようにも見ていないようにも感じられ、
その面差しにはどこか非日常を思わせる、つくりものめいた危うさがあったが、それも含めてミステリアスな魅力に満ちている。

「……驚いた」

無意識に唇がそう零してしまう。男は武器類を外してから舟を降り、彼女へと歩み寄る。
少し前まで波に揺られて眠りに落ちていたから、これも夢の続きだと言われても納得出来るような気がした。
蒼海を閉じ込めたような瞳で興味深げに彼女を見下ろし、笑いかける。

「船に乗って久しい身だが、人魚に会うのは初めてだ」

オフェリア >  男の姿が岸辺へ着いた舟から抜け此方へ向かって来るのを眺め、脚は依然と留まった侭、動かずに居た。
 警戒心が失せているのか、不要と判断したのか、若しくは諦めたのか。逃げ出す素振りは一分も無かった。
 ただ、緩やかな瞬きの中で砂に埋まる足音を聞き、男を見詰める。
 天から注ぐ白む月明かりに、鋭利な銀色の長髪が浮かび上がる様だった。

 「―――…ええ、 そう、なのでしょうね 」

 男が近付くにつれ大柄な体躯の持ち主だと判った。しかし敵意は恐らく無い。
 薄暗くとも髪との対比で確認出来る日に焼けた肌色、広がる海原の様な双眸。それらが笑いかけ、こうして語り掛けて来るのだから。

 「本物と、見間違う位ですもの。
 …彼女らの多くは、きっと砂浜より海中を好むと思いますよ」

 冗句か真か、告ぐ言葉にささやかな笑い声を返し、弧を描く口唇へと答えを乗せた。

ジルヴァラ > 突然海の上から自分のような大男が現れれば逃げ出されても無理はなかったが、
彼女から返される言葉の中に、ふわりと柔らかい空気が漂うのがわかる。
美しい唇が笑みを刷いているのを見やり、男の胸にもいくばくか安堵の色が広がった。
人間か否か、未だにわかりかねる存在感ではあったが、この不思議な魅力には心惹かれるものがある。

「ははっ。砂浜にアンタみたいな美人が居ちゃ、連中も出てこれやしないさ。
 ……いや、ひょっとしたら海に引きずり込む気かも知れねえな」

男はおどけるような声音で言い、悪戯っぽく口角を上げてみせる。
以前どこかで、人間に恋をした人魚の物語を耳にしたことがある。
陸を歩ける脚を手にする代わりに、海底に棲む恐ろしい魔女に自分の声を差し出す――というものだが、
語り継がれる国によっては、今尚地上に憧れる人魚たちは陸から美しいものを攫い、自分の代わりに魔女に与えることで願いを叶えるのだという恐ろしい伝説もあった。

「アンタの瞳も髪も、欲しがる奴はごまんといるだろう。
 ……俺はその持ち主の方が興味深いが」

そっと片手を差し出し、彼女の髪のひと房を指で掬い上げる。
もし彼女が手を振り払わないのであれば、そのまま絹糸のように滑らかな髪の束に口づけてしまうことだろう。

オフェリア >  男は海原から遣って来た。其の身の後ろに見える一艘の小舟で。先の言葉からでも、日ごと海を抱く者であると推察出来る。
 ――漁夫、とは、恐らく違う。身形は凡そ上等に見える。ともなれば、考え得るは―…
 否、自己へ危害が及ぶ訳ではない。今の所は。声の抑揚の調子や表情の移ろいから見て、中々に人好きのしそうな印象だった。

 引きずり込む、そう冗談めかして脅す銀糸の男の言葉に誘われ、貌をゆっくりと黒に染まった海原へと向ける。
 其れ迄は足元にばかり俯いていて、碌に見ようともしなかった。暗闇が口を開けているかのような漆黒が広がるばかり、そう思っていたが、夜空との境も曖昧な彼方で水面が月に輝く様子が伺えた。

 「…あら、 そうであれば、海に棲むものの怒りを買ってしまいますよ。
 私があちらへ誘われたら、今なら貴方の手を取って、離さないもの」

 海を眺める其の間に、髪が風以外の意思で持ち上がる感触がした。其方へ貌を戻せば男の手に捉えられた金糸。
 寄せられる顔を見届けて、紅い眸を細め、微笑った。悪戯に告げられた噺を混ぜ返しながら。

ジルヴァラ > 手を取って、離さない――。その声に、表情に、男を拒絶するような空気は感じられない。
思いのほか大胆な言い草に、よほど男慣れしているのかと下卑た予想を立ててしまう。
この見目と立ち振る舞いであれば男たちが放っておくわけがなく、これまで数多の口説き文句を浴びてきたことだろう。
読めない女だ。内心でひとりごちる。

微笑みに見届けられながら柔らかな髪に口づけると、女特有の淡い香りが男の鼻先をくすぐった。
初めに抱いたつくりもののような印象はやや薄らいだものの、
眼前に佇む麗しい娘のかんばせは、その仕草ひとつで妖艶な女性にも無邪気な少女にも見え、
眩暈がしそうな感覚と共に、男の中の卑しい部分が掻き立てられる思いがする。

「……試してみるか?」

本当に海の怒りを買うか、それとも男自身を、という意味合いなのかは言わぬまま。
細い髪束を解放した手で、今度は女の華奢な手首を掴み、身体ごと引き寄せる。
桜色のショールを抱く肩が胸の内へ収まったなら、こめかみにそっと唇を落として。

「……俺はもう、アンタをただで帰すつもりはねえよ」

視線を波打ち際へと向ければ、浅瀬にまどろむ小舟は主人の帰りを従順に待っている。
彼女を誘い、このまま月を浮かべた水面へと漕ぎ出すことが出来たらどんなにいいだろう。
最後の問いかけを彼女へと託し、男は言葉を待った。

オフェリア >  体躯に見合った声の音色が、僅かに響きを変えた気がした。
 結果として、気の所為、と言う訳でもなかったのだろう。
 髪が一房、はらりと男の指先から流れていって、手首が捕まった時には幾許か、紅い眸の形が丸く、揺れる。
 微笑む造りで覆う表情に一片、驚きに似た変化が差すも、一度成された緩やかな瞬きが、其れを再び覆い隠す。
 海の香りが強い、硬い胸板へ。自らの身が添うと、残されたもう一方の手を紅い口唇へと持ち上げて、

 「…まあ 、フフ……、海へ誘うのは、 貴方のほう、でしたのね」

 僅かに声を弾ませて、転がす様に笑った。微かに揺れる肩、頭が、抱き止める男に振れて伝わるだろう。
 それから視線を海原へ、耳元のすぐ傍に落ちる男の声にも構わず首も其方へ巡らせると、先程見付けた水面の月の輝きを見詰め。

 「――…私も、見た事は無いの。…連れて行ってもらったら、人魚や魔女に、 逢えるかしら」

ジルヴァラ > 繊細な身体を男の胸へと閉じ込める。
女は宝石のような紅色の瞳を小さく見開いたが、こうして動きを封じて尚、ころころと愛らしい声音で笑った。
細くしなやかな手を口元へ導く様子がひどく艶めいていて、
もしかすると彼女は本当に人以外の何かで、王国中の男を惑わすために存在するのではないかと、そんな気さえしてくる。
共に海へと漕ぎ出したが最後、引きずり込まれるのはこちらだろうか。
――それでも、もう退くつもりはない。

「さあ、どうだろうな……。
 逢えなけりゃ、遠くまで探しに行けばいいさ。ここに優秀な船頭がいるからな」

くつくつと喉を鳴らして笑い、水面を見つめる彼女の金糸の髪を、筋張った手で緩く梳かして弄ぶ。
やがて身体を離し、繋いだ手を軽く引くようにして連れ立つと、さざ波と遊ぶ小舟へと彼女を導いた。

互いの名も知らぬまま漕ぎ出した二つの影は、いずれ水面に映る月明かりが優しく抱いてくれるだろう。
月神と海神の見守る中、海の夜は更けていく――。

ご案内:「セレネルの海」からオフェリアさんが去りました。
ご案内:「セレネルの海」からジルヴァラさんが去りました。