2023/05/16 のログ
ダアト > 「……」

そしてそれはそこにいた。
影のように静かに佇み、目前の青年をじっと値踏みするように見つめていた。

「ふむ」

目が合ったことに気が付くと僅かに首を傾げる。
幾ら気を抜いていてもこの距離まで近づかれることに気が付かないものは少ないだろう。
そんな距離に湧いたように不自然に、それは目の前のヒトを感情の無い瞳で見つめ続けている。

「……こん、な月夜に、騒がしい、と、思えば、
 無粋、な剣、振り小僧、共か」

枯れた小さな声で呟いたその掌には何時しか小さな短剣が浮かび、切先を青年に向けながらくるりくるりと回転していた。

サウロ > 「……!」

(視界の先に不意に現れた存在に、サウロは瞠目した。
 いつの間に、と反射的に盾を構え、腰に下げた剣の柄を掴む。
 仲間の索敵魔法に引っかからなかったか。あるいは突如、そこに現れたのか。
 原因は何であれ、そこに現れた存在を注意深く観察する。

 フードのついたローブ姿に軽装。
 年齢も性別も薄暗い夜の月明かりの元では判断がつけづらい。
 もつれ気味の口調で語る声は小さく、何を言われたのか一瞬ではわからず。
 その手に短剣を握る様子があれば警戒心を強め、眉を寄せる。
 攻撃の意思があれば応戦するが、そうでなければ、まずは対話から──。)

「……あなたは何者だ? ここから先はゾス村だ。
 村に危害を加えるつもりでいるなら、私は村を守るためにあなたを止めなければならない」

(止める、という手段が武力による応戦になると、察せられるだろうか。
 その反応を伺うように、サウロは注意深く、相手を見据える。
 そう時間もかからないうちに、仲間も戻ってくる。
 見たところひとりのようだが、伏兵も警戒して、短剣を持つ目の前の相手の真向に立つ。)

ダアト > あの花に飲まれて暫く眠っていたようだけれど、目が覚めてみれば何やら騒がしい。
それほど時間は経過していないようだけれど……
ひとまず王都に戻ろうかと考えながら歩いてみれば傭兵冒険者の多い事多い事。
どうやら国境の要衝が占拠されたとかなんとか。
彼等とあまり会いたくないという思いから夜を選んで移動していたが……
それが原因で自身が夜の魔物と勘違いされ通報されている事を魔女は知らなかった。

「ほぅ、止められる、のかや?
 この距離ま、で、近づか、れて、気が付く、事も、出来な、かったお主が、
 魔の者、相手、に先の、ミレーが、帰ってくるまで、の、時間を稼げる、とでも?」

蔑むような口調は冒険者嫌いもあるけれど、気が付かれた事に対する警戒の裏返しでもある。
正直人数が少なくなったタイミングでちょっと確認して帰るだけで
気がつかれるつもりはなかったが、
月の魔力に乱されて、不可視の障壁に淀みが生じていたか。
それとも彼の人物に退魔の力があるか。
いずれにせよ、静かに確認するという目論見は狂ってしまった。
その焦りを隠すために見せている掌に浮かぶ鋼は主の代わりに牙をむく瞬間を今か今かと待ち構えている。

「……やめ、ておけ。
 主に、わしは、殺せ、ぬ、よ」

それは嘲るような口調でブラフではないが正しくもない言葉を吐き捨てた。
剣程度では死なないしと虚構を織り交ぜ威嚇しつつもゆっくりと間合いを測る。
大抵の相手に簡単に負けるつもりはないが、戦うのはあまり好きではないので内心では冷や汗をかいているし滅茶苦茶及び腰なのを悟られないように。
この世界、舐められたら終わりなので。

サウロ > (語る口調、ゆっくりと紡がれる声は軽く、よどみもなく少女、あるいは女性に近しい。
 少女と大人の中間ぐらいだろうか。
 それでいて、ゆっくりと紡ぐ声は決して悪意を感じさせない。
 言葉の意味だけを捉えるなら蔑むように挑発しているが、
 サウロの経験上、敵意を持つ者の声はその心情が音になる。
 便宜上、彼女──でいいとして。
 彼女からは、襲ってやろうという悪意や害意といった感情は感じられなかった。
 むしろ、己を魔の者、わしは殺せぬと言うあたり、どこか自嘲や諦観に似たものを感じる。
 サウロはすぐに戦闘に移行できる姿勢から、少しだけ足を伸ばし、剣は抜かないままにじっと彼女を見据えた。)

「……貴方が私の敵であるならば、たとえその身が何であろうと身命を賭して止めてみせる」

(それは、強い意志を感じさせる声だったろう。
 隠蔽の術を用いたまま村に入られては分からなかったが、その術を解いて姿を見せたのは何故なのかと疑問に思う。)

「そうでないのなら、どうか、その武器を降ろして欲しい」

(あくまでもサウロは守りに徹する者。害成す者を追い払う門番であり、守護者。
 向けられる敵意に対応しても、敵意のない者に剣は抜かない。
 今現在も、彼女が襲い掛からぬうちは、サウロから攻撃することもない。
 対話で解決するのならばそれに越したことはないと。
 彼女が聞き入れて武器を降ろしてくれるかは賭けだが、初撃を防ぐ覚悟で、
 サウロは自ら先に剣の柄から手を離し、視線はそらさぬままに片手を上げて見せる。)

ダアト > 「……ふむ」

改めて目前の相手をじっと眺める。
涼し気な外見と実践至上主義というよりは信条や信念を感じさせる視線。
半身で構えた姿勢から見るに、我流ではなく王都式の剣術を習った形跡がある。
懐に入られた状態であまり動揺を見せない所からもある程度場をくぐってきているのだろう。
もし自分が暗殺者型の術師なら致命の位置にいるにも拘らず体幹がぶれない。
そして何より、対話を主とする姿勢と血や欲に逸っている気の流れを感じない事から
特に嫌っている類の冒険者ではないらしいと僅かに警戒を緩める。
こちらとしても先程のミレーが帰ってくる前にある程度場を収めたいという思いがあるので……

「興が、醒め、た。疲れる、のは、嫌い、じゃ」

あっさりと臨戦態勢を解く。
あくまで武器を収めるといった体で刃を消し去りつつ内心はほっと一息。
相手からすれば不意の遭遇戦に見えるだろうが実はこちらとしても割と事故。
近接型ではない魔術師が相手の射程に忍び込むってどんなお気楽樹人ですかと内心突っ込んでいる。
魔術に長けている自負はあるが、身体能力は並どころか子供程度。
どう考えても距離を活かせる魔術戦の方が数倍気が楽。
斬った張ったになれば力で押し切られる可能性が高い。
ましてや今は体内の魔力回路が滅茶苦茶になっているのだから本当に勘弁してほしい。
……死なずと言えど、痛まない訳ではないのだから。

「……ぬし、が、振るう、気が無、い、というな、ら、
 わしとて、何も、しはせん、よ。」

とぎれとぎれで疲れたような言葉の裏には、これまでの相手はそうではなかったという
苦い経験による疲れが滲んでいた。

サウロ > (思案する様子を、曇りのない碧眼がまっすぐに見つめる。
 が、サウロが観察するのと同じく、彼女からの視線もまた感じた。
 自分もまた観察されているのだと、息を呑む。
 武器から手を離した、など知られたら治癒師の仲間からどれ程叱責を受けることかと、
 内心で自身の行動の甘さに自罰的に反省する。
 だが、彼女が武器を納めてくれたのであれば、対話には意味があったと安堵した。
 油断を誘うための演技、あるいは魔の術中に嵌める為の行為である可能性はあるものの、
 サウロは他者の心に善性はあると信じて行動するタイプだ。
 敵意はない、なにもしないと言うのであれば、愚直に、その行動を信じるだけである。)

「──わかりました。
 しかし、何故こんな時間に? ……その、月夜の散歩、とか?」

(頷いて、構えていた盾も降ろして改めて向き直る。
 女性が一人で歩いていては危険だと言おうとして、そう言えば彼女は隠蔽の術も扱える魔の者だったかと思い返し。
 魔族、というには、彼らの種族特有にも思えるある種の傲慢さや攻撃性、凶暴性を感じない。
 魔女────人の身で魔に堕ちた存在を想起する。
 そして魔女と言えば箒に乗って夜の散歩……と、連想できたので、つい口に出てしまって。
 冗談とかではなく、いたって真面目に考えて、なんだか冗談みたいな言い方になって。)

「……失礼、」

(少し気恥ずかしくなって、咳払いをしながら小さく詫びた。
 しかし、どこか疲れていそうな声音が気になって、軽く首を傾げる。
 近くの切り株には食事をとっていた、というのがわかる状態。
 隠れながらに見ていたなら知っているだろうが、サウロは彼女に笑みを見せる。)

「お疲れでしたら、少し休んで行かれますか? 足を休ませるぐらいの間は、お守りします」

ダアト >  
「往来……が、騒がしい……でな。
 夜、の方が、却って…安全、に歩、け……る。」

ふぅ、と吐息を一つはくとここまでの道中に思いを馳せる。
誰も彼もが殺気立って獲物を探して歩いているような状況で
そんな中所属も後ろ盾も定かでないような人物が歩いていれば……。
どんな目に合うかは火を見るより明らか。

「……くふ、箒を……無くし、てな。
 あえな、く……徒歩で、と、いった、所……かの。」

元々真面目に会話する方が少ないようなタイプ。
真面目な口調で思わず零れたといったような言葉に軽口を返す。
そういった話が魔女は嫌いではなかった。
悪い魔女が好きかってして、それを知恵と勇気で滅ぼすようなお話が。

「……夜中、に起、きて……おる、悪い、子、を探す、のも
 骨、が折れ、るが……主、と、て……そう、いった、年頃で、も、なかろ?」

わざと利き手側にゆっくりと近寄りながらフードを下ろし
若い子供なら攫ったかもしれないけれどと人の悪い笑みを浮かべながら碧の瞳を見上げるように覗き込む。
一瞬反省するような素振りを見せた青年を慰めるように。
元々薬師であったことからこういった一瞬の反応には敏い方だと勝手に自負している。
最も、現役時代は子供相手にはずいぶんと苦労したけれど。

「……では、お言葉、に、甘えよう……かの。
 独り、身に、は、この道、は……少々、昏く、長すぎ、る、でな。」

掠れた声に僅かに喜色が混ざる。
その提案はたばかられている可能性が無い訳でもない。
危険性を考慮して単純に様子を伺っているだけかもしれない。
けれど”死なない”という呪いはそういった警戒心をどうしても鈍くしてしまう。
それにこの青年を見る限り、そういった腹芸が出来ない訳ではないだろうが、好まないように見えた。
本人は無自覚だけれど、根の部分のお人よしさがいつまでたっても抜けてはくれない。
……つまるところ、根拠もなしに信用してしまう。

「……仲間、には、うまく、説明、して……くれるのじゃ、ろう?」

そう口にしながら地面に横たわる枯れ木の上に掌に湧いた火種を落とす。
パチパチと柔らかい音を立てながら燃え始めた火の明かりを前にして振り返り

「……しばら、く、騎士殿、には護衛、でも……頼もう、かの」

青年へと僅かに柔らかく微笑んだ。

サウロ > (ゆっくりと語る彼女の言葉一つ一つに耳を傾ける。
 訊ねた問いに、面倒がる様子もなく答えてくれるところ。
 時には軽口めいて、悪戯っぽく返すところ。
 サウロの反応や表情を見ながら、言葉を選び、慰めにも近い声をかけられて。
 自然と彼女は、悪い人ではないのだな、とサウロは思う。
 フードを降ろした姿は女性のものだった。月の色にも似た金と白、銀の艶めく長い髪。
 覗き込む紫紺の双眸は高貴な宝石にも似た色合いで、
 口調や枯れ気味の声音からはあまり想像がつかないが、若く見える。
 下から覗くように悪く笑って見せる表情には、小さく笑ってしまった。)

「あなたは、悪い子を攫ってもいい子にしてしまいそうですね」

(なんだかんだと優しさを滲ませる彼女にそんなことを言って、
 息を吸って吐くように、火種を作って落とすその一瞬の魔法めいた行為を見て目を瞬かせる。
 これから少し肌寒くなる頃合い。彼女が暖まって休むには、ちょうどいいかもしれない。
 振り向いて護衛を、という彼女に、サウロは胸に拳をあてて敬礼をする。)

「ええ、お任せください。自由騎士の誇りにかけて、必ずお守りします。
 じきに仲間も戻りますが、安全を伝えますのでご安心ください」

(邪気のない笑みを向け、手を差し伸べて、腰を下ろすなら手を貸そうと。
 力や体重をかけても、小柄な彼女ならば細身に見えるサウロの腕力でも十分支えられる筈だ。

 ────暫くもしない内に、急ぎ気味に戻ってくるミレー族の青年の姿もあった。
 増えている女性の姿に怪訝そうにしていたが、サウロは手短に経緯を説明し、休息して貰っていることを伝えた。
 徒歩で移動していることを知った騎士の仲間は驚きつつ、彼女に労わりの言葉をかけ、
 木彫りの深皿に入ったスープを片方差し出した。
 シンプルで野菜ばかりをくたくたに煮込んだスープは贅沢な味、とは言い難いが、
 内側から身を温めるには十分だろう。受け取っても受け取らなくても、気にはしない筈だ。
 今の所は魔物や盗賊が訪れる気配もなく、三人で焚火を囲むよう腰を降ろしたら、
 食事の再開をしつつ、雑談が始まるのだろう。
 魔力を元に魔法を扱う剣士であるミレー族の青年は、とくに彼女の話を色々聞きたがったかもしれない。)

ダアト > 火は良い。温かく、体も心も癒してくれる。けれど一人旅では贅沢の一つ。
安全の担保が無い状態では昼夜を問わず目立ってしまう火は使えない。
火を焚けばその明かりで、煙で自身の存在を周囲に知らしめてしまう。
魔術師なら防ぐ方法はいくらでもあるけれど……
そんな火を起こすということは、信用しているという事。

「……くふ」

差し伸べられた手に一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、
軽く体を預けながらそっと地面に布を敷きその上に。
見た目よりも力強い青年の腕は見た目よりはるかに軽い魔女を支えるには十分で……。
そのままポンポンと横を軽く叩き、傍に青年も座るようにと。
柔らかく、何処か不思議な感触の布は寝転んでも地面を感じさせないようなもので
それについて尋ねたならくつくつと少し悪戯気に笑った後に

「……秘密じゃ」

と答えるだろう。
そうして火を眺めている間に帰ってきたミレーの青年も交えて突発のそして細やかな交流会が始まった。
かなり猫舌の様で少しずつスープを口にしつつ、ぽつりぽつりと言葉を発する。
一人旅では村に入る事すら少ない事から久方ぶりの会話でもあり
傷ついた喉ではあまり多くは語れず、尋ねられた事にも言葉少なく返答する程度。
自然と早く喋れる彼らが会話の中心となっていく。
その会話にどこか楽しそうな雰囲気を漂わせながら魔女は耳を傾ける。
近隣のきな臭い話だけでなく、他愛ない世間話に世間知らずとなってしまった事から
時々どこかズレた返事を返しつつも頷き、微笑んでそれは偶然遭遇した青年達と
言葉と束の間の時間を重ね合わせた。

「……若人、の、会話……は、面白、い」

そんな年寄りじみた事を言いながら。

ご案内:「◆ゾス村(イベント開催中)」からダアトさんが去りました。
サウロ > (硬いパンをスープに浸してふやかして、チーズをかじって口に運ぶ質素な食事も、
 火にあたり、言葉を交わして交流を深めていくなら、美味しさも格段に変わる。
 地面に敷かれた布に驚いたり、何処に売ってるかだけでも、なんて尋ねたり。
 ほとんどはおしゃべりな黒髪のミレー族の青年が口を開いて、サウロがそれに補足し、彼女がとつとつと答える、という図が出来たか。
 聞き手に回る彼女には、二人が様々な王都や周辺の話題などを語りもした。
 三人で火を囲みながらの談話の時間は、そう長くはなくとも続いて、新たな出会いを月明かりが照らしていたことだろう────。)
 

ご案内:「◆ゾス村(イベント開催中)」からサウロさんが去りました。