2020/10/30 のログ
ご案内:「◆ゾス村」にタピオカさんが現れました。
タピオカ > ゾス村の夜は賑わっていた。
祭りの篝火。

古い村人の一部に信仰されている土着の風習に収穫祭が結びついた小ぶりな祭事で、村広場の中央にテーブルが並び、その上にはご馳走と酒精が所狭しと置かれている。
村はかつて自分たちを支えてくれた豊かな自然と田畑の実りに感謝する。
老若男女問わず、土や木、火や水。それぞれの精霊を模した思い思いの衣装やボディペイントを纏って飲み食いをし、酒を酌み交わし。子供たちはいつもはよくお預けされている砂糖菓子を心行くまま口にする。

焚き火が広場をあかあか、照らし。村倉庫でいつもはひっそりと仕舞われているリュートや太鼓が鳴らされる。
食物の振る舞いは村人のみならず、滞在している旅人や冒険者にも分け隔てなかった。

「えへ。ちょうどいい時に村に来たみたい。
今夜はご馳走!楽しんで行こう……!」

そんな通りすがりの幸運に預かった褐色肌の冒険者も例外ではなく、テーブルの果物に手を伸ばすのに余念がない。

……そして祭りの賑わいの外周や物陰では、密やかな甘い息遣いが音楽に混じって聞こえる。
この祭事は娯楽の少ない村の、縁結びの場、肉体交流……乱交の意味も兼ねているのだった。
そんな気配も内包しながら、村は小さくはしゃいでいて。

ご案内:「◆ゾス村」にアイゼンさんが現れました。
アイゼン > 喧騒が沸くテーブルのひとつ、囲うように据え置かれた椅子に座る中にひとり。外套は背もたれに掛けて、白絹のブラウスを焚き明かりに浮かび上がらせたフェルト帽子の頭がが宴に揺れていた
流れ者たちだろうか。目を細めてあるいは髭を揺らして騒ぐ面々は、木製のジョッキを手に抱え、空に吠え、卓の上に手を叩き、地には足踏み祭りを彩っている。
村の酒精深い酒も出されているのだろうか。男たちは早くにも手元ふらつきて、顔のも炎の照り返しだけではない朱さに染まる。

―――そんなテーブルが少女のすぐ後ろにあったのではたまったものではない。
果物に伸ばした褐色のうでやにかかる酒の飛沫。若い銀狼のような髪に吹きかかる胃で熟成された酒息。若さなれば感覚も繊細であろう耳に流れ込む数々の下卑た声、会話。あまつさえ距離感覚が曖昧になったフェルト帽子の男が、背を椅子に預けようと身を反らし、真後ろにいた銀少女の後頭部に黒い髪の頭をぶつけた。ごちん。

タピオカ > もとは牧歌的に野原を旅し、家畜に草を食ませ、昼に夜に横笛を吹いて生活していた遊牧民の出自であっても、そんな生活をする一族は日々遭遇する魔物や危険な動物を相手に戦う戦闘民族でもあった。
荒々しい流れ者たちの雰囲気には慣れているし、ほとんどの場合、立ち居振る舞いだけが乱暴で物や言葉をも乱暴に扱う人々ではないと知っている。

だから、自分のすぐ後ろで揺れるフェルト帽子を筆頭に宴会の飛沫を撒き散らす存在に特に何も覚えず。むしろ、下卑てはいても酒精混じりらしい笑い声にはつられて目元を緩めるほど。

それでも、さすがに頭同士が多少なりの痛みを伴って触れあえば、林檎を手にしたまま振り返って。

「わ、っ……と。
ごめんなさいお兄さん!後ろに気づかなくって」

先に謝りつつ、心配そうに羽飾り帽子の奥を覗き込む。

アイゼン > 頭蓋の衝撃で飛び出した、瞬く星の銀河がちらつく眼に飛び込んできたのは、―――野生馬のような子供だと思った。たてがみのような力強い色合いの髪。そして生気に溢れた眼差しが多少の不安を宿している。酒に濁った両の瞳に、翡翠の眼差しが写りこむ。

「いや、謝るべきはこちらだ。君に先に謝らせてしまうのは紳士として失態だった…レディ…?」妙にキザな、いや格式ばった言い回しで謝罪を返すと、その言葉尻が相手の性別を捉えかねて疑問に揺れる。やがて手を額にやり、謝罪を重ね始めた
「大変失礼だが、私の頭は祭りの熱にやられてしまったようだ。君のような素晴らしい人を可憐な少女と呼ぶか、凛々しい男の子と呼ぶか、判断が付かないでいる」
性別が分からぬと白状すると、しばらく宙に頭を揺らしていたが、何か思いついたような輝かしい眼を向けた。悪戯を思いついた少年の顔だ。

「無礼を重ねてよろしければだ、君に相応しい呼び方を当てて見せても良いだろうか?」
祭りに紛れたひとつの遊び。自分に性別当てを興とさせてもらえぬかと提案を持ち出した

タピオカ > 「レディ……?
あはは!……お兄さんは良い人だね。
誠意のある人」

物言いは芝居舞台の台詞台本じみていても、村人の用意した質素な蒸留酒の香が口元から漂っていても、あえて失礼をもって挨拶をするような人種の振る舞いとは思えなかった。
意味は知っていても耳慣れない言葉に瞳をぱちくりさせながら。剣を帯びた田舎者らしく、着飾るのに疎い自分の性別を迷う様子の役者じみて。思わず肩を震わせる。

「いいよ、どうぞお兄さん。
僕がどちらか、当てて見せて……?
さて僕は、剣を持った男の子でしょうか?女の子でしょうかー?」

悪戯めいた顔つきの提案も、祭りのひとときによく似合う。
むしろそんな遊興に楽しげに頷くと、少年じみた細い体躯で胸を張って立ってみせ。両腕を軽く広げながら、その場で身軽にくるり。身軽に一回転をしてみせ。

アイゼン > キザ男のテーブルに居並ぶ男たちも、お互いの武勇伝を夜空いっぱいに膨らまして語るのに飽きていたのか。二人の些細な遊びを酒の供とせんと、耳に与ろうと酔眼を向けている。

「成否のご褒美がいるな。お互いにだ……負けた方は…」
そこでフェルト帽子が悩みに捻られて羽飾りを揺らす―――勝者に奢るような酒は既に宴に並べられている。暖を取る熱は焚き火とそして何より集う人々のそれにて飽和している。金品など無粋だ。記念品など、貧乏な自身にも軽装の子供にも持ち合わせていないだろう

「祭りに余興を捧げよう」
なかなかに残酷な報奨、あるいは罰だった。娯楽に飢えた男達を、眼でも耳でも楽しませる事を興じて披露することを宣言した。
宣誓を言い切れば口の端を持ち上げた顔は自嘲か既に確信した勝利感か。掌で頭を撫でれば黒貂のごとき艶。見極めんと眇めた瞼は獲物を見極める肉食獣がものか。膝の上で組んだ両手は猛禽の爪のように内に曲げられて。心落ち着かせて夜風に吹かれれば、一瞬。祭りのすべての音が止まったかに錯覚する集中を―――
やがて、フェルト帽子の下から音が落とされた。それは地に広がり耳に届くだろう

「男だ。」
タピオカが答えを宣言するまでの間、宴は焚き火が爆ぜる音だけを響かせていた、まるで息を呑んで心音だけを響かせて、待ち構えるように。

タピオカ > 「ふふ。そのほうが単にあてるよりも楽しくてスリルがあるね。負けたほうには……?」

雑談に訓戒やオチが必要ないように、お祭り騒ぎのほら話に信憑性は特に必要ない。
きっと彼らが膨らませた武勇伝できらきら輝いてる夜空の下で、後頭部を打ち付けた事をすでに忘れたかのように言葉が継がれるのを待つ。少し先の広場、こじんまりとしたメインステージでは有志による演奏の曲目が変わり。目つきの艶やかなドリアードが住む夜の森を思わせる響きになる。

「うん、乗ったよ。
負けたほうは大変だね。
小さなお祭りでも、みんなそれなりに勢いがついてるから。
お酒も飲んで、場にも酔って、さ」

余興を捧げる。ひどく婉曲でも、小洒落の効いた物言い。
敗北者にはどんな命運待ち受けるかをなんとなく知ると、酒気帯びの興奮か、筋骨逞しい男の人が上半身を半裸にジョッキをあおるのを向こう側に見て笑った。
普段は思慮深いと思われる、あまり肌を見せない衣装に身を包んだ淑やかな女性でさえ、物陰へ男性へ誘う仕草を見せているのも眺める。
一歩間違えばそんな村人たちの、格好の疑似エサになる。危うい二択の道が近づくのを面白そうに待ち。

「……。
――残念!僕はこれでも女の子だよ」

革命の指導者が地下に集まる支持者の前で王城奪取作戦を宣言する。そんな重々しさを伴って放たれた一言。
自分も戯れに、たっぷり、艦砲射撃の砲弾が時間差をもって敵艦に着弾するかの如く間を持ったのちに笑顔で指先にバツをつくった。
男の人になら当然あるものが無いと言わんばかり、まとっている巻きスカートの裾を軽く膝上まで引いてみせて。すぐに下げ。

アイゼン > 既に、勝手に、勝利を確信していたのか、その場に立ち上がり片腕を伸ばして指先を突きつけていた姿勢をとっていた。貯めにためた間の後に、その確固たる言葉と意思で宴の場に産まれ落ちた褐色の少女がそこに、背後に後光を差さんばかりに推察を否定した。
思い出したかのように夜風がひと吹き、そのままの姿勢で固まる頭からフェルト帽子を落とした
「なん……だと…?」
仕留めたはずの獲物に逆襲を受けたかのように、巧妙に仕込んだ罠が容易く打ち破られたかのように、今は篝で暖色染まる色白の顔肌に驚愕を貼り付けていた。向けた指先が彷徨う。

やがて少女の健康的な脚部の閃きをもって、宴の場は地に轟くような嬌声をあげた。指笛、囃し立て、頭上で叩かれる肉厚の拍手、祭りの焚き火すら火量を上げて空を焦がす。

「まじっすか―――」
膝から地に落ち、それまでの口調をかなぐり捨てて、天を仰いで嘆く姿。少女に対してまるで姫君女王に礼服するようにも見えなくもない。やがて罰が伸し掛かる重そうな肩が翻り、首を振り振り、宴の一隅にて長い弦楽器を脇に抱えた吟遊詩人風の男のもとへと歩みを進める。短い遣り取りの後、詩人の顔に許しを与えたそれも楽しげな表情を残し戻ってきた。手には指弾きの弦楽器。瓢箪型の音響箱に、六本の弦が橋渡された弦琴。懐から取り出した安銅貨で、その低音三弦だけをかき鳴らし始めた。一定の拍動だった。寸分たがわぬリズムで低音だけを響かせた後、歌い始めた。目は銀少女に見据えられたままだ。「これより唄うは異国の謡!皆は耳貸せ、心に留めよ、そこなる勝利の女神に捧げる歌を!」



「焚き火は広がる彼岸花―――紅い花びら見せつけるッ!
  集う諸人は―――花菖蒲ッ!着飾る女は美しいッ!
   夜道歩けよ、歩けよ花道!、男は見惚れて草共に頭を垂れよッ!」
遠い、遠い国の歌だった。スローペースで繰り返される韻が何かの呪文かのような。遠い、シェンヤンの向こうの国の詩。