2020/10/31 のログ
タピオカ > 勝利を確信した戦武将が、背中に裏切りの槍を受けた時のような。
自身が持ちかけた勝負に敗れてフェルト帽子ごと高まった気概がよろけ落ちる色白位肌に再びくすくす、揺れる肩。
即興の性別当て小劇場の勝負の行方を見守ってくれていた気乗りの良い聴衆から勝利への祝福とこれから始められる罰への期待に手拍子が重なると、
ぺこりと周囲へとお辞儀をした後、一緒になって手を打ち鳴らした。
焚き火がぱちりと音を立てて赤い火花を夜空に登らせる。祭り炎でさえも、相手をはやしたてて。

「がんばって、お兄さん。
どうにかみんなを満足させないと、きっと、あの向こうのテーブルにあるとっても苦くて身体に良い緑色の香草ジュースを飲まされる事になっちゃうよ」

相手が膝つく仕草も芝居じみていて、何も変哲もない田舎村の土地面が一瞬にして王の謁見の間に敷かれた分厚い赤い絨毯と錯覚した。
彼が自尊心とともに落としてしまったフェルト帽子を両手で拾い上げると、埃を軽く払って両手に持ち。鳴り物楽器を調達し、これから始められる祭りの余興と彼自身への敬意のしるしとする。
――そして、意外なことに手慣れた様子で始まった歌謡の調べに、朗々たる物言いに思わず青緑の瞳を丸め。ついで、笑顔をなぞって細められ。

自分も異邦人だから、国境も向こうの歌には惹かれるものがある。
シェンヤンは北方の国。自分がかつて居住まいにしていた世界がある高原地帯も、その北方付近に隣接する。
冬の雪解けが進む春先に、次の旅絵図を描いて高鳴る心音を思わせるリズムの、ゆったり紡がれる歌詞にあわせて。
あおっていた手拍子は、純粋なる拍子打ちにかわっていく。
彼の謳いに合わせて楽しげに手先を合わせ。いつしか周囲には流れ者たちやそのまわりに居た人々の垣根をこえて人と熱気が集まってきていた。
誰もが歌声に酔いしれた表情をしていたが、その中でもっとも心酔していたのは他ならぬ、彼から詩を注がれる褐色肌の冒険者その当人だったという。

――祭りの夜は朗らかに更けていき。
曲が終わると、その曲が始まる前以上の拍手が惜しみなく相手に与えられる中で近づいていき。
差し出す帽子と共に、こんな言葉を差し出す。「僕は、タピオカ。お兄さんの名前、教えてよ?」

アイゼン > 弦をかき鳴ら続けて立ち上がれば、謡いながらテーブルの間を縫いように練り歩く。やがてひとつのテーブルの央に据え置かれた、毒々しい深緑色を湛えたジョッキを間奏の隙きに手に取る。
そのテーブルで賭け事の罰に使われていたそれを、空に掲げてから傾けて自らが喉に流し込んだ。野獣もかくやの苦い顔を銀少女に向け、先程は空振りをした指先を突きつける―――飲んでやったと言わんばかり
「宴はまこと、沈丁花ッ!―――毒も薬も呑み込んで!
  上がる歌声、金木犀ッ!―――酒の匂いも今は芳香ッ!」
周囲で巻き起こる小拍手は、その飲料がいかほどに苦いものか物語っていた。居並ぶ面々も、初めて耳にする歌謡を酔身に流し込まれて、繰り返される律動に乗せて合いの手など交えてくる。
いくつかの小節を重ね、それがいくつかの編となり、歌は佳境へとさしかかる。
視界に、艷やかな銀色で炎の灯火を照り返す少女が、その足を向けてくるのが見えると、花の唄を撒き散らしながら、迎えるようにこの場の女王へと謁見に向かう。

「祭りに咲いたッ鳳仙花
 ―――篝火よりも、輝く翡翠
  ―――いずれ連れゆけ君の郷
   ―――銀糸の下で咲く顔を夢見るぞ」
辿り着いた褐色の君。いかな豪奢な宝石より貴い、その空と草原の色が混じり合う瞳の前に向き直った。そこで、熱烈に最終詩篇を歌い切ると、宴から沸き立つ拍手を背景に、弦楽器を下ろした。そこで、大仰に一礼を捧げることで、少女が差し出す帽子を、聖者から戴冠を頂く王のごとくに頭に受ける
「アイゼン―――アイゼン=エルデモントと申します。どうぞ、お見知りおきを」

銀少女が生まれ育ったたのは草原の国だろうか、それとも高山の国なのだろうか。
このような国の外れでさえ、これ程に生き生きと輝く笑顔は、心落ち着く場所ではではどれほどに輝かしいばかりとなるのだろう。
今は眼前に映る少女の、その生まれ背景のもとで流れる空や横でたなびく草木を様々に想う。向けた笑みと共に。

ご案内:「◆ゾス村」からタピオカさんが去りました。
ご案内:「◆ゾス村」からアイゼンさんが去りました。