2020/04/05 のログ
ご案内:「ゾス村」にアルトハルト・スメラギさんが現れました。
ご案内:「ゾス村」にファーユさんが現れました。
■アルトハルト・スメラギ > 未だ春になりきらない肌寒い夜。術師見習いは旅の途中に立ち寄った村で宿を取る。
部屋に荷物を置いてから、併設された小さな酒場で夕食を頼む。
あまり歓迎されていない様子でじろじろ見られながら、初めて来た村の中をさ迷った少年は、
旅の疲れでへとへとになりながら、先に来た果実汁の水割りで喉を潤した。
「……疲れたぁ……」
息を吐き、椅子の背もたれに寄りかかる。
少年の未発達な身体でも、使い込まれた椅子はギシギシ言う。
■ファーユ > ……流れるは、美しき調べ。
果たして村の小さな宿屋と酒場に合った音色か断じかねるが、
その音色はまるで、蒼天の陽光の如く酒場に響き渡る。
「……………。」
詩はない。
しかしその音色は、雄弁に……
山村にては決して見ることの叶わない、雄大な蒼と潮騒を唄う。
■アルトハルト・スメラギ > 「? ……あ、吟遊詩人さん? 小さな村にしては珍しいな」
料理を待つまでの部寮、聞こえた音楽に自然と視線が向く。
過ぎた冬にみた雪よりも、綺麗な白。それが楽士の女への第一印象だった。
綺麗な人だな、と疲れた頭でぼんやり思いながら、曲がっていた背を伸ばす。
嫋やかな旋律を聞くだけで、海に浮かんでいるような心地よさを感じる。
「音楽には詳しくないけど、上手い…… ……あれ、でも」
待っていても、その女の唇が歌を紡ぐことはない。
少し首を傾げ、歌を待つが……やはり、音楽だけだ。
「調律中? でも、それにしてもちゃんとした演奏に聞こえるけど」
■ファーユ > その傍らには、小さな看板が置いてある。
『喉が潰れ盲た吟遊詩人』。
簡単に、そう書いてあった。
確かにその目はどこを見るでもなく、帽子とマントの襟の中に隠されている。
喉が潰れているというのも、唄わないその姿を見れば明らかだ。
すなわち……この看板に書かれているのは、真実なのだろう。
それでもなお、その音色は美しい。
詩もなく、光もなくとも、それは確かな現実だ。
■アルトハルト・スメラギ > 折角の演奏だ。コップを持って楽士の近くの席に移る。
そこで気付いた小さな看板。読んでみれば、成程歌わない訳だと思い辺りを見回す。
自分以外には数人の飲み客が居るだけの小さな店内。
「目も見えない、口もきけない詩人……同行の人とかいないのかな」
服装から、詩人もこの村の物ではないだろうと思い心配するも、そう言うような相手は居ないようだ。
大丈夫かな、と思いもう一度詩人の顔を見た。その横顔は思わず見惚れる位に整っていてる。
「綺麗な人だなあ……」
ファーユの耳に、近くの席で思わず息を漏らす少年の声が聞こえるだろう。
■ファーユ > 「………………。」
一瞬、瞳が少年の方を見た。
気のせいかも知れないし、実際に目が合ったかも知れない。
それでも音色は滞りなく淀みなく、酒場を満たしていく……
のだが。やはり芸術を解せない無粋な輩も居るもので。
その看板を見て、これ幸いと楽器のケースに投げ込まれた小銭を見て、
それをくすねようとする男も、時たま居る。
そう、例えば今ここに、とか。
■アルトハルト・スメラギ > あ、と慌てて零した声が聞こえるだろう。ファーユの光の無い目と目が合って、聞こえた事に気付いて口を手で隠す。
そのままふいとファーユが視線を外せば、見られてなかったとしても気恥ずかしくて顔を赤くした。
一人旅の少年は、まだ女性に気軽に接するには経験が足りず。演奏の腕を褒めるのもなんだか照れ臭く思えてしまう。
しかし、プロフェッショナルへの礼儀は知っている。良いと思ったものには、自分の背丈に見合った分の報酬を。
そう思い、ファーユの前のケースに大銅貨をそっと置いた。
……そうして又椅子に座ろうとしたその時だ。自分の後にケースに手を伸ばした男が居た。
その男もお金を置くのかと思った、が……。
「! 待ってください!!」
椅子を蹴飛ばすように立ち上がり、その男の腕を掴む。
がらの悪い男が少年を睨むが、少年は眼鏡の奥から真っ直ぐに男を見上げる。
「今この人のケースからとった銀貨を、離しなさい」
■ファーユ > 「…………。」
すっ、と顔が男たちの方を向いた。
……男たちは、音を殺していたはずなのに。
少し方向はズレており、目が見えていないのは本当なのだろうが……
それでも、不可思議にも女は盗人たちの方を見て、鋭く深い瞳を投げたのだ。
男達は舌打ちをして硬貨を投げ返し、再び自分たちの席にどかりと座った。
ぎろぎろと二人を眺める視線に怒気が混ざったのを感じたのか、
吟遊詩人は演奏を止めてケースを閉じ、立ち上がって一礼し……
なぜか、少年と同じ席の向かいに座った。
■アルトハルト・スメラギ > 「……見た所、この村の方でしょう。
あなたの所業を宿のご主人に言ったらどう思われるでしょうか。
明日には去る旅人の言など軽いものかもしれませんが、面倒の種にはなるでしょうね。」
少年は静かな声で男に告げる。酔いか怒りか、顔を赤くした男が何か言おうと口を開いた時だった。
ファーユが顔を上げ、自分達を見る。その静かな表情に、男だけで無く少年も言葉を飲み込んだ。
何も見えない目に、自分の心まで見透かされたような気持になった。
男もそうなのだろう。舌打ちをして握った硬貨ケースの中に落とし、
少年の手を振り払ってブツブツ言いながら戻っていく。
「……ごめんなさい、演奏の邪魔をして」
まるで自分が叱られたかのような声でファーユに謝り、少年も席に戻った。
料理を出す主人に何かあったかと尋ねられ、何でもないです、と誤魔化して、
男からの視線を感じながら鳥の串焼きを食べようとした時だった。
「……え、あの。……えっと」
目の前に座ったファーユを見て、串焼きを齧りかけた姿勢のまま固まった。
それからそろそろとそれを皿に置いて。
「あ、あの、ここ、詩人さんの席でしたか?」
■ファーユ > きしりと少し古い椅子を鳴らし、詩人は貴方の目を覗き込む。
身を乗り出すように体を押し込めば、マントの隙間から……
女性らしさを押し込めたような、豊満な体がちらりと覗く。
……かりかりと音が聞こえる。
安価な模造紙に何かを書き記し、貴方の前にすっと差し出す。
『ありがとう』
それだけ書かれていた。
そして間髪入れずに運ばれてきたのは、グラスに注がれた林檎酒。
……二人分。
いつの間にやら、二人分の注文を済ませていたらしい。
マスターは少しだけ、『よくやった』とでも言いたげに目線を向けている。
■アルトハルト・スメラギ > 小さな机越しに顔を寄せられ、どきりとして慌てて俯いた。
しかしその視線の先、ゆったりした首周りの奥にたっぷりとした白い豊満な谷間。
俯いた時の倍の速度で顔を上げる。ファーユには見えない顔色は真っ赤だった。
なにかとてもズルい事をしてしまった気持になって何か言おうとした所で、顔の前に紙。
……眼を瞬かせてから、ファーユに見えない表情が緩む。照れ臭さはあるが。
「いえ、僕が自分の気持ちのまま動いただけのことですから
……あれ? あ、そんな、頂く様な事…… えっと い、良いんですか?」
遠慮しようとしたが、マスターの視線に気付きその言葉を飲み込む。
そして、おずおずと言った声で確認すれば、
「手、失礼します」
声をかけてからファーユの手をそっと取り、グラスを持たせる。
そして、自分もグラスを持てばそっとそれに打ち合わせた。
「いただきます。……あ、僕はアルトハルト。旅の術師です。」
どれくらい耳が聞こえるのか分からないので、努めてゆっくりと、単語を区切って自己紹介。
■ファーユ > 「……………。」
詩がないように、言葉もない。
しかしその表情は少しだけ緩んだように、肯定の意を告げていた。
……健全な青少年には刺激が強いものを見せてしまったことには、当然というか気付かない。
そんな赤い顔の少年には気付くこと無く、再び筆を走らせる。
『私も気持ちのままに奢りたいだけ』
そう書かれていた。
意趣返しのような文面の向こうには、無表情に見えながら薄く微笑みを湛える……
控えめに言っても、美女の姿があった。
きん、と澄んだ音が響けば、林檎酒を煽る。
甘酸っぱく、爽やかに抜けるような味わいは、小さな酒場には珍しく
それなりに上質なものであることを素人にさえ気付かせる。
『ファーユって呼んで』
そんな文面を、いつ記したのか目の前に差し出す。
■アルトハルト・スメラギ > 心のままに、と書いてあるのを読めば、くすぐったいような笑みが浮かぶ。
人形のように綺麗なファーユの顔が柔らかく微笑む。女慣れしていない少年はそれだけで赤くなってしまう。
良い匂いがした、とか、さっき見えたのってやっぱり胸……とか、
思春期らしい色々で一杯になりつつ、声は出来るだけ普通になるように努力する。
「ファーユさん、ですね。さっきの演奏、素敵でした」
そう伝えてから、自分もグラスに口をつける。まだ飲みなれてはいないのか、子猫がミルクを舐めるようだが、
美味しい、と小さく呟いてからは一口二口、しっかり味わった。
「見た所、この村の方ではなさそうですが……ファーユさんもお一人で旅を?」
言外には勿論、盲目の身であるのに、と言う気持ち。
しかしファーユの耳には少年が不注意を責めるのではなく、心から心配していることが伝わるだろう。
■ファーユ > 褒める言葉には小さく頭を下げ、感謝の意を示す。
悶々とした少年の心を知ってか知らずか、酒を傾けるたびに外套の向こうの
色々と危険なものが見え隠れする。
強くもないが弱くもない酒精に、少し白い肌を赤く染めて。
質問にグラスを置き、慣れた手付きでガリガリと言葉を記す。
見る限り、慣れと感触だけで書いているようだ。
『行きずりの商隊に乗せてもらったりしてる
基本的には一人旅だけど、単独行動はしない』
そう書かれている。
見た目は強そうに見えないが、やはり見た目通り強くない。
故に、商隊が来るまでは立ち往生になるしかないのだ。
■アルトハルト・スメラギ > どうしても健康的な少年としては、綺麗な女性と二人で飲むなんて刺激が強すぎる経験だ。
さっき見た胸の谷間を思い出しては頭を振る。しかし、豊満さを知ってしまった少年の頭は、
ファーユの体つきを想像してしまう。赤くなるのはお酒のせいだと自分を誤魔化す。
そんな様子を遠くからさっきの男が不機嫌そうに眺めて酒を呷っているが、少年はそれを気にした様子もなく。
「ああ、それなら僕と似てますね。僕の場合は時々単独行動もありますが
実際今日も隣の村からは一人でー……」
そこまで言って首を傾げる。自分がここに一人できたのは、丁度良い商隊が見つからなかったからだ。
「……次の商隊はまだ暫く先だと聞きました、このままだとしばらく足止めですね
ファーユさんはどこに向かわれる予定なんですか?」
■ファーユ > 「………………?」
ファーユは耳が良い。
それは常人のものでなく、目を閉ざしたことによって得た超人的なもの。
故に、鼓動の早まりさえも敏感に読み取って……
なるほど、と心の中で合点を得た。
『マグ・メールから出てきたから、このまま街道を下ってダイラスに向かう
帰りはダイラスから定期船を拾うつもり』
そう記して、林檎酒を口に含んだ。
次に商隊がダイラスへ向かうのは、早くても3日はかかるが……
『良ければ一緒に向かう?』
■アルトハルト・スメラギ > 「ダイラスから定期船を……僕は別の方角の街から向かってきたので、ダイラスには行った事ないですね
大きな目的は無いですけど、王都には行ってみようかなと思って……一緒に、ですか?」
ファーユの事は心配だが、しかし、ここで話に乗るというのもなんとなく気恥ずかしい。
王都の大図書館にしかない書物もあると聞くので、修行中の身としては……
「僕はマグ・メールに向かうので、残念ですが……」
そう言って苦笑しつつお酒を傾ける。
冷めかけた鳥の串焼きを二人で分けて食べて、少しの間筆と声で会話し。
……そして、グラスが空になると、流石に旅の疲れも出て来たのを感じる。
「ファーユさん、僕はそろそろ部屋に戻ろうと思います
旅続きでベッドに寝るのが久し振りで……ファーユさんはどこに宿をおとりですか?」
そこまでは送ります、と声をかける。ほろ酔いではあるが、送り狼をするような少年ではないと感じるだろう。
■ファーユ > 「……………。」
少しだけ残念そうな顔をする。
袖すり合うも他生の縁、という事で、吟遊詩人は出会いを大事にする。
それ故だったが、用事があるなら仕方ない。
そんな事をして過ごしているうちに、良い時間になった。
『ここに併設された宿に取ってる』
そう記して、席を立つ。
お言葉に甘える、とでも言いたげにその体を貴方に寄せて、歩き出す。
少しばかりふわっとしている気がする……
時折バランスを崩して、貴方に体を凭れさせるが、軽いので気にはならないだろう。
接触する柔らかいもの以外は。
■アルトハルト・スメラギ > 少年も、もう少し年を重ね、もう少し旅慣れていれば、この出会いを繋げるために道筋を変える事があっただろう。
しかし、まだ純朴な所を残す術師見習いは自分でも残念に思いながらも「またお会い出来れば嬉しいです」と言った。
「え、そうなんですか?じゃあ、部屋まで送ります。僕もこの宿なんですよ」
そう言って立てば、手を取って導こうとした。
しかし、ファーユが身を寄せてくれば、男には無い独特の甘い香り、柔らかさを感じて耳まで赤くする。
活きましょうか、という短い言葉すら3回ほど噛んでしまいつつ、
腕に感じる豊満な未知の柔らかさを必要以上に感じないように、
しかしその感触に全神経を集中してファーユを部屋まで連れていく。
ファーユの身体の感覚に浮かれた少年は、先程の男が二人の背を睨んで見送っていることにも気づかなかった。
「……ここですね、どうぞ」
ファーユの部屋の扉を開け、声をかける。
自分より長身が故に、色々ボリュームのある暖かさから身を離すのには克己心をフル動員する必要があったが、
きわめて紳士的に振舞おうとする少年。
「僕、隣の部屋なんです。……明日の朝早くに出ると思うので、うるさくしたらごめんなさい
今日は素敵な夜でした。ファーユさん、またお会い出来たら、今度は僕に奢らせてください」
ファーユの手に手を重ねて柔らかい握手。
そして、少年の足音は遠のき、隣の部屋の扉の閉まる音がファーユの耳に届いた。
■ファーユ > ふわりと香る甘い香りは、林檎酒の爽やかなものとはまた少し違う。
濃厚で、柔らかく、しかしどの香料ともまた違う……
少し痺れるような、そんな香り。
尾を引くようにそんな香りを残して、それに釣られるように、
後ろから投げかけられる男たちの視線は、獰猛さを増す。
その手を引かれるがままに部屋の前へ連れられ……
最後に、軽く会釈をして手を握り、部屋の中へと消えていって。
…………その夜。
宿の廊下の方から、がたがたと小さな音が聞こえる。
■アルトハルト・スメラギ > 不思議と鼻の奥に残る甘い甘い女の香り。女を知らない少年の脳髄には少しばかり刺激が強い。
1人の部屋に泊まった少年は、先程見えてしまった豊満や腕に感じた柔らかさ、女の息遣い、
そして香りを思い出し、疲れた身体をベッドに横たえながらも、なかなか眠れずにいた。
……そして、興奮が酒の酔いと共に薄らいでいき、代わりにじわじわと眠気が這い寄ってきた夜半であった。
「……?」
物音がした。夢うつつに、夜中に到着した冒険者でもいたのだろうと思った。
……しかし、続く音に反射的に体を起こした。廊下だ。物音を殺す様な不自然な音。
時々、夜の宿に忍び込んで宿泊客の荷物を盗む不逞の輩が居る事を思い出し、枕もとの自分の杖を取る。
勘違いならそれで良し、寝直しておしまいだ。そう思いながら足跡を抑えてそーっと自分の部屋の扉を開け、廊下に顔を出す。
■ファーユ > 廊下には闇が広がる。
しかしその向こう、判然としないが確かに人は居た。
薄ぼんやりと、廊下を照らすランタンの炎が揺れて照らされたのは……
見覚えのある二人組。
ファーユの投銭を盗もうとした男、二人組。
ウサを晴らそうとしたのか、恨みを晴らそうと思ったのか……
それとも、女っ気が薄い中で、声も出せず目も見えない冒険者なら、
村の中での悪評も広まらないだろうと踏んだのか。
扉をなんとか開こうと、小さな棒で鍵穴をほじくり返している。
相当に集中しているのか、周りには全く気付く様子はない。
あるいは、脳と股間に血が集まりすぎているのかも知れない。
■アルトハルト・スメラギ > あ、と声をあげそうになった。しかし何とか声を飲み込み、杖を握る手に力を籠める。
見覚えのある二人組だ。ガチャガチャと無作法に鍵穴を弄っている音が響く中、眠気も義憤で吹っ飛んだ。
少年は真っ直ぐな性根であった。夕飯の時に見たファーユの優しい笑顔を思い出す。
気付けば少年は声も上げず廊下に飛び出し、握った杖で男の一人の顔面を思いっきり殴り飛ばしていた。
若さゆえの考えのない突撃。しかし、少年はそれなりに経験を積んだ旅人でもあった。
「痺れよ指先、もつれよ脚。己が身体の動かし方を一時忘れよ≪麻痺≫!」
殴り倒した男に向けて放つ魔法は、一時的に体の自由を奪う超常の力。
■ファーユ > 「………!?」
一人がもんどり打って廊下に倒れ、どたばたと大きな音を立てる。
わけも分からずよろよろと立ち上がろうとした体勢から、少年の声が紡ぎ上げる呪いの言葉が耳を撫でると、
その場に全身の腱が切れたように崩れ落ちた。
なんだなんだと辺りの部屋から宿泊客が現れる中、もう一人はパニックに陥り、
ファーユの部屋の鍵穴に棒を突き刺したまま、階段を転げ落ちるように逃げていった。
下を見れば、それを物凄い形相で店主が追いかけていく。
宿泊先が宿から牢屋になるのも、時間の問題だろう。
そして最後に、自らに迫っていた危機など意にも介さず、
のっそりと扉の向こうからファーユが顔を出した。
外套と帽子を脱ぎ去り、寝間着と言うには少しばかり薄着の姿。
白い肌とシルクのような銀の髪、青い瞳を眠そうに揺らしながら、
そして無防備に豊満な肢体を曝け出しながら、辺りの音を探るようにきょろきょろ首を振っている。
■アルトハルト・スメラギ > 泊り客が顔を出す中で、逃げ出す男を追おうと少年は駆け出しかけた。
しかし、その足が止まった理由は、ピンが刺さったままの部屋の扉が開いたからだ。
「ファーユさん、無事で……した、か……」
言葉が切れる。思わずじっくり見てしまうファーユの薄着。
酒場で見た外套に隠されていたその身体は、腕に感じて想像していた以上に女らしい。
いや、女らしすぎて少年には刺激が強すぎる。言葉を失って立ちすくむが……、
主人の代わりに女将がやって来た。泊り客が騒ぎに文句を言いながら部屋に戻る中、
少年は女将とファーユに、男たちがファーユの部屋に忍び込もうとしたことを伝えた。
「……宿の中で手荒な真似をしてごめんなさい、その、咄嗟に、守らなきゃって思って……」
暴力を振るったのは自分だ。しかも魔法まで使った事で、少年も自警団に突き出されても仕方ない状況だ。
自分の所業についても隠しておられず、素直に女将に伝える。
■ファーユ > 「……………。」
しょんぼりと項垂れる少年の声色を聞いて、すいと体を女将と少年の間に挟み込む。
そしてかりかりと何かを記し、女将に見せた。
『恨みを買っていたので、私が彼に用心棒を頼んでいました
責任は彼に依頼した私にあります』
……当然出任せだ。
しかし、彼が悪評を買ってまで守ろうとしてくれたのなら、
助けられた側であるこちらも、それなりの態度を見せなければならない。
……結果として、女将は一つ溜息をつくと、
『私は魔法のことなんてわからないから、勝手に顔から転んだ盗人が頭を打って気絶して、
ソレにパニックを起こして逃げ出したとしても、違いなんて解かりゃしないね』
と、そう言った。
有り体に言えば、不問だ。
それを聞いて、ファーユは深く深く頭を下げた。
■アルトハルト・スメラギ > 「ファーユさん?」
自分の前に立つ女を見上げる小柄な少年。すらっと伸びた背筋の美しさに、こんな時なのに見惚れつつ、
女将がファーユが書いた文を読み上げるのを聞けば、目を瞬かせた。
腹芸をする程にはまだ世慣れしていない少年の素直な反応を見た女将は、ファーユの言葉が咄嗟の嘘だと気付くだろう。
しかし、少年の様子と少年を庇う女の様子に息を吐いた女将は肩を竦めて不問に処した。
マヒした男を引きずって戻る女将を見送って、静かな廊下で二人。息を吐いた少年はファーユを見上げる。
「お騒がせしてごめんなさい、庇ってくれてありがとうございます、ファーユさん」
そう言って手を取ってお礼を言った。そして、「無事でよかった」と心から伝えた。
ファーユの手を握る少年の手は意外と固く、術師にしてはしっかりと鍛えてるのが分かるだろう。
そして、落ち着いた所で改めてファーユの姿を思い出し、赤くなって慌てて手を放そうとする。
「あ、ご、ごめんなさい、じゃあ、僕、部屋に戻りますから……っ」
■ファーユ > 謝罪の言葉にはふるふると首を横に振り、続く感謝には軽く頷く。
何事かと思ったが、丸く収まって何よりだ。
……しかし、まだなんとも安心できない。
少なくとも、男が一人捕まっていないのは確かだから。
今度は自分ではなく、この場を台無しにした少年に危害が及ぶかも知れない。
そういうわけで、去ろうとする少年の手を掴み返す。
『まだ少し怖いから、今夜は一緒に寝てくれない?』
そんな文面を見せながら。
■アルトハルト・スメラギ > 離れようとした手が握り返される。振り返って見上げれば、ファーユが何かを書く。
それを見れば……
「え、あ、いやその、でもほら、お、女の人の部屋ですし……」
当然そう言って遠慮しようとするが、ファーユに重ねて誘いを書かれれば、
確かにこの後またファーユや自分に意趣返しがあるかもしれないという事も納得する。
それに、こんな事があった後だ、女性一人では不安もあるだろうと思いなおす。
部屋から自分の荷物をファーユの部屋に持ってきて、
「……これで良し。施錠の魔法もちゃんとかかりました。
ファーユさん、僕は入り口の扉の所で寝ていますから、
何かあったら手を叩くか何か、音を出して下さい。すぐ飛び起きますからね」
久し振りのベッド、と言っていたが、床で寝るつもりなのだろう。
ファーユの言葉を一緒の『部屋で』寝てほしい、と判断した少年。
女を安心させるように、ゆっくりとした声で伝える。その心には、今日会ったばかりのファーユを労わる真心が籠っている。
■ファーユ > 「………………。」
少しだけ首を傾げて……ぐっと再び手を引っ張る。
床で寝るなんて許さない、とでも言うように、少しだけ見えないはずの目に怒気が籠もる。
まだ怖い、というのは方便だが……礼というわけではないが、暖が欲しい。
どすどすと荷物を扉の前において、バリケードにして……
これで良し、と手を叩く。
そして再びぐいぐいと手を引っ張り……ベッドの片半分を、ぽすぽすと叩く。
■アルトハルト・スメラギ > 飼い主の真似をする子犬の様に、首を傾げるファーユにこちらも首を傾げる。
しかしその目に怒ったような表情を見て、絵、と声を上げた所で、手を引っ張られる。
「え、あの、ファーユさん? うわ、わ、え……えええー……!?」
夜中なので声は抑えつつも、思わず声を上げる。
「つ、つまりその、一緒のベッドで? え、でもその、ぼ、僕も男ですし、あの、ファーユさんは女で、ええと……」
泡を食って言い訳をするが、その間中ずっとファーユがベッドを叩いていれば、根負けするのは少年の方だ。
耳まで真っ赤になりながら、言葉を無くしつつファーユが横たわる隣に身体を寝かせる。
出来るだけベッドの端っこに身体を移動させ、ファーユに身体が触れないようにする努力。
ファーユの耳には、少年の強い鼓動が聞こえるだろう。
少年の背に女が手を触れれば、意外とちゃんと鍛えてある、子供から大人に移り変わる過渡期の身体の感触。
そして、鋭い鼻には、……興奮した雄の匂いが少しするだろう。