2017/10/29 のログ
ご案内:「ゾス村 牧場」にヴェオフラムさんが現れました。
■ヴェオフラム > 「やぉォォォオオオお―――っ!」
やけに可愛らしい雄叫びを上げる八重歯剥き出しの小さな口を、噛みつかんばかりに突き出して、獣娘は影の如き疾駆で牧草を散らして大狼に迫る。
己よりも小さな獲物が、武器すら持たずに飛び込んできた事に虚をつかれつつも、狼は大口を開きゾロリと生えた牙群を向けて迎え撃つ。
少女の四肢などただのひと噛みで食い千切りかねない強靭な牙が空を切る。
分厚い黒皮のマントに相手の牙を掠らせて小躯を翻した獣娘は、身を捻った勢いもしなやかに小さな拳を叩き込む。
大きく開いた両脚の沈墜も見事なボディーブロウ。
ギュドム……ッ!
そんな異音が狼の腹部に炸裂し、大きな体躯を一瞬の強張りと共に宙に浮かせた。
地面に落ちた狼は、ふらりと数歩よろめき歩いて、直後にぐんにゃりと崩れ落ちる。
大きな体躯は弱々しく痙攣し、虚空を見つめる双眸からは生物としての光が消えている。
そんな相手には一瞥も向けず、稚気すら漂うオレンジの瞳が周囲を囲む狼の群れを睥睨する。
スピンした体躯の残形に浮く、粗末な麻の貫頭衣。
シミ一つ見られないベージュの太腿、可憐な丸みを見せる小さなお尻、さらにはツルンと無毛な股間の割れ目までもが月光の元に晒された後、ふわりと落ちた着衣の裾に覆われた。
そんな少女の後背、木柵の中には、狂乱の声音も姦しく逃げ惑う羊達。
つい先日冒険者登録を行った獣娘は、この牧場にて数日前より狼退治の依頼を執行中なのである。
■ヴェオフラム > 最初の一合にて小柄な獣娘を食いでの無い前菜ではなく、油断ならぬ脅威と認識した狼達。
しかし、無防備に逃げ回る羊の群れを前に尻尾を巻くには、少女の外見はあまりにちっぽけで弱々しい。
結果、距離を取って睨み合う膠着状態に陥っていた。
獣娘は油断なく視線を巡らせながら考える。
この場での撃退だけを考えるなら、もう1,2匹間引くだけで事足りるだろう。
それは小柄であっても猟犬の血を引くヴェオフラムにとっては造作も無い。
かすり傷一つ負うことなく終わらせられる容易い仕事。
しかし、今回の仕事は狼退治である。
禍根を完全に断つならば全滅を、それが無理でも今後、この農場に近付く事を恐れさせるだけの多大なる戦果をあげる必要があった。
そのためには群れの半数、6匹以上を屠る必要があるだろう。
そして、それをするためには相手の側から一斉に飛びかかってきてもらうしかない。
四方八方から飛びかかる狼の牙を回避しつつ、正確無比なるカウンターにて一撃必殺。
それは狼と比べても大きく優位を保つ獣娘の敏捷性を持ってしても、気軽に行える物ではなかった。
今は別の場所で警戒に当たっている他の冒険者が騒ぎに気付いて駆けつけてくれれば……なんなら戦闘能力に不安のある村人でもいい。
狼達の気を一瞬でもいいから逸らしてくれる『何か』があれば、ヴェオフラムは危険を犯すことなく獣の群れを半壊に追いやることが出来るのだが……。
ご案内:「ゾス村 牧場」にマヌエラさんが現れました。
■マヌエラ > その時、牧場の一角から閃光が打ち上がった。
その光の下には、魔法の杖を大きく掲げた女の姿が見える。
「助太刀します、可愛い冒険者さん」
涼しげな声が響く。
整った顔立ちにたおやかな微笑を浮かべたまま、その杖を狼の一群を指し示すように振り下ろした。
打ち上がった光は、幾つもの砲弾の形状となり、狼たちへと向かうと、至近距離で破裂。
熱と光の乱舞が、狼たちを混乱に陥れた。
■ヴェオフラム > 「――――わぅうッ!!」
突然の閃光と涼やかな声音が、薄闇に閉ざされていた戦場を一瞬で塗り替えた。
今にも飛びかからんとしていた狼達はぎょっと総身を強張らせ、そこに打ち込まれる光の弾頭。
幾つかは回避しそこなった獣達の体躯を弾けさせ、臓腑の雨を振り散らし、外れたそれも光と熱と衝撃にて魔術慣れしていない獣の群れを恐慌へと追い立てる。
そのチャンスを生かさぬ獣娘ではない。
土煙と舞い散る牧草の中、捻れた雷光を思わせる挙動で駆け、小さな拳と爪先を怯えて固まる獣の体躯に打ち込んでいく。
その一瞬にて魔術と体術の連携が上げた戦果は9体。
群れの半数を大きく上回る躯が枯れた牧草の上に崩れ落ちていた。
生き残った獣達は統率も何もかもをかなぐり捨てて、一斉に身を翻して逃げへと移る。
尻尾を丸めたその姿を見れば、最早ここに戻ろうなどとは思うまい。
「わふぅぅうううっ!」
止めていた呼吸を満足げな声音と共に吐き出して、秋風に吹き流されていく土煙の中、魔術の使い手を待つ事にする。
先刻の大狼と比べても見劣りしない大きな獣尻尾が、喜びにわさわさと揺れている。
■マヌエラ > まさに電光石火で行われた拳撃は、魔術による破壊の雨をも凌ぐ暴威の風。
肉食獣の群れは、か弱い兎のごとく逃走へと転じていた。
勝ち名乗りのように獣じみた声を響かせるヴェオフラムのもとへ、牧草を踏みながら歩み寄るのは先の術師。
「御手並み、拝見しました。……お強いのですね、冒険者さん」
おっとり、と形容できる口調と表情。しかし声には敬意と感嘆を込め、活劇の立役者を見る。
「私の助太刀など不要だったかも知れませんね。……お見事でした」
くすりと微笑みかけた。
■ヴェオフラム > 月明かりの銀光の元、近付く体躯に目を向ける。
眩い金髪、豊かな乳房と肉付きの良い腰回り。
振りたくられる獣尻尾が更に勢いを増して、ゆっくりと近付く距離をしなやかな細い脚が一気に縮めた。
というか、近付く美女に小柄な獣娘が満面の笑みを浮かべて飛びついた。
「わうっ、わぅぅうう―――っ!!」
彼女が回避せぬのなら、柔らかそうな乳房にぼふっと抱きつき、口付けでもするかのように踵を上げた獣娘は、伸ばした舌先で何度も何度も彼女の頬を舐めまくる。
言葉にせずとも、ありがとうありがとうという感謝の情念の溢れる獣じみたスキンシップ。
彼女の言うとおり、一人でもどうにかすることは出来ただろうが、おそらくは少なからぬ手傷を負うことになっていたはずだ。
見ての通り防御力という面においては不安だらけの獣娘である。
下手をすれば手傷の一つで結果的に命を落とす事さえあり得たのだから、その感謝もオーバーとは言えぬはず。
■マヌエラ > 「あら?」
声をかけたが声は返らず、代わりに走り出す体。
きょとんとする間に、距離は縮まり、次の瞬間には飛びつかれていた。
「あらあら、まあ!」
驚きながらも、しっかり抱き留め。乳房がクッションになってくれたが、更に顔を舐められて。
「あら、あら、ふふっ、くすぐったいです、冒険者さん!」
笑いながらなされるがままになった。ほんの少し落ち着いて来たならば、そこで声をかけようか。
「お強いだけではなく、とても可愛らしくもあるんですね、冒険者さん」
おかしくなってくすくす笑いながら、優しく抱きしめつつ頭をなでた。すっかり、可愛いお犬さんにするような手つきだ。
■ヴェオフラム > 彼女の頬を唾液塗れにして満足すれば、持ち上げていた踵を落として彼女の胸に顔を埋める。
焦茶の髪を黒色の獣耳と共にぐりぐりと押し付け、谷間に埋めた小さな鼻でくんかくんかと匂いを嗅ぐ。
「―――んぉ? ふらむ、かわいい? そなたはよいにおい! あ、そうだ、ふらむっ、ふらむは、れいをいおう! くるしゅうないっ!」
幼くはあっても整った容貌を、ふにゃーっと綻ばせた満面の笑みが、拙く怪しい共通語にて礼を言う。
そうして再び胸元に顔を埋めてくんくんすんすん。
先日お風呂に入れてもらったばかりの獣娘の髪は、ふわふわと柔らかく、花の様ないい香りを彼女に届ける。
優しい手つきにますます嬉しそうに尻尾を振る獣少女は、改めてぴょこっと顔を上げて、ぎゅっと抱きつく抱擁は解かぬままに桜色の唇を開く。
「ふらむは、ヴェオフラム! そなたは? なのりをあげい!」
■マヌエラ > よくよく見ればスケールを縮めた少女の造作で、幼女というには若干大人びているのだろうが、大きな尻尾や幼い仕草に舌足らずの口調とくれば、気分は大体犬……いや、幼子を相手にしているのと変わらない。
乳房に貌をぐりぐりとうずめてくる様も、寧ろ稚気に飛んだ動物的可愛らしさに捉えられる。
小さなつわものの鼻腔に、よく日に当てた布団を思わせるよい香りを返しながら、さわさわと頭を撫でた。
「フラムさん、とおっしゃるのですね。はい、とても可愛らしいです。……まあ、お上手にできましたね!」
口調もとても一人前の冒険者を相手にしたものではなく幼子を相手にしたそれだった。
柔らかな髪を指で梳くようにして撫でながら、獰猛な肉食獣とはまた違う可憐な幼子の側面を象徴するかのような花の香りに目を細めた。
「まあ、これは失礼を……。私は、マヌエラです、フラムさん」
少し屈んで目線を近づけた。といっても抱きつかれたままなので、それほど近づくことはなかったけれど。
「フラムさんは、冒険者さん……で合っていますよね。ふふ、私、こんなに愛らしい冒険者さんにお会いしたのは初めてです」
■ヴェオフラム > 「まゅえぁ……まにゅぅ……まにゅえら……まにゅえらっ!」
覚えたぞ!と得意げな顔で彼女の名を繰り返す。
獣人の構造上の問題か、単に舌足らず故なのか、その発音は少々おかしい。
近付く視線にはこちらも大きなオレンジ色の瞳をじっと向け、不意打ちの様に顔を近づけ、今度はその鼻先をぺろんと舐めようとする。
その成否には頓着せずに、再びの褒め言葉には少しだけはにかむような笑みを浮かべて新たな問を投げかける。
「まにゅえらは、ぼーけんしゃ? ふらむとおなじ、しごと、うけた?」
そんな折り、厩舎の影からおっかなびっくり顔を出す村人と思しき男たち。
手に手に農具を持って、恐らくは頼りない外見の小さな冒険者の助力に訪れたのだろう。
が、抱き合う二人の周囲に散らばる骸を目にし、感嘆の声音を上げる。
獣娘は彼らの姿に少し怯んだ様に、振りたくっていた尻尾をへにょりと垂れさせ、マヌエラの背に隠れる様に移動する。
そうして彼女の脇下から見上げるように向ける視線が、同じ仕事を受けた冒険者であるならば、仕事の完遂を彼らに伝えてほしいといった意図を伝えようとするのだ。
■マヌエラ > 「ふふ、そうですそうです。短くして呼んでくださってもかまいませんよ」
名前をうまく言えない舌足らず加減に気を悪くすることもなく、寧ろ可愛らしく感じるばかり。
「あら? ……まあ!」
見詰め合ってからの――鼻先舐め。本当に人懐っこい子だという認識を強くする。くすくす笑いながら。
「お返しですよ」
肉感的な唇で、彼女の鼻先に口付けを返した。
「そうですね。はい、冒険者のお仕事を請けたので、今は私も冒険者でよいでしょう。こんな出会いもありますもの。楽しいものですね!」
こくりと頷いて、頭を撫でて。と――。現れる新たな影。同時に、あれだけ人懐っこく、生命と愛嬌が輝かんばかりだったフラムが引っ込んでしまった。
「あら……?」
見上げられて、何となくの意図は伝わった。ひとつ頷いて、にこやかに男たちに向き直る。
「見ての通り、こちらを襲っていた狼の一群は、私マヌエラと、こちらのフラムさんが退治しました。こっぴどくやりましたから、もう戻ってくることはないでしょう」
その言葉に偽りがないことは、周辺に散らばった骸が何より雄弁に物語っている。
「依頼は、完遂でよろしいですね。では早速ですが、依頼料を受け取ってしまってもよろしいでしょうか。早く休みたいものですから」
よどみなくにこやかに紡がれる言葉に、村人たちは慌てて成功報酬を取りに戻っていった。
隣のフラムを見下ろして、ウィンクをする。
「これでよかったでしょうか?」
■ヴェオフラム > お返しに送られた口付けに、獣娘はきゃーっと小さく喜声を上げ、獣尻尾をぱたぱたゆらす。
現れた村人の姿に、巣穴に引っ込む小動物の如き様相を見せた獣娘ではあったが、こちらの意図を組んで説明してくれた女魔術師の勢いを借りて宣言する。
「けがわはふらむの! ―――あ、あと、まにゅえらのっ! おにくは、たべてよい!」
狼の骸に近付き「ひゃぁぁ……こいつぁデケぇ……。」「よくもまぁこんなんを倒したもんだ。」「うわ、こいつなんてばらばらじゃねぇか、一体どうやったらこんな風になるんだよ。」なんて口々に言いあっていた村人達も鷹揚に頷いて、獣少女の宣言を受け入れた。
更には狼の解体と毛皮の下処理まで請け負ってくれる。
この狼達に余程家畜を奪われたのだろう気前の良さだった。
「うん、まにゅえら、たいぎである! ―――あ、まにゅえらは、くう? おおかみにく。ふらむは、すきくない。あいつら、におう。ひつじがよい。まにゅえらは?」
問いかけのどさくさに紛れて、彼女の脇下の匂いさえ嗅ごうとする傍若無人さ。
そうこうするうち、村人たちが人手を集めて駆け戻って来て、女魔術師と獣娘に感謝の言葉と共に報酬を手渡していく。
その折り、もう1週間程度であれば村に逗留してくれて構わないとの言葉ももらえる。
雇われた冒険者は何件かの空き家を割り当てられて、そこに滞在しつつ仕事をこなしていたのだ。
さて、狼の骸の処理を始めた村人たちを尻目に、ヴェオフラムは貸し与えられた民家に戻るつもりなのだけど、当然、傍らの女魔術師も共に連れていきたい。
言葉だけではお礼したりないし、もっといっぱい匂いを嗅ぎたい。
舐めたりしたい。
そんなわけで
「まにゅえら、まにゅえら、こっち。こっち。」
なんて言いながら、小さな体でぐいぐいと彼女の腕を引っ張り先導しようとする。
彼女に行きたい場所があるのなら、そちらに移動するのでも構わない。
■マヌエラ > 「ありがとうございます、フラムさん。私の分のことも考えてくださって」
肉と毛皮の処理については、気前のいい村人たちに一任して。
「光栄にございます。私も、狼のお肉はそれほど食べたいとは思いません。あとで一緒にラムをいただきましょう」
食べようと思えば食べられないこともないが、味覚というか好みは似ているようだった。
とはいえ、そんなところの匂いを嗅がれているなど思いもよらないが、汗のにおいはほとんどせず、乳房に顔をうずめたときと同じ芳香が返った。
他愛ない事後処理についてのおしゃべりをしていると、村人たちが報酬をくれたので、感謝とともにそれは受け取って。
「まあ、無料でよろしいのですか。それは嬉しいです――」
申し出も当然受けた。冒険者がすること、というものに興味があったからだ。
「? まあ、ご一緒させてくれるのですか? ありがとうございます、フラムさん」
引っ張られれば、断る理由などどこにもなく。微笑みながら、彼女の民家の方へと引っぱられていった。
■ヴェオフラム > その幼気な容貌から気を効かせて貰ったのだろう。
ヴェオフラムは、こじんまりとした民家を一人で使わせてもらっていた。
板張りの床と丸太を組んで作られた手狭なワンルームに、竈を兼ねた暖炉と寝台、小さなテーブルと2脚の椅子、粗末な家具と水瓶だけが置かれている。
トイレは屋外、近隣の住民と共同で使っているらしい。
部屋へと戻ったヴェオフラムは、暗がりの中、手慣れた調子で暖炉に火を付け、中身の残った鍋を引っ掛ける。
オレンジ色の明りに横顔を照らされながら
「まにゅえら、すわってて。よいの、あげる。うまい。」
ぐるぐると数回鍋をかき回した後、寝台脇に転がる背負袋の中から無骨なガラスびんを取り出す。
密閉された容器からまとわりつく粘液もでろりとした薄っぺらい何かを取り出し、鍋へと投下。
冷えた室内がじんわりと温まりだす頃、芳しい香りを漂わせる木椀を手に、獣娘が戻ってくる。
「まにゅえら、おれい。ふらむのとっとき。たべてよい。」
そういって差し出す椀の中は、焦茶の色合いも濃厚なシチュー。
椀の脇には2枚の厚切り肉と思しき何か。
見目も柔らかそうなそれは、食欲を刺激してやまぬ香ばしい匂いを漂わせている。
■マヌエラ > 「お邪魔しますね……お招きにあずかり、嬉しいです」
この決して裕福とは言えない村では、小さくはあれど上等な建物と言っていいだろう。
獣害の大きさと冒険者に対する期待の高さを伺わせた。
そして見事、フラムはそれに応えてみせたわけだった。
印象としてはどこまでも幼げだが、もろもろの所作は手馴れており、冒険者としてそれなり以上の習熟を感じさせる。
「まあ、ご馳走まで! 重ね重ね、ありがとうございます、フラムさん! お言葉に甘えてしまいますね」
言われるがままに席について少し経つと、空気も温まり、鼻をかぐわしい香りが刺激してきた。
「さっき、珍しい食材を使われていましたね。……まあ、とっておき! そんな大切なものを、私に……嬉しいです」
温まってきた空気に頬を紅潮させ、どこか艶めいた所作で椀を取ると、シチューを口に運んだ。
「なんて、おいしそうなんでしょう。いただきます……」
特に食欲を刺激する炙り肉のようなものを咀嚼嚥下する。
■ヴェオフラム > 「わうっ! まにゅえらは、ふらむのおんじん。ごちそうで、むくいる!」
椀の端にぶっさされていた木製スプーンをグーで握って、獣娘は「ふーっ、ふーっ」としつこいくらいに息を吹きかけ覚ましてから、とろとろのシチューにかぶりつく。
羊肉と玉ねぎ、にんじん、じゃがいもといった野菜をたっぷり入れた豪華なシチューである。
そこに特殊なタレに漬けられていたと思しき肉片が入れられて、更に深みのある味わいを与えていた。
そしてとっておきのタレ漬け肉である。
フラムの村の一番の料理人が、先祖代々受け継いできた秘伝のタレ。
そこに漬けられた魔獣の肉は、口腔にてホロリと解け、たっぷりの旨味を口いっぱいに広げるのだ。
その濃厚な味わいに、獣娘の口元がそれはもう幸せそうにうにゃうにゃと緩み、ぴょこんと持ち上がった尻尾などはぷるぷると小さく震えている。
獣娘の小さな手には大きく見えるガラス瓶。
それでも中に漬けられている肉は残り10枚もない。
そのうちの3枚を彼女のお皿に、2枚を自分のお皿に投下した大判振る舞いである。
「んはぁぁうぅぅぅう~~……っ。」
蕩けるような顔で幸せそうな溜息を吐き、妙に艶っぽい所作でシチューを食べる彼女の様子を期待と共に見つめる。
マンダリンガーネットの如く煌めく瞳が、おいしい? おいしいっ? と問いかける。
■マヌエラ > 「フラムさん……恩人だなんて、そんな大袈裟なものではありませんのに……」
素直で謙虚な心持に感動すら覚えて、少し目頭が熱い。
「それでは……」
咀嚼嚥下したところ。
「……!」
どちらかというと細めの眼が、見開かれた。
「あっ……なんて……なんて美味しいんでしょうか!?」
思わず頬に両手を当てて、艶っぽく身をくねらせる。
「柔らかくも適度な歯応えに、口の中でとろけて広がる豊潤で馥郁たる旨味……絶品! 絶品です! こんなに美味しいお肉は、都のレストランでも食べたことがありません!!」
一筋、落涙。
「本当に、本当に美味しいです――はっ!? フラムさん……今、入れた分で瓶が半分ほどになってはいませんか。しかも、私の方が多く……! 私なぞのために、こんな、こんなおもてなしをいただくなんて! ……マヌエラ、感激ですっ!!」
絶品の味と、フラムの心遣い。その両方に胸を打たれて、落涙しつつ微笑んだ。紅潮した頬に、眦の涙。くねらせることで体のラインが服の上からでも分かるほどはっきり出てしまったこともあり、むやみに扇情的だった。