2016/12/03 のログ
ご案内:「ゾス村」にフォークさんが現れました。
フォーク > (甘かったっ……!)

鼻血を拭いつつ、フォーク・ルースは唸った。
まさかこんな田舎村の武道大会に、こんな奴が参加してくるとは思わなかった。

王都近く、イナゴ村と呼ばれるその小さな村の豊作を祝うイベント『おらが村武道会』に男は参加していた。
なぜイナゴ村という通称がついたかというと、武道会の時期は村全体をイナゴが飛び交うからである。
ちなみに男の参加理由は、優勝賞金の3000ゴルドに惹かれたからだ。
男は一回戦、二回戦、準決勝と順調に勝ち進んだのだが、決勝戦の相手は今まで戦ったことのないタイプだった。

奴の名は、ノー・エネミー(敵なし)。
ノ-・エネミーの名で参加してきたその男……いや、男かどうかは分からない。
なぜならノー・エネミーは顔全体を白いマスクで隠し、分厚いマントで体を覆っているので性別すら判別できないのだ。
ただノー・エネミーについて一つだけわかっていること。
それは、芸術的なまでに精錬されたカウンターの使い手ということである。

男の繰り出す拳打・烈蹴すべてに的確な反撃をしてきた。
ノー・エネミーは華麗な身のこなしで避け、相手の勢いを利用して軽い掌底を当ててくる。
掌底一発のダメージは大したことはないが、塵も積もれば山となるの例え通り、少しずつダメージを受けていくのだ。
そして気がついた時は体力も気力も根こそぎ奪われているのである。

(くそったれ。息切れ一つしてねえじゃねえか)

頬に止まったイナゴを払いながら、男は荒い呼吸を整える。
イナゴ飛び交う決勝舞台。ノー・エネミーに対し、フォーク・ルースは為す術なかった。

フォーク > (さて、ここで少し考えてみるか)

男は仰向けになったまま呼吸を整える。視界いっぱいの青空を、イナゴたちが横切っていった。

何度目のノックダウンかはもう覚えていない。攻撃をしかける度にカウンターで転がされるからだ。
大会のルールは、決勝舞台から一歩でも外に出たらリングアウト負け。あとはギブアップするかである。
幸いなことにノー・エネミーは倒れた男に攻撃はしてこなかった。
ただイナゴの群れの中を静かに立っているだけである。
追撃してこないことを利用して、男はノー・エネミーのこれまでの戦いを振り返ってみた。

(この世に完璧なんてものは存在しねえんだ)

ノー・エネミーの一回戦の相手は魔法使いだった。魔法使いは渾身の攻撃魔法を返されて自らリングアウトした。
どんな技法を使えば、火球を跳ね返すことができるのか、魔法に無知な男には理解できなかった。

二回戦の相手は剣士だった。やはり全ての斬撃をカウンターされ、剣を捨てて逃げ出したのである。

(わからねえのは、ここだ)

剣士が放り出した剣が、ノー・エネミーのマントにかすったのだ。
あれだけ流暢なテクニシャンが、ただ弧を描いて振ってきた剣を避けられないものだろうか。

準決勝の相手は、男の見立てでは男より強い武道家だった。動けなくなるまでノー・エネミーに襲いかかり、最後は泣きながらギブアップしたのである。
試合後の落ち込んだ様子では、もう戦うことを止めてしまうのではないだろうか。

(……試してみるか)

これでダメならギブアップだ。男は最後の気力を振り絞って立ち上がった。

フォーク > 男の拳が、ノー・エネミーの顔面を捉えた。ノー・エネミーの顔面に拳をめり込ませたまま男は言う。

「俺はお前を狙ったんじゃねえ。お前さんの後ろを跳んでいるイナゴをぶん殴ろうとしたのさ」

男の推測は当たったようだ。
ノー・エネミーは『自分に向けられた戦意や殺意を察知』できるのだ。
攻撃の意志に体が反応して、カウンターを行っていたのである。
なのでイナゴへの殺意が篭った拳を察知することができなかったのだろう。
剣士の投げ捨てた剣が当たったのは、剣士が戦意を喪失していたからだ。

そしておそらくノー・エネミーは武術に関しては素人だ。それは掌底の出し方でわかる。
本当に格闘技の心得があるならば、カウンターからの掌底で一撃KOが可能なはずだからだ。

「やっとこさ一発入れられたんだ……このまんま振り抜かせてもらうぜ!」

そのままノー・エネミーを場外までぶっ飛ばす。
この時点でリングアウト負けになり、フォーク・ルースの優勝が決定した。

男には一つ残念なことが残った。
奇妙なことに、場外に落ちたはずのノー・エネミーの姿が消えたのである。
敵意を察知する才能はともかく、攻撃魔法を反射する技法は弟子入りしてでも教えを請いたかった。

「世の中は広いなあ。こんな強い奴、俺は見たことなかったよ」

賞金ゲットした男は、ボコボコの顔のまま村をしばらく散策するのであった。
せっかく来たのだからね。

フォーク > あっという間に3000ゴルドを使い切ってしまった。
愛馬ビッグマネー号の鞍には、大量の食糧とお土産が積まれている。
さすがに自分が騎乗してはビッグマネー号が潰れてしまうと思い、男は愛馬の手綱を引いていた。

「やれやれ田舎の村は物価が安いなんて嘘だぜ。ブツによっちゃあ街の方が安いんだもんな」

などとぶつくさ言いながら、帰路に着くのであった。

ご案内:「ゾス村」からフォークさんが去りました。