2022/05/20 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場」にメイラ・ダンタリオさんが現れました。
■メイラ・ダンタリオ > 丘陵地帯 ハテグ
小高い丘は平地と山地の中間程
平地よりも高い場所に位置するそこは戦場を見渡す為、陣を置く
このようなあり方はどこでも遥か昔から当然のように使われているだろうか。
王も居わす事もない 肥えた騎士や戦場に出たところで陣を守護するための騎士団ばかりがいるその場所。
メイラは踏み入れさせてはならない場所ではあるものの、その場所を赤い瞳を細めて見上げて見せる。
ギザ歯からは シュウ と細い息が零れながら、まるで興味のない陣。
―――ハテグで一番つまらないのも 魅力がないのもあの陣ですわ。
―――もうあの御方は、わたくしを見てくださらない。
メイラが跨る 鎧を見込んでも耐えうる逞しい足を持つ黒い戦馬
それは首がなく、銅板で蓋をされた姿でそこに佇む 獣の怪の中ではポピュラーな“首無し馬”
それに跨るメイラは、複数人の轡を並べる者らと共にそんな意識がぽつりと零すものの
全員で前進 蹄と怒号の前進の中で、その表情はどこまでも狂っている。
地獄の果てで王に再会する際に 新しき王が誕生したその際に ダンタリオが其処で
なんの首級も携えられなくなった腕をぶら下げたままいるわけにはいかないのだから。
「ハ ァ ァ ァ ァァ……。」
ギザ歯から臓腑が熱を持つように白い吐息が零れる。
もう季節も夏を迎える手前 湿度の高まったここでその吐息かと 周りは人ではない何かを見るような横目。
背中に背負ったグレートソード 巨剣 その影を見せるものが片腕で抜き出される。
女としては背が高くとも男よりは小柄かもしれない背丈では、その剣 大きく見えることだろう。
馬の首が邪魔で振るいきれないようなそれも、この妖馬の前ではなんの憂いもなかった。
槍や剣を携える向こうに見える敵の群れ。
馬に跨る者同士 弓や歩兵の槍衾で待ち構えるそれではない
騎馬と騎馬の群れのぶつかり合いならば、同じ力と同じ重さがない限り
軽いほうが死んでいく
「う゛ぉ――― ■■ァアアアアアアアアアアッ!」
ギザ歯が開けられ、吠え 腹部という力のうねる其処にギチリギチリと固まって渦巻くもの。
それが両腕を伝い、黒い真銀に身を包んだ其処が革を鳴らして、馬と馬のすれ違いざま。
ぶつかり合う塊と塊に対し、“大剣擬き”を振るいあげ、それは両断せしめる為じゃない。
その馬の上から叩き出すだけでも十分なように、鎧の胴や肩に食い込んだそれが、振るい切られる。
通常よりも低い位置 馬の首を気にせず叩き込んだそれは、相手の馬の首が別れてぐるんぐるんと上へと回った。
そのまま、食い込んだ大剣擬きの半ばから上により、向こうへと放り出されると
その叩き出された本人と、馬に跨る幾人かが、ピンを倒すようにはじけていく。
赤い瞳とギザ歯の黒い塊のような ダンタリオ。
それが左右に剣を振り上げ、一番前で突撃する。
その狂気が伝染し、掻き分けの左右 その群れの裂け目 傷口を更に広げるように。
後ろをついてくる同輩 メイラの狂気に慣れてしまった者らが追撃する。
■メイラ・ダンタリオ > メイラは正真正銘の戦狂いの家系 戦狂いの成れの果て
それと王への敬意 忠誠が何の矛盾もなく同居する。
溶け合うといってもよかった。
戦場の果てに高みを目指すこともしない。
莫大な金銀を求めるわけでもない。
一言 王から言葉を賜れば それで全てが報われてしまう。
そう育てられ そう生きてきた。
それ以外何もいらない人生は それ以外がいつも周りに付いてくるから
こうして貴族として ほかの貴族を蔑ろにするような 爵位一切が関係のない立場を生んでいる。
両腕に携えた大剣擬きが、鉄で包まれた敵を薙いでいく。
両断できなくていい その重量と怪力で凹凸を造り上げるだけで死ぬ。
どこぞの有名な剣士は言っている。
両断できなくても命を断てることができれば 優秀な防具などそれまでだと。
メイラはそれを確実に実行していた。
何処に当てても殺すと。
敵が当てられて 飛ばされていく。
周囲にはじけて落馬する者も居る中で メイラの行いについていける者らがこの流れに同乗している。
おこぼれを狙うような者だろうと その狂気に呑まれた者だろうと。
その怪力の剣筋に憧れや畏怖 イカれや理不尽めいた 混ざり物の結果だろうという侮蔑があれど
今メイラが起こしている現場での出来事を受け止められる者だけが騎馬をしている。
男のプライド 戦果への乾き 強さへの執念 騎士としての情景
何もかもが渦巻いた戦場。
戦奴とは違った 最前線を飛び交う成れの果て。
向こうもそれは同じだった。
ほどほどで言いと言われても 目の前で何も考えずに剣を振るい続ける者がいれば伝染する。
負けなければそれでいい が無くなってしまえば
勝つしかなくなってしまう。
狂気は伝染する
味方にも そして敵にも。
「■■■■———っ!!」
裂帛の咆哮。
それは伝染した向こうの一人 牛首人体 の逞しい獣人がこの裂け目を止めんと横合いから
味方をなぎ倒してまで進んできた者との剣と剣のぶつかり合い
鉄の悲鳴 鐘をぶつけたかのような音と共に、鉄の撓んだ音がする。
鼻先から白い吐息を上げる牛獣人と、メイラが互いに馬を止めた。
裂け目は留まり、代わりにこの周囲の傷を広げ始める。
「―――邪魔ですわァァッ!!」
巨躯と女躰
二つの騎馬が武器を互いにぶつけ合う。
音の尾が波打つ 鉄の揺れる音。
それを何度も、互いの馬が立ち位置をずらしながら振るい続け合う。
肩口の鎧をはじけ飛ばしたかと思えば
赤髪の鍛冶師が拵えた黒真銀の胸を霞める剣閃。
互いの眼に認め合うような 騎士の物語などはない。
死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね
どう殺すか どうすれば叩き込めるか。
それだけを考える単純施行。
大剣擬きと大剣の間合いは、周囲の空間を広げなければ巻き込まれもするから
その群れの傷口 確かに広がるだろう。