2022/03/14 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場」にメイラ・ダンタリオさんが現れました。
メイラ・ダンタリオ > ハテグの小競り合い
今日もメイラはそこにいる
戦場というものは、どこまでも潔くできている

街中の殺しと戦場の殺し どちらが不純で どちらが濁っているか
そんなもの 言われなくても 聞かれなくても 皆が知っている
そう 澄んでいるのは

戦場だ


ギャアッ そんな声がする
黒い首下甲冑 鎧にとって兜は顔も同じだろうに メイラは身に着けない
そのギザ歯が その赤い瞳が そのどこまでも黒い髪と鎧が 貌だといわんばかりに
髑髏でも花でも突き出た頭部でもない 兜という主張なくとも そこには確かな主張がある

鳴いた男の胴体 鎧なんていうものは 手に携えている長い槍
その肉太い鉄でくるまれた 竹の節目を思わせるふくらみが点々と続くそれで
横薙ぎに振るわれ 二の腕砕け そして圧はそれだけにとどまらず、皮を残してくの字に曲がった
肋骨が確かに数本 ボキリと砕けた手ごたえが 鉄と布と皮と肉を超えて その厚い掌でも感じ取れる。

向かい合って 敵であれば 殺す理由になる

感情も 切っ掛けも 理由も 全ていらない

全ては王の為に
空位であろうとも 王の為に

強ければ良い 殺せれば良い 積み上げられればいい

それだけでここまできたのが ダンタリオ


黒い槍の大笹穂 貫き力よりも やや平たい身が多いその刃が
鎧を貫き、節目を断ち 何人も何人も その二つ名にたがわぬ両腕で右に左に振るって
そして倒れていく。

―――何も考える必要もないほど
―――そう、わたくしは、敵を如何に多く屠るか それだけを考えていればいい。

ギザ歯が見開く 唾液の糸が薄く細く 上下の尖りで繋がって
赤い瞳はいつまでもその眼力を失わない
間合いを伸ばし 力を届かせて 厚い鎧では届くまいと吠える巨漢

「……。」

                バリッ

ギザ歯が噛み鳴るのなら 嗚呼 その通りに その兜のてっぺんに 刃の向こう
長柄の縁で真っ直ぐに振り下ろしたそれが ベコリ と 凹 この形を その頭に作りあげ

どすんっ という音が 地面で大の字を造り上げた。

「―――ハァァァァ……。」

熱い吐息が 白く濁らせる

その吐息を見れば わからずともわかる

見える向こうで見える 怯む瞳 ああ身体が まだ休めてはいないのだと
その白い濁りの熱量で わかる。

メイラ・ダンタリオ > 武器は自前の なんということはない
ダンタリオに見合うだけの代物というだけのもの

それが何度も、振るわれていく
巨剣でも槌でも斧でもない 槍

でもその長い先が まるで品のない張飛のように振るわれる。

語られることのない程度の槍
それが真横に縦に振るわれれば 剣の間合いの前に 棍棒の間合いの前に
刃が届く 竿が届く 斬られて砕けて それでもまだ満足しないメイラ

メイラの狂気的な前進 それに楽ができると思う者はいない
小競り合い程度の一進一退の戦場で 真面目に数を拵える女の前で弛もうものなら
そんな役立たずはいらないと きっとその腕の力で 向こう側へと投げ込まれ
雪崩倒しの役目を課せられる

それをされたのがもうざっと 3人 か。

だからこそ働く者もいれば その狂気を見て
自身もあんな風に と 見習ってはいけないものを見習って その先は伝染していく

あの男が造った鎧が メイラの昂りを じくじく じくじく と続けさせる

留まっていれば 疼いて 熱っぽい そんな程度も
動くほどに燃え上がるのは必然

脳内で溢れ出る人体生成分泌のそれが ミシリ と腕の力を瘤にあげて
煩わしい両足の脛を厚く固めていれば払いあげ 薄く整っていれば斬り飛ばし

転んだところを、踏み抜かれていく 立ち止まる そこに 弩も槍も続く。

呪わしい力が メイラの熱を冷まさない
そう造った男の出来栄えは メイラをメイラたらして
こうして横振りに薙いだ 端を両手で握って振るった間合いの伸びた一撃
振るい終わりに攻めようとしたところで 群れの々れは
しゅるりと引き戻し そのスライドする手の動きが長柄を流して刃の手元を握らせる。

槍の本懐と言わんばかりに 突く 戻す 突く 戻す 突く 戻す
腕と手の内で引き流すそれが、突くだけで4人の胴を抜いて 腸が零れることがなかったとしても
もうその中は “ブツブツの切れ切れ” だ。


「ハ ハ ハ」

メイラが嗤う
ドスン、と 石突きの大百足を地面に叩いて
きっと きっと王はお喜びになったのだろうなと そんな 褒められたがりのように
そんな風に育ったメイラの笑みは、目の前の光景に澄んだ気持ちで満足している。
鉄と肉が重なり合った光景を。

メイラ・ダンタリオ > そうして小競り合いは終わった
槍働きの最中 何度も様子をうかがっていたのだろうか
一人 するりと槍の内側に入ってきた者がいた

引き戻し手からの突きでは、メイラは間に合わないと知る
なら、と簡単に槍を手放した

ギョッと 相手の眼が向くのが兜の向こう
その眼 メイラの赤い瞳でも十分に知れたところで
腰の愛槍 もう一つの槍を抜いた
一つ と 書いて 一突 文字通りにつながるかのように
その槍を手直しされた剣のような具合のそれは

互いに刃をうちわせると弾いた手がぐるりと内側へ舞うようになる
鎧に対して、剣の切っ先 貫けるものではないと見たものの
それもかなうことは 無かった

槍の手直し 貫くことが本懐 長い柄のついた槍で 貫かれた鎧なら
きっと不思議はないように

その手直しが腕の力を以て 真っ直ぐに突き刺さったのなら
その槍が肉で締め付けられて、引き戻すことはかなわない
作法に倣って、奥 上下に軽く押し込む 広がる傷口 抜ける手直し

長巻直しとも呼ぶそれを手に メイラは心の象を貫いて そうして終わらせたのだった。


――――――――――娼館

「ふぅ。」

メイラは小競り合いの一つの塊
それを終えて、黒い鎧を脱ぎ 黒い衣を脱ぎ 血よりも汗の甘い匂いが濃い
鎧を脱ぐと昂り 続きを求める疼きは消える。

娼館の中とはいってもそこはハテグ
贅沢なものはなく 精々が焚いた水を大きな盥で埋めてそこで体を濯ぐくらい。
それでも立派な湯桶だろうか。 

身体がまっさらになった感覚の中で、娼館を汗を流す場所の代わりに利用したメイラ
腰に長巻直し 黒い衣も洗って乾かしたものを身に着けるころには、メイラは身軽な姿で
その娼館の客待ち場にて寛いでいる。

手元にあるのは ハテグでは贅沢だろうか 体を温めるための葡萄酒が一つ
革袋で収まり 大きさは牛の心の象もあるほどのもの
手持ちか買取か メイラの手持ちであり、水気を吸うと体は熱を巡って
鎧の下とは違うぬくさを感じていた。

ご案内:「ハテグの主戦場」からメイラ・ダンタリオさんが去りました。