2019/05/21 のログ
ご案内:「ハデクの主戦場 野営地」にクレス・ローベルクさんが現れました。
■クレス・ローベルク > 「おーい、どいてどいて」
二三積まれた木箱を持って、青い闘牛士服の男は野営地を歩く。
大小様々なテントが割と綺麗に整列しているこの場所は、対魔族戦線の最前線と言っても良い。
そんな中を、酒だの煙草だのが入った木箱を持って歩く理由はただ一つ。
男の今の身分が、義勇兵だからである。
「よっこいしょ、……親父臭いな」
大きなテントの横に木箱を置いて、男はまた来た道を戻る。
今の男の仕事は、後方から送られた物資を、酒保や食料庫(庫と言ってもテントだが)に運ぶ仕事だ。
義勇兵、という名前の割に、やっている事はしょぼいが、しかし男に特に文句はない。前線に出されるよりずっとマシであるからだ。
そもそも、男はタナールに行きたかったのだが……
「まあ、愚痴っても仕方ないか。仕事仕事!」
雑用の基本は駆け足。
少し急いで、男は次の荷物を取りに行く。
■クレス・ローベルク > そもそも、男は出奔したとはいえ、貴族は貴族。
本来ならば、士官とまではいかないにせよ、一兵卒では血と身分が釣り合わなさ過ぎる。
とはいえ、男はそもそも個人戦向きだし、戦術・戦略の事に関しては殆ど素人と言っても良い。そして、"無能な指揮官"は往々にして、後ろから刺されるものだ。
幸い、此処は戦場――貴族名鑑がある訳もないし、ローベルクの姓は、昔はともかく今はマイナーだ。万一申し込みの段階で身分調査が行われたとしても(義勇兵の志願者数から言って可能性は低いが)"ダイラス在住の剣闘士"と"王都の英雄の末裔"を繋げることは難しかろう――寧ろ、騙りと思われる可能性が高い。
然程問題なく、義勇兵になる事はできた。
「誤算は、魔族のアグレッシブさだよなあ……」
男は、何時もタナール砦が打撃を受けるも、防衛できた時に義勇兵申込みをしていた。
そうすると、砦の復旧や戦後処理の仕事が多くなり、前線に回される事が少なくなるからだ。
しかし、今回義勇兵として申し込み、戦場に行くまでの間に砦が取られてしまった。
そうなると、義勇兵達は砦ではなく、前線の維持に回されることになる。
「そうはいっても、今の所こっちから攻める事はないだろうけど……契約期間中に、攻められたら怖いなあ」
一対一なら最悪、負けても逃げおおせるかもしれないが、多対多というのは非常に恐ろしい。
パニックになった兵士は、もしかすると敵よりも恐ろしい存在になる。
無論、義勇兵として名乗りをあげるからには、彼等とて腕の立つ戦士であるのだろうが――
「やっぱ、カネ目当てで義勇兵に行くのはやめとくべきかなあ」
義勇兵は、冒険者よりも割が良い。
傷病手当も出るし、食事も粗末だが向こう持ちだ。
しかし、その結果命までは落としたくはない――
とはいえ、他にどうしようもない。今の男に出来るのは、雑用で頭を紛らわせる事だけであった。
■クレス・ローベルク > ――男の仕事は続く
ご案内:「ハデクの主戦場 野営地」からクレス・ローベルクさんが去りました。