2018/01/08 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場 王国軍捕虜集所」にセブンさんが現れました。
セブン > 「――――…………」

基本的に戦場で前線に立つのは金で雇う事の出来る使い捨ての命、その代表とも呼べる傭兵。
決して安くは無いが、高いとも言えない報酬では、命を賭けるには不相応というもの。
自らの腕がどの程度か、自覚をしているからこそ、魅力的でない報酬に釣られて最前線に参戦する愚は犯さない。
ならばどうするのか。
決まっている。
より賃金は安くなるが、それでも命の危険はグッと下がる見張りや番兵だ。

「……やれ、そろそろ交代の時間か…この退屈な仕事も、漸く終わりだと思うと気が抜けるな」

捕虜を閉じ込める硬い扉が廊下の左右に幾つも。
恐らく衛生面など一切考慮されていないのだろう、薄暗い廊下を一度振り返り、休憩所のある外からやってくる交代要員へと視線を戻した。

ご案内:「ハテグの主戦場 王国軍捕虜集所」にサナさんが現れました。
サナ > 幾つかは空きのある牢の、端
鉄格子の隙間から場違いな生白い腕が伸びる。

服の裾なり
―――例えば剣を入れた鞘であろうとも。
独り言を零した見張りの相手の、届きそうな処を掴み、幾らかこちらに引き寄せようとする。
フードを深く被った、腕以外は年齢やらなにやら不詳の収容者、が。

セブン > 仕事終わりはどうするか。
比較的安全とはいえ戦場、給金は悪くはない。
酒場なりでステーキ一枚位ならば贅沢も、などとまだ離れた場所を歩いてくる交代要員を見ながらぼんやりと考えていた。

「…………ん?」

そんな時だ。
鞘が揺れる感触を腰に覚えたのは。
少し牢に近過ぎたか、眉間深く刻み込ませた皺をそのままに振り返り、その腕を払った。

「大人しくしておけ。抵抗の意があると思われれば楽には死ねんぞ」

忠告。
正体不明のフード姿に向けた言葉には、同情も憐憫も無い。

サナ > 鞘に触れかけた手がじんと痺れる。

「……楽に死ぬって、なんて嬉しくない選択肢…」

黙っているつもりがつい言葉が唇から滑り落ちる。
フードの線だけ見れば年齢が低い者や優男はいるんだろうが、声ばかりは明らかに女のもの。
ただ、中に女がいたからといって、珍しいのか、そうでもないのか、
己には分からなかったけれど。

伸ばした腕をひっこめて、裾から僅かに覗く程度。
格子の横組に添えて、さりと撫でる。鉄錆がぱらぱらと床に落ちる。

交渉の余地があるかどうか。問う心算も、
同情も憐憫も無い口調は仕事に徹している其れで、続けるには躊躇いが生まれる。

セブン > 「女、か……可哀想にな、楽に死なせて貰えない方だ」

結論はあまりにも残酷なものだった。
捕虜収容所は何も敵軍の兵士を捕らえる為だけのものではない。
兵士然としていない不審者も、含まれている。
理由としては簡単で、単純にスパイである可能性があるからだ。
そして、そういった類には実は女が多いのも、色仕掛けを出来るという点で当然と言えば当然。

「精々気持ち良くしてくれる様な優しい奴が相手してくれるのを祈るんだな」

そして女であるならば、生命の遣り取りをしている兵士の性欲の捌け口として、使い潰される。
その上で、漸く処刑されるのである。
そういった場面は腐る程に見聞きしたからこそ、言葉こそは同情を含んだが、心情は動かない。

彼女が何も言わぬならば、話はそこで終わってしまう。
何故ならば、交代要員は着実に近付いているのだから。

サナ > 「うわ………。」


脱獄は、出来ないことは無いと踏んでいた。
リスクがどれだけ伴うか如何か、で。
幾つか考えてみたけれど、財力なり権威なりの交渉材料は持ち合わせが無い。
会話が難しいなら、目の前の相手に、交渉するのは、リスクが高まるだけだと判断する。
――――寧ろ、其れを優しい相手だと、脱獄不可能だと思っているだろう捕虜の女に告げる様子に、無理、と。

かといって、激昂したり取り乱す性格でもなく、大人しく片隅に戻る。
どうにもならない時になるようにして待つのは、慣れていたから。

セブン > 「…………」

話しかけて来ない。
その事実は、これで一応何度も見張りを請け負った事で目利きの経験を養った己には思い至る事があった。
或いはそれが本当にスパイであったり、敵軍と何かしら関係がある者ならば、寧ろ積極的に、それこそ色仕掛けを行うもの。

「……どうして迷い込んだ。此処ら辺は戦闘区域だと分かる筈だろう?」

困ったと言わんばかりに首を振り、背後に到着した交代要員へと顔を向けた。

「誤認収容だ。あぁ、証拠は検分した。出しても構わないな?」

牢の鍵を取り出し、味方へと平気で嘘をついた。

サナ > 立てた膝に額を寄せて、また何時までか分からない時間を待とうとしていた、時。

「……えっ」

目の前の相手が瞬時に違う人間に摩り替ったんじゃないかと思った。
或いはどれかは自分が知らない内に冷静さを失くした果てに見た白昼夢やらの類かと。

さらりと吐かれた嘘に、交代要員の相手も、またかとうんざりした面持ちでぞんざいに了承している。
自分が投げ込まれたんだからそういうことはあるんだろうが、急な展開に理解が追い付かない。

返事よりも先にフードの下で頬は抓っておいた。痛い。

「そんなにあっさり、判断して良いの……」

相手にだけ聞こえるような声で、タイミングで、
質問に対し質問で答えてしまった。
それも、そうだね、と言われたら当人が一番困るのに。だいぶ混乱している模様。

セブン > 良くある事なのだ。
迷い込んだ者を収容する事は。
そして、彼女の様に運良く目利きの出来る見張りではなく、目利きの出来ない見張りによって残酷な最期や過程を迎えるのも。

その現実を、交代要員ですらも把握しているのだから、さほど不信感などは向けられる事もない。
うんざりとした様子には、此方も苦笑いでもって同調し、牢へと踏み出し鍵を挿し込んだ。

「これでも目利きは出来る。何より、女が悲惨な目に合うのは好きじゃないんでな」

カチリ、簡単な音を立てて鍵を外せば、出る様にと手招きした。
本来ならば此処で彼女を作戦区域外まで運ぶのは、交代要員の仕事なのだが、タイミングが良い。
丁度己はこれで終了。

「それじゃあ俺はコイツを送りがてら帰らせて貰うから。……あぁ、また」

勝手知ったる、だ。
重要性も大きくはない捕虜収容所。
あまりにも簡単に、手続きは済んでしまい。

「…さぁ、行くぞ」

それでも、彼女の性別を悟らせぬ様に、そそくさと肩を抱いて歩き出すのは、幾ら同僚とはいえ、女っ気の少ない戦場の兵士が相手だからだろう。

ご案内:「ハテグの主戦場 王国軍捕虜集所」からセブンさんが去りました。
サナ > 開かれた扉から抜け出て、後ろを振り返る。
余り考えないようにしていたことだったけれど、男から其れと聞かされ出られた後に見遣ると底冷えするような感覚があった。

「………本当に別人みたい」

敢えて選んだんだろうか、挑発とも取れる酷い言葉を。
何らかの目的を持って交渉しようとする捕虜なら、解放することで甚大な被害を呼ぶのだろうけれど。
交代要員はひらひらと手を振り、興味が元から無いようで見向きすらしない。

有難う、と告げ、なるべく離れないように身を合わせて、フードを深く被り直してその場を後にする。

ご案内:「ハテグの主戦場 王国軍捕虜集所」からサナさんが去りました。