2017/12/07 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場」にヴィクトールさんが現れました。
■ヴィクトール > 北方の軍勢との衝突が激しくなる中、援軍の要請にいち早く応えたのは野良犬と皮肉のついた彼の部隊だった。
とはいえ、部隊というより、一人というべきか。
今日は部下の姿はなく、一人でふらりと姿を現すと戦場の中央へと切り込んでいく。
黒装束が血飛沫の中央へ突っ込むと、刃を地面と水平になるように構えながら地面を踏みしめ、スピードを殺しながら意識を集中する。
「……うぉらぁっ!!」
パァンッ! と火薬が爆ぜるような音を響かせ、振り抜かれる刃。
空気の壁を叩きつける刀身が音速を通り越した証拠と共に、破壊の力を飛刃へと変えていく。
空気を歪めて飛翔する刃は、大剣で切り裂くのと変わらぬ破壊力を以って正面の敵へ迫る。
密集していた敵を切り裂きながら飛んでいく刃は、血飛沫のスコールと共に弾け、砕けた。
一振りで無数の兵士を血祭りにあげると、次は獣のような四肢を思い浮かべ、力に宿す。
相棒と呼ぶ剣に掛かる黒い靄は、その中で剣を変化させ、二振りの剣へと変えていく。
疾駆する獣の様に身を低くして地面をければ、四肢に絡みついた靄がしなやかに、俊敏な動きを彼に宿す。
(「もっとだ、もっと……! バラバラじゃなく、一つにだ」)
神速といえる一閃、獣のような俊敏さ、そして最近宿した鬼人の如き怪力。
それを一つに纏めんがために戦場に来たのだ。
雑兵だろうとなんだろうがいい、血と命のやり取りの向こうにしか進化はない。
意志を司る魔は、自分の中で歪みに歪んで人の垣根を超えさせたのだ。
自ら闇に踏み出さんと、赤を広げていく。
■ヴィクトール > 酸や毒の様に人の心を蝕み、そして狂わせて壊し、奪い去る。
挙句、カラクリを知らぬ輩を惑わせ、力での争いを封じ込める。
自身が対峙した魔族はそういう輩であり、ただの餓鬼だった男を嬲り殺そうとした。
そして、片腕を駄目にしながら首筋に噛みつき、噛みちぎって奪った血肉から同じ力を得て、暴走。
気づけば血溜まりだけがあり、闇の力が宿ったのが過去だ。
言葉通りに食い殺した事で得たものは、間違いなく彼を人から遠ざけていく。
そして今、跳ね回る獣の様に兵士の首を搔き切って回り、奥へ奥へと敵陣へ踏み込む。
畏怖に逃げ惑う兵士を蹴散らし、その先に現れる重甲冑の兵士を一瞥すれば、再び四肢に靄がかかり、刃を包む。
二本を重ねて握るように両手で構えれば、靄の抜けた先にはバトルアックス。
そして靄は炎のように荒れ狂い、彼の身体に並大抵ではない、魔物の如き怪力を与えるのだ。
「死ねぇぁっ!!」
袈裟斬りに振り下ろす戦斧を、重甲冑がハルバードで受け止める。
しかし、金属製の柄をへし曲げ、ねじ切りながら斧は沈み、甲に激突する。
正しくスイカを叩き割るように甲冑の金属を強引に引き裂き、頭蓋骨を砕き、脳漿を飛び散らせていく。
反吐が出るような生臭さが広がり、甲冑の兵はそのまま崩れ落ちるように絶命していった。
もっとだ、もっとと力を求めれば、場の瘴気にあてられた魔剣は呼び寄せた魔を彼に見せる。
鳥と魔の怪人、力に身を委ね、暴れるがいいと惑わす声に黙れと叫ぶと、自身の周囲に漂っていた瘴気へ手を伸ばし、首根っこを掴むようにそれを掴まえた。
「てめぇと俺は同等だ、仕切んじゃねぇ!」
古き魔に同等だと啖呵を切る人間、それに魔はクツクツと笑う。
それでいいと、それでこそ、殺戮を呼び寄せた餓鬼だと。
人を人で無くさせる瘴気を完全に捻じ伏せる。
最後は人の意志なのだ、魔法であれ、限界であれ、人間の垣根さえ。
ねじ伏せ、奪い、己が力だと強く信じる。
人を蝕む毒ではなく、自身を昇華する力へと同じ意志でも違うモノへ変貌を遂げさせた。
結果……体にまとった瘴気が消え去ると、そこに彼の姿はない。
羽根を思わせる鱗、梟の頭部、猛禽類の翼。
それを宿した古き魔の姿が砕けると、肌を浅黒くしながら瞳は一層煌々と輝く金の光を宿す。
もとに戻った大剣から繰り出された横一閃は、後続の重甲冑をひと薙に切り裂いて吹き飛ばす。
剣の技、獣の速度、鬼人の力、それを束ねたのが今の姿だった。
■ヴィクトール > バラバラだった3つの力を一つに集約させた状態で放つ一閃は、大剣と意志の魔法だけで強化して放つ時よりも鋭い。
並大抵の金属の鎧ぐらいなら寸断し、その奥にある肉と骨も、血飛沫が飛び散る間もなく割かれ、人が二つに別れるのだ。
異様とも言える破壊の連鎖に、兵士達は悪魔だと慄き逃げ出す。
それが更なる過去に通ずる姿とは今は知らずに。
そのまま戦いを繰り返し、魔族が降り立ったと勘違いさせるほどの戦果を以って、北方からの進軍を退けた。
その代償は、翌日の体中のきしみが物語るほど、負荷の高い力。
これはどうにもならんと、その日はベッドの上でゆっくりと過ごすのだった。
ご案内:「ハテグの主戦場」からヴィクトールさんが去りました。