2017/11/05 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場」にユーニスさんが現れました。
ユーニス > 「まったく、現金なものですね。」

戦闘の痕生々しい砦の中から大きな笑い声が聞こえる。
赤いベレー帽をかぶった少女は門から出た所で呆れたように嘆息を漏らす。
十分すぎる戦力で攻めているはずの砦がなかなか落とせない。
そんな前線に焦れた北方帝国に雇われ派遣されたのが3日前のことだった。
戦場へと来てみればなるほど、王国は健気に守っている、士気も高い。
確かに少し苦戦はするだろうと思えた。
しかし、帝国軍はそれを圧倒出来るだけの戦力を投入していた。
これで既に3ヶ月戦場が硬直しているのだから、帝国本部が焦れたのも分かろうというもの。
理由は……考えるまでもなくわかる――指揮官の問題だ。
面会して見ればそれは確信へと変わった。
このような無能に命を預けなければならない兵たちには心底同情する。
一応策を進言してみたものの、小娘の言うことなど聞けるかと一笑に付される始末。
仕方ないと2日掛けて指揮官を説得し、ようやく今朝指揮権の一部の移譲を受けることが出来たのだ。
もっとも散々上になって腰を振って、脱糞姿まで晒してやったのだから、全軍指揮権を渡してくれてもいいんじゃないですか?と心の中で思ったものだが。
まあ、一部でも指揮権を貰えれば後は話が早い。
指揮官が高いびきで寝ている間にきっちり仕事をやり終え、先程砦を引き渡してきたのだ。

「寝ている間に陥として貰った砦であれだけふんぞり返ることが出来るというのもひとつの才能なのでしょうね。」

懐の中のそれなりの重さの金貨袋を確かめつつ、その固さで自らを慰めつつ死体が転がる戦場を悠然と歩く。
友軍の兵や王国軍の生き残りがまだ残っているかも知れないが、契約の切れた今、自分には関係ないものだ。
何ならこのまま王国軍に与して砦を陥とし直してもいいだろう。

ご案内:「ハテグの主戦場」にエズラさんが現れました。
エズラ > ――途切れていた意識が覚醒する。
呼吸――可能。四肢――無事。視界――不明瞭。
一通り己の身体を点検した後に、歯を食いしばりながら腹筋を軋ませ、上半身を持ち上げる――

通りかかった少女には、突如として眼前の死体の山が盛り上がったように見えたはずである。
帝国兵の甲冑を掻き分けて、血と泥に汚れた男が姿を現した。

「ムオッ……ぐっふ、くぁっ……――」

ひしゃげた兜のフェイスガードを無理矢理に半分ほど上げて、視界を確保。
戦が終わった後の、独特の渇いた空気を吸い、片方の鼻を押さえて息を吹き出す。
ぴぴっ、と血が跳ね、空気の通りが回復――

「ふぅ~っ……ハッ、はぁ……どっちが勝った――?」

誰にともなく呟く――まだ少女の存在には気付いていない。

ユーニス > とりあえず近隣の村でも目指しましょうかと戦場を歩いていると不意に隣で死体が上体を起こす。
見下ろせば、まあ、どう見ても死体そのものな男が息を吹き返していた。
周囲には折り重なるように帝国兵の死体が転がっている。
なるほど、そういえば被害が大きな戦区があると報告があった場所だ。
泥に塗れた死体のような男が果たしてどちらの兵かは分からないが、すでに戦闘は終わっている。

「帝国ですよ。砦は陥ちました。戦闘は終わりです。」

自分に話しかけたのではないのだろうが、聞いてしまった以上は答えて上げるのが人情だろう。
戦場の湿った風に蒼銀色の髪とスカートから覗くピンクのリボンをなびかせつつ男を見下ろす。

エズラ > 朦朧としていた意識が、完全に覚醒したのは、ひとりごちた言葉への返答があったから。
即座に死体の腰からナイフを拝借し、投擲せんと振りかぶったところで――

「……んおっ」

自分でも間抜けだと思わざるを得ない声が漏れた。
およそこのような場所に似つかわしくないものが――否、者がそこにいた――呆気にとられてはいたが、しかし、自分は確かに聞いた。

「――そうか、負けちまったか」

帝国が勝ち、砦は陥落――戦闘が行われていないのは一目瞭然であるし、少女の背後――件の砦には帝国旗が悠然とはためいている。
となると、王国側の傭兵として参戦した自分は敗残兵ということになる。
このままぼうっとしていては、いつ追撃が始まるとも知れない。
それにしても、親切にもそのことを教えてくれたこの少女は何者であろうか――出で立ちは、戦場に立つもののそれではなかった。
ナイフをそこいらに放ると、ずる、ずる、と死体の山から両脚を引っ張り出しつつ、まだそこに存在することを確認。

「ふ~……であんたはナニモンだ?」

一見した限りでは武装していない様子の少女に問いながら、見た目以上に機敏な動作で立ち上がる。
四肢を軽く動かしながら、それでも視線だけは油断なく少女を捉えていた。

ユーニス > 死体がナイフを振りかぶるのを見て慌てて鞄で顔を隠す。
もっとも、状況を把握したのか、ナイフは飛んでこず、おそるおそると鞄を下げる。

「すみませんね。あと、2ヶ月くらいはゆっくりと稼げる戦場でしたね。」

指揮官が無能なせいでのんびりとしていた戦場は命の危険も少なく傭兵に取っては美味しい仕事だっただろう。
少なくとも今朝まではまさか一気に攻め落とされるなどとは考えてもいなかっただろうことは想像出来る。
死体の山の中から身体を引きずり出す男の姿を悠然と見下ろしつつ、まったく感情の篭っていない形式だけの謝罪を口にする。

「流れの軍師ですよ。それにしても随分と殺してくれましたね。お陰で予定よりも戦死者を出してしまいました。」

高い声は少女のそれ、背丈の足りない体躯も寸鉄すらも帯びていない装備も、何よりも血にも汗にも泥にも汚れていないその姿は戦場で生き残ったのが不思議なほどだろう。

「ちなみに一応言って置きますが、砦を落とすまでの契約ですので、すでに契約満了済みです。私は帝国とは何の関係もありませんので、殺しても意味はありませんよ。」

一歩二歩と一応距離を取り、言い聞かせるよう釘を刺す。

エズラ > 身体中の骨が軋んではいたが、経験からいって骨折はしていないと判断。
長時間胸部を圧迫されていたので未だに息苦しかったが、ともかく生き残った――
そうして肉体の点検をする間、男の表情は訝しげに曇ったり、驚愕に目を丸くしたりと、次々に移ろっていく。

「なんとまぁ……お嬢ちゃん、そりゃあ本気で言ってやがるのか?」

年齢はどう高く見積もっても自分より十以上は下に見える。
さりとてその佇まいには一種の威厳――例えば高貴な生まれの者が生まれながらに有し、かつ丁寧に磨き上げられたそれ――を感じる。
理路整然とした戦況分析は自身のものとほぼ同じであったし、さりげなく和平交渉に入っていることから考えても、即座に詭弁を弄していると断じることはできなかった。
そもそも、見た目の年齢と中身のそれが異なるような者どもは、この世界に大勢いるということを、かつての経験――異種族混成部隊所属という――から、嫌というほど理解しているのだ。

「……ま、安心しなよ――金にならねぇ殺しをやるほどすさんじゃいねぇ――確かに、もうちっと稼ぎてぇところだったがよ」

敵指揮官が無能であることはかなり前に看破されていたので、少ない手勢でも戦場をかき乱すことが容易であった。
そう、半日前までは。

「その年でえれぇ用兵家だな――統率の取れた大軍の問答無用の戦力つぅものの恐ろしさを、久しぶりに味わったぜ――」

付近の死体の腹部を貫いていた剣をよいしょと引き抜き、破れた帝国旗の端で血を拭う。
長年連れ添った得物は、今日も命を長らえさせてくれた――
それを腰に納めたところで、少女に向き直る。

「……それで、「元」帝国軍師さん、差し支えなきゃ頼みがあるんだが――」

ユーニス > 「一応これでも27です。見た目はこれなのでお嬢ちゃんと呼ばれても否定はしませんが、出来ればユーニスと呼んで下さい。」

別にお嬢ちゃん呼びでも今更不快に感じたりはしないが、理由を付けて名乗る価値はある。
あの蹂躙とも言える戦場で生き残った男だ、それなりに腕は立つはずだ。
傭兵なら仲間内で情報交換もするだろう。
ならば、3ヶ月膠着していた戦場がユーニスという名の軍師により半日で決着したという話も当然出る。
それは即ち自身の名声を高め、価値を上げることに繋がるのだから。

「すみませんね。多分貴方が思っているより兵は動いていませんでしたよ。指揮権を頂けたのは五分の一程度でしたので。なかなかにケチな方でした。」

色々策を弄して数を多く見せて王国軍の士気を挫いてはいたものの、実際戦闘に参加していたのはそのほんの一部。
故にこの戦区で多く倒されたのは予定外の痛手だったのだ。

「何ですか?お金なら持っていませんよ?これから貰いに行くんですから。」

実際は前金で貰って懐に収めてはいるが、わざわざ本当のことを教えてやる義理はない。
少し怪訝そうに男を見下ろしつつ、長い袖で隠れた両手でベレー帽の位置を直す。

エズラ > 「にじゅっ……五分の一ぃ?!」

次から次へ――見た目通りの涼しい口調で言ってのける少女――否、女。
敵軍の動きは、あまりに唐突に洗練されたものに変わった。
戦力の逐次投入というそれまでの愚策に余裕をもって対応していた王国軍は、打って変わった高速の殲滅戦に容赦なく蹂躙された。
それ故、敵がいよいよ全軍をもって小勢を押し包むというもっともやられたくない――そしてもっとも確実なカードを切ったものであると錯覚していた。
瞬く間に目の前の存在に対する認識と評価が改まっていく。

「ユーニス……ユーニス。フムン、こりゃあ憶えておかねぇとな」

指揮の下で戦うなら稼がせてくれるだろう――敵にいたなら、ケツをまくろう。
生き残るための情報は、いつだって重要である。
そして、それならばこそ――

「アア、別にカネをせびろうってんじゃねぇ――むしろ逆だ」

腰裏の雑嚢から、捕虜捕縛用の縄を取り出し――おもむろに相手の方へ放る。
そして、両腕を差し出して。

「オレは逃げる――が、ここは帝国勢力圏だ、簡単じゃねぇ――だがよ、あんたが捕虜を引っ張ってくってンなら、話は別さ。連中にめっかっても、無駄な内力使わなくて済みそうだろ」

つまり――さも捕虜をしょっ引いていくという体で、帝国の勢力圏外まで連れて行って欲しいという申し出。
肉体の疲労は未だ深く、王国勢力圏に達するまでは体力を温存したい。
勝利の立役者が連れているのならば、おいそれと手出しはされまい――と考えたのである。

「腰の物も預けるぜ――もちろん、カネも払う。あんたが来るまでは、そこそこ稼いでいたからよう」

無論、この戦場を制した謝礼金に比べればスズメの涙ではあろうが。
そして、何気なく口にする――

「どうだい、何でもするからよ――一芝居打っちゃくれねぇか?」

血と臓物の戦場の匂いに混じって、獣臭にも似た雄の芳香が、女の方へ漂う――

ユーニス > 「ええ、覚えて置いて下さい。天才軍師ユーニス・F・アグリッパの名前を。」

男の驚く姿に内心ドヤ顔を浮かべつつも平然とした表情でフルネームを名乗る。
そろそろ何か二つ名でも名乗るべきかと思いつつも男の申し出に暫しの思案。
背後を見返れば砦で宴会でも始まったのか歌声まで聞こえて来る始末。
この様子ならすぐに掃討戦は始まらないだろうと確信すると再度男のほうへと向き直る。

「そうですね、別に構いませんよ。貴方に死なれてはせっかく名乗った意味もなくなりますし。ちなみに謝礼金は必要ありません。その代わり少し付き合ってもらいますが、構いませんよね?」

自分の名声を伝えるものが減るのは面白くないし、今日の分の男も調達しなければならない。
なら、男の申し出を断る意味もないとあっさりと受け入れ、スカートや下着のリボンが汚れないよう上半身を屈ませ縄の片端を拾い上げる。

「あ、汚れるのは嫌なので自分で縛って下さい。別に縛ってる風を雑に装っておけばバレませんよ。」

泥と血に濡れた男を上から下まで品定めするよう眺め、にっこりとイイ笑顔を浮かべてのたまう。

エズラ > 「いよっ、嬉しいねぇ、それでこそ未来の女将軍様ってもんじゃねぇか――」

承諾を受けてくれたばかりか、礼金も不要であるという。
確かに、ゴロツキの稼いだはした金など、微々たるものであろうから。
宣言通り、剣帯を外して愛剣を差し出すと、器用に己の両腕を縛る。
傍目にはきつく縛ってあるように見えるが、一動作でほどけるように巧妙に結ってあるのは、戦場の知恵。

「……よし、ホラ、これでいい塩梅だろ――ともかく、近くの街まで連れてってもらえりゃ御の字だ――後は何だって付き合うぜ」

女のフルネームはしっかり脳裏に刻み込んで、やけに楽しげな笑みに少しばかりの不穏さを感じつつ、先を行くよう促した。

ユーニス > 「わかりました。どこか当てがあるなら案内して下さい。大きめのお風呂と美味しい食事がある宿がいいですね。」

捕虜とそれを連れた軍師……そんな体を作りつつ男に先を歩くよう促す。
見た目は完全に子供と大人だが、ボロボロの男の姿ならそう簡単にはバレはしないだろう。

「ちなみに私はいかにも非力な見た目ですので、瀕死なくらい弱ってる演技をお願いします。まあ、見た目だけでなく実際非力なのですが。あ、ちなみに体力に自信はありますよね?」

男の背後を歩きながら変わらずマイペースで話し続ける。
果たしてどんな宿に案内してくれるのか……。

エズラ > 「ああ、王国領にさえ入っちまえば、イイ宿いくらでも紹介するぜ」

言われたとおり、がっくりとうなだれて歩き始める。
時折呼吸を乱すようにひぃひぃとあえぐことも忘れない。
それに反して、ゆっくりと歩いているわけだから、身体は少しずつ回復していくわけである。

「体力……?ああ、こっちの見た目通り、程度にゃ思ってもらって構わねえ自身はあるがよ――」

時折こちらの様子を窺いつつも、背後の女の姿に居住まいを正す帝国兵達を尻目に、奇妙な二人連れが戦場を後にするのであった――

ご案内:「ハテグの主戦場」からエズラさんが去りました。
ご案内:「ハテグの主戦場」からユーニスさんが去りました。