2017/05/29 のログ
ゼノ > 夜間、それも深更だ。小高い丘に横たわる廃砦――あちこちに松明が掲げられ、王国軍の野営地となっている――に、人の気は薄い。
黴と埃、そして汗の入り交じったにおいは普段嗅ぎ慣れないソレでいつも以上に眉間の皺は深くなる。
自分はそもそも軍人という人種が嫌いであるし、戦場に立つなど問題外――。
けれども今こうして、中庭に張られた天幕の下で、数人の指揮官に囲まれているのは何故か。

「よろしいか。……まず扱いを誤ればあなた方の兵が死にます、それも大量に。これから説明申し上げる事をお忘れなきように」

まあ、といっても無理だろうな――何せどいつもこいつも頭の悪そうな面だ。
頭脳派を標榜し内心で見下しまくるミニマム器ぶりは今に始まったことではない。
おんぼろの椅子に嫌々ながら腰掛け、卓に鉄製の箱を数個乗せている――それが、この場の人間の視線の集まる中心点。
ぱちん、錠を外し、それを解放する。
中には羊毛の緩衝剤と、それの合間に寝転がる卵形の鉄球。

ゼノ > 「――まず、ああ、 ……あなた、そんな離れなくても、今は問題ない」

今しがたの言葉を聞いて顔を顰めて一歩引いた男の一人に、視線を向けないまま言う。
鉄球のひとつを取り出したなら、ぽん、ぽんと手の内に弄びつつ、の

「見れば判るでしょうが、――…ここに符が貼ってある」

その頂点、接着された赤い札は、煩雑な記号めいた呪式に埋め尽くされている。
指先にそれを指し示し、目線が集まるのを待った。

「その限りにおいて、こいつは単なる文鎮くらいにしかなりません。……試せと言われても何ぶんこの時間で、不興を被るのはあなた方ですしやりませんが―――外してからきっかり五秒で、」

ぽん、ぽん。
投げ上げて手に取った鉄球、およそ卓の中心へとそれを投げ転がす。

「中規模の爆発を引き起こします。半径でいえば目安として、…そうだな。二十歩ぐらいまでは影響が及ぶ。その圏内に、内部に詰まった鉄片をバラ撒いて敵兵を殺傷する、と ――…重ねて申し上げるが、下手に扱えば味方が死にますよ」

頻繁でこそないが、軍は己の“副業”において重要な得意先だ。
武器としての用途を持つ魔道具が要求される際には、とある伝手から声が掛かる。
わざわざ出向くのも面倒でならぬが、物が物だけに、そこまで信の置ける人間というのも少なかったから――やむを得ない話。

ご案内:「ハテグの主戦場」からゼノさんが去りました。