2023/06/04 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にダアトさんが現れました。
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■ダアト > 「……邪魔、じゃ」
月明かりが差し込む静謐な空間にカツンと硬質の音が唐突に響いた。
綺麗にならぶ椅子の列、月光の届かぬ影になった場所にそれは音もなく座っていた。
礼拝の時間はとうに過ぎ去り、本来ならば人の居ない時間で
まるで降って湧いたかのように気配が無かったそれは
湧き上がる泡のようにゆっくりと立ち上がる。
「……睦む、なら……別の、場所、で……して、おくれ」
少々不機嫌そうな雰囲気を漂わせながらはき出される掠れたか細い声。
少女のようにも、そして老人のようにも聞こえる声は静寂に沈むこの場所でも
ぎりぎり届くほど弱弱しいものだったがそこに含まれる感情は重く煩わしさを含んでいて
■ラディエル > 懲りもせずこちらへ伸ばされる白い手を、危うくかわして更に一歩。
後ずさったその時、不意に背後から声が聞こえた。
はっと息を呑んで振り返る、視線の先に小柄な人影。
声から年の頃を判別するには至れないが、取り敢えず女ではあるようだ。
しかしそのいでたちは、修道女というより、何処か隠者めいて。
「―――――――――… っ……、」
無言のまま、その娘を凝視したまま。
ゆっくりと呼吸を整え、それから瞬きをひとつ。
眉間に軽く縦皺を寄せると同時、口許を皮肉げに歪ませて。
「……騒がしくしたことは、弁解の余地も無いがね。
こんな、いつ人目に触れるかもしれない所で睦言に耽るほど、
欲求不満ではない、とは、言っておきたいかな」
しつこく伸ばされた修道女の手を、もう一度かわして、軽く払って。
「……と、いう、わけなので。
出来ればもう、諦めて頂けませんか、シスター」
これ以上、どう言葉を尽くせば拒絶の意思が伝わるものか。
困り果てている気配は、伝わっていると信じたい。
■ダアト > 「何、とも、……説得力、の、無い、事じゃ」
呆れたような声色はこの場所の裏で何が行われているかある程度理解しているからか。
大方、そういう約束か、そういう商売か。
偶然を装って一夜褥を共にする……というのは
そこそこ”好まれる”シチュエーションでもある。
まぁそれが意外と気に入らなかった俗にいうちぇんじというやつか、
もしくは珍しく生真面目な若人が偶然引っかかったか。
……この聖地とはなばかりの放蕩の地で
後者というのは今日日考えにくいかもしれない。
まぁどちらでもいいが……
「……いや、邪魔、者は……わし、の方、か」
小刻みに肩を震わせながらかつん、かつん、と音を立て
それは目前の男女に向かい這うように歩き始めた。
背を丸め、ローブを床に引き摺りながらゆっくりと歩くその姿は
その場所にそぐわずまるでお伽噺の幽鬼のようで
心なしか周囲の温度が冷え込んでいるかのような印象を周囲に与える。
……実際、よく目を凝らせばそれの足元は屋内にも関わらず霜がおりており
冷やされた空気がわずかに白く漂っている事に気が付けるかもしれない。
そうして二三歩近づき、僅かに体を起こすと
陰になったフードの奥、鈍く光り浮かび上がるような瞳が縺れあう男女を見つめていて
「こんな、にも……綺麗、な、月の……夜じゃ。
誘わ、れた、化生、が……出てき、ても、不思議、では、……ない、よなぁ」
降りしきる月光の雨の下、それは確かに三日月のような妖しい笑みを浮かべた。
■ラディエル > 説得力が無い、と断じられれば、己としては笑うしかない。
己が男で、相手が女である以上―――困り果てているのだと主張したところで、
信憑性は限りなく薄い、と認めざるを得ないのだし。
しかし、それはそれとして。
己の『眼』に映る、この娘の姿は問題だ。
「いや、だから、……邪魔、とか、そういうことでは、なく」
どうしたものか、思案しながらの台詞は、何とも曖昧に、歯切れ悪く。
曖昧であると言えば、冷たい靴音を連れて近づいてくる娘の存在も、また。
己には何とも曖昧模糊として――――――捉えどころのないものとして、映っている訳だが。
いずれにせよ、戸惑い、口に出すのを躊躇う己に比べ、
修道女の判断は素早かった。
しどけなくはだけた襟元に、さぞ、冷ややかな空気が沁みたのだろう。
ぶる、と身震いをして、心なしか蒼褪めながら。
まず半歩、にじるように後ずさったかと思えば、
『っ、っ、――――――~~…!!』
上擦り過ぎて掠れた悲鳴を残し、修道女は衣の裾を翻して、
脱兎のごとく駆け去っていった。
呆気にとられたように、ぽかん、と、数秒。
黒衣の後ろ姿が消え失せた方を見つめてから、己はやっと、
ほう、と肩から力を抜いた。
銀月の光を浴びて佇む小柄な彼女に、ちら、と視線を向けて。
「……取り敢えず、礼を言っておこうか。
お前さんが何であれ、今は助かったよ、ありがとう」
そう、お礼は大切だ。
押しつけにもありがた迷惑にもならない、適切なものであるならば。
■ダアト > 「……」
少し悪いことをしたなぁと駆けていく娘の後ろ姿を見送る。
実際の所彼女も善意かつ仕事に忠実なだけ。
清廉な修道女が恋に落ち、許されざる一夜を過ごす。
……一部の客には大層受けることだろう。
全体で見ればかなりましな類ではないだろうか。
とはいえ、女一人でここまで追ってくるというのは少々不用心にすぎる。
この場所では引き抜きならましな方で、
使えそうなら誘拐を辞さないといった手合いが溢れているのだから。
少し怖がらせてしまったけれど
これに懲りたら今後はもっと用心しなさいなと内心告げると
ゆっくりと残された男へと視線を戻す。
「礼、を言、う、……ほど、の、こと、でもあ、る、まい。
しか、し……据え膳、食わ、ぬ、は……なんと、やら、と
言う、……ので、は、なかっ、た、かの?
多少、こなれ、ては、おるが、
……良き、器量、の、娘で……あった、ろう、に」
男の方を助けたのは正直に言ってそのついで。
結果としてそうなった程度のつもりだったので軽く返すも
少し老人じみた小言めいた言葉が口から零れる。
経緯と人物像をまだつかみ兼ねているので一概には言えないのだけれど
……もう少しスマートに断れたんじゃない?と思うのも正直な所なので。
■ラディエル > ――――――実際のところ、助かったのは己か、あの修道女の方か。
こうして傍に佇めば、僧衣の裾から冷えてゆくような心地。
加えて、視線を合わせれば更に―――何だろう、この『色』は。
密かに困惑を深めながらも、己は溜め息交じりに、
「ああ、確かに、彼女は悪くないさ。
美人だとは思ったし、女は処女じゃなければ、なんて、
くだらないこだわりも持ってないよ。
だけど、――――…… だからこそ、さ」
修道女が消えた暗がりの方を一瞥し、おもむろに右手を浮かせる。
額に打ちかかる銀糸の髪を、やや無造作にかきあげながら、
「自分の理性に、あんまり自信の持てない男がさ。
不用意に据え膳に食らいついたら、据え膳ちゃんが可哀想だろ?」
聞きようによっては。
少なくとも、若い娘に見える相手に対して口にするには。
何とも、最低な言い訳だった。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にダアトさんが現れました。
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■ダアト > 「……ふむ」
少し驚いた。
最早堕落都市と陰で囁かれるこの場所でこのタイプは絶滅危惧種かもしれない。
嗚呼、真面目に困っていたんだなぁと認識を改める。
美しく、清廉な見た目で飾り立てながらも
求欲の坩堝となってしまっているこの場所に居ながら
自制と禁欲などという宗教じみた行いを真面目に守ろうなんて。
思わずそんな変わり者今時居たんだなぁとしみじみと見つめてしまう。
……こちらはこちらで随分と男受けしそうだなと
一瞬思ったのは内緒にしておこう。
「自信、の、無さ、を、……吐露す、るの、は、
言い訳、には、……なるま、い、て」
ほぅ、と一息つくと視線を外し、近くの椅子へと再び座りこむ。
同時に漂っていた冷気も初夏の風に散っていく。
普段からこうなわけではもちろんなく脅すために少し演出しただけの事。
「……余計、な、世話、か。
まぁ、……手間賃、代わり、と、思っ、て
聞き……流し、て、おくれ」
■ラディエル > 「―――…『ふむ』?」
何だろう、何やら驚かせたようだ。
彼女の纏う『色』が揺らいで、己にもそのささやかな変化が伝わる。
―――――もちろん、その詳細な中身までは知る由も無いが。
それはそれとして、じ、と見つめられれば少しばかり居心地が悪い。
こちらの顔になにかついているのか、などとベタな疑問は抱かないが、
ただただ、純粋に、居たたまれなくてドキドキするのだ。
数秒だけ迷って、視線の意味を問おうと口を開きかけた拍子に。
彼女の視線が外れて、己の疑問は宙に浮く形になった。
「……これでも、見た目より、実は年食ってるんだけどね。
それでも、まぁ、未熟者なんだよな、要するに。
―――――…って、ああ。 これも、『言い訳』か」
どうしようもない、と肩を竦めて、今度はこちらから一歩。
椅子に腰かけた彼女の方へ向き直ると、細めた視線に微かな稚気を含ませながら、
「女性からの忠告だ、ここは素直に受け取っておくよ。
……ところで、お嬢さん。
もしかすると、今夜はここで夜明かしする気かな?」
先刻の修道女よりも、彼女の方が。
小柄で、華奢で、妙に雰囲気のある分、ここでの夜明かしは危険だと思うのだが、さて。
■ダアト > 「見た目、以上に、か。……いや、詮無、き、事じゃ、な。
忘れ、て、……おく、れ。主に、は、主の、樹が、あ、ろう。」
本人が思っている以上に表情がころころと変わる子だなぁと微笑む。
口調こそ大人びたものを意識しているようだが、
良くも悪くも、融通が利くタイプではなさそうだ。
それなりに苦労しているのだろうとも思うので、小言は十分に過ぎるかもしれない。
「そう、じゃなぁ」
薬師として少しだけ働き、遠い昔に失った信仰の残滓に思いを馳せる。
そんな一日の終わりに選ぶ場所が少し悪かったなぁと思う。
人がいないであろう場所を選んだつもりだったけれど、
まさか夜にも使われる方の入り口だったなんて。
……時が悪い、場所が悪い。いつものことだけれど。
ただ悪かっただけでもなかったのだから、今夜は良い方だ。
「いい、や、ここ、には……少し、立ち寄った、だけ、じゃ。
薬、とい、う、もの、は……
何処、に、おいて、も、不足、してお、る、ものじゃ、から。」
よっこい、しょ。と老人じみた掛け声とともに立ち上がり、
今度は聞き取ることが難しいような小さな足音で外に続く扉へと向かう。
興が醒めた、というよりもそろそろ馬宿に預けておいた馬が
一日お預けを食って退屈する頃。
今夜は月が綺麗だから、駆けるにも悪くない夜だ。
「……ああ、そう、じゃ」
ふと立ち止まり、呟いて。
差し込む月光の下、零れ落ちた髪を指先で払いながら半身振り返る。
口元に悪戯めいた、けれど柔らかな笑みを湛えて
「若人、や。
ここ、で、過ごし……て、居れば、また
……あの娘、と、会う、事、もあ、る、じゃろ。
その、時……には、もう、少、し
情緒、のある言い、回し、でも……用意、して、おくが、いい。」
それだけでも喜ぶだろうからと目を細めると
再びゆっくりと歩きはじめる。
■ラディエル > 「―――――…いや、あの、もしかして、さ」
何となく。
最初から何となく、感じていたことだけれども。
もしかして、未熟者どころか、子供だと思われていそうな気がする。
相手が見た目通りの年齢で無いことは、そろそろ察しがついていたが、
それでも、己の方だって―――――だが、しかし。
「薬師なのか、なるほどね。
いや、うん、俺の方こそ、……騒がせて、すまなかった、本当に」
目に映る『色』に従えば、ごく自然と、年長者を相手にするような物言いになる。
それが堅苦しい礼節を前面に押し出したものでは無く、何処か少年じみた言い回しになったのは、
恐らく、なかば無意識の産物だったろう。
いずれにしても、さらりと髪を揺らして頭を垂れた、謝罪の意は混じりけなしの本物である。
彼女が立ち去るというのなら、引き止めはしないが―――――、
「――――――― 『ソレ』は、余計なお世話だよ。
まあ、一応聞いておくけどさ」
それは飼うつもりの無いにゃんこに、一時の気まぐれで構うようなものだ。
いっとき、嬉しがらせたとしても、己では結局、彼女の期待に応えられないのだろうから――――
けれども、それも女性からの忠告には違いない。
思い直して、軽く口許を歪める笑みと共に受け入れる。
一瞬、そのあたりまで送ろうと言いかけたが、何故だか躊躇ってしまった。
恐らくは、彼女が、あまりにも月明かりに映えていたからだ。
穢れた堕天がこれ以上、近づくことは出来ないと思った。
だからこの邂逅は、きっと、ここで完結するのが正しい。
まぼろしのように白く可憐であった、彼女の姿を己は果たして、
いつまで記憶にとどめていられるだろう。
少なくとも今宵、宿の部屋に帰りつく頃までは。
もしも運が良ければ、月明かりの差し込む部屋で見る夢の中にも、
彼女が現れてくれたかもしれない、が――――――。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からラディエルさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からダアトさんが去りました。