2023/06/03 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にラディエルさんが現れました。
ラディエル > 「いや、そういうことじゃないから、……あの、本当に、そうじゃなくて!」

深夜の聖堂に響くのは、乱れた靴音が二人分。
揺らめく灯火が照らし出すのは、縺れ合うように奥から姿を現す、
僧衣姿の男と、修道衣姿の女である。
――――――ただし女の方の着衣は、どことなくしどけなく乱れており、
そもそも修道女にしては、男との距離の取り方がおかしかった。
対して、男の方―――己はと言えば、あからさまに、逃げ腰である。
やけに良い香りのする女の柔らかな躰を、乱暴にならないよう、慎重に押し返し、

「いや、だから本当に、お礼、なんてものは結構ですから、
 ……というかあの、感謝してるっていうなら、少し、人の話を聞いていただけないかな?!」

切っ掛けは半時ほど前、往来でこの女が蒼い顔をして蹲っていたのを、
放っておけずに声を掛け、ここまで送ってきたことにある。
何故だかここへ辿り着く頃には、すっかり顔色も良くなった女に、
腕を取られて、引き込まれ―――――かけたところを必死に、振り解いて立ち去ろうとしているのが、今。
何を勘違いしたのだか、女が訳知り顔で微笑んで、

『あ、もしかして……ファーザーの方がよろしければ、そのように』

「違う、違います、そういうことじゃないから……!」

もう少しで、禿げたおっさんと同衾する趣味は無い、などと、
大声でわめいてしまうところだった。
今度こそ、と女の躰を押し遣り、肩で息をしながら、女の顔を睨みつけて。

「あの、本当に、……お礼をされるようなことでは無いですし。
 どうぞ、ええ、その、……お仕事に、戻って下さい、はい」

彼女が再び取りついてくるのを阻むべく、両手を胸の前へ突き出しながら。
じり、じり、後ずさりで距離を取ろうとしていた。