2022/10/16 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にネリさんが現れました。
■ネリ > 神聖都市の大神殿に併設された図書館。
今は利用者の姿も疎らで、紙の匂いと独特の静けさに包まれた空間の中で、はらりと頁を捲る音だけが規則的に零れ落ちる。
その中で、片隅に設けられた机に向かう修道女もまた、物言わずに開いた本の頁へと視線を落としていた。
「 ...... ふ ぅ ...... 」
そんな時間が幾許か続いた後、パタン、と読んでいた本の表紙を閉じる音と共に零れ落ちる深い吐息。
読後の余韻に耽るというよりは、探していた知識を得られなかったといった面持ちで、机の上に積まれた本の塔につい今しがた読み終えたばかりの一冊を加えると、積み上げたそれらを抱えて静かに席を立つ。
両腕に抱えた本の塔を一冊ずつ元の場所へと戻すのと同時に、新たな目ぼしい書物を探し求めるように、修道女の足は書架の森の中を彷徨い始めた。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にネメシスさんが現れました。
■ネメシス > 図書館の扉が静かに開けられ、白銀の鎧の女騎士が右足を引き摺りながら入ってくる。
頭から足先まで何故か黒い液体で濡れており、息は荒く時折苦悶の表情を浮かべている。
「貴女が聖女ネリね…。」
白銀の騎士は図書館内で本を読んでいた修道女を指さす。
その表情から聖女目当てでやってきたことは間違いなかった。
「いきなりで悪いけど、治療をしてもらえる?
ちょっと質の悪い魔物と交戦して呪いを受けているみたいなの。
いつもなら自分でも治せるはずなんだけど、何故か魔力が使えなくてね。
ここの上にはちゃんと話をしてきているわ。
場所、変えたほうがいいかしら?」
ここが図書館であることはネメシスでも分かった。
普段は強権的な立場であるが、今は聖女の奇跡に縋る側。
あまり聖女の機嫌を損ねたくないと言った所。
■ネリ > 書架に並べられた本の背表紙を視線でなぞっていると、静かに扉が開かれる音と合わせて重々しい鎧の足音が耳へと届いて。
新たな利用者が来たのだろうと、初めは気にも留めなかったけれど、引き摺るようなぎこちない足音と、荒く苦悶の色を孕んだ息遣いにただならぬ様子を察すると、書架の陰から姿を覗かせる。
「 ...... ? 聖女、という呼び名には少々誤解がありますが ... 確かに、ネリはわたくしで御座います ...... 」
すると、修道女と同様にただならぬ様子を察して駆け付けた司書たちには目もくれず、己を名指しで指さした甲冑姿の女性に驚いたように菫色の双眸を瞬かせるも、白銀の鎧を纏った全身を黒い液体に濡らし、酷い怪我を負った様子の相手に細かい言及は後回しと判断して。
「 ... 治療 ... 怪我を治すことはわたくしでも出来ますが、呪いを受けたというのは ... とにかく、まずはこちらへ。」
場所を変えた方が良いだろうか、という考えは修道女の側でも抱きつつも、足を引きずる相手をこれ以上無闇に連れ回す訳にもいかず、傍らの席から椅子を持ち寄るとそこへ座るよう促して。
失礼致します、と一言断ってから、まずは彼女の傷の状態を、加えてその全身を濡らす黒い液体の正体を確かめようとする。
■ネメシス > 「皆貴女の事を聖女と言っているわよ。
それならやはり聖女で間違いないのではない?
…いたたたた。 そんなことより先に治療をしてもらわないとね。」
なんだか綺麗な修道女の登場に思わず口が軽くなるも、
不意に襲ってくる痛みで表情を歪める。
自らの治癒魔法が効果ない以上、悠長なことはしてられない。
促されるまま椅子に腰かける。
いつもよりも体が動かないので椅子に寄り掛かるように座り込んだ。
「そうね…最初に状況を見てもらうほうがいいかも。」
ネメシスは痛みを堪えながら両手の籠手を外し、次いで胴鎧を外す。
外した鎧もそうだが、何故か鎧の下の服や体にも黒い液体が付着している。
そして服を捲れば、体中に夥しい裂傷を受けていることが伺えるだろう。
「街道沿いに突然現れた魔物を殺したらこの黒い液体をかけられてね。
それから何故か体中が切り裂かれたような状態なのよ。
おまけに魔物の呪いなのか治癒魔法をかけても効きが悪くて。
貴女にはこの呪いか傷のどちらか、できれば両方を治して欲しいのだけど。
できるかしら?」
■ネリ > 「 ... どなたが、そのような事を仰っていたのかは存じませんが ... わたくしは一介の修道女で御座います ...
聖女などと高潔なものでは、とても ... いえ、今はそれよりも。」
痛みを訴える女性を椅子へと腰を降ろさせ、鎧を外してゆくのを不慣れながらも傍で手伝ってゆく。
そうして脱いだ鎧の下も黒い液体が付着し、夥しい数の傷を見て取れば思わず声を失って。
「 ... 申し訳御座いません ... 生憎、わたくしの力では呪いを解くことまでは ...
傷の方も、呪いを受けたままでは何処まで癒せるかは分かりませんが ... とにかく、やってはみます。 」
清潔な布と包帯を持ち寄って駆け付けた司書に礼を述べてからそれらを受け取ると、傷口に触れぬよう慎重に、まずはその身体に付着した黒い液体を拭い取ろうと試みて。
同時に、修道女の指先がそっと女性の身体に触れると、やがて淡い色合いを持った光がその全身を包み込むように燈り、身体中に付けられた裂傷を癒してゆこうとする。
それでも、とりわけ傷の深いものを癒すことまでは叶わず、せいぜいが一時的に痛みを和らげる程度のもの。それも、呪いを受けたという彼女の身体ではどれ程の効果を発揮するのかは、修道女にとっても判らなかったが。
■ネメシス > 「色んな人が口にしてるのを聞いてきたわよ。
私の症状を見た部下が提案してきたくらいだし、よく知れ渡ってる様ね。」
重い鎧が外れると身体も多少は軽くなる為、少し余裕が出てきたようだ。
とはいえ、思わず声を失う様に力なく笑みが浮かぶ。
「そんなにひどい傷?
まあとにかくやってみてよ。
魔力が使えるようになれば後は自力で治せるでしょうから。」
布で液体が拭われるも、既に呪いとして染みついているのかあまり身体に変化はなく。
ただ、これ以上の悪化は防げるだろう。
そして、聖女が自らの身体に触れると淡い光に包まれ、裂傷が小さくなる。
ネメシスが自ら治癒魔法をかけても全く効果はなかった為、眼を丸くしていた。
「やはり本職は違うわね。
ちゃんと効果を発揮するじゃない。
助かったわ。」
裂傷はまだまだ残っているが、体中に伸し掛かっていた違和感は消えていく。
後は通常の傷と同じく、時間をかけるか自らの治癒魔法でも治せそうに思えた。
■ネリ > 「 ... それは ... 恐縮、です ... 」
以前にも、彼女ほどでは無かったにしろ軽い怪我を負った騎士を幾度か治療した事を思い出す。
大方、そこから話が広まったのだろうと考えを巡らせると、それ以上頑なに否定するのも憚られてか、投げ掛けられる賞賛の言葉にそう答えると何処か落ち着かない様子で視線を伏せてしまう。
「 ... 見たところ、ひとつひとつの傷は大したものではないようです ...
ですが、数が多いのと ... その魔物から受けたという呪いに心当たりが無くて ... 」
女性を包み込む淡い光がいっそう強さを増してゆくと同時に、修道女の表情は強張り白い頬には汗が伝ってゆく。
普段の治療と比べて傷の治りが緩やかに思えるのは、おそらくは呪いの所為で効果が弱まっているが故だろうか。
それでも、身体に付着した黒い液体を拭い去り、一通りの傷と痛みを癒し終えてゆくと、淡い光はゆっくりと収束するように消えてゆく。
「 ... おしまい、です ...
あくまで応急処置程度なのと、根本の原因である呪いまでは解けておりませんので ...
後はきちんとした解呪の出来る高位の司祭様と、お医者様に診ていただいてください ... ね ... 」
そう告げる修道女の額には珠のような汗が浮かび、細い肩を上下させて吐息を荒げながらその場に膝を突いてしまい。
それでも、お役に立てて良かったですと穏やかな微笑みを、目の前の女性へと向けて見せた。
■ネメシス > 「あれ、何か不味い事言ったかしら?」
視線がそれてしまうと、それ以上覗く元気はなかったが首を傾げる。
自分であれば得意げになりそうな逸話ばかりだったので相手の反応が不思議だったのだ。
「そのようね。 でも鎧を着ているのにあれだけ傷ができるって凄いことなんだけど。
ほんとに困った魔物よね。 対峙できたからもう大丈夫だけどね。」
傷は残ったままだがかなり軽くなった。
痛みも和らいできたのか腕を動かしたりする元気も戻ってくる。
後は魔力の回復を待って自らの治癒魔法で治すことも出来そうで。
「そうね、呪いの方はツテを頼ってみるわ。
それにして貴女の治癒って凄い体力を使うみたいね。
苦労掛けさせてお詫びをしてあげましょうか。
何か欲しい物とかある?」
体が軽くなったネメシスは椅子を降り、ネリの前に膝をつく。
指先で額についた汗を拭わんとし、向けられた微笑みにこちらも笑みを返して。
体を楽にしてもらった事もあり、ネリ自身にいよいよ興味が向けられる。
■ネリ > 「 ... いいえ ... ただ、そのようにお褒めの言葉を受ける事に、あまり慣れておりませんでした、ので ... 」
伏せられた視線、藤色の髪と黒いヴェールに隠れてその表情は覗き込まなければ見えなかったけれども、決して不快そうな様子は無く、何処か落ち着かないような、照れたような素振りすら垣間見えた。
「 ... 申し訳、ありません ... わたくしの力不足で ...
お詫びだなどと、そんな ... そのような、恐ろしい魔物を退治していただいたのですから ...
御礼とお詫びをしなくてはならないのは、寧ろわたくしの方で御座います、騎士様。
... 改めて、街道の魔物を退治してくださったこと、感謝致します ... 」
体力の消耗が激しい事を指摘されれば、否定や誤魔化しを返す理由も無く素直に小さく頷いて見せる。
額に浮かんだ汗を拭う指先の感触に身を任せるようにしながらも、やがて緩慢な動作で立ち上がると、改めて、街道に巣食う魔物の討伐を成した目の前の女性騎士へと恭しく頭を下げて、感謝の言葉を紡ぎ出した。
■ネメシス > 「あら、そうなの?
でも貴女の奇跡は今実際に体験したけど本物ね。
少なくとも私の前では胸を張っていてくれていいんじゃないかしら。」
好奇心に駆られて顔を覗きこんだネメシス。
相手が照れつつも少し嬉しそうな表情をしているように見えた。
「力不足なんてとんでもない。
貴女がいないともっと苦痛が長引いていた所よ。
まあ、魔物退治は確かに意味はあったかもしれないけど。
貴女がお礼を言うことじゃあないわ。
それより、私の命を救ってくれてありがとう。」
相手の視線が高くなると、己も遅れて立ち上がる。
恭しく頭を下げられている間に両手を伸ばし、聖女の身体を抱きしめる。
同時に頭に手を載せ、優しく撫で上げて。
■ネリ > 「 ... これくらいであれば、わたくしで無くとも使える方は幾らでも ...
いいえ ... ですが、ありがとう御座います ... 」
そうして、目の前の女性騎士からの賛辞を戸惑いながらも素直に受け止めると、一度伏せた視線を上げ、柔らかに微笑みを浮かべて見せる。
耳慣れぬ賛辞が落ち着かなく照れてしまうのは変わらない。けれども、決して悪いものでは無くて。
「 ... いいえ ... 貴女様のお陰で、多くの方が救われたのは事実で御座いますから ...
代表して、というつもりでは決してありませんが、せめてもの感謝を。
わたくしにそう仰ったのですから、貴女様もどうか胸を張ってくださいまし ... ぁ ... 」
言葉が途切れたのは、思いがけずにその身を抱きしめられた所為。
驚いたように菫色の双眸を瞬かせたものの、黒いヴェールに覆われた頭を優しく撫で上げる手付きに一切の害意を感じられない事を確信すれば拒む様子は見せず、修道女もまたそれに応えるように、傷に触れぬよう注意を払いながらもその背へと腕を回して抱擁を交わすだろうか。
■ネメシス > 「どうかしらね。
私の治癒魔法が通じなかったわけだから、他の人で治ったかはわからないわけだし。」
ネリの浮かべた表情は穏やかで、日頃粗暴な毎日のネメシスには少し心地よい。
今ばかりは毒毛が抜け、まるで穏やかな日の光を浴びたように心が落ち着く。
「それが仕事だからね。
それより、私は貴女のことに興味を持ったわ。
何かして欲しいことある?
それとも欲しい物とかない?」
お互いに腕を回して抱き合う格好。
鎧を脱いでいる今の状態だと聖女の温もりが体に直接伝わってくる。
鼓動さえも聞こえそうなほどに。
ネメシスは相手の背中を優しく撫でながら、耳元で囁く。
■ネリ > 「 ... そう、で御座いますね ...
ならば ... わたくしも、騎士様のお役に立てて嬉しく思います ... 」
お互いの体温を、心臓の鼓動を伝えながら交わされる抱擁の中、修道女は穏やかに微笑む。
外見だけで言えば自分よりも年下の、まだ少女と言っても差し支えない身で多くの傷を負った女性騎士を、慈しむようにそっとその背を撫ぜながら。
「 ... いいえ、貴女様が魔物の討伐を仕事と仰るように、これがわたくしの仕事で御座います ...
ですので、御礼やお詫びを受けるような事は何も ...
... けれど、どうしてもと仰るのであれば ... お名前を。
差し支えなければ、お名前を伺ってもよろしいでしょうか ... ?
わたくしだけ一方的に名を知られているというのは ... その、少々不公平かと、思いますので ... 」
やがて長い抱擁の後に、ゆっくりと回した腕を解いて身体を離し、再び目の前の女性騎士の姿を正面から見つめると。
耳元で囁かれた彼女の言葉に対し、修道女は恐る恐るといった様子ながらもそのような要求を口にした。
■ネメシス > 「ふふ、更に言えばこうしてる時間もとってもいい気分よ。」
互いの温もりを交換し、互いの身体を触れ合う。
優しく触れ合うだけであったが、今のネメシスには癒された気持ちになる。
やがて抱擁が解かれ、身体が離れてしまう。
少し寂しい気持ちになった所で相手の顔を見つめ。
要求された内容に思わず笑みを深め。
「そんなことで良ければ。
私はネメシス・フォン・マクスウェルって名前なの。
王都の中にいるから用事があれば呼んで頂戴。
魔物退治以外でもお役に立てると思うから。」
■ネリ > ほんの僅かな、温かい触れ合いのひとときを心地良いと評した女性の言葉に、それは良かったですと微笑みを返してから。
修道女の要求を受けて名乗りを上げる女性の名を、口の中で小さく反芻して。
「 ... ネメシス様 ... はい、ありがとう御座います ...
既にご存知でしょうかれども、修道女のネリ ... と申します。
困った事がありましたら、頼らせていただくやも知れません ...
ですので、ネメシス様もお困りの際はいつでも訪ねてくださいませ。 」
それから、彼女の名乗りに修道女もまた名乗りを返すと、黒いヴェールと藤色の髪を垂らして深々と頭を下げて会釈をひとつ。
それを最後に、修道女の足は元居た書架の森の方へと向き始めようか。
「 ... 申し訳御座いません ... 戻す途中の本を、そのままにしてしまっていたので ... 本日のところは、これで失礼致します。
傷と呪いの方は、必ずきちんと高位の司祭様やお医者様に診ていただいてくださいね ... ? 」
最後に今一度、彼女へと念を押すようにそう告げると、緩やかな歩みで修道女の姿は、再び図書館の書架の中へと消えてゆこうとするだろう。
■ネメシス > 「ええ、こちらもまたお願いするかもしれないわね。
お互い仲良くしていきましょうね。」
深々と頭を下げられたので、こちらも姿勢を但して会釈を返す。
生憎こちらの所作はどうしても借り物感が抜けないが、そこはご愛敬頂こう。
「忙しい中突き合わせてありがとうね。
ちゃんと呪いも傷も治しに行くわ。」
去り際にもこちらを心配してくれる相手に微笑んで見せる。
彼女の姿が見えなくなった頃、漸く部下の一団がやってくる。
彼らに連れられ、図書館を後に。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からネメシスさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からネリさんが去りました。