2019/12/02 のログ
ジェイ > 足音が聞こえる。
その歩調のリズムが変わるか変わらないかのところで
ふ、と帽子の下の視線が振り向いた。
金色の瞳。感情の彩の薄いそれが、来客を出迎える。

「――こんばんは。」

最初に向けられた言葉。柔らかく、ぎこちなさを感じさせるそれ。
それに滑らかな響きで、けれども色の薄い声が挨拶を紡いだ。
向けられる笑みに返すのは笑みではないが、代わりに小さく会釈した。

その間に――分析を開始する。
普段は全方位に向けている“感覚”を娘に集中する。
彼女がどんな存在で、どれほどの力を持っているか。
何処までわかるかは、自分でもわからない。
焦点を魔力から、細胞組成、生体反応まで秒単位で切り替えながら近付くのを出迎え

「……此方こそだ。
 こんな時間に若い娘が出歩くのは危ないんじゃないか?
 尤も、君位の腕前があれば、問題はないかも知れないが。」

自分からは近付くでもなく、遠ざかるでもなく言葉を返す。
次いだ言葉は、何の確信もない言葉だ。
服装から、冒険者だろうと検討をつけての台詞。
鎌かけとも言えない、そんな言葉。

ルビィ・ガレット > 女の薄い表情の奥で、密かに渦巻くものがある。
……厭な感じがする。――直感で感じ取るのは、相手が人外であろうということ。
人間なんて個体差が豊富だし、目の前の彼のように、喜怒哀楽に乏しいタイプもいるだろう。

――それを踏まえた上で、目の前の存在に違和感を覚えた。
娯楽で人を多く屠ってきた、経験から来る知覚。この感覚は無視できない。

「……こんばんは」

だから、少し間が空いてしまって。取って付けたように、こちらも夜の挨拶を返す。
まあ、内気そうな若い娘を装っている訳だから、コミュニケーションが多少、滑らかでないとしても
不自然には映らないか。……そう、勝手に前向きな解釈をひとつすると。

「――あの、気になることがあるのでしたら。
 あたしに"直接"、聞いてください。……『それ』、なんだか――覗き見されているようで」

――むかつくんだよ。そう言葉が続きそうになるのを、ぐっと女は堪えて。
努めて平静を装い。それとなく、彼がこっそりしていた分析を指摘する。
一対一で話すには、少し距離がある場所で立ち止まると。紅茶色の目を細めて。

「……別に。腕に自信があったから、こんなところに独りで来た訳じゃないんですよ?
 ――その、興味本位です。うちは門限も躾も厳しくって。その腹癒せ……になるかわからないけど。
 こっそり家を抜け出してきたんです。それで、アテもなく人目を盗んでうろうろしていたら、
 ここを見つけて……なんだか、惹かれてしまって」

この暗さ、この距離でも、こちらは夜目が利くものだから、相手のことは十分視認できた。
また、聴覚も長けているほうだから、彼の声を拾うのにも問題はない。
もともと、二人きりで狭くない空間で話しているものだから、声が若干反響しているが。

――にしても、だ。
この即席の作り話を、相手がどこまで信じてくれるやら。
話し出して十数秒後に、半吸血鬼が内心、こっそり思ったことである。

ジェイ > 女の感じた違和感。それは間違いではない。
彼女の視線に映る男は決して人ではないし、それを隠しもしない。
尤も、聞かれなければ言う必要もないとは思っているのだけれども。

「これは失礼。癖でね。」

だから、『それ』と指摘された行為にあっさりと謝罪が向けられる。
謝意を感じるには、無機質過ぎる声だろうけれど、“気配”は霧散する。
通常と同じく、周囲全てに散大していく意識、探査針。
それが、会話する距離――よりは数歩遠い位置で立ち止まる彼女を捉える。
金色の瞳が、紅茶色の眼差しに向けられる。
次いで、女の口から零れ出る言葉。

「なるほど。腰のものは護身用、というところか?
 確かに――最近は物騒だからな。無理もない。」

それが嘘か本当か問うことはしない。
代わりに、静かな問いかけを投げかけた。
視線が向く先は彼女の腰の辺り。そこに提げられたアミュレットか、ダガーか。
それともその両方かは、口にしないし、するつもりもない。

ルビィ・ガレット > 「……癖、ですか」

隠匿行為を見破り、指摘してやったというのに。
相手に動揺の色は見受けられない。しかも、謝罪してきた。

僅かに翳る、女の表情。「人外であろう」という、自分の見当が
当たっていたらしいことに、今更臆する理由は無い。
表情の理由は、別のところにある。

――つまらないな……。
内心の独り言。彼の顔色も声音も、大して変わらなかったからだ。
それが不満だった。それゆえの、表情の曇り。――とは言え、『人』相手ではないのだ。

致し方無いか。気持ちを切り替えていく。
彼の質問には、再び歩み寄りながら応えていく。

「――どちらもただの飾りだ。性能より見た目で選んでいる」

とは言っても、簡潔に、だが。
お互い、手を伸ばせば届くであろう距離まで詰めれば。

「私がここに来たのは、預言者の『朽ち果てた教会に、我々が保護すべき勇者が現る』という言を受けてのことだ。
 ……言葉が真であったとしても、情報がこの通り少ないからな――手当たり次第、廃教会を見て回っているんだよ。
 ――お前は人の子ではないようだから。……私が探している者とは、違うようだが」

内気な若い娘の演技なんて、止めだ。
口調も通常時のものに戻せば、自分の正体については話さないものの、本来の目的は明かしてみせ。
まあ、彼のことだから。こちらの正体まで特定できずとも、同じ人外ということは既に伝わっている気もするが。

ジェイ > 自分が何であるかをわざわざ隠すつもりはない。
見抜けない人間には、見抜かれない侭で構わないし
見抜く者がいても、構うつもりはない。それが、害にならない限り。
そう定義しているが故に、女の言動に逸らず、焦らず、乱れない。
尤も、つまらない――と思ったこと位は伝わるが。

「期待に添えなかったようだな。
 もう少し可愛げのある反応をしたいとは思っているが…中々難しい。」

あっさりと告げられる言葉。
先程彼女が口にした薄っぺらい虚偽にも似て響く。
尤も、此方のは冗談と呼べる類のもの――少なくともそのつもりだけれども。
と、此方に歩み寄って来る女。
手を伸ばせば届く、言い換えれば一挙手で互いの生命に手が届く。
そんな距離まで来ても、特に反応せずに、ただ視線を返して。

「なるほど。いや、成る程――本命はその両手か。」

簡潔に、問いへの返答に言葉を返そう。
分析的な台詞。何気ない口調のそれ――と、次いだ言葉には

「ああ――それは悪いことをした。
 ここにいた少年なら先程殺して喰ってしまったぞ。
 そこの祭壇の後ろを見れば、残骸くらいは保護できると思うが。」

口調の色合いを変えない侭、あっさりと祭壇の後ろを指さす。
無論、嘘だ。冗談の類にしてもあまり趣味の良い台詞ではない。
仮令、祭壇の後ろを見ても、そこには捨てられた埃が散らばっているだけだろう。
そんな言葉の目的は、単純だ。彼女が翻した言葉の内容の虚偽を判断するため。

ルビィ・ガレット > 「……意図的に、薄い反応を返している訳ではないんだろう?
 ――じゃあ、仕方ない」

彼の言葉が、本質的なところでは虚偽ではないと感じられて。
女は機嫌を損ねることは無く、淡々とそう返す。
妙なところで引き際がいいダンピールであった。

「――なんだっていいだろう。そっちとは殺り合う気はないんだし」

腰に片手を当てながら、ぶっきらぼうに返す。
……が、彼の続く言葉には、不均等に紅茶色の双眸を左右、細めて。

「……吸血鬼と人間が手を組んでるのが、そんなに意外かよ――珍しいかよ。
 私たちを崇めている人間もいると言うのに」

吸血種が、予言を受けて、人間の勇者を捜している――それがそんなに、信じがたいか、と。
慌てもせず。腕を組んで、ため息混じりに。自分の心情を吐露する。

こちらの反応を見るための冗談にしては、笑えない内容。それでも女が激怒しなかったのは、
彼が飽くまで「本当か嘘か」を判断するために言ったのだろう……と、判断したため。
こちらの慌てふためく顔見たさに言った言葉だと感じたのなら、今頃、彼に対する処遇は違っただろう。

ジェイ > 腹芸を楽しむつもりもなければ
虚実を自在に操るような話術を好む訳でもない。
故に彼の言葉は、決して嘘を交えることはなく、けれど開け広げに真実を語る訳でもない。
少なくとも、目の前の――吸血鬼の女には。

「ああ、賢明だ。」

ぶっきらぼうになった台詞に返るのはやはり短く紡ぐ言葉。
細められる眼差しを受けても、揺るぎも、感情の色さえ浮かべない金色の瞳。
次いだ言葉に、僅かに瞬いてみせて。

「いや、正直にいえば興味がない。
 勇者にも、吸血鬼と人間の麗しい友情にもな。
 仕事に繋がるならば別だが、そうでもなさそうだ。
 ならば、此方とやり合う気がなければそれでいい」

ゆるりと、軽く手を帽子に触れさせる。
一瞬だけ、視線が女から逸れた。興味がないと、示すように。
「残念だ」という言葉は思考の裡にだけ響かせておこう。
彼女が手を出してくれば、その手が取れたのに。そうする程度には、女は十分美しかったのに。

ルビィ・ガレット > 「……ち」

本人の前で、舌打ち。遠慮も無く。
――半吸血鬼の表情が、複雑そうに歪む。
相手の精神構造はよくわからないが、感情や反応が希薄なのは確かだ。

……要するに、女からすれば、物凄くやりづらい。

煽りや威圧、明らかなからかいや敵意をちらつかせ、対象を動揺させる。
それは、女の戦法というよりは好みだった。「相手の反応を見て愉しむ」という、
遊びの部分が結構大きい。……それが、彼には通じないから。すごくやりづらい。

しかも、相手は強がっている訳ではないのだ。どうしようもなかった。
人ならざる者でも、自分みたいに表情や感情に富む者もいるのに……こればかりは、仕方ないか。
それでも……、

「――自分から聞いておいて、それはないだろう?」

諦めきれない部分があって。気づけば、終盤、彼の言葉を遮って。
自分の言葉に見せかけの怒気を孕ませると、つかつかと彼の側まで歩み寄り――、
相手の胸倉を片手で力強く掴んだ。リミッターを外さずとも、通常時でも成人男性の2倍ほどの
腕力は出る。そのまま、ぐい……と遠慮なく自分のほうへ彼を近寄せれば、口付けが叶いそうな程の至近距離で、
彼を視界に捉えて。表情を確認する。……少しでも、驚きだとか。動揺だとか。そんな色が見たくって。

どちらにせよ、数分も経たないうちに自分から手を緩め、彼を解放するだろう。

ジェイ > 響く舌打ちにも、表情を変えることはない。
詰られようが、威圧されようが、煽られようが屹度、変わることはないだろう。
何故なら、そうする必要性を現在感じないからだ。

――やり辛い。
と、相手が思っていることは認識できる。
だから、舌打ちを咎めることはしなかった。

「何、此方に害があるかと思っただけだ――気を悪くしたのなら謝罪しよう。」

遮られる言葉を継いで、きっと女にとっても何の意味もない謝罪の言葉。
と、此方に響く足音。つかつかと近づいてくるのを止めるでもない。
同時に伸びてくる女の手指。一瞬だけ、そこに落ちる金色の眼差し。
――抵抗なく引き寄せられる。まるで、雲を掴んでいるような錯覚を感じるだろう。
それは、男自身が引き寄せられるままに一歩踏み込んだから。
紅茶色の眼差しに触れる金色。至近のそれが一瞬、拡大したように見えるか。錯覚。

「焦ったり、驚いたり動揺したりする姿が見たいのなら
 ――もう少し、自分を曝け出してみてはどうだ?ダンピール。」

――囁くような言葉が近付いてくる。彼女の正体を言い当てる。
もし、彼女が避けないのならば、あるいは避けそこなうのならば
そっと、唇同士を触れさせてやろうとするだろう。
叶っても、薄片のような淡い口付け。触れてすぐ離すだけの撫でるようなそれ。
同時に、そっと、指先を解いて襟元から離させようとして。

ルビィ・ガレット > (継続)
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からルビィ・ガレットさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からジェイさんが去りました。