2019/01/29 のログ
アリゼ > 普段ならば信仰心の篤い老人や修道女が行き交う広場も、
中央で四人の戦士が向かい合う今となってはコロシアムのように群衆が囲んでいる。
衛兵たちに決闘神の信仰に基づく決闘であると話をつけたのか、
彼らは群衆が暴れないよう最低限の仕事をするだけだ。

「クレス、あの鉄球持ちは私がやろう。
 皆にお前の剣技を見せてやるといい」

そう冷静につぶやき、彼女は一歩踏み出る。
片手に持っていた大剣を両手に構えて肩に担ぎ、黒光りする甲冑は鈍い金属音を響かせた。
そこから姿勢を低くしたかと思えば――即座に鉄球持ちへと突進する。
彼女の鎧を構成する呪いのタトゥーがより身体に浸透したことで、
重さを感じさせないどころか彼女の能力をよりあらゆる面で強化するものに仕上がっていた。

「殺しはしない――骨の一本は覚悟してもらうっ!」

風切り音すら聞こえるほどの速度で大剣を袈裟懸けに振り下ろし、
あえて鎧の接合部ではなく右肩を覆う鉄板に叩きつける。
鈍い金属音と共に響く一撃は、はたして男にどれほどの衝撃を与えたか。

クレス・ローベルク > いつの間にやら集まって来た群衆を見渡し、男はほう、と面白そうに笑い、

「……まさか、こんな所で仕事っぽい事をする事になるとはね。
了解、精々パートナーとして、君の脚を引っ張らない様にするよ」

剣を引き抜き、クレスは剣を持つ甲冑の懐に、たん、と軽い足音を立てて飛び込む。
幾ら体力を増強されているとは言え、筋力は増強されていないらしく、鉄甲冑の動きは大振り。
甲冑が振り回す剣を、クレスは細かいステップで躱し続ける事で回避し続けている。


さて、男VS男の戦いはさておいて、むさ苦しい男の神官剣士と、声からして美しき流麗なる女性騎士の戦いは――これはもう、圧倒的にアリゼの優勢であった。
甲冑の重さを全く感じさせない動きで、大剣を叩きつけられた男は、骨は折れていないにせよ、グラリと体勢を崩す。
上半身が後ろに流れるどころか、一歩たたらを踏んでしまう程だったが、

『……っ、舐めるなあっ!』

信仰心故の根性だろうか。崩れた体勢のまま、モーニングスターの鉄球をアリゼの顔面(正確に言うと顔面ではなく兜だが)に叩きつける。
どうやら、まともにダメージを与え合うよりも、頭部を攻撃して気絶させる戦略を取ったようだ。

アリゼ > さすがに決闘神に仕えるだけあってか、加護もあるとはいえ身体は鍛えられているようだ。
体勢を崩したものの、決定打には至らない。
そこから鎖付き鉄球を振り回し、男は反撃を試みた。

「その意志は見事だ、最初から堂々としていればいいものを!」

だが彼女は鉄球を大剣の刀身で受け止め、重く鈍い金属音が再び場に響く。
そこから大剣を再び振るうのは難しく、男の追撃が襲い掛かると思われた瞬間だ。

大剣は吸い込まれるように彼女の籠手の中に消えていき、無手となった彼女が男の懐に飛び込む。
そこから始まるのは、甲冑組手と呼ばれる一種の格闘術。
まずタトゥーが重装鎧から手足と胴だけを覆う軽装鎧に一瞬で変化したかと思えば、
男の顎に握りしめた籠手で強烈な殴打を叩き込み、体勢をさらに崩したところで
押し倒し、地面に叩きつけたところで籠手から大剣を抜き放つ。
男の喉元に大剣を突きつけて、再び重装鎧に戻った彼女はにやりと笑ってこう告げた。

「骨は折れなかったようだが……首はどうだろうな?
 私は神学に詳しくないが、決闘神は血を求める類の神か?」

その状態のまま、クレスの様子を見る。
どうやら軽やかに避け続けてはいるようだが、一見すれば膠着しているようにも見える。
観客の熱も冷めるだろうと、彼女は一つ励ますことにした。

「クレス!そろそろ実力を分からせてやったらどうだ?
 神への信仰ほど、彼の剣技は見事ではないようだからな!」

クレス・ローベルク > まさか、仮にも女性相手に力負けするとは思わなかったのもあるだろうか。
大剣を首元に突きつけられた男は、声もなくブンブンと首をふることしかできない。
周囲の観客も、これには失望したらしく、倒れた男に盛大なブーイングが飛ぶ。

そして、呼びかけられたクレスはといえば、たはは、と苦笑し、

「簡単に言ってくれるよ。こういう防御力高いのって、苦手なんだけど……ね!」

息切れ一つ起こさず剣を振り回す甲冑を前に、バク転をする事で大きく距離を離す。
それを"逃げ"と見たか、甲冑は全身を使ったチャージで、それを追う。
だが、

「あらよっと!」

男は、鞘に入れたまま、剣を地を這うような低空で投擲。
剣はそのまま、両足の膝に引っかかるように直撃する。
当然、威力はないが、チャージの最中に脚にそんなものが引っかかれば、体勢はあっと言う間に崩され――俯せに転倒。

「はい、俺の勝ち」

転倒した甲冑の背中を踏んで、首に剣を当てれば、甲冑はこう呻くしか無い。

『――参った……!』

アリゼ > アリゼは実戦と訓練で鍛えているとはいえ、
相手の男も同じかそれ以上に鍛錬し、決闘神の加護を受けている。
にも関わらず勝てたのは、彼女の身体から離れない呪いのタトゥーがあるおかげだった。
皮肉にも魔族が命を賭して放った呪縛は、極めて純度の高い魔力の塊でもある。
身体と合一化が進めば進むほど、より彼女は魔力を得ていくのだ。

「……どうやら終わりのようだな。
 さて、どこかの店で祝杯でも――ッ!」

周囲の民衆が歓声を挙げつつも、見世物は終わったとばかりに去っていく。
彼女は大剣をしまってクレスの方を振り向いたが、呪いの代償はその時発動した。
思わず言葉を途切れさせるほどの、強烈な疼き。
頬を赤らめて息を一瞬荒げさせ、ふらりと身を崩しかけるほどの性的な欲求がその身を焦がす。

「……まったく、代価を払えということか。
 すまない、ふらついただけだ……少し疲れたのだろう」

兜がぬるりと鎧に戻り、ふわりと赤い髪が風になびく。
かつては恥辱を味わされたとはいえ、それは敗北の結果。
今となっては彼女もあまり気にしてはおらず、肩を並べて戦った戦友に微笑んでみせた。

クレス・ローベルク > 結局、連中は何だったんだろーかと思いつつ、しかし鎧の男たちは無言で去ってしまう。
一瞬、そちらが気になったが、しかしアリゼの急な変調を見てとるや、男の意識はそちらへと流れる。
とはいえ、一緒に戦った仲間が疲れたと言えば、それを信じる程度には、平時のクレスは鈍感だったので。

「あらま。確かに魔力によるブーストかけて大立ち回りしてたもんね……。
見る限り、何か変な魔術的効果も出ているみたいだし……一度休んだほうが良いかもしれないな。何処か、いい場所知ってる?そこまで送るけど」

男としては、単なる親切心で言っているだけなのだが。
それ故に、今のアリゼにとって、男と一緒に行動するというのがどういう事なのか、男は全く解っていなかった。

アリゼ > クレスの言い方は彼女の身体を狙うそれではない。
闘技場で見せたあの立ち回りは仕事故のものということなのだろうが、
しかし彼女の身体はその時の記憶を思い出して疼きを強めていく。
まずはその身体を落ち着かせるために一息ついて、彼女はクレスを手招きする。

「今日泊まる予定の宿がある。
 部屋で祝杯を挙げたいが……それでいいか?」

女性から誘うにしては少々露骨かもしれないが、しかし今の彼女は
脳内桃色と言ってもおかしくない状態。
まともな誘い文句など思いつきはしないのだ。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 裏通り」からアリゼさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 裏通り」からクレス・ローベルクさんが去りました。