2018/08/11 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート/聖堂」にリュシーさんが現れました。
リュシー > (―――――瞬きを幾度か、目覚めたらそこは聖堂だった。

神聖都市、とは名ばかりの腐り切った果実を内包する街に、数多ある聖堂のひとつ。
静まりかえったその堂内で、並んだ木製の長椅子の最前列に、
何故か黒いシスター服とレースのヴェール、という姿で、随分長いこと座っていたらしい。
腰がわずかに痺れているし、頭は寝起き直後のようにぼんやりしているし、
―――実際、たぶんしばらくは、ここで眠っていたのだと思う。
けれどそこから先は―――――わからなかった。
片手を額に宛がい、更に何度か瞬きをしながら天井を仰ぎ見て、
それから周囲へゆっくりと視線を巡らせる。
最後に己の膝の上へ目をやり、両手でシスター服の生地をそっと摘まんで、
きゅっと眉根を寄せながら首を捻り)

―――――…なんだ、コレ。
何が、どうなってる……。

(―――――なにひとつ、思いだせない。)

リュシー > (神餐節の期間中、きっとたくさんの女性たちが使いつぶされてきたのだろうし、
もし身許が詳らかでなかったら、己も同じ道を辿っていたのだろう。
けれど幸いなことに―――と言って良いかどうかはわからないが―――
己には「公爵令嬢」という身分があった。
だから、記憶の処理を施されてこうして解放された、というのが真相だったが、
残念ながら今の己に、その顛末を思い出すことは叶わない。
―――――王城やらここの地下やらでおこなわれた諸々のことは、
思いださない方が幸せ、なのだろうけれども。

しかし、己の不運も幸運も知らぬ身では、解放されたことも、記憶がないことも、
ちっとも幸せだとは思えない。
頭の中には疑問符ばかりで、顔はますます顰め面になり)

………ていうか、こすぷれ?こすぷれなのか、コレ?

(無人の聖堂でひとり、こんな格好をして、己になんの得があるというのか。
――――それとも、これから誰かが現れたりするのだろうか、とも)

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート/聖堂」にアーヴィングさんが現れました。
アーヴィング > 聖堂の扉が音もなく開いた。
足音も少なく入ってきたのは、黒いインバネスコートに身を包んだ男。
暑さの気配も滲ませずに、まるで日課のような足取りで聖堂へと入ってくる。
祈りに来た、なんて殊勝なことは考えていない。
だったら目的はたったひとつ、なのだろう。
何かを面白がるような表情を浮かべたまま、視線を巡らせて――

「おや……?こんばんは。シスター。」

そして、銀の瞳が捉えたのはふたつ。
その最初のひとつに声をかける。まだ、彼、あるいは彼女が誰かは気付いていない。
けれどきっと、誰が相手でも変わらないんだろう。
そんなことを感じさせるような滑らかな言葉をかけた。

リュシー > (扉の開く音は聞こえなかったが、不意に背後で、誰かの靴音が、コツリと。
ぴくりと肩を揺らして振り返るのと、その靴音の主がこちらへ声をかけるのとは、
ほとんど同時だったようだ。
まるく見開いた碧い瞳に警戒心をあらわに―――してはいたが、
やはりまだ寝起きのようなぼんやりした状態も引きずっており、
表情はどこか無防備にも見えた、かもしれない。

ともあれ、シスターと呼ばれた。
シスターといえば、この場では明らかに、己に対する呼称であろう。
誤解を解いておく方が、先々のためには良いのは確かだが、
妙な衣装でふらつく趣味のある変態と思われる方が良いか、それとも―――――)

―――――こんばんは。
お祈りにいらしたのですか、それとも、司祭様にご用ですか?

(どうか後者だと言ってくれ、とは頭の中だけで。
変態の誹りを受けるより、この場は「シスター」として振る舞って、
司祭を捜しに行く、とか何とか、誤魔化して逃亡をはかりたい。
―――――そんな意図を胸に、胡散臭い微笑を浮かべる己を、
相手が、果たしてどう判断するか。)

アーヴィング > ゆっくりと近付いていく間。
向けた視線が娘の様子を刹那だけ、観察する。
覚醒したばかりの茫洋とした様まで、透明な硝子越しに見てとって。
けれど、それを表に出したりはしないまま。
ただ、碧い瞳と銀色の瞳が触れ合って、そして銀色は控えめに微笑を作った。
彼女の曖昧な微笑とは違う。柔らかな印象を与えようとするそれ。

「いえ、どちらでもありませんよ。
 お祈りでも、司祭様への用事でもございません。
 仮にそのどちらかでも、貴女に伺うのは不適当、では?」

ゆるりと礼を一度。その狭間で投げかける言葉。
互いの距離は数mというところ。
会話をするには不都合なく、駆け寄って捕まえるには少し遠い。
その程度の距離の中、言葉を繋いだ。

「そうでしょう?
 バーゼル公爵ご令嬢の貴女には、ね?リュシー嬢。」

滑らかな言葉が彼女の名前を呼ぶ。
彼も貴族の一員ならば、お披露目の場には立ち会っていたことだろう。
もっとも、彼女が彼のことを覚えているかどうかまでは知らないし関係ない。
距離は変わらない。駆け寄るには遠くても、自分の射程距離には十分なのだから。

リュシー > (そもそもシスターであるのなら、来訪者を迎える際、
のんきに椅子に座ったまま、というのはあり得ないだろう。
そんな瑕疵にも気づかず、なんとか穏便にこの場を逃げ出したい一心で、
身分詐称を選んだ身には――――彼の微笑は、なんと言うか、たいへんに心が痛むものだった。

ごめんなさい騙してごめんなさい、と心の中で繰り返していたのは、
けれど、ほんの数瞬のこと。
まるで己の意図を見透かしたかのよう、退路を断つ台詞を投げかけられて、
こめかみのあたりが軽く引き攣るのを覚えた。
かろうじて、まだ笑顔は取り繕っていたが―――――)

……どう、いう、ことでしょう……?
それはもちろん、確かに、わた、し、―――――……

(新米ですけど、とか、見習いですけど、とか、とにかくそんなたぐいのことを。
言って、まだ誤魔化せると思っていた己の顔が、彼の口からこぼれ出た「名前」に、
今度こそぎくりと強張った。

がた、と木製の長椅子を軋ませ、跳ねる勢いで立ちあがる。
互いの間には数mの距離、それがあればいざという時には、
走って逃げるのも不可能ではない、はずだった。

この距離でもやや威圧を感じるほど上背のある相手の顔を、油断なく睨み据えて。
少女の口から出るには、少しばかり物騒な声を絞りだす。)

――――それ、で?
その、バーゼル公爵令嬢、に……あんたはいったい、なんの用があるわけ?

(言葉も、態度も、これ以上取り繕うのは無駄だと断じた。
だから、きっと表情も、物言いも、彼の記憶にあるものとは―――かなり、
印象が異なってくるのでは、と。
それとも、己が公の場で被っていた猫のことなど、先刻ご承知、なのだろうか。)

アーヴィング > 取り繕った少女の笑顔が強張る。
何か誤魔化そうとしていた言葉が途切れ、そして勢いよく動く彼女の身体。
ガタ、と木製の椅子が鳴る音が響く。
立ち上がる娘。こういう瞬間がたまらなく好きだ。あと僅かで逃がしてしまう。
眼鏡の奥の銀色はだから、とても楽し気に彼女を観察していた。
ゆるりと、両腕を軽く組んでみせる。
とても、追いかけてくるとは見えないような姿勢。
そのまま、少女に向けて向けなおすのは言葉だけで。

「いえいえ。なんの用もありませんよ。
 正確にはバーゼル公爵令嬢としての貴女には興味はありませんよ。」

娘から返ってきた問いかけに、思わずというように笑声が零れた。
低く此方へと向けられる言葉。恫喝に慣れたようなそれ。
睨む碧眼と微笑する銀色。愛でるような色を帯びた銀色が――。

「――そうそう。
 話は変わるがここの地下施設は中々見事らしいからね。
 だから、相手を探していたんだ。
 ついてきて――くれるかな?」

――銀が輝く。まるで水銀のようにとろりとした眼差し。
敬称を廃した声音が、彼女に向けて囁きかける。
それは、まるで見えない銀の糸のように彼女の神経系に絡みつく命令。
抵抗できないのならば、その動きを支配する。魔眼の主からの命令。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート/聖堂」にアーヴィングさんが現れました。
リュシー > (―――――胡散臭い。
はじめて、相対する男のことをそんな風に感じた。
これでも貴族の端くれだったのだ、表面がどれだけ甘やかでも、
中身が腐敗し切っている貴人など、いくらでも知っている。
かつての己だって、そう、だったと思っているぐらいだ。

まだ回転速度の上がらない思考回路が、もともと男などろくに覚えていない昔の記憶が、
なんとも恨めしくてならない。
せめて相手が「誰」なのか思い出せれば―――
きし、と口腔で、噛み締めた奥歯が軋む音がする。)

――――…そう、そりゃあ良かった。
だったらぼくは、早々に失礼するよ。
お互い、興味の対象外なら、―――――……

(実はこの期に至るまで、己がいったいどこの聖堂に居るのか、
それすらわかっていなかった身である。
けれど「地下」について言及する男の言葉で、今度こそはっきりわかった。
ここは、――――そう、ここは神聖都市。
ならばもちろん、己の選択肢は決まっている。
うっすらと、しかし明らかな敵意を滲ませた笑みが、口端だけを彩り。)

あんた、言ってること、無茶苦茶だって気づいてるかな。
なんでこのぼくが、そんなところへ、――――― ぁ、あ…………?

(なに、かが―――――おかしい、と、本能で察知した。
反射的に一歩、身を引こうとした、けれどその判断は少し遅かったらしい。
こころが、激しく軋みをあげるほどに、男の言葉に抗いたがっているのに――――
からだは、己の意志から完全に切り離されてしまったかのよう。
男だった頃の記憶が知っている、地下へ続く隠し扉へと―――――
男を案内するように、ゆっくりと足を踏み出して)

――――― ドウ、ゾ。
イリグチ、は、コチラ、で、……す………。

(操られたくちびるが、機械的なぎこちなさでそう、応える。
男を振り仰ぐ顔は感情の色を失くして、それでも瞳だけはわずかに、
敵意の残滓をこびりつかせて。
けれど、―――――それが最後に残された、抵抗にもならない抵抗。
男があと一歩でも近づけば、それすらも支配下に置かれてしまうかも知れない。
あとに残るのは、ただ―――――芳醇な腐臭漂う、地下の深淵、と。)

アーヴィング > 己が誰か、なんて最初から名乗るつもりはない。
彼女が顔を知っているのならば不運だが、その賭けには勝ったようだ。
ならば、あとは決して名乗るつもりもない。
中身が腐敗し切っている。そう言われれば否定も何もできないだろう。
だから、少女の悔し気な様子を眺めながら、彼は楽しそうにまた笑った。

「そう邪見にしたものでもないよ。
 しかし、君はまるで男のような喋り方をするんだね?」

そこだけは、少しだけ訝し気に言葉を向ける。
尤も、敵意滲ませる少女に向けるにはあまりにも不似合いだが。
自分の興味だけを優先させる言葉。
そして、その興味を少女に向ければ、魔眼は彼女の神経に絡みつく。

「無茶苦茶?よく言われるよ。
 けれど、結局そうなってしまうんだ。残念ながら。
 ――おや、場所まで知っているのかい?」

運動神経を支配。ぎこちない人形のような声が自分を案内するところまでは予定通り。
けれども、次いだ所作に少し意外そうに片眉を上げてみせた。
まあ、いい。今はその場所へ行ってからだ。と歩を進める。
「では、案内を」その命令に逆らう術がないのならば、二人の姿は地下へと消えていく。
彼女に残った敵意の残滓は、残しておこう。その顔の方がずっと魅力的だから――。

リュシー > (男のような―――――どころか、もともとは男だったのだ。
だが、もちろん、そこまで己の内情を明かしてやる気はない。
ただ、吐き捨てるように言うだけだ。)

気に、入らない、なら……とっとと、ほかの子を、―――――

(探しに行け、と、言い終えることもできなかった。
身体のどんな部分も、己の言うことを聞いてくれない―――――
どころか、己の望まない方向へばかり、記憶すらあっさり蘇ってしまう。

かつて、己が戯れに訪れたことのある場所。
そして、もしかするとたった今、やっと逃げ出してこられた、場所へ、と。
自らの足で、自らの身体を、運んでしまう不本意。
わずかに残る敵意すら、玩ばれるためだけに―――――男を伴って、地下へと。
その先に待つものは、二人だけが知ることとして―――――。)

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート/聖堂」からアーヴィングさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート/聖堂」からリュシーさんが去りました。