2018/07/08 のログ
リータ > そこまで大事にすることでもなかったのだが、己の返事を聞かずに行ってしまったし、
そうでなくとも親切は受け取るべきだと、少女は待つことにした。
ただ腰を落ち着けるつもりはなく、青年が戻ってくるまで立ち尽くし。

「……痛み入ります。」

カップを受け取り、口にする。
雰囲気に緊張を帯びていたとはいえ、何から何まで警戒出来るほど
世間慣れしていれば、そもそも痛い目に遭うことなどないのだろう。
ひと口、ふた口と喉を潤してから、楽しいと言う相手の顔を見上げ。

「楽しいと感じるのは、神が貴方を受け入れているからでしょう。
 初めてここを訪れる方の中には堅苦しいと仰る方もいますから。
 よろしければ中もご覧になってください。」

荘厳といえば聞こえはいいが、結局他の教会に比べれば質素な内装で、面白味はないのだが。
ノーシス主教の中でも特異な教えを主張しているので、信徒の質もやや違うのだろう。

ルシアン > 「ん…平気ならよかった。ここのところは陽射しも随分強くなってきてる。
 部屋の中で説教や儀式やらしていたら、外に出たときは辛いかもしれないね?」

大丈夫そうだ、と分かれば頷いて目を細める。改めて相手の姿をうかがうに、思ったよりも幼い様な部類なのだろうか。
それなのに、身に着けているのは立場のある聖職者のまとう服であることはわかる。
相応の立場にいる少女なのだろう、と内心で感心しつつ。

「ふうん…それは、ありがたい話だね。
 きみみたいな人に言うのも、無礼かもしれないけど…僕には此処の人たちみたいな信心は、いまいち薄いから。
 それでも受け入れてくれるなら、神様に感謝するべきなんだろうな」

神を嫌うわけではない。ただ、信じるだけで生きていけるような事も無かった。
どこか淡々とした調子で言葉を返す。

「ありがとう。建物の中も、さっきも見せてもらったから大丈夫。
 …他の立派なところは、もっとキラキラしてたりいかにも立派!って感じもするんだけど。
 ここは…なんだろうな。もっと静かで、落ち着いてる感じだ」

リータ > 「神は寛容です。時が来れば、貴方達の様に祈りを捧げない方々をも救ってくださるでしょう。
 その時、貴方も神に感謝し、全てを献上しようとなさるはずです。」

異教徒も無神論者の存在も教わっている少女は、彼の言葉に眉をひそめたりはしなかった。
その様な者もいるだろうと理解する一方で、今ここで相手に説法し、
入信せよと説くほど狂信的ではないものの、いずれ誰もが神にひれ伏すのだと信じている。

「門徒の数が少ないこともあるのかもしれません。
 私はあまり他の会堂には足を運ばないのですが…。
 貴方は広い世界をご存知なのですね。」

口ぶりから、他の教会も回っているのだろうか。
己に比べれば誰しも世界を知っているといえるのだろうが、少女は素直に感心する。

ルシアン > 「だといいけど。そういう時が来るなら、ね。
 …僕なんかは兎も角、いつ来るか分からない「その時」を待てないような人もいるんだ。
 まとめて救ってくれるなら、それに越したことは……ああ、ごめん。愚痴を言うつもりは無かったんだ」

澄んだ瞳で淀みなく、救いを語る少女の姿。
それは少女の中ではゆるぎない真実なのだろうけども、青年には…。
小さく息をつき、軽く首を横に振って。信心深い聖職者に、わざわざその信仰を貶すことをする気も無い。

「豪華で派手にしておく方が有難く見える、って人も居るからね。本来の信仰ってのは、そういうもんじゃないだろうに。
 元々、僕は流れ者だからね。君がここで生まれ育った子なら、それよりは少しは多く物を見てきたかも。
 聖堂の中だけじゃわからないことも、外に出れば見えてくる…なんてこともある、かもね?」

とても純粋な子なのだろう。落ち着いて、思慮深い。信仰に身をささげたような子。
自分も旅の知識なんかもたかが知れてはいるけれど…感心されれば、少々はにかんだ様子で。

リータ > 「いいえ。世が乱れる昨今、神は間もなく私達をお救いになりますから。」

申し訳なさそうに謝る相手に対し、少女は微笑みを見せるが、発言から互いに平行線であることが知れるだろう。
青年が神を頼らない生き方をするのと同様に、生神女は神のいない生を選ぶ道などない。
反対方向を向く2人であっても、こうして穏やかに会話を交わせるのだから、それでよいのだと。

「王都には参ることもありますが、少し疲れてしまうんです。
 人があまりに多くて…。それに邪念も多く、私には王都での生活は考えられません。」

王都に限らず、一所に留まらない生活をしているのなら尚更感心すべきことだ。
宗教、種族、性別、文化。土地が違えば全て違うのだろうに、上手く生きていけている彼は偉い。
そうして、軽く言葉を交わしていると教会から出てきた修道女が少女の側に寄り。

『リータ様、お時間です。』
「はい。―――貴重なお話を有難う御座いました。道中、お気を付けて。」

今から生神女の法施が始まる。
神の奇跡を待てないと言った青年を誘うほど野暮ではなく、
少女は別れの挨拶だけを告げ、水の入ったコップを修道女に預けて聖堂へと戻るのだった。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート エマヌエル教会」からリータさんが去りました。
ルシアン > 去り行く少女へひらり、と手を振って。

「リータ…ああ、あの子が。ふーん…」

なるほど。この教会に居る聖女は彼女の事だったのか、と納得して。
ならあれだけの信心も納得できる、と独り言ちる。
あの子の説法なら少し聞いてもいいかもな、などとも思ったけれども…。
此方も、ついてきた者たちの話がまとまったらしく出立の時間となった様子。
もう一度だけ振り返りつつ、その場を後にしていった。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート エマヌエル教会」からルシアンさんが去りました。