2018/01/17 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 聖堂」にツァリエルさんが現れました。
ツァリエル > 年が明けて久々の参拝に訪れたツァリエルは馴染みの聖堂へと足を運んだ。
昼下がりの時間は皆食事にでも言っているのか礼拝する人も少なく
今この場にはツァリエル一人だけがしんと冷えた空気の中佇んでいた。

祭壇に向かい、膝をついて自らの罪を告解する。
最近の自分は殆ど自分の意志とは別の何かに操られるように
淫らな行いに耽ることが多すぎて、それは純真なツァリエルには耐え難い恥だった。
どうか自分の迷える魂をお救いくださいと、目を閉じ手を組んで祈りを捧げる。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 聖堂」にレナーテさんが現れました。
レナーテ > ステンドガラスを大きな影が通り過ぎ、一瞬だけ聖堂の中が暗くなる。
力強く、大きな羽ばたきの音が外で幾度も響くと、どさっと何かが落下する重たい音が聖堂の入口付近に響いた。
それとは別に風の吹き抜けるような音が重なっていくと、翼の音は再び空気を震わせ、先程よりも早く影がステンドガラスの前を通り過ぎていく。
ほぼ同じぐらいのタイミングで、聖堂の正面ドアが開かれれば、魔法銃を袈裟懸けにした姿を彼の前に現し、きょろきょろとあたりを見渡す。

(「……お留守でしょうか?」)

聖堂で振る舞われる食事の材料を届けにやってきたのだが、受取手になりそうな人が見当たらない。
彼の後ろ姿にはまだ気づいて居ないようで、直ぐに振り返ると、扉の前でしゃがみ込んでいく。
隙間から見えるのは無数の木箱と麻袋が包まれた、荒縄のネット。
小麦や果実などが詰め込まれたそれを細腕で抱え上げると、ふらふらとしながらも聖堂の入口辺りへと運び始めた。
外に置いていて盗まれでもしたら面倒だと、邪魔にならなそうな場所へと運び込んでいく。
戦う仕事をしているとは言え、俊敏性と魔法の力を武器にする特性上、力は戦士に比べれば格段に弱く、足元が僅かにふらついていた。

ツァリエル > ステンドグラスを遮る大きな影と、何かが飛翔する音。
続いて大きな荷物を落としたような音が響けばさすがに何事か、とツァリエルは顔を上げた。
きょろきょろと周囲を伺い、聖堂の正面扉を覗き見ればそこには見知った顔が立っている。

「レナさん……?」

どうやら食料を届けに来たらしいことは木箱や麻袋から覗く食材でわかるものの、
誰がどうやって受け取るのかはさすがにツァリエルでも分かり兼ねた。
たぶん担当の者は今出かけてしまっているのだろう。
よろよろと荷物を運び出すレナーテを見つけると、慌ててそのそばに駆け寄り

「も、持ちます」

そう声をかけて荷物の半分を彼女から取り上げる。
とはいえ、そうとうな内容物と重さだし、鍛えていないツァリエルが全部を持ち上げるのは流石に少し無理だった。
半分でもかなり重いのを、懸命に持ち上げて奥の食料庫へ運び込もうとする。

レナーテ > 耳を隠す為のベレー帽に、肩のラインを一層細く小さく見せるケープとゆったりとした刺繍飾りの多い戦闘衣姿は、いつも全く変わらぬもの。
木箱を抱え少しフラフラとしていると、呼びかけられた声にやっと気づき、そちらを見やった瞬間バランスを崩しかけ、箱の上に乗っていた小麦の袋が零れ落ちそうになる。

「っ……!? ツァリ、さん?」

こんなところで再開するとは思いもせず、レンズ越しの金色が一層丸くなっていた。
零れ落ちそうだった小麦の袋は、まるで子供一人抱えさせられるような重量だが、全てが重力に引っ張られる小麦は一層重たく感じるかもしれない。
ありがとうございます、と笑みを浮かべてお礼を告げれば、彼に導かれるまま奥の食料庫へと続いていく。

「ここ……お城からかなり遠いですよ?」

戦場にほど近いヤルダバオートは、城から歩いてくるには結構な距離がある。
誰かお付きの人でも入るのかと思うも、それらしい気配は見当たらず、木箱を下ろすと、改めて辺りを見渡すも後ろから追いかけてきている様子もない。
その分、二人きりでいられると思うと、頬を緩ませつつ、穏やかな笑みを浮かべて彼へと振り返る。

「ちょっと、男の子っぽかったですよ? ありがとうございます」

頼りなさを感じることの多い彼だったが、此方を見て直ぐに飛んできてくれた事はやはり嬉しかった。
微笑みのまま掌を伸ばすと、金糸を優しく撫でながらお礼を告げるも、どちらかといえば弟にでも接するような感覚だろう。

ツァリエル > こちらに驚いてバランスを崩しかけるレナーテを慌てて支える。
転げ落ちそうな小麦の袋を抱えればずしりと重く、うっ、と息を詰まらせるがレナーテの手前情けない姿は見せたくなかった。
ふらふらと食料庫に続く廊下を渡り、苦笑いしつつレナーテに話しかける。

「僕、お城に上る前はここで暮らしていたんです……。
 だから、王都からここまで来るのも慣れているし、この街に何があるのかもよく知っているから……」

だからお付きが居なくても大丈夫、とでも言うように微笑んで見せる。
食料庫の棚に運んだ荷物をしまうと、担当の者宛に荷物を運んだ旨を伝えるメモをしたためる。
レナーテの手がこちらの髪に触れ、頭を撫でられると嬉しそうに目を細めた。

「今はちょっと違うけど、僕だって男ですから」

ちょっとだけ胸を張って、照れたように笑う。
二人きりならば、特に何に気を使うこともなく自然体でいられる。

「そういえば、レナさんはどうしてここに? お仕事を頼まれたんですか?」

レナーテ > 実際、小麦の袋ですら戦う少女達も結構手間取る存在だったりする。
重さが腰や膝に確実に乗っかってくるのは、身体のバネを活かす身軽な彼女達に取っては難敵。
そんな事は彼には言わなかったが、知らずとも落とさぬよう、崩れぬように踏ん張る姿は、改めて彼が男の子だと思わされる一瞬だった。

「ぁ、そうだったんですね……どうりで…」

服を探し求めていた時も、修道服を身にまとっていたのはそういう事かと理解に居たり、納得したように何度か頷く。
そのまま到着の旨を伝えるメモを記す様子を後ろから見守りつつ、肩掛け鞄から使い込まれた手帳を取り出すと、リストに横線を引いていった。
それを閉じ、彼を撫でながら褒めていれば、続く言葉に手にした手帳の表紙を彼に向けていく。

「お仕事……というか、ついでの仕事を押し付けられたんです。ハデグまで行くなら、注文の品物届けて欲しいと」

食料輸送と表紙を振った手帳は、日々の配送の履歴が記されているものだ。
平和と安寧を説く修道院が近いと言うのに、未だ膠着状態と小規模な衝突を繰り返す戦場が近いというのも中々の皮肉だろう。
背中を近くの壁に預けると、普段とは違い、少しだけ陰るように元気のない笑みを浮かべれば死線を足元へと落としていく。

「そんなにいい娘に見えるんですかね、私って……」

回りにいる他の娘達と歳差も離れておらず、好きなものも機雷なものも似たり寄ったりだ。
組合長がいない合間の、代理であり秘書。
その仕事に少しだけ疲れを覚えると、無意識のまま眉をひそめながら深く溜息を零した。

ツァリエル > 手帳に線を引いてリストを片付けるレナーテの話に耳を傾けつつ、
珍しそうに手帳のタイトルを見つめた。
確かにヤルダバオートはハテグの主戦場に近い都市だからついでの仕事になると言えばそうだが……。
戦場に荷物を輸送するのは大事な仕事だし、レナーテが小さなことでもおろそかにしない性質なのは理解しているが
それでも壁に背を預ける彼女は幾分疲れているように見えた。

そっと彼女の頬に手を伸ばし、手の甲で白い頬を撫でる。
薄茶と焦げ茶の混じった髪に触れ、今度はお返しに自分からよしよしと相手を撫でた。

「レナさんは頑張ってますからね……。みんなつい頼ってしまうんでしょう。
 でも疲れたらちゃんと休んで、今みたいに僕に頼ってくださってもいいんですよ?」

心配そうに彼女の顔を覗き込み、その細い肩を抱きしめる。

レナーテ > 本来なら外回りの仕事は人付き合い的な部分ばかりが増えるはずなのに、それと同じぐらい忙しく動き回る内容も増えていた。
瞳を閉ざし、溜息を零しながら脳裏に過るのは城に戻ってからのこと。
砦とハデグでの後方支援についての報告書に、目を通さないといけない。
それが終われば集落の商業地区の税収についての状況を確かめ、割りに合っていない店があれば、そこにテコ入れをするかどうかも考える。
最近開いた被服店の帳簿は自分でつけないものの、そういう数字の事ができる人材が忙しいと、自分に穴埋めが回ってくる。
仕事から仕事へ、そんなふうに思考がぐるぐると回っていく中、頬に重なる暖かな熱にゆっくりと瞳を開くと、彼を見つめる。
自分よりも10cmほど小さな彼が手を伸ばし、癒そうとする仕草に何度か瞳を瞬かせつつ、されるがまま。
労いの言葉に、心の重みが消えていくような心地を覚えると、抱き寄せられ重なる身体に、安堵の吐息を溢し、こちらも彼の背中に腕を絡める。
覗き込まれる視線に、くすぐったそうに照れ交じりの笑みを浮かべながら見つめ返す。

「ありがとうございます……何というか…ツァリさんの事も抱えなきゃって、思ってたのが少し…楽になりました」

彼を壊してしまい、自身の本能で貪りつくそうとしてしまった夜を思い出せば、彼自体も自分が守るべきものだと深く思い込んでしまう。
少しだけ、彼の、『彼』らしい部分に触れ、塞ぎ込まずにすんだ。
普段と変わらぬ穏やかな笑みを見せると、先程の大きな羽音が再び外で響いた。

「……城に戻るぞってお迎えみたいです、ツァリさんはどうしますか?」

天井を見上げ、困ったように苦笑いを浮かべると彼を見やり、問いかける。

ツァリエル > 彼女の仕事の詳しい部分はツァリエルにはわからなかったが、その疲労した表情から読み取れば
沢山の厄介事や大事な事が彼女に折り重なっているのはわかる。
何か少しでも手伝えることがあればいいのだが、と常々考えていただけに
今度彼女が居るときに城の派出所という場所を伺おうと思っていたところだ。

自分よりも少し背の高いレナーテ、傍から見れば恋人同士では釣り合わないような気がしている。
だが彼女を思うツァリエルの心は本物であるし、彼女から受ける慈愛もまた本物であるのをお互い知っていた。

「僕のことは、心配しないでください。自分のことは自分でなんとかできます。
 そんなことよりも、レナさんはご自身を大事にしてください。
 倒れちゃったりなんてしたら、僕とても心配ですから……」

彼女の見せる穏やかな笑みに、そっと体を離し両手でレナーテの細い手を握りしめる。
と、窓の外から先程の大きな羽音が響いてくれば、物珍しそうにぱちぱちと瞳を瞬かせた。

「お迎え? 大きな鳥さんみたいですけど……お迎えに来ているのですか?
 僕もそろそろ帰ろうと思っていたところです、けど……」

乗せてもらうのは流石に厚かましいかと言いよどんで困ったようにレナーテを見た。

レナーテ > 派出所にいる合間も、書類だけでなく、銃剣術の指南を依頼されることもあり、仕事はいくらでも飛び込んでくる。
戦いも、多少の指揮も、事務仕事に人付き合いと卒なくこなせてしまう分に仕事が増えていく。
……それでも派出所の仕事を外さないのは、彼に会えるかもしれないという淡い思いからでもあった。

「……そうします、倒れないように程々に…でも、疲れ切ったら無理してもツァリさんに会いに来ます」

その分、癒やされるためにとそこまでは言わずに悪戯っぽい笑みを浮かべながら答えれば、握りしめられる掌に此方も指を絡めるようにして重ねていく。
穏やかなひと時に割り入る羽音に天井を見上げ、珍しそうに視線が向かう彼を見つめつつ、小さく頷いた。

「クリムゾンクレストっていうティルヒアに住んでいた大きな鳥ですね。名前はユーレックです、ちょっと空気の読めないところが玉に瑕ですけど、とてもいい子ですよ」

彼も帰りということならと、言い淀んだ言葉を気にすることもなく、握った手を引いて外へと向かっていく。
扉を開けば、すでに外で旋回しながら待っている大きな鳥の姿が空にあった。
青空にはっきりと見える紅色の翼と身体には焦げ茶色のラインが走り、鮮やかな翼を小刻みに動かして空気を叩く。
反対の手で軽く鳥へ手を振ると、そのままホバリングするように降り立つ鳥は、馬車一台ほどの大きさがあり、人を載せて飛ぶのも容易そうなサイズがある。
背中にある鞍をスライドさせ、後ろに座る座面を出せば鞍に捕まりつつ、ひょいっとその背に飛び乗っていく。

「さぁ、帰りましょうか」

掌を差し出し、彼を後ろへと導く。
背中に載せた後は、恐らく今まで見たことのない世界をみるだろう。
あっという間に小さくなる聖堂と、眼下に広がるマグメールの広大な自然の姿。
そして、少し遠くに見える王都は草原から切り出したかのように、人工物が鎮座している。
肌の上を流れていく風は普段よりも冷たく感じるだろう。
時間にして数十分の遊覧飛行といった帰路は、誰も知らずして過ぎていくのだろう。

ツァリエル > 「はい、約束です。僕もレナさんに会えるように
 なるべくお城にいるようにしますから」

彼女が約束をしてくれれば、もう何も心配が無いというように嬉しそうに笑う。
両の手で繋いだ手を柔らかく握りしめれば、心の奥底にほんわりと温かいものが宿る。
彼女を癒やしているように、ツァリエルもまた彼女に癒やされているかのようだった。

外に響く羽ばたきと、レナーテの説明を聞いて鳥の大きさを想像する。
手を引かれ聖堂の外へと向かえば、自分の想像よりもずっと大きくて鮮やかな紅色の鳥が待っていた。

「わぁ……すごい……! えっと、はじめまして……ツァリエルです」

着陸したユーレックにも丁寧に頭を下げて自己紹介するとレナーテに導かれるままおずおずとその背に跨った。
空の旅は、ツァリエルにとって初めての経験で最初はおっかなびっくりレナーテにしがみついていたが
マグメールの広大な大地が眼下に広がれば瞳を輝かせて感嘆する。

「すごい……!綺麗です……」

流れる風に負けじと声を上げて雄大な大地と都市の姿を瞳に映していく。
数十分の遊覧飛行といえど、レナーテが少年に見せてくれた光景はかけがえのない贈り物になるだろう。
無事何事もなく王城にたどり着けば、少しだけ惜しむように視線を伏せ、
しかしレナーテを困らせること無く降り立った。

別れ際、さり気なく彼女の手に触れて指先を握り温もりを伝えると
それぞれの場所へと帰っていく。
レナーテはレナーテの戦いの場へ、ツァリエルはツァリエルの収まるべき場所へ。