2017/02/19 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にフロンスさんが現れました。
■フロンス > 「はい、その通りです司教様」
荘厳な装飾がされた寺院の回廊を歩きながら、ぼそぼそと陰気な口調で喋る少年は、傍らを歩く恰幅のいい司教に対して答えていく。貴族らしく、国家の主教の敬虔な信者であった亡父の立場を継いだことで、少年もたびたびこの寺院を訪れていた。
「お渡しした魔法薬は希釈されても間違いなく効果を発揮します。ええ、少量飲んだだけでも身体は火照り、全て飲み干せば相手はもはや司教様の意のままですよ…」
しかし当然ながら、少年はそんな信仰心を持ち合わせておらず、ここに来たのも取引のために過ぎず。司教が大事そうに手で持っている小さな瓶に詰められた魔法薬は惚れ薬、と言えば柔らかい聴こえになるが実際は強烈な効果を持つ媚薬だった。司教は、修道女の一人に手を出したいが、敬虔で身持ちの堅い彼女は頑として首を縦に振らないことから、表向き治療のための魔法薬を精製する事業の裏で、そういったいかがわしい魔法薬を秘密裡に作って売る少年のビジネスを聞きつけたのだった。そう「片割れ」に説明されていた少年は、未だ半信半疑な司教に面倒くさそうに解説している。
「それに味も何もないんです、飲み切らなくて効果がなくても風邪か何かだと勘違いするでしょうよ、司教様がやったなんてわかるもんですか……はぁ」
それでもなおその効果への疑問や失敗した時の心配から何度も問いかけてくる司教にうんざりしてか、だんだんと演技が粗雑になり、安心させるというよりはぞんざいに言いくるめるような態度に少年は変わっていく。そこまで言われて、やっと安心したらしい司教の現金な様子にこっそりとため息を吐きながら、堅苦しさの漂う寺院の雰囲気に居心地悪そうに頬を掻いた。
■フロンス > 「ええ、では私はまだしばらく寺院におります。計画の成功とまたの取引をできることを願ってますよ、司教様」
効果を確信するや、早速計画を実行しようと考えたらしい司教がぞんざいな口ぶりでその場を辞して去っていこうとする様子を、相変わらず陰気な態度で少年は見送っていく。
「くぁ~…終わった終わった。なんで人間ってあんな薬欲しがるんだろ、材料に入ってるの聞いたらどんな顔すんだろな~」
そして、その背中が見えなくなるとケープの前のボタンを全て外して、やっと窮屈さから解放されてため息を吐きだしながら大きく伸びをしていく。そして、先ほどの司教の態度に思い出し笑いをするように笑い声を零しながら、悪だくみを思いついたような表情を浮かべ。
「さてっ、もうやれって言われたことやったし…あとはオレの好きにしよっかな~」
伸びを済ませれば、きつかったワイシャツの首元のボタンも寛げていく少年は、くるりと周囲を見渡す。寺院には多くの聖職者や信者がいる気配がするのを確認すると、先ほどのおとなしめだった陰気な表情や態度は完全になりを潜めた少年は足音高く乱暴な足取りで歩き始める。貴族の当主にあるまじき立ち振る舞いになっていることなど気にも留めず、その古めかしい建造物を見学しながらきょろきょろと周囲を落ち着きなく見渡していった。